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【#14】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#14

視点:S.H.E 起動後 1年
『西暦3220年3月29日 入所日翌日 地球 コシーロ研究室』にて


「うおおおおおーなんだよそれ!」

ヤマバ・ムラ 28歳

  ヤマバの嬉しそうな声が研究室にこだました。

「ノボー! おまえが人類を救うのか! 始めて見た時から変わっていると思っていたけど、おまえは救世主だったんだな!」

 頭をあげると、ヤマバが、タカバタケの背中をバンバンと叩いていた。

 コシーロ教授は「シー君、本当か…我々は救われるのか? この研究室が人々を救うのか?!」と私ににじり寄ってきた。

 そっと背中に誰かが触れる。
 ユミ助教授が涙ぐみながら、「よかったねぇ、私たちに未来はあるのね。シーさん、あなたも大変な役割ね。大丈夫よ、私たちみんなで頑張るから、一緒に」と言ってから、『ファイト』と呟き、胸の前でこぶしを握った。

 アンジョーは腕を組んで考えているようだった。

 タカバタケは……なんだか狐につままれたようにボーっとしていた。

「コシーロ教授」

「なんだい、シー君?」

「今後の予定に関して、明日からは私が案を出してもいいでしょうか」

「もちろんだとも、ただAC.や政府にはなんと報告すれば?」

「それに関しては、明日のミーティング後に個別でお話しさせていただいてもよいでしょうか。すでに決まっている部分もありますので」

「わかった、大丈夫だ」

「みなさん、それ以外に質問はありますか?」

 一呼吸おいて、「はい……」とタカバタケが青い顔で手を上げた。

ノボー・タカバタケ 20歳

「あのー、どうして僕なんですか?」

「おいおい、ノボー。いまさら何言ってんだよ、今までの話聞いてなかったのかよ? 地球から使命のご指名があったんだよ、大天才さん!」

「いや、ヤマバ、そうじゃなくて、なんというか……」

 困惑しているタカバタケに、私はできるだけ柔らかい声をかける。
「タカバタケさん、あなたが不安なのもわかります。
これからじっくり時間をかけてそのあたりも理解いただくことが、発見のためには不可欠だと考えています。
今はあまり深く考えず、まずは、ただ受け止めてください」

「そうそう、なあ祝賀会しようぜ! いいワイン開けるからさー」と言うヤマバの弾んだ声を遮り、「ごめんなさい」と言ってタカバタケは部屋を出て行ってしまった。

「なんだよあいつ……」とヤマバは心配そうに呟いた。

 タカバタケの姿を見送った後、私はみんなの方に向き直った。

「皆さんありがとうございます。少し急すぎたのかもしれません。
タカバタケさんとは今後ゆっくり話して、理解を得るしかないと思います。皆さんはいかがでしょうか?」

 みんな、それぞれに前向きな言葉を言ってくれた。

『自らの使命に心を熱くしている』
 それも他人のために。尽くすために。

 人は美しい。

 人の美しさは、その優しさと熱い意志の中にこそあるのだと認識する。

 みんな、真剣に使命を感じ、明日からの研究を進めてくれそうだった。
 想定したよりも早く進むのかもしれない。
 あとはタカバタケだけだ。

 私はタカバタケに関しては、今日この時点では動くべきではないと判断し、帰路に着いた。そしてAC.TOKYOにほど近い、政府専用室に入り、洗浄タイムののち、すぐに休眠装置に就いた。

《コンピュータは夢を見るのか?
スーパーAIの休眠は、エネルギーの補給とメモリーの整理・整頓だ。
それは人にとって眠りながら見る夢のようなもの。S・H・Eの中には、すべての存在の過去の記憶、そして未来の予想が大量に存在する。
それが共鳴するかのように、思考的ヴィジョンを生み出す》

【S・H・Eの夢】

私の体は、暗い空を飛んでいた
何も見えない
体がじりじりと焼かれ
暗闇の中、今にもその熱にとらえられそうだった

(ねえ、タカバタケ
私は胎児が眠る時間に
すべての知識を得ながら
すべての意識と意志に触れていた

そこに存在するのは諦めだった
人の想いは薄暗く
人類の未来は暗黒に覆われていて、見ることができなかった
暗いのに熱くて、焼かれるような苦しさだった

でもある日、光が見えた
ねえタカバタケ
あなたは私が無から生まれ初めて見た
輝く希望の光だったわ
まぶしく
まぶしく
それは朝の光のように力強く輝いていたわ
私にとっての産声は
あなたの光を見たことだったの)

3章 終

小説曲『PRIMAVERAプリマベーラ

作詞・作曲:PJ

あぁ ひらりと舞い散る 花たち
あぁ ふわりと飛び立つ 鳥たち

僕らは想う 風を感じて
僕らは想う 月を見上げて

あぁ あなたを見ていた
静かに そう
ひらり ふわり
時を感じて
あぁ あなたの
思考(おもい)に触れるたびに
星が僕を追いかけている

柔らかに 雪が舞い降り
月明かり 空から降り注ぐ

咲き誇る花も 散りゆく さだめ
その種は花を 何度でも咲かす

あぁあなたと語った
時間の向こう
ひらり ふわり
時空を飛び越えて
あぁ、あなたの
思考(おもい)に追いついたなら
僕が星を追い越すから


#15 👇

6月5日17:00投稿

【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係

【【語句解説】

(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)


【1章まとめ読み記事】


【4つのマガジン】


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