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坂東玉三郎氏のインタビューで、次のような言葉を聞いたことがある。


「鬼」を「伝える」って書くのね、魂って

感情が涙という形をして身体が反応した。

孤高のひとは、それ以上は言葉を重ねなかった。

ハッとした。

魂とは、単純に綺麗事だけではできていない。

だからこそ、どこまでも尊い、ということなのだ。

鬼を伝えるというのは、芸術家の言である。

同時に、
それは、「鬼」が「伝える」ということとほぼ同義であるのだろう。

となれば、
芸術の領域を超えている、というか、人の一生は芸術を包含しているという真実を思い出させてくれる。

「鬼」を都合の良い敵役にして一丁上がりとする風潮が、現在はますます強まってきている。

世界は複雑化を求めながら、それは実のところ、単純化に転がり落ちているに過ぎないのだ。

単純化、つまり矮小化に。

このような浮世において、「鬼」はそんな下品で簡便で使い勝手のいいものでは決してないことを、彼はごく控えめに気づかせてくれる。

野蛮な我々にさえも。

「鬼」が「伝える」のだ。

魂。

死後のような世界を生きる現在の多くの人々にとって、魂とは、無論、死んだ後に関係するものではないのだ。

心臓が動いている間の話なのだ。

玉のような言葉に触れた。

そして、涙が出た。


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