【#11】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】
【本編連載】#11
9:00ちょうどに、コシーロ教授とユミ助教授が研究室に入ってきた。
教授は研究室に入るやいなや、「よし、みんな聞いてくれ」と言って、研究室の方針を話しはじめた。
概要はこうだった。
2種類の方向からアプローチすること。
1つは、地球での耐久期間を延ばす方法であり、これは外部要素『スーツ・機器・建築』と内部要素『人体耐性』の2要素があった。
もう1つは、宇宙へのアプローチ。これは遠方観察と遠方移動を1つのカテゴリーとしてアプローチすることだった。
チームは、
耐久外部要素:コシーロ、ユミ、(補助:ヤマバ)。
耐久内部要素:アンジョー、ヤマバ、(補助:S・H・E)。
宇宙開発:タカバタケ、S・H・E。
という振り分けだった。
「それぞれ日報の提出と毎週月曜日の定期報告会のみで、あとは随時相談しながら進めよう」
コシーロ教授は最後にそう言うと、ユミ助教授のいる方向へ歩き出した。それはずいぶんと大雑把な、具体的に何をどうすればいいかわからない説明だった。
「20分間休憩を」
教授はそう言って、そのままユミ助教授と打ち合わせを始めた。時刻は10:30。
休憩に入っても、全員、そのまま研究室内に残っていた。
「まいったなあ」とヤマバは頭の後ろで手を組み、天井を見上げてそう言った。
「まいりましたね」
結局のところコシーロ教授の言ったことをかみ砕けば『自分で考えて、自分でやれ』ってことだ。何のために研究室に集まったか疑問だった。丸投げと言ってもいい。
「なー、ノボー。俺の専門は機械の開発だぜ? わかってんのかな?
方針や理論さえ見えれば、どれだけでも世界中の仲間と形を作ることはできるんだけどな。
そもそも研究なんて俺には、お門違いかもしれない。
政府に言われて、俺は仕事も知り合いも、プール付きの家も全部放り出してきた。
いったい誰がどんな理由でこのメンバーを集めたんだ? 政府のお偉いさんか?」
ヤマバがそう言い放った時、突然研究室の中に声が響いた
「私が決めました」
大きい声ではなかったが、その感情のない響きに、研究室の空気が『ぴしゃり』と硬くなった。
ヤマバはゆっくりと、声のした方向を向き、その言葉の主に声をかけた。「S・H・E?」
「シーで結構です」
「シー、一体どういうことだ?」
ヤマバのその問いに対し『彼女』は再び感情のない声で答えた。
「私がこのメンバーを決めました」
室内全体に、硬く不穏な空気が広がっていた。
コシーロ教授とユミ助教授が『彼女』に近づいていく足音が、静まりかえった室内に響く。
アンジョーは座ったまま『彼女』を見ている。
コシーロ教授はS・H・Eの目の前に行くと、硬い口調でに「どういうことか教えてくれないか?」と言った。
『彼女』はワンテンポおいてから、皆をぐるりと見渡し小さくうなずくと、声をいくぶんか柔らかくし、ゆっくりと丁寧に話し始めた。
「私の使命は人類を滅亡から救うことです。そのためにたくさんの知識を有していますし、様々なことが可能です。結論から述べるのであれば、人類が生き延びるのに最も重要なカギは、タカバタケさん。あなたです」
「へ?」
不意に、自分の名前を呼ばれて、僕は裏返ったような変な声を出してしまった。『彼女』は僕の方に体を向け、話を続けた。
「私は身体的な活動を始める前。人間でいう睡眠や昏睡状態にありながら、特殊な技法を使って世界中のすべての人・AI・ロボットの中に入りました。
世界存続の道を探るためです。
その中で私はあなたを見つけました。世界中のすべての中で、ただひとりあなただけが異質でした。
あなたの頭脳とひらめきは、私の思考と知識を凌駕する何かを秘めています。
私のシグナルが、そして予言が、世界を救えるカギはあなたであると知らせています」
ちょっとまって?
何の話をしているんだ?
「そして、その先に必要になるのが、ヤマバさんあなたと、アンジョーさんです」
『彼女』はそう言って、それぞれの顔を見た。
「私はAIです。膨大なデータから逆算をして考えます。
そしてAIの中でも特殊です。現在においてのすべてのコンピュータ・AIの最終地点と理解してください。これまでの人類の英知も刻まれています。
そして、私の中ではゴールは見えています。タカバタケさん。あなたの発見が世界を救います。
ヤマバさん、そしてアンジョーさん。あなた方、2人がそれを具現化させます。
コシーロ教授とユミ助教授が、つねにそれをフォローします」
『彼女』はそこまで話して、言葉を止めた。
その言葉は、間違いなく僕たち研究室の人間、全員に投げられたものだった。
#12 👇
6月3日17:00投稿
【語句解説】
(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)
【4つのマガジン】
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