見出し画像

小説の英語圏輸出のハードルの高さ

 英語はグローバルな場でもっとも使われている言語であり、母語として英語を使っている人は少ないが、多くの人が読み書きできる言語である。
 だが、英語への小説のIP輸出は非常に難易度が高い。
 今回はそのあたりの話を書いてみようかと思う。

翻訳出版の状況


 小説の英語翻訳のハードルが高いというのは、昔からそうで、唯一講談社は講談社インターナショナルなどを作って細々と自社の作品を英訳出版していた。
 現在、多少状況は変わっている部分があって、東野圭吾などの大人気作家の作品は少数ではあるが英訳出版されるし、コミックやライトノベルは非常に活発に英訳されている。だが、一般小説については、日本で結構人気のある作品であっても、英訳版は出ていないことは多い。
 これは出版社の営業努力が足りないという点もあるのだろうが、たぶん過去なかなか売れてこなかったということもあるのだろうと思う。

 結果、一部作家さんは自分たちで英訳を作り電子で配信していたりする。

 中国(簡体字)、台湾・香港(繁体字)、韓国、タイなどは、日本で売れていれば結構普通にオファーが来たり、営業すればオファーにつながったりするのだが、欧州はなかなか渋く、北米など英語圏はもっと厳しい。

 下記は個人の方が作ってくれているサイトで、網羅性はもしかしたら低いのかもしれないが、それでも英語翻訳のハードルの高さの雰囲気は感じてもらえるように思う。米澤穂信氏ですら『黒牢城』で初めて英訳されたが、今のところそれだけのようだ。

ライトノベルの翻訳状況

 これが、ライトノベルになるとちょっと様相が変わってくる。北米にはライトノベルを翻訳する出版社がいくつかあり、その出版社が定期的に人気シリーズを翻訳出版していて、大きな本屋に行けばその棚があったりする。雰囲気としては日本の文庫ではなくてちょっと判型の大きい単行本ライトノベルに近い。

 この状況はたぶん読む人が限られているからこそ、ターゲットが明確で、少ないとはいえ一定数いる愛好家に対して販売ができるってことなんじゃないかなと個人的には思っている。
『氷菓』あたりは、京アニでアニメもやって、日本ではそれなりに人気ではあったが、英訳されてない。
 そう考えると、日本でキャラクター文芸と呼ばれる、やや軽めのキャラクター色がそれなりにあるミステリーシリーズは、もしかしたら一番売りにくい商品なのかもしれない。

自分たちで翻訳出版するとどうか?

 出版社が自分たちで翻訳者を見つけてきて、英訳して、電子書籍などで販売するのが現状では一番の近道なのかもしれない。
 ただ、翻訳コストは結構かかる。1文字換算10円とか15円くらいはかかってくるので、10万文字のそんなにボリュームが重くない本でも100万~150万ほどかかってくる。
 商売として考えた場合、150万を直接原価と考え、諸経費や間接コスト、利益などを加えて、売上としては350万~400万は最低欲しいところだ。1冊10ドルとか11ドルとかで売るとすると売値が1500円程度。プラットホーム手数料などを引かれて手元に来るのは500円程度になるので、8000部は売れてくれないとペイしない計算になる。英語版で8000部。なかなかハードルは高そうだ。もちろん宣伝広告などをしっかりやればその分金が必要になるので、ハードルはもっと上がるが、おそらく宣伝をしっかりやらねば全く届かないだろうことも想像に難くない。
 でも、どこかで一回挑戦はしてみたいものだと思う。もしうまくできる仕組みが作れれば、逆に言えば市場はブルーオーシャンで、弾はいっぱいある状況なのだから…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?