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文芸編集者が今、本当に考えなければいけないこと

 下記記事を読んだ。
 熱意があり、いろいろと行動も起こしていて、とても良い編集者さんなんだなと思った。
 ひとりでも多く、こういう編集者が増えてほしいし、応援はしたいと思う。切に。
 ただ、それと同時に、ビジネス面にはほとんど触れられていないところに違和感を感じたので、ちょっとそのあたりを書いてみようかと思う。

 

文芸は市場環境が全く良くない

 このアカウントではさんざん愚痴的に書いてきたが、文芸作品の市場は結構厳しいものがある。
 上記の作品は受賞作家さんなのでまだマシであろうとは思うが、単行本は初版1000部とかもざらにあり、下手すると文庫で初版6000部とかもあったりする世界だ。
 もはや単行本で10万部クラスの販売は奇跡が無いと望めない状況にある。

文芸作品は単品完結型

 文芸書は単品で完結するものが多い。
 映画なんかと同じで、いち作品としての完成度はそれゆえに高く、それがいいところでもあるが、商売的に考えると、せっかく売れた作品が出来てもそれを生かすすべが少ない。
 シリーズものであれば、シリーズを出し続けることによって、徐々に漸減はするものの、同じお客さんに新しくお金を出してもらうことが可能だが、単品完結型はそうはいかない。
 できて単行本→文庫くらい。それだって単行本も文庫も両方買う人は稀だろう。顧客単価を上げているわけではない。ライトノベルなどの世界では限定版としてグッズつけて単価を上げて売る、つまり顧客単価を上げるようなことも日常的に行われているが、一般文芸に近くなるほどキャラクター性はそれほど高くなく、何より登場人物などがビジュアル化されていないケースも多いので、その手も使いにくい。

電子書籍もそれほど売れない

  コミックなどは電子書籍でもそれなりに売れる。
 作品やジャンルにもよるが、新刊売上の50~60%程度は電子が稼いでくれるし、うまく動けばそれ以降も継続的にしっかりと売上が上がる。
 だが、小説は厳しい。
 ライトノベルなどは比較的電子で売れる率が高いがそれでも30%いかない。15~25%あたりが多いだろうと思う。
 文芸はもっと厳しい。8%~15%程度が多いだろうか…。
 そもそも小説を買う読者の層が既に好事家と呼ぶべきある意味マイナーな層になりつつあって、そういった読書家は、やはり紙本に愛着があり、だからこそ電子比率も低い。

翻訳出版も文芸はなかなか厳しい

 前にも書いたが、文芸書籍一般は翻訳ハードルがそれなりに高い。アジア圏はそれでも割と買ってくれるが、欧米になると一気にハードルが上がる。
 ライトノベルはむしろマンガの延長線上として認識されていて、割と欧米含めて版権が売れるのだが…。
 翻訳のハードルも高い。意味合いが通じるだけでなく、しっかりと味わいのある文章に翻訳するにはコストも時間もかかる。

映像も広がりにくい

 一般文芸はアニメにはなりにくいことが多い。それはキャラクター性がライトノベルなどと比べるとやや薄いケースが多かったり、単発のストーリーでシリーズが無い、といったことが影響していると思うが、ともかく、映像化は、実写ドラマや実写映画にされるケースが多い。
 日本国内市場では、ドラマはともかくとして、映画市場は結構狭く、20~40代くらいの女性がメイン、その後にシニア、そしてファミリー向けが続くイメージだ。
 冒頭にあげさせていただいた作品は、まだ読んでないのではっきりとは言えないが、おそらくターゲットは若い女性だと思うので、そういった意味では実写映画向きの内容かもしれない。
 ただし、日本の実写映画は海外に出ていくハードルは高い。アニメだったらほとんどハードルなくあっという間に海外に出ていけるし、割と新作も見てくれる人が多いのだが、日本の実写映画、それも内容のわからない新作を見てくれる人は結構少ない。

グッズも作りにくい

 キャラクターのビジュアルが基本的にあまりないため、一般文芸はグッズもかなり作りにくい。そしてそれもあってライセンスもなかなか売れない。

どうやって商売を広げるか

 ということで、現在、一般文芸作品は本当に商売を広げにくい商品になってしまっている。
 文芸編集の人は、もともと文芸が好きで就職したり、その職に就いたりする人が多いので、なかなかそっちに力を入れてくれる人はいないが、文芸小説の商売をどうやって広げられるかというのが、今現在の急務であるように私は思う。
 良いものを作れば買ってくれる、という時代は30年前に終わった。
 映画化すれば買ってくれる時代も20年前に終わっている。
 年々部数は先細りになり、成り立たないケースも増えている。
 この恐ろしいまでの逆境の中、一般文芸小説コンテンツを核としてどうやって商売の範囲を広げてお金を稼ぐのか。熱意ある編集者こそ新しいビジネスモデルの構築に力を入れてほしいなと思う。

 気楽さとは対極にあるが、私は温泉地などで文芸旅館などをやってみるのはどうだろうと妄想したことがある。
 以前の会社には提案したけど実現しなかったが…。そうそう異業種への参入は簡単にはできない。
 できたとしても最初は既存の旅館と提携して、オフシーズンにそういったパックを作る。くらいだろうか。

 内容が良く、素晴らしいものを作るだけであれば、それで良いと言ってくれる作家さんと一緒に、同人誌の編集をボランティアでやるのがおそらく一番制約なく作れる。
 だが、職業編集者をやりたいなら、商売としてやらなければいけない。作家さんも、自分も儲かる仕組みを作らなければいけないのだ。

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