やわらか密閉ボトル
ものづくり新聞編集長の伊藤です。ものづくり新聞は製造業の方々向けにインタビュー記事を掲載しているWebメディアです。ソリューションやサービスの提供元へのインタビューはもちろん、実際に製品やサービスを導入した側へもインタビューしています。ものづくり企業に勤める皆さんにとって本当の意味で役に立つ情報を提供したいという思いで、ただ情報を羅列するのではなくより具体的なイメージができる情報発信を目指しています。
最近スーパーマーケットで買うお醤油のボトルがみんな「やわらか密閉ボトル」というものになっていることに気づきました。密閉されているので鮮度が保たれ、かつ1滴ずつ醤油を調整することができるので食卓にそのまま置いて使うこともできます。
そう言われてみると、「醤油さし」というものを使わなくなって久しくなりました。昔は醤油を一升瓶から醤油さしに移し替えて使っていました。液だれしにくい醤油さしという商品もありました。実際お使いの方々もたくさんいらっしゃると思います。
しかし、今は外食産業でもこの「やわらか密閉ボトル」が使われています。回転寿司でもファミレスでも最近増えている気がします。詰め替えなくてよく、衛生的にも安心ということなのかなと思います。
このボトルの良いところは、1滴ずつ醤油を注げるということで、どばっと醤油が出るということがありません。今までは小皿に一度醤油を注ぎ、そこに刺身や寿司をつけて食べるというスタイルが主流でしたが、このボトルができてから、小皿がなくても直接刺身や寿司につけて食べるということができるようになりました。なので醤油の無駄もありません。減塩嗜好の方々にとっても使いやすくなりました。
このボトルのことをよく考えてみると、2つのイノベーションがあるんだろうと想像します。
1つ目は顧客を徹底的に調査して何が求められているかを把握したというマーケティング調査のイノベーション。
2つ目はその要求に対してペットボトルで密閉容器を実現した開発力。
1つ目のマーケティング調査については、キッコーマンさんが以下のようにインタビューに回答されています。
味覚調査をすると、うまみやまろやかな味わいを好み、塩っぽさや濃さは控えたいとする現代人の嗜好が見えてきた。そんなニーズに応えるにはしょうゆを生で提供するのが最善の策と常々考えていました。やわらか密封ボトルによってそれが実現した
2つ目の開発力については、FoodWatchJapanというサイトで以下のような記事があります。
2012年7月、キッコーマンは吉野工業所(東京都江東区、吉野祥一郎社長)と共同開発で既存の問題を解決した新容器第二世代「やわらか密封ボトル」を採用した商品を発売した。この容器は、柔軟性と剛性を併せ持った外部容器の内側にフィルム製の袋を収め、袋の中にしょうゆを充填している。外部容器を押すと、注ぎ口からしょうゆが出て、押す力を弱めると外部容器と内部袋の隙間に外気が流入し、外部容器は元の形状に戻る。
そして、この容器を開発したのは東京都江東区大島に本社がある吉野工業所さん。もともとはコルクを製造していた会社さんですが、今やあらゆるプラスチック容器を製造する大手企業となりました。私たちの会社からこんなに近いところにこんな会社があったんですね。
この容器は特許が登録されていますが、キッコーマンと吉野工業所の共同特許なのだそうです。
やはり、すごい商品だなあと思ったら、ちゃんと特許化もしているんですね。
他の醤油メーカーさん、たとえばヒゲタ醤油さんもこのボトルを採用しています。
吉野工業所さんがどれくらい特許申請しているのかなと思ってJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で社名検索してみると、年間200件以上もヒットします。さらに、キッコーマンさんも年間200件以上の特許を出願されているそうです。
特許は申請するとなると特許事務所に依頼して申請するだけでも少なくとも20万円くらいはかかります。審査請求や登録費用まで加えると合計100万円ということも珍しくありません。しかし、イノベーションを実現して新しい技術を開発する企業は、知的財産を守り、活用していくことは重要なんだろうなと思います。
醤油のボトル一つでも、いろんな方々の工夫やご苦労があるんだろうな、と思いました。ものづくり新聞でもそんなみなさんの工夫やご苦労を取材したいと思っております。
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