見出し画像

【#10】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#10

視点:ノボー・タカバタケ 20歳
『西暦3220年3月28-29日 地球 AC.TOKYO』にて

 そのあとはすぐに解散となった。初日は顔合わせだけで終了のようだ。口を利くこともなく、それぞれが帰宅の準備をし研究室を出た。

 僕が構内を歩いていると、後ろからヤマバさんが声をかけてきた。

「さ! ノボー君。一緒に帰ろう!」

「え!? 僕はこのあと予定が……」

「予定って何?」

「パスタを作る……」

「君、パスタが好きなのか?」

「まあ……」

「俺、ここらでパスタが一番うまい店知ってるぜ?」

「……そうなんですか?」

「お!? 行く?」

「……行きましょう」

「いいねえー」

「酒はいけるの?」

「チルドレンを終了したばかりなので、錠剤だけなら先日やってみましたが……」

「無粋だねえ、あんなものアルコール成分であって酒ではない。よし、俺がうまいワインとうまいパスタを教えてやろう」

「興味があります」

「自動運転で来たのか?」

「いえ、部屋は歩ける場所にしたので」

「よし、じゃあ俺のマリーンにのせてやる」

「マリーンですか?」

「俺が設計したリコウ社唯一の自動運転装置。どんな惑星に行っても絶対適応できるってのがコンセプトさ」

「聞いたことあります、リコウ社最強の頭脳は『ネジの外れた鬼才』だって。ヤマバさんのことだったんですね」

「まあ、みんな好きに言えばいい。俺は好きに生きるから。それより早くいこう」

「……ちょっと、ワクワクしてきました」
 

 ヤマバさんが言う、スーパーマシーン・マリーンの乗り心地は、厳(いか)ついその見た目とは違い、優雅そのものだった。

「ヤマバさん天才ですね」

「ヤマバでいいさ。でも天才と言われるαチルドレンもこうしてみると普通の青年だな」

「αのみんなはずいぶんと偏っているんです。βやγ(ガンマ)の人たちのほうが、よっぽど人の役に立っているように思いますが」

「天才は理解されないもの。俺のようにな?」

「そうかもですね」

そう言ってから、2人で笑った。
 

 その夜、2人で食べたパスタはとびっきり美味しく、初めて飲んだワインは最高だった。
 2人で明け方まで話し続けた。僕はこれまでにない楽しさを感じていた。αチルドレンではこんなことはなかった。
 友人になるのには時間も年齢も関係ないのだと思った。他の人とは分け合えないような何かを、この夜、お互いに受け渡しあったように思った。
 


 翌日、僕はアルコールの抜けない、重たい頭を抱えたまま、朝の研究室に向かった。

 研究室の前までたどり着くと、やはり昨日と同じように、時空の歪みが感じ取られた。
 僕が研究室の扉を開けると、そこにはS・H・Eがいた。どうやら研究室内には『彼女』しかいないようだ。
『彼女』を見ると、なぜだか呼吸が苦しくなった。僕はできるだけ『彼女』から離れて、目を合わせないように椅子に腰かけた。

 ウインドスクリーンを透過にし、呼吸を落ち着けるため、深呼吸しながら外の景色を眺めていると「あの」と、突然『彼女』が僕に声をかけてきた。
 僕はびっくりして立ち上がり、その勢いで椅子に足を強くぶつけた。膝裏に鈍い痛みを感じながら、僕は声を絞り出した。

「あ、はい……」

「タカバタケさん、大丈夫ですか?」

「あ、はい……たぶん」

『彼女』は柔らかく微笑んでから、「おはようございます」ときれいなジャパニーズで挨拶をした。
 その虹色の瞳は、真っすぐと僕の目を見ている。

「お、おはようございます!」
 そう言ったとき、僕は限界を感じ、研究室を飛び出て施設Lの外まで走った。

 時空の歪みが強すぎたんだろうか、意識が飛んでしまいそうだった。心臓はバクバク脈打っていた。

 いったい何なんだ?

 指先が震えている。

『彼女』が近くにいる時に、時空の歪みを感じるようだった。

……この不思議な感覚の原因は、やはり『彼女』なのかもしれない……

 そう思うと僕は『彼女』に会うのが怖くなった。
 
 研究室に戻ろうか、どうしようかと悩んでいたら、「よう! おはよう!」と、ヤマバの声が聞こえた。

「ヤマバ! おはようございます!」

「きのーは楽しかったなあ」

「はい! 最高でした!」

「また行こう!」

「はい!」

「ところでオタクこんなところで何してんの?」

「あ、いや、ちょっと……」

「?……変な奴」
 ヤマバに引きずられるように僕は研究室に戻った。

 研究室にはすでにアンジョーも来ていた。アンジョーはオンラインで何かを調べているようだった。

#11 👇

6月2日17:00投稿

【登場人物】

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
各国の協力で作られたと言われる『スーパーAI』
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係

【語句解説】

(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)


【4つのマガジン】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?