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【#30】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【本編連載】#30

視点:ノボー・タカバタケ 30歳

『西暦3230年8月(新星1年10月 青日) エリンセ 大統領官邸にて』
ノボー、ヤマバ、アンジョー3人(+マスター)との会食の2日後

 2日後の10:00、僕は大統領執務室の前にいた。

「ノボー・タカバタケです」

「はいりなさい」
 落ち着いた力強い声が聞こえ、自動で扉があいた。広い部屋は薄暗く、大統領の顔はよく見えなかった。

「こっちに来なさい」と言う大統領の言葉に引きずられるように、僕は前に進んだ。

 僕の歩みが止まった時、視線の2メートルほど先に大統領が座っていた。
 初めて実物を見た大統領はとても怖かった。後ろに流された長く白い髪に、力強い眼光。その目は僕の心まで読んでいるように思えた。
 いろいろと言いたいことがあったのに、僕は言葉を発することができなくなった。

「ノボー、シーに会いに行くんだな?」
え?

「大丈夫だ、人払いしてある。誰も聞いていないし、言うつもりもない」

 大統領は何を言っているのだろう?

「いいだろう、地球に行きたいんだな? 年内に片道用の時空短縮装置付きの船を出そう。日はそうだな……地球歴で12月25日でいいだろう。自動運転ではあるが、その他のことは、全部1人でやるんだ。それでいいか?」

 大統領はまるで、僕の秘密も『望み』もすべて知っているようだった。

「だんまりか。まあいい。そのまま聞きなさい。しかしながらお前は天才でありこの星の英雄だ。お前が地球に行くことを歓迎できる人間はいないだろう。ストーリーが必要になる。
そうだな。お前の頭がおかしくなったことにしよう。すべての情熱を研究に使ったため、地球に執着している。ただし、政府は世界最高峰の頭脳を野放しにすることはできないので『服従の証』を条件に、片道の船で星を渡ることを許可した。そういうシナリオでどうだ?」

 大統領の提案は、僕にとって最高の条件だった。
 でも、どうして……?

「お? 『どうして?』て顔をしているな。そうだな。これはご褒美だ。がんばって人類の未来を救った、お前とシーに対するご褒美でどうだろうか?」

「……ご褒美ですか?」
 そう言えばヤマバがそんなことを言っていた。

 突然、大統領は固かった表情を緩め、ほほ笑むような優しい顔になった。
「お前たちは、本当によくやった。
うん。いくら地球が予見した未来があり、それに沿っていたとはいえ、本当によくやったよ。
俺は感激し、祝福しているんだ。だから、お前たち、お前とシーが望む事があるなら、それを全て叶えてやりたいと言っているんだ」

 僕は大統領の意図が測り切れず、何も言えずに黙っていた。

 大統領は少しがっかりしたように「はー」とため息をついた。
「まあ、とりあえずそういう段取りで進めるよ。ヤマバからの申し出でもあるし」

「ヤマバ?」

「あぁ、ヤマバが『お願いします。何でもしますから、ノボーを地球に帰らしてやって下さい』っていうからさぁ。俺あいつに弱いんだよね。まあ、当面お前の分も惑星開拓を進めてもらうことにするよ」

 そう言ってから大統領は真剣な目で、まっすぐ僕を見た。
「もう一回言うぞ。
お前は研究で頭がおかしくなっていた。
地球に執着し『服従の証』を受け片道であることを条件に、政府から地球行きの承諾を得た。
そうだな、あとは勲章の剥奪と歴史から名前を消す。これもストーリーに入れておくか。
この先お前が、誰に聞かれたとしても、あるいは誰かに話すとしても、この前提の上であることを忘れてはいけない」

「わかりました。ありがとうございます」

 僕が今日ここに来た目的は達成されたようだった。僕は「ありがとうございました」と言って振り返り、部屋を出ようとした。長居したいとは思わなかった。

「ちょっとまて、まだいいだろう? せっかく会ったんだし。どうだ、聞きたいことがあれば何でも答えてやるぞ?」

 大統領が僕を呼び止めた。何故、大統領が僕を呼び止めるのか、僕にはよくわからなかった。
 でも確かに、なかなか無いチャンスなのかもしれない。世界の秘密を握る人が、なんでも聞いていいと言っている。

 僕は大統領の方に向き直った。
「では、聞いていいですか」

 大統領はにっこり笑って、「いいだろう」と言った。彼の目尻には深い皺が寄っていた。その笑顔はとても優しく嬉しそうに見えた。その顔を、僕は何故か懐かしく感じた。

「あなたはいったい何者ですか」

「うーん。難しい質問だ。そうだなぁ、すべての意識とすべての知識に触れ、地球の声を聴き未来を予見する者、とでも言っておこうかな。残念ながら新しい星の声は聴こえんが」

「その言葉、シーからも同じような言葉を聞いたことがあります。シーと大統領の関係は? シーとはいったい誰が作った、何者なんですか?」

 大統領は僕のその言葉を受け、大げさに腕を組み、考え込んでいるような仕草をした。
「うーん。それは自分たちで見つけたほうがいいんじゃないか? そうだな、地球に行ったら『ダイブ』してみるんだな。ただし、お前がS・H・Eに飛び込むんだ。そうじゃないと意味がない」

 僕はビックリして聞き返した。
「『D・I・V・E』は法律でも反逆罪並みに、固く禁じられているではないですか!」

 大統領は僕の声を聞いて、少し呆れたように答えた。
「あのなあ、今さら地球に行って誰がお前らを裁くんだ? それに、本来地球は何も禁じていないぞ。人が自分たちのルールと都合で歪めているだけだ。
まあ、『ダイブ』にはリスクがある。それは自己責任だ。でも、もう子供でもないんだしな」

 僕は、その言葉の意味を考えてみた。確かに一理ある。そしてそれを試してみる価値は十分にあるように思えた。
 僕は大統領に目を見て、もう一度大統領に尋ねた。
「最後に1つ」

「もう最後なのか?」

 大統領の声は明らかに不服そうだったけど、僕はそれほど長居したいとは思わなかったので、無言で頷いた。

「ふうむ。では俺も条件がある」

「条件?」

「ああ、握手をしよう」

「握手ですか?」

「ああ、世界を救った英雄と別れの握手をするのも悪くないだろう」

「そうですか。わかりました。では、最後の質問ですが……」

#30 👇

6月22日17:00投稿


【地球-エリンセ 年表】

【相関図】


ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者
【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI
私邸育ちの謎多き14歳の少女
世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員
研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授

政府とも太いパイプを持つ
コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係
βチルドレンで、ヤマバと共に過ごす。6歳で永眠。

【語句解説】

(別途記事にしていますが、初回登場語句は本文に注釈してあります)


【1章まとめ読み記事】


【4つのマガジン】


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