【#5】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#5
【2章 時空短縮法】
SIDE(視点):ノボー・タカバタケ
西暦3230年(新星1年) 惑星「エリンセ」
ワープ理論『時空短縮法』
その発見はある日、突然だった。
地球にいる頃。
研究をしている頃。
僕たちはとにかく、そのことに没頭していた。
はるか宇宙の彼方まで『距離を超える』こと。
イメージは僕の中に存在した。
『彼女』と初めて出会ったとき。桜の舞うAC.TOKYOの構内で君を見たときの、あの強烈な感覚の中にあった閃き。
『時間と空間は、それぞれが別の形に歪む』
『時間』は目に見えることのないものだ。
しかし確実に存在している。
それは実は、我々が気付かないうちに、伸び縮みしている。
それが最初のカギだった。かつての定説を打ち壊したのは『彼女』だった。
我々は現在しか認知できないが、そこには過去も未来も確実に存在した。
『空間』は目に見えるものすべてだ。
しかしその存在はあいまいとも言える。
人間が認識できるものはとても狭く、そして世界は流転している。
感覚的に言えば点で書かれた絵画。
無数の点の濃い部分と薄い部分があり、それが常に動き続けている感じだ。
その集合体が宇宙を形作っている。
この2つの特性を理解することが重要だった。
宇宙科学の基礎言語のように、『時間』と『空間』は相互に補完される『時空』として考えられていた。
そこが落とし穴だった。
『時空』をひとまとめにせず。あえて別々の、分離した『時間』と『空間』として仮定する。その向こう側に、本当の答えがあった。
『時間を変えること』それが『距離を超える』ポイントだった。
もちろん、僕たちには過去に行ったり未来に行ったりと、本当に時間を変えたり、超えたりすることは不可能だ。
しかし時間の伸縮を利用することが、可能だということに気が付いた。
流転する宇宙には『過去の結果』と『未来の予想』がすでに存在している。
概念的に言うと、『未来の予想』だと思っていたものを『過去の結果』にすり替えるような形で『現在』に映し出す。
流転する宇宙に、物体が存在する場所を、誤認させるようなものだ。そして時間の伸縮の存在こそが、その誤認を容認させる。
物差しの両端に鉛筆と消しゴムをつけ、すでに書かれたものを消しゴムでなぞると、逆の端に元の絵が描かれる。普段から『時間』には伸縮があるから、『空間』は、それを間違いでは無いと認識してしまう。
そんなイメージと言えばいいだろうか。
なんとも表現しづらい。
このように崩して言うと簡単そうに聞こえるが、これをしっかりと理論として理解することは難しい。
僕と『彼女』が、いくつかの理論を仮説で立て、それを土台に幾重にも仮説を積み上げた。そして、その頂点に『それ』があった。
たぶん人類の知性の限界を超えていたと思う。
世界の理の抜け道のような業だった。
オンライン上の人類の英知を材料に、『彼女』の膨大の知識と、無駄をそぎ落とす聡明な思考が、僕の理論を補い、否定し、修正した。
仮説を立てては崩し、その上にまた仮説を立て、それを崩した。
知識の壁から何度転げ落ちただろうか。
どれだけ足場が崩れようとも、何度でも上り続けた。幾度となくそれを繰り返し、僕たちは少しずつその時に進んでいった。
その不思議な導きはどこから来たんだろうか?
確かに発見したのは僕だった。でも、それはまるで、ずっと前からそうなることが決まっていたことだったように感じた。
僕は思う。
僕たちが初めて出会ったとき、あの桜の木の下で、世界の運命は変わったのではないかと。
予期せぬ化学反応のように、それは宇宙の筋書きを歪ませるほどの熱量をもっていたのではないかと。
桜の花の舞い散る、あの始まりの日……。
僕はそれを鮮明に思い出すことができる。
2章 終
#6 👇
5月28日17:00投稿
【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
【4つのマガジン】
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