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『しびれ』の捉え方と治療ポイント

1. はじめに

臨床において、“しびれ”は非常によく遭遇する患者様の主訴です。

しかし、「しびれ」は主観的な表現であるため、医学的に「しびれ」そのものを治療するという概念は、実は”ない”です。

治療目的には「しびれ」は含まれていないのです。

そのため、"「しびれ」を治療する"と言うと、否定的な意見も多いです。

そのため、私は理学療法(士)という枠にとらわれず、理学療法士の免許を持った一人の治療家として対応・介入することにしています。

臨床で向き合っていると、患者様の訴える「しびれ」に対応できたほうが絶対によいからです。

自分や自分の家族が「しびれ」で悩む際に、「私はしびれは専門外ですから・・・」という治療家にはなりたくなかったからです。

そう思い立って、「しびれ」を調べまくり、まとめ、当時勤務していた整形外科で発表したことがあります。

これが当時のスライドの表紙です(^^)

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↑ <懐かしい>

“しびれ”の内容を注意深く聴取すると、患者様一人一人の訴えが異なるのがわかります。

<しびれの特徴>
・非常によく遭遇する患者の主訴である。
・患者によって、表現方法が様々である。
・客観的には表せない。
・定義がきちんと決まっていない。
・原因疾患が多くの診療科目にわたる。
・「しびれ」の発現機序が不明である。
・手術をしても、「しびれ」は残存することが多い。
・「しびれ」を捉える際、多くの失敗をしている。

しびれの表現方法

それもそのはずで、“しびれ”は“痛み”同様にsymptom(主観的徴候)であるため、客観的には表せないからです。

そのため、臨床において、どのように“しびれ”を捉え、対処していけばよいのかが治療家にとっての課題になります。

患者の訴えるしびれとは?

一般用語としてのいわゆる「しびれ」と、医学用語としての「しびれ」は全く異なります。

「しびれ」という言葉が何を表現するのか、ということを明らかにする必要があります。

感覚についての表現ということは間違いないのですが、この「感覚」を、主観的な「感じ方」の問題なのか、客観的に検査できる神経系の問題なのか、に分けて考える必要があります。

「感じ方」の問題であれば、文化論や民俗学、言語学の領域になります。

ちなみに、以前勤めていた地域では「はばったい」という言葉が「しびれ」とはまた違う意味で使われていました…

いろいろな方言があると思うので、言語・文化系の文献を調べると面白いかもしれないですね。

「しびれ」が主観的に何を表現しているか国語辞典等で調べた上で、それを客観的な問題として捉えるならば、「paresthesia」「anesthesia」 「dysesthesia」の3つがヒットします。

ここからが医学。

臨床的には、「しびれ」を訴える患者に対し、それが、pare-なのか、an-なのか、dys-なのか検査をして鑑別し、それぞれを引き起こしている原因をさらに検査して確定していくという流れになります。

その結果、保存的に治療可能かを鑑別していくことになります。

しびれは感覚であり、symptom(主観的徴候)に分類されます。(ちなみに、客観的徴候は”sign”)

一般用語で訴えてくる患者様の表現は、医療用語を使う医療者の受け取り方で異なってきます。

感覚は本人の感受性によっていくらでも量も質も変わるため、定義づけしにくいのです。

したがって、それを聴取する側の聞き方・受け取り方によっていくらでも変化しうるということを肝に銘じておかなくてはいけません。

(聴取する側と言うのは、つまり、医療従事者)

また、“しびれ”の原因疾患が一般内科はもとより、神経内科、循環器内科、血液内科、整形外科、呼吸器内科、内分泌内科、皮膚科、小児科などいわゆる内科系診療科のみではなく、脳神経外科、整形外科、血管外科、胸部外科、産婦人科などの外科系診療科、さらには精神科、心療内科とも関連するため1)、“しびれ”を捉えることをより一層困難なものにしているのです。

そこで、今回、治療家が“しびれ”を捉えるために必要な知識をまとめ、臨床において、どのように検査・鑑別・治療を行っていけばよいかを書きました。

※注意※
今回の「しびれ」noteでは、
疾患の説明や病態生理、画像所見の見かた、など、
医師の診断に関わる項目は記載しておりません。
そのあたりを勉強したい方は、note末の「参考文献」を参照してください。

※今回のnoteの目的※
① しびれの捉え方に対するパラダイムシフトを起こすこと

② しびれの鑑別の方法をチャート式で理解して頂くこと

③しびれの治療を実施する上で効果的な指標を知っていただくこと

このように、「技術」よりも「捉え方」の一助を目指しています。
(後半に、治療例として、私の臨床を紹介します)

<2020年の「しびれ(第1版)」を読んだ方の感想>

一般的な教科書的なしびれに関する「まとめ」を行ないますが、それでは「しびれ」を訴える患者様の治療はできません。

教科書的な「まとめ」をおさえつつ、「臨床的な捉え方&治療ポイント」を理解・実践できたほうが医師を含めた医療従事者と関わるうえで重要です。

今回のnoteを読んだ後、しびれに対する苦手意識は全くなくなるはずであるし、患者様や医療従事者にもしびれとは何なのか?を、的確に説明できるようになるはずです。

いつものnoteは、めちゃくちゃ臨床的な書き方で、エビデンスを重視する方からお叱りを頂くこともありました(泣)

今回のnoteは、しびれの教科書的なところもおさえたかったので、少しアカデミックに書きました。

note末に、引用文献・参考文献もございます。

それでは、しびれの世界へどうぞ(^^)

2.「しびれ」の定義

しびれの定義は、各文献・辞書ごとに異なっています。

また、欧米語と日本語でも意味合いが異なっています。

痺れの定義 まとめるのが大変でした…

・numbness
・anesthesia
・paresthesia
・dysesthesia
・しびれ
・しびれ感
・異常知覚
・知覚異常
・錯感覚
・異常錯感覚
・知覚不全
・異常感覚
・感覚異常
・異感覚
・触覚性錯覚
・感覚消失
・知覚麻痺
・無感覚

しびれで辞書を引くとカオスです…

そこで、まず、日本の辞書・医学辞書、外国の辞書・医学辞書に載っているしびれ、また、しびれに関連する語の定義を別紙①~⑧(しびれの定義一覧)にまとめました。

(※Twitterで私(@Yagihiro_PT)をフォローして頂ければ、無料配布しているのでDMください(^^))

結論から言うと、日本の辞書(医学辞書を含む)で「しびれ」に関する用語を調べると妥当な答えは見つからなかったです…

色々調べた結果、国際疼痛学会の定義が妥当であったため、私は「しびれ」を話す時は国際疼痛学会の定義を採用しています。

また、欧語と日本語では意味合いが異なることから、日本神経学会用語集改訂3版では、

“日本語の論文にはdysesthesia、paresthesiaの使用を差し控える”

としています。

実際の論文などの使用法ではかなり混乱があり、全く逆の使い方をしていることもあります。

これらの事情のため、内科学会用語集ではあえて「dysesthesia」も「paresthesia」も日本語に訳することを避け、そのときどきの意味合いに応じて「錯感覚」と「異常感覚」を使い分けることを推奨しています。

以上のように日本では扱われているが、日本の定義と比較して国際疼痛学会の定義は簡潔で理解しやすいです。

国際疼痛学会では、以下のように定義しています。

ご安心ください(^^) 

翻訳しました!!

 国際疼痛学会(2011.7.14更新)

・dysesthesia:
An unpleasant abnormal sensation, whether spontaneous or evoked.

Note:
Compare with pain and with paresthesia. Special cases of dysesthesia include hyperalgesia and allodynia. A dysesthesia should always be unpleasant and a paresthesia should not be unpleasant, although it is recognized that the borderline may present some difficulties when it comes to deciding as to whether a sensation is pleasant or unpleasant. It should always be specified whether the sensations are spontaneous or evoked.

自発的であろうと誘発されたものであろうと、不快な異常感覚を指す。
dysesthesia固有の状態は、痛覚過敏やアロディニアを含むことである。
感覚が心地良いか不快かを決めることになると、その境界を示すことは困
難であるかもしれないが、dysesthesiaは常に不快であり、paresthesiaは
不快ではない。自発的であろうと誘発された感覚であろうと、常に明確に
すべきである。

・paresthesia:
An abnormal sensation, whether spontaneous or evoked.

Note:
Compare with dysesthesia. After much discussion, it has been agreed to recommend that paresthesia be used to describe an abnormal sensation that is not unpleasant while dysesthesia be used preferentially for an abnormal sensation that is considered to be unpleasant. The use of one term (paresthesia) to indicate spontaneous sensations and the other to refer to evoked sensations is not favored. There is a sense in which, since paresthesia refers to abnormal sensations in general, it might include dysesthesia, but the reverse is not true. dysesthesia does not include all abnormal sensations, but only those that are unpleasant.

自発的であろうと誘発されたものであろうと、異常感覚を指す。
多くの議論の末、paresthesiaは不快ではない異常な感覚を示す時に使われ、一方、dysesthesiaは不快であると考えられる異常な感覚に対して選択的に使われることを推奨して合意に達した。
paresthesiaの用語の使用は、自発的な感覚や誘発された感覚を指すこととして、好感を持たれていない。一般的にはparesthesiaは異常感覚を示すものであり、dysesthesiaを含むものである。しかし、その逆は正しくない。
dysesthesiaは全ての異常感覚を含むのではなく、不快なものだけである。

<しびれの定義のまとめ>
anesthesia」は、医学的な定義から「麻酔時の無感覚」や純粋に「感覚が鈍麻している」ときに患者様が訴える「しびれ」はこれです。

しかし、通常、外来やクリニックで患者様が訴える「しびれ」の意味合いとは少し異なりますよね…

pareshtesia」は、不快ではない異常感覚の時に使用されるため、患者様が訴えるいわゆる「しびれ」とは異なる可能性があります…

dysesthesia」のみが不快な感覚を示す時に使われるので、患者様の訴える「しびれ」の定義としては、これを採用することが妥当でではないかと思っています。

実際に臨床では、誘発していない安静時でも不快な「しびれ」を感じる患者様もいれば、「触れるとジンジンして、しびれているのが分かる。不快だ」という患者様もいます。

したがって、国際疼痛学会の定義に従えば、臨床的な「しびれ」の定義は「dysesthesia」と捉えるのが妥当ではないでしょうか(^^)

3. 患者の訴える“しびれ”の医学的な位置づけ

患者様が「しびれている」と表現しても、医学的にみると、以下のような位置づけになるという文献が多いため、記載しておきます。

患者様が訴えた「しびれ」がどれに該当するかを見極めなくてはならないのは、しびれの文献を読んだことがある方は何度も目にしたことがある文脈だと思います。

患者様の訴える”しびれ”を見極めた結果、医師の診断が必要と判断した場合、医療機関を紹介することが必須です。

そうはいっても、治療家として、最も重要なのは、「保存的」で「徒手的」な治療が適応になるかどうかです。

その検査は後述します。

まずは、一般的な”しびれ”の医学的な位置づけの復習です。

ここで重要なことは、患者様が「しびれている」とおっしゃってご来院した時に、以下の障害のことである可能性があるということです。

① 知覚鈍麻・消失(≒anesthesianumbness)

体性感覚を伝達する末梢神経やその中枢上行路が何らかの病変で障害を受ければ、触覚・痛覚、位置覚などの知覚が低下1)、消失する。

② 不快な異常知覚(=dysesthesia)

ジンジン、ビリビリ、ムズムズ、チクチク、ピリピリ、ズキズキ、など、
すなわち、ジンジン、ビリビリ、ムズムズ、チクチク、ピリピリ、ズキズキ、などの“異常知覚”が問題になる。

③ 錯感覚

「paresthesia」の訳語として広く使われてきたが、国際疼痛学会や神経学用語集改訂3版の内容をみると、あくまでも「錯感覚」は「錯感覚」として扱ったほうが良い。

定義:異なる知覚として感じられること

例)冷たい刺激に対して熱く感じる

④ 知覚過敏

知覚が実際以上に強く感じられること

⑤ 神経痛

例)肘を机の角にぶつけた時。

特徴)
・一瞬の電撃的な痛みであること
・神経の枝に沿った領域に広く波及すること
・痛みが走った後しばらくの間、痛みが拡がった領域に違和感が残る

【注意】
いわゆる「坐骨神経痛」は造語のようなものであるため、ここの神経痛とは区別する。

⑥ 異痛症(アロディニア:allodynia)

実際に痛みを引き起こす刺激でなくても痛みが引き起こされてしまうこと。
必ずしも痛いというわけではなく、軽度であれば違和感だけのこともある。

⑦ 深部知覚障害

例えば、関節覚が正常に働いていない足首では「他人の足のようだ」と表現する患者様もいて、この感覚を「しびれ」と表現する。

⑧ 運動麻痺

急激な運動麻痺、例えば、脳梗塞を起こしたときなど、麻痺のある部分をしびれていると感じる患者様が多い。

【補足】
脳血管障害発症直後はしびれはなかったのに、数ヶ月してからだんだんしびれや痛みが表れてくることもある。

理由:
・障害部位の修復に伴う組織のひきつれ、神経細胞&樹状突起間の漏電現象

<余談:私のしびれ体験>
① 顔面の右側半分すべてがしびれた…
原因:1円玉の大きさの口内炎が扁桃腺近くにできた。
治療:耳鼻科にて投薬治療で一日で解消。

② 左足背部外側面のしびれ+踵部の知覚鈍麻
原因:腰椎椎間関節の機能障害、中殿筋の筋硬結
治療:師匠による関節治療にて徐々に改善。再発がまれに生じる。

4. “しびれ”の病態生理学

「神経系に問題がある場合」と「神経系に問題がない場合」の2つに大別されます。

現在発刊されている「しびれ」に関する書籍には、以下のように書かれていますが、これはあくまでも教科書的な学問であり、臨床的ではないので注意が必要です。

つまり、医学的に辻褄が合う現象の説明にすぎません。

私たちの相手にする”しびれ”は医学的に辻褄が合わない現象であることが多いです。

しかし、教科書的な病態生理学は「リスク管理」する上で必ず必要な知識です。

全く知らないでは済まされないため、以下に記載します。

【神経系に問題がある時の病態生理学】

体性感覚の神経線維:太い線維(Aβ)⇒精細触・圧覚、深部覚 
          細い線維(C) ⇒痛覚
          太い線維は、細い線維を常時抑制している。
          圧迫や低酸素では、太い線維が先に障害される。
          局所麻酔薬では、細い線維が先に障害される。

しびれの発生機序

① 太い線維障害⇒細い線維が脱抑制される⇒軽い疼痛(ジンジン、ビリビリ)

② 細い線維障害⇒障害が強い場合、無痛となるが、中途半端に障害を受けると、その刺激症状として、強い疼痛が生じる。(チクチク、ピリピリ)

③ 損傷神経の異常発射:傷害を受けた神経自体が通常では神経発射を生じないような状況で異常な神経発射を起こす2)。

④ 感覚統合の異常
:傷害を受けた神経よりも傷害を受けなかった神経系が過剰反応を示す2)。

⑤ 関連痛:内臓からの過剰に刺激により当該内臓に関連した体部位に疼痛が投射される。2)

⑥ Aβ線維が司る体性感覚の異常(異所性インパルス産生)

【神経系に問題がない場合の病態生理学】
<今回のnoteの最重要項目>

臨床では、こちらを理解していないと治療はできません!!

神経系に問題がある場合は、医師の診断・治療が必須になります。

神経系に問題がない「しびれ」を訴える患者様が、私たち治療家を訪れる場合が多いです。

以下をしっかり理解していないと、治療・対応に苦しむことになります。

ここで、最重要参考論文(英文版・翻訳版)を添付します。
(※絶対に読んだ方が良い論文です)
(※Web上で無料で全文PDFが公開されています。)

「EXPERIMENTS ON PAIN REFERRED FROM DEEP SOMATIC TISSUES」
Feinstein, B.; Langton, J. N. K.; Jameson, R. M.; Schiller, F.
JBJS: October 1954 - Volume 36 - Issue 5 - p 981-997

(英文のままだと誰も読んでくれないため、翻訳版を添付しました。医学論文であるため、翻訳するのが困難であったことや私の翻訳レベルの問題があり、一部そのままであったり、意味不明である部分が残っているが、十分に内容の理解を助けてくれる翻訳のはずです。)

原著論文は、英文で18ページあります。

翻訳してみたら、やっぱり18ページになりました!

だけど、読んだ方が良くても、18ページはしんどい・・・

手っ取り早く、とりあえず概要だけでも・・・

という方のために、18ページの論文をA4用紙2枚分の抄読を作成しました!!

【背景】
1954年以前から、深部組織である筋や靭帯由来の関連痛の実験は行われてきたが深部組織の疼痛の特徴である自律神経の反応に注意が払われなかった。

【目的】
①傍脊柱筋と四肢筋肉への刺激に伴う関連痛のパターンを観察するため。
②自律神経への影響と深部痛領域の表在感覚の変化を観察するため。
③体性神経および交感神経ブロックによる影響を観察するため。

【方法】
各椎間レベル(C0/1~S2/3)に5名ずつの被験者
2つの隣接する棘突起の中間の正中の皮膚に穿刺した後、針を左右にどちらかに15°傾け、棘突起間組織に生理食塩水を注射した。

【観察】
①疼痛の特徴
・疼痛の表現方法は、様々で異なっていた。
・疼痛が「deep」という意見は一致していた。
・急性の不快な自律神経反射を伴うことが多かった。
・疼痛の量は、注射した生理食塩水の量に依存した。
  
②傍脊柱筋を刺激した後の疼痛の分布(原本参照)    
・関連領域の範囲に影響を与える要因 
   =「個人差」&「使用した刺激薬の量」
・四肢への関連痛領域は皮膚節と異なる位置にあり、多く重複していた。

③四肢筋肉を刺激した後の疼痛の分布(原本参照)
・深部痛・・・あやめ陰影 
・痛覚鈍麻・・・平行線
  
④付随する特徴
【圧痛と筋スパズム】
放射状に、ほとんどの被験者に存在した。
圧迫に対する最大の不快感は、筋スパズムで感じた。
C5/6棘突起間の注射は、かなり一貫して棘上筋、棘下筋、上腕二頭筋の筋スパズムが観察された。

【表在感覚の変化】
痛覚鈍麻が認められた。

【自律神経の随伴症状】
顔面蒼白、発汗、徐脈、血圧降下、主観的失神状態、悪心が観察された。
嘔吐は観察されなかった。
疼痛の程度や範囲に比例していない。

⑤交感神経ブロック後の関連痛
星状神経節ブロック後、C6/7棘突起間への注射で、上肢に関連痛が生じた。
    
⑥麻酔領域への関連痛
腕神経叢ブロック後、C6/7棘突起間への注射で、上肢に関連痛が生じた。

【参考点】
①棘突起間の筋腱組織からの関連痛は、体性神経や自律神経を介さないで上肢に生じる可能性がある。

②自律神経症状が、筋腱組織の病態からも生じる可能性がある。

さらに、もっと簡潔にまとめると…

<この論文のまとめ>
・神経を介さない不快感覚の存在が明らかになった人体実験
・原因から離れた場所に不快感覚が生じることを立証した人体実験
・皮膚深部の刺激から誘発される痛みでは筋スパズムが生じる。
・痛みの表現は一様ではなく、「差し込む」「重い」「ごろごろした」「うずく」といったように多様であった。

また、このような報告があります。

器官(organ)の機能が障害されると、関連痛という「痛み」だけでなく、”関連症候”として、いわゆるしびれ、自律神経症状や耳鳴り、めまい、冷感、かすみ目、腫れ、発赤、筋スパズムなどが生じる。

「SJF関節ファシリテーション 第2版」参照
関連症候
「SJF学会 講義資料より」

ここでいう器官(organ)とは、「関節」を表していますが、「筋肉」「筋膜」など、器官の機能障害が生じれば、なんでも当てはまります。

各治療家の流派や治療理論に当てはめて考えて頂けると幸いです。

器官の機能が障害されると、炎症がなくても、構造的に問題がなくても、「器官の働きが完全ではない」ということがきっかけで、症候として上図のような症状を感じたり、呈したりするのです。

以上のことなどから、総合的に解釈すると、先述した論文や引用されている論文、参考論文、これまでの記述から、いわゆる不快な状態を表す「しびれ」を臨床的に捉えるには、

「患者様はしびれって言っているけど、不快な何かが生じているんだな。」

と解釈すると、治療がしやすいし、実際に良くなる方が多いです。

ここで、大変興味深い内容を引用します。

「しびれのリハビリテーション」より
痺れは、一般的に知覚鈍麻、異常知覚、あるいは疼痛を意味する臨床的な用語である。(3)

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批判を受けるかもしれないが、ここまでをもっと、分かりやすく言うと、

「神経系に問題がない」かつ「医師により医学的に原因不明」と診断された「しびれ」の訴えは、「痛い」と表現していないだけで、痛みの感覚を別の言い方で表現しているだけの可能性があるということです。

「しびれって言っているけど、そもそもは痛み感覚。そして、痛み感覚の表現方法が異なり、「いたい」ではなく「しびれ」と表現しているんだな。」

つまり、このケースは「しびれ」≒「痛み感覚」なのです!!

これが、「しびれ」に対する”パラダイムシフト”です!

一気に批判されそうですね…

だけど、私は、この結論にたどり着いてから、臨床が非常に分かりやすくなったし、治療効果も出せるようになりました。

なぜかというと、「痛み」の原因を治療することは今までずっと得意にしてきたことだからです!!

また、この論文から「しびれ」の原因が神経系の異常だけではないという証拠を得ることもできました。

もちろん、脊髄狭窄や脳血管障害後、橈骨神経麻痺などといった神経系の障害がある場合も「しびれ」を訴えます。

この場合、原疾患が治癒しても長引く「しびれ」の訴えは、原疾患由来ではない場合があるため、あたかも「神経系由来のしびれ」であっても頭の片隅に神経系由来以外の「しびれ」の存在を残して患者様を治療することが望ましいです。

また、あたかも脊髄狭窄や脳血管障害後、末梢神経障害の橈骨神経麻痺などといった神経系の障害がある場合も「しびれ」は、関連痛のように他の部位からの関連症候である場合もあります。

以下の図は、原疾患と関連症候とのオーバーラップがある可能性が十分にあることを示したものになります。

「脳」「脊髄」「末梢神経」の例を提示します。

あたかも原疾患由来の知覚障害だと思っても、実は関連症候による「しびれ」かもしれないのです。

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「SJF関節ファシリテーション第2版より抜粋して改編して掲載」
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「SJF関節ファシリテーション第2版より抜粋して改編して掲載」
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「SJF関節ファシリテーション第2版より抜粋して改編して掲載」

医師から診断され、疾患名がついた「しびれ」でも、私は頭の片隅に、このような関連症候の存在を残して治療にあたっています。

5. 分類(しびれを生じさせる疾患)

リスク管理、鑑別する上で必ず押さえておかなくてはいけない「しびれを生じさせる疾患」です。

上記したような機能障害の結果、しびれが生じることもありますが、原疾患由来の「しびれ」ももちろんあります。

「しびれを生じさせる疾患」を以下にまとめました。

※詳しくは参考文献をご覧ください。

<外科的な疾患>
脳:腫瘍、血管障害、てんかんなど
脊髄:腫瘍、空洞症、脊髄動静脈奇形など
脊椎:頸椎症、椎間板ヘルニア、OPLLなど
頚腕症候群:頸部神経根症、胸郭出口症候群、腕神経叢炎など
絞扼性神経障害:尺骨神経麻痺、手根管症候群、足根管症候群など
四肢の循環不全

<内科的な疾患>
炎症:多発性神経炎、多発性単神経炎、多発性根神経炎など
中毒:SMON、重金属、有機溶剤、薬物の副作用、アルコールなど
代謝性疾患:DM、尿毒症、脚気など
内分泌疾患:甲状腺機能低下など
感染免疫:ギランバレー症候群、脊髄勞、ハンセン病、ライム病など
アレルギー:結節性多発動脈炎、全身性エリテマトーデスなど
変性脱髄:シャルコーマリートゥース、多発硬化症など
ヘルペス後遺症による神経障害
悪性腫瘍による圧迫、浸潤
心疾患
ヒステリー
過呼吸症候群

これらを知っていない状態で、やみくもに徒手的・保存的に治療をしても悪化させるだけですから、必ず知っておく必要はあります。

医学的な知識を持ち合わせて、きちんと鑑別してから自分の治療を行なうことが医療従事者としての最低限のリスク管理ですね(^^)

6.しびれの検査・鑑別の手順(系統的手順)

臨床的には、ここからが重要です!!

気合入れて書きました!!

医学的にしびれを捉え直す

上記した疾患は、初診で病院へ行けば医師の検査・診断を受けられますが、初診で医師のいない治療院に行く患者様も多いです。

その場合、きちんとした手順を踏み、検査して、原因を明らかにする必要があります。

また、適切な医療機関を紹介する必要がある場合もあるため、上記した疾患や神経学的に異常がある「しびれ」を鑑別できることは重要です。

そのため、医師の診察を全く受けてきていない患者様がご来院した場合を想定したチャートを作成しました。

以下のチャートのように進めていけば、間違いなく鑑別できます。

まずは、しびれを訴えてきた患者様を目の前にした際、「運動麻痺」と「感覚障害」を念頭に置きます。

繰り返しになりますが、「しびれ」の訴えは人それぞれですから、”訴え”を鵜吞みにしないで、あくまでも「不快な感覚があるんだな」と捉えることが大事です。

鑑別①

①まずは、客観的に分かる「運動麻痺」の有無を鑑別する。

運動まひの鑑別

運動麻痺:
大脳から神経筋接合部(上位運動ニューロンと下位運動ニューロン)の経路のどこかの損傷(病理的変化)によって、“筋力発揮できない状態”をいう。(筋疾患を除く。)

???の答えは、「前角細胞(前根)の障害」

”麻痺”=”不全”です。

「不全」とは、「活動や機能が完全な状態にない」ことです。

”運動麻痺”=”運動不全”のことです。

したがって、「運動が完全な状態でないこと」となります。

「運動が完全な状態ではないこと」は、臨床では「筋力低下」となって観察されます。

したがって、MMTで測定すればよいです。

さらに、「深部腱反射の確認」→「病的反射の確認」→「感覚検査」を行ない、医師は診断して進めていきます。

このように進めた結果、運動麻痺がないとわかったら、次に進みます。

運動麻痺がない場合は、

②感覚障害の有無の鑑別をする。

鑑別①
感覚障害の鑑別

???の答えは、「神経叢の障害」

感覚検査もチャートのように進めていけば、問題なく鑑別できます。

検査に引っかかった場合は、すぐに医療機関の受診を促してくださいね!

運動麻痺も感覚障害もない場合は、以下の手順に進みます。

運動まひ・感覚障害がないしびれの鑑別

まずは、「持続性」か「間欠性」かを区別します。

このチャートで、「内部疾患、腫瘍、原因不明」となった場合は、すぐに医療機関の受診を進めるというよりは、「そのような可能性が十分にある患者様」と捉え、保存的に徒手的に治療家としての治療を実施してよいです。

ここに至るまでに、運動麻痺や感覚障害はないのですから、すぐに医療機関の受診は必要ありません。

しびれが持続的な場合も私の治療で改善した例はたくさんあります。

しかし、リスク管理として重要になるのです。

思うように治療が進まなかったり、「なんか変だな…このしびれ」と思った時に、「そういえば、チャートで内部疾患、腫瘍がヒットしてたな」と思い出して、「やっぱり医療機関を紹介しよう」と判断できると思います。

このように、運動麻痺も感覚障害もない場合、「内臓疾患」「腫瘍」の可能性もあるため、慎重に鑑別して、治療を進めていきます。

鑑別のまとめ

鑑別③では、私たち治療家の出番です。

治療になると、鑑別③まで手順通りに鑑別をすすめて、さらに、ここから詳細な機能障害や病態の確認を行なっていくことになります。

その際、「しびれ」を取り巻くイメージをしっかり固めてある必要があります。

一言で「しびれの原因」といっても、多くの因子が複雑に絡み合って「しびれ」を形成していることがほとんである。

しびれの内訳

治療のポイントは、消去法を使います。

リスク管理しながら、改善できるものから改善して想定していた原因を消去します。その繰り返しで、残ったものが原因となる”としていくことが臨床的に有用です。

鑑別のまとめ②

例えば、原疾患に対して、私たちが徒手的にできることはありません。
(リスク管理・生活指導くらいはできる)

CRPS TypeⅠに対しても、リスク管理がほとんどです。

流派や治療手段・手技により、想定される原因が異なるため、このスライドが変化すると思われますので、各々このスライドを参考に作り変えてよいと思います。

では、

「機能障害がしびれの原因であり、徒手的に完全できる可能性がある」

と判断された場合、どのように治療を展開していけばよいのでしょうか?

治療家としては、ここからが大変興味あるところですね(^^)

ただし、徒手的治療をどこから手をつけるかは各々の学会や治療方法で異なるため、すべてをnoteで網羅することが難しいです…

したがって、私が実際に行なっている治療の9動画を収録しました。

「関節に対する治療」「筋に対する治療」をよく遭遇する症例を例に撮影しましたので、後半で解説しますね(^^)

関節治療や筋治療の際に、「何をもって」、「それ(ここでは、関節・筋肉)がしびれの原因であるか」を判断するかの指標として「筋スパズム」を私は採用しています。

筋膜を治療対象にする方や他の治療法を使用する治療家は、その治療手技にあった指標を使って、治療の効果判定をしていると思います。

私は、「筋スパズム」を指標にしています。

何を効果判定の指標にするか?は、学会や治療法によってまちまちだと思います。

各々が「間違っている」というのではなく、一つの手段として使い分けると良いのではないかと思っています。

「しびれ」と「筋スパズム」の関係を以下に示します。

①器官に機能障害が生じる

②関連症候して「しびれ」が生じる

②’機能障害の結果、どこかに筋スパズムが生じる

しびれは、主観的症候であるため、治療者には把握できない。

したがって、何らかの治療を実施して、
筋スパズムが消失することをもって、機能障害が改善されたと解釈します。

その結果、しびれが消失すれば、
その機能障害がしびれの原因だったと確定します。

【注意】
筋スパズムが「しびれ」を生じさせているのではありません。
器官の機能障害が「しびれ」を生じさせています。
「しびれ」を感じる神経経路は、現在、"unknown”です。
しかし、人体実験により「感じる」ことは立証済み。

さらに、薬の副作用により、「しびれ」が生じることも念頭に置いておく必要があります。

以下の項目を参照してください。

7. 副作用で「しびれ」が生じる薬剤

しびれが薬剤から生じることは常に頭に入れておきます。

以下は副作用として「しびれ」が生じる可能性がある薬剤をまとめました。

気管支拡張薬:テオドール、テオロング、スローピッド

抗不整脈薬:アマジリン、メキシチール、アスペノン

昇圧剤:リズミック

狭心症治療薬:コメリアン

筋弛緩薬:ミオナール、ダントリウム

降圧薬:
アルダクトンA、テノーミン、ケルロング、セロケン、セレクトール、
ペルジピン、バイロテンシン、アダラート、コニール、カルスロット、
カプトリル、カプトプリル、レニベース

骨・カルシウム代謝薬:ワンアルファ、エルシトニン

高脂血症治療薬:メバロチン、リピトール

糖尿病治療薬:ベイスン、グルコバイ、メキシチール

非ステロイド抗炎症薬:
ボルタレン(錠剤)、フェルデン(経皮用剤)、アドフィード(経皮用剤)

抗悪性腫瘍薬:
フルオロウラシル、リュープリン、ランダ、ブリプラチン、パラプラチン、
トポテシン、カンプト、リツキサン

抗菌薬:クラビット

抗真菌薬:ラミシール

泌尿器・生殖器用剤:ブラダロン、フリバス、アビショット、ユリーフ

消化性潰瘍治療薬:タガメット、ムコスタ

抗うつ薬:
ドクマチール、グラマリール、リスパダール、テトラミド、リーゼ、
メイラックス、ロヒプノール


8. 八木橋による”しびれ治療の実際”<5症例 13動画>

いつもより詳しく解説します。

今回の治療の実際は、徒手的に改善可能と検査で明らかになった場合に実施しております。

【注意】
以下の治療技術を、しびれの原因の検査をせずに使用すると、
状態が悪化する危険があるため、予め、ご注意ください。

-① いわゆる坐骨神経痛に伴う下肢のしびれ

いわゆる坐骨神経痛に伴うしびれの原因は様々ですが、「腰椎椎間関節の非対称性尾側滑りの治療手技」は、下肢のしびれがある方には必須である。

これは騙されたと思って、リスク管理的に問題なければやってもらいたいです。

<動かす範囲>
・エンドフィールまで行なってよいです。
・腰椎の側屈をしっかり入れてよいです。

<治療のポイント>
どっちの側屈で治療を終わるかは、効果判定で明らかにします。

一度、右側屈で終わる→患者様に動いてもらい、しびれを確認する。
残るようなら、左側屈で終わり、もう一度、確かめてもらう。
完全に取れる場合は、完全に取れたほうで終わればよい。
どちらも残るようなら、少しでも改善したほうで終わればよい。

<禁忌>
腰椎に炎症がある方は悪化するため行なってはいけません。

<原理>
腰椎椎間関節の機能障害の治療になります。

「可動域が少ないからしびれが出ている」「腰部の神経を圧迫しているから・・・」というわけではなく、「椎間関節の機能障害があるから可動域が制限されているし、しびれも生じている」という解釈した治療になります。

「そもそも機能障害が起こったら、何でしびれがでるんや??」という反論は絶対にあると思います。

その方は、まずは、前述した「EXPERIMENTS ON PAIN REFERRED FROM DEEP SOMATIC TISSUES」の論文と参考論文をお読みなってください。
きっと理解できると思います。

腰椎椎間関節の回旋や中殿筋の治療も効果抜群です。
ご参照ください。


けっこう多い症状です。

開業して以来、覚えているだけで約20人の方が同じ症状でいらっしゃいました。

この場合は、第2頸椎(以下、C2)の伸展に伴う下方滑りが制限されていました。

本来、伸展時にはC2棘突起が動くことが触知できるのですが、C2を触診しながら、頸部を伸展してもらうと、全くC2が動かないか、もしくは、少しC2が出っ張っているように触知されます。

そのC2棘突起ですが、伸展時にあらゆる方向に動く状態にすると、この示指先端のしびれが取れることが多いです。

<動かす範囲>
・伸展のエンドフィールまで行なうがゆっくり行ないます。
・決して、強く押さないでください。←一気に悪化します。

<治療のポイント>
①まずは、頸部前突位から始めると良いです。(痛みが少ないからです)

②前突位から、頸部を中間位まで戻します。

③その後、やや回旋(右または左)をさせて、伸展させます。

目標は、頸部が完全に伸展した状態で、かつ、回旋位からの伸展でC2棘突起の動きが正常化することですが、一回の治療でここまでやろうしてはいけません。

徐々に、徐々に、数回の治療や患者様の状態を観察しながら、目標の肢位で行なえるようにします。

完全に他動的に行なうと、痛み生じることが多いため、自動介助運動で行なうとよいとよいです。

治療となる伸展運動の声掛けのポイントは、「顎を上げてみてください」というと患者様に伝わりやすいです。
(顎を上げる動作は、頭部の伸展を行なうことになり、C2の伸展を直接誘導する優れた声掛けです)

<禁忌>
頸椎に炎症がある方は悪化するため行なってはいけません。
絶対に痛みが伴ってはいけません。
恐怖心がある方には行なってはいけません。

<原理>
C3椎間関節に対するC2椎間関節の下方滑り機能障害の治療になります。

ここでも、あくまでも可動域が少ないからしびれが出ているのではなく、頸部の神経の圧迫でもなく、「椎間関節の機能障害があるから可動域が制限されているし、しびれも生じている」という解釈で治療をしています。

-② 母指・示指(中指)のしびれに対して

このしびれは、関節治療をしても改善しない方が多いです。

この場合、筋性疼痛症候であると捉えます。

筋膜じゃダメなの?という反論はあると思います。

結論から言うと、効果ある無いに関わらず、リスク管理的に問題なければ、変化の出しやすいほうから行なえばよいです。

したがって、「筋膜からやる」でもよいと思います。

どちらからやれば正解というものではなく、検査で明らかになったからこっちからやるというものでもなく、実際には治療してみないとわからないというのが本音だと思います。

私は、筋治療のほうが変化を出しやすいので、筋治療から行ないます。

<治療のポイント>
・腕橈骨筋
・上腕筋
・長短撓側手根伸筋
・総指伸筋
・示指伸筋
・長母指伸筋
・長母指外転筋
・円回内筋

この辺りを触診と同時に治療していきます。

その際に、しびれが再現できるポイントがあれば、それが原因です。

筋連結でつながりがあるため、「筋硬結・筋スパズムがない筋だから治療対象にしない」というものではなく、「筋連結があるから全ての筋を治療対象にして、再現ポイントは”重点的治療”」として捉えると良い結果がでます。

不快な症状がある方に、筋肉の同定をするため、筋収縮を行なわせることを指示してはいけません。

例:短橈側手根伸筋を同定するために、筋収縮を行なわせる

筋収縮を行なわせるだけで、筋に負荷がかかり、治りが遅くなることが多いです。

「えっ、でも、筋肉の触診しなくてもいいの?」
「筋を同定しないと、目的の治療ができないんじゃないの?」

大丈夫です!!

慣れてくれば、筋収縮をさせなくても筋の同定は可能になります。

また、筋収縮をさせることが「リスク」なのですから、治療のためにリスクを冒し、治りを遅くするというのは”本末転倒”であることが理解できると思います。

<禁忌>
・尺骨神経、橈骨神経が表面を走る部位を圧してはいけません。
(尺骨神経→尺骨神経溝、橈骨神経→上腕骨の下1/3外側面)

・押す強さは、「1押して1返ってくる」程度で強すぎないこと。

<原理>
(主)・過緊張状態による阻血による症状と捉え、治療による筋肉内の血流の改善を図っている。

(副)・筋を治療している時に、関節にも刺激が入るため、筋治療といいつつ、関節治療にもなっている。

-③上肢全体の重だるさ、しびれ、易疲労性に対して

最も最近の症例です。

あたかも胸郭出口症候群の症状ですが、検査では陰性です。

広背筋の過緊張が原因でした。

この過緊張をどのように取るかがポイントになります。

<治療のポイント>
治療肢位は、側臥位では肋骨と上肢の重みで腋窩部が圧迫されてしまい、症状が強まります。

棘下筋でも似た症状は出ますが、棘下筋の筋スパズムや過緊張はありません。

上肢を挙上して、腋窩を露出して、広背筋を圧した時にしびれが再現されました。

腋窩周囲の筋肉を弛緩させて、広背筋を直接触れるかが重要になります。

この場合、側臥位や腹臥位での治療は、おすすめではありません。

背臥位で、広背筋の触診と治療を行ないます。

この手技を行なうと、「くすぐったい」とおっしゃる患者様がいると思いますが、治療者の触れ方が原因です。

【くすぐったい場合の改善点】
・手掌&手指の全面接地を意識する
・治療者が遠慮した触れ方になっていないか?→思い切って触れてみる!!

【背臥位】
・直接、筋肉を治療する
・上腕骨を介して治療する

【側臥位】
・直接、筋肉を治療する

<禁忌>
・腋窩部というデリケートな部分を触れるということを自覚する。
・拒否されている感じがあったら行なわない。
・広背筋を指尖で押さない。
(指腹で優しく入り、押す速度もゆっくり押す。)
・腋窩の血管や神経を弾かない。
・押すというよりは、筋を転がすイメージで行なうと不快が少ない。
・肢位に気を付ける(肢位を取っているだけで症状悪化の可能性あり)

<原理>

過緊張による腋窩部の神経の絞扼、血行不良を開放する。

第一肋骨の治療も功を奏することが多いです。
ご参照ください。

-④ 足底面のしびれ(小石や砂を踏んでいる感じ)に対して

ヒラメ筋の筋スパズムが原因となる症例でした。

ヒラメ筋を筋治療で行なうと、うまくいかないことが多いです。

ヒラメ筋は、私は関節治療でほぼ100%改善できています。

<治療のポイント>
・足根骨
・距腿関節
・距骨下関節
・近位&遠位脛腓関節
・脛骨大腿関節

この辺りをしつこく、徹底的に治療していきます。

治療しては、ヒラメ筋の触診、治療してはヒラメ筋の触診を繰り返し、筋スパズムが消失するまで繰り返します。

ここの筋スパズムは、ほぼ間違いなく関節治療で消失できます。

触診のポイントですが、
脛骨内側縁から指を滑り込ませてヒラメ筋を触診します。

動画を参照してほしいのですが、内外側から挟み込むようにして触診すると、ヒラメ筋の一部が硬い部分が分かることがあります。

それが、原因となる筋硬結・筋スパズムです。

外側から触診しようとしても腓骨があり、ヒラメ筋の触診は難しいため、内側から探った方が確かです。

治療肢位としては、まずは背臥位で行ないます。

背臥位で筋の硬さがとれたら、側臥位にします。

側臥位でも筋の方が取れたら、座位にします。

このように肢位を変えて、治療をすることでしびれの改善が格段に早まります。

一つの肢位だけで治療を終わらせると、再発率が高まります。

そのため、肢位を変えて、あらゆる肢位での筋硬結・筋スパズムを消失させておくことが治療のポイントといえます。

<原理>
関節の機能障害による関連症候として「しびれ」を感じているため、その原因である関節の機能障害を改善しています。

治療の客観的指標として、筋硬結・筋スパズムの消失を採用しています。

筋硬結・筋スパズムは痛みの原因の結果生じる筋の硬さであるため、筋硬結・筋スパズムが消失すれば、痛みの原因が治療できたという逆説的発想に基づいています。

短腓骨筋も治療しておくと効果的です。

<おまけ>

9.医療機関への紹介となった”しびれ”の症例

①主訴:下肢のしびれ(70歳 女性)

  長距離歩行後に下肢のしびれ(+)

  検査:下肢挙上検査(+)

  既往:心疾患

  結果:血管外科の受診促し

②主訴:
腰から下がフラフラする
腰から脚にあけて感覚が鈍い
つま先に力が入らない
両前腕内側~Ⅳ・Ⅴ指のしびれ(腹背側とも) 

(70歳代 女性)

  現病歴:2017年1月から、徐々に増悪。
      2017年7月に当院来院。

   検査:触覚T10レベル以下に鈍麻(+)
      筋力検査 足趾伸展・屈曲MMT2
      DTR:PT+/- AT-/-

   結果:神経内科受診を促した。
      神経内科では、問題なし
      脳神経外科の受診促し。

③主訴:右肘の疼痛、右Ⅰ・Ⅱ指のしびれ

現病歴:平成28年11月23日、誘因無しで主訴出現。

診断名:頸椎椎間板ヘルニア

検査:安静時(+) 
   POM(-)
   sensory N.p
   DTR N.p

経過:治療後は、主訴(-)になるが一時間後に再発。
   これを治療ごとに繰り返す。

平成28年12月2日から治療を週一回のペースで6ヵ月行なった。

右肘の痛み、右Ⅰ・Ⅱ指のしびれは消失したが、途中から背部痛を訴えた。

背部痛も治療後には消失するものの、再発を繰り返す。

医療機関の受診を促した。

④主訴:腰痛 左下肢のしびれ だるさ 
    左腕・肩甲帯の挙上困難

現病歴:2016年8月から。誘因は、座位での勉強とのこと。

診断名:腰椎椎間板ヘルニア

 検査:安静時(+) POM(+)
   (伸展のみ それ以外は無し) 

    神経学的検査(-)

 経過:2017年11月22日、当院で治療を開始。

    治療後、主訴の軽減はあるが、2日以内に増悪。

    これを治療ごとに繰り返す。

    また、身体の緊張は増悪傾向。

    左側だけでなく、右側へ。

    かつ、腰部・左下肢のみならず、
    肩甲帯や肩関節、肘関節の動きの
    緊張も徐々に高まった。

    BHDも膝90°屈曲位で緊張が高まり、とまる。

    2017年11月29日(4回目の治療)
    背部に叩打痛を確認。

    泌尿器科の受診を促した。

 ⑤主訴:両手掌~手指のしびれ、触覚の高度鈍麻

 現病歴:2017年11月11日、当院来院。

  検査:触覚鈍麻、痛覚鈍麻、温度覚 正常
     筋力N.p

     深部腱反射 正常

   Dr:手術とのこと。

  経過:
   当院にて、2017/11/24~2018/4月まで治療を行なった。

   しびれは消失したが、触覚鈍麻は徐々に増悪傾向。
  (左右のⅠ~Ⅴ指尖)

   保存療法で軽快しないため、ご本人の希望で
   筑波大付属病院で2018年4月中旬に手術を施行。

   術後、嚥下困難となり、経鼻にて流動食。6月末退院。
   
   ご家族より:
   しびれ軽減、歩行しやすくなっているとのこと。
   触覚鈍麻は不変。

 ⑥主訴:両脚(主に股関節)の痛み
     両下腿の痛み、重さ、しびれ感
     腰の痛み
     膝の曲げにくさ
     階段の昇段がつらい、足のつる

  検査:両下腿の浮腫(圧痕+)

病院にて、血液検査、尿検査、心電図、レントゲンを実施。

結果:Drより、心臓・腎臓問題なし。
   肝臓と下肢静脈の要検査とのこと。
   甲状腺機能亢進症とDx。

 ⑦主訴:右腰痛~殿部の痛み
     疼痛領域の触覚鈍麻

 現病歴:30.4.7(土)就寝中に疼痛がひどく、起床。

     その後、湿布を貼って就寝した。

     30.4.8(日)お昼頃から疼痛が増悪。
     30.4.9(月)整形外科受診にて、坐骨神経痛とDx。
     30.4.11(水)
      全く別のことで腹部の超音波検査を受けていた。
      Nrsから腰部の湿疹を指摘された。
      帯状疱疹とDx。

 鎮痛薬、抗ウイルス薬を処方され、服薬を開始。

経過:疼痛は軽減傾向にある。
   疼痛領域の触覚鈍麻がある。

<補足>
帯状疱疹の痛み:夜間痛、安静時痛、疼痛領域の触覚鈍麻

 ⑧主訴:歩行時痛 男性 76歳

 現病歴:半年前から歩行時痛(大腿前面~近位部)
 
     つままれるように痛い

     立位困難

     股関節伸展が困難(股関節屈曲位)

  検査:L1/2 MRIにて血腫+

  治療:血腫を除去後、主訴が全て消失。

⑨主訴:腰背部・両下肢のしびれ 
    腰背部の灼熱感

現病歴:2019年4月から出現。8月に当院ご来院。

病院歴:なし

 検査:key muscle n.p

深部腱反射:アキレス±/± 膝蓋腱±/±

   触覚:N.P 
   
   冷覚・温覚・痛覚:鈍麻

   下肢の浮腫+/+

しびれの範囲:腰背部からつま先まで全て
(肢位や運動による変化なし)

4回のTx後も不変。⇒9/18、神経内科の受診を促した。

2019.11.16 頸部に狭窄あり。
⇒メディカルセンターにて精密検査。

検査結果・・・頚髄症性脊髄症とDx。

2019.12.10  頸部Ope

Ope後、頭痛が発生。それ以外の主訴は、消失。

2020.1.20 
復職後、頭痛が軽減しており、経過観察中。→頭痛消失。

⑩主訴:左手の感覚がない。
    物を掴んでいるかわからないことがある

現病歴:2020年1月31日~

 検査:感覚検査 N.P 
    深部腱反射:N.P 
    手指筋力:N.P

念のため、神経内科を紹介。

MRIにて、脳梗塞(+)⇒即日入院。

10.さいごに

しびれ…いかがだったでしょうか?

医学的な知識もそうですが、まずは、しびれの捉え方が勉強になったのではないでしょうか?

それに加えて、系統的な鑑別手順や実際の治療方法が学べたと思います。

しかし、思わぬところで疾患による「しびれ」が隠れていることを頭の片隅にはおいておく必要があります。

おまけで提示した症例も狙って紹介できた方もいれば、たまたま偶然異常が見つかった方までいます。

臨床的な所見・検査に合わせて、リスク管理をすれば、安全に多くの方を治療できると思います。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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この機会に理解を深めて頂ければ幸いです。

また、ご不明点や疑問点はお気軽にX(Twitter)のDM機能をご使用ください。

しっかりとご回答させていただきます(^^)

それでは、引き続き、八木橋宏幸(@Yagihiro_PT)をよろしくお願い致します。

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これからもよろしくお願いいたします。

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12.求人

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詳しくは、以下の求人ページをご参照ください!
よろしくお願いいたします。

13.フランチャイズ

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八木橋の全ての治療技術・医学知識・集客方法、店舗展開を提供します。

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など、なんでも聞けます(^ ^)
ざっくばらんに、嫌な質問もどんどんしてみてください(^^)
(その時、八木橋は席を外しますので)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ぜひ、たくさんの方からのご連絡をお待ちしております。

<八木橋からの最後のメッセージ>

再現性あるリスクの少ない方法で、
 ①勝たせます!
 ②這い上がらせます!!
 ③思いえがく未来を掴ませます!!
   ↓
 DMください!(^^)!

<YouTubeで八木橋のリアル治療現場を公開中!!>


やぎはし整体院株式会社
代表取締役 社長
八木橋 宏幸

【資格】
理学療法士

■出身:青森県北津軽郡鶴田町
■生年月日:昭和57年6月23日生まれ(現在42歳)
■活動:
JBL(日本バスケットボールリーグ) 現在は、B.LEAGUE(Bリーグ)
日立サンロッカーズ 元ヘッドトレーナーアシスタント
千葉県アスレティックトレーナー

■学歴:
1998年 青森県立五所川原高等学校 理数科 入学
2001年 国立 宇都宮大学 教育学部 スポーツ健康コース 入学
2004年 仙台医療専門学校 理学療法学科 入学
   (日本理学療法士協会会長賞 優秀賞 受賞)

■職歴:
2007年 医療法人社団 順邦会 飯島整形外科 入職
2013年 やぎはし整体院 開院

八木橋が開業したことを聞きつけた芸能人、起業家、音楽家、ピアニスト、
モデル、アスリート、エグゼクティブ、政治家などが、整体を受けに殺到。
たちまち話題となる。
講演、技術研修会の講師などを務め、整体院以外での活動も多数。
理学療法士や作業療法士、治療のプロから技術指導をお願いされることが
多く、プロを指導する治療家である。
現在、新患は紹介のみ。完全予約制。
芸能人から「本当になかなか予約が取れない治療家」と呼ばれている。
テレビ出演を依頼されるが、多忙のため、断った。

引用文献

1) 上村研一 著:「頭痛・めまい・しびれの臨床 病態生理学的アプローチ」p.105 医学書院 1994
2) 細田多穂・柳澤健 編:「理学療法ハンドブック 改訂第3版 第1巻 理学療法の基礎と評価」p.553 協同医書出版社 2005
3) 「しびれのリハビリテーション」より 
出江紳一 千野直一:「しびれのプライマリケア」CLINICIAN'94 No.435 102

参考文献

1.しびれの臨床(No.7)脊髄・末梢神経絞扼性疾患 / 持田 讓治
日本医師会雑誌. 140(8) [2011.11]

2.しびれの臨床(6)末梢神経疾患(3)薬物,金属,有機物中毒 / 北川 泰久 ; 大熊 壮尚  日本医師会雑誌. 140(7) [2011.10]

3.四肢のしびれ (症状からアプローチする プライマリケア) / 桑原 聡
日本医師会雑誌. 140(-) (特別2) [2011.10]

4.ロビンス病理学

5.しびれの臨床(No.5)末梢神経疾患(2)アルコール,甲状腺,がん,膠原病,遺伝性ニューロパチー等 / 國本 雅也  日本医師会雑誌. 140(6) [2011.9]

6.しびれの臨床(No.4)末梢神経疾患(1)糖尿病,ビタミン欠乏等 / 八木橋 操六
日本医師会雑誌. 140(5) [2011.8]

7.しびれの臨床(No.3)しびれの鑑別診断 / 桑原 聡
日本医師会雑誌. 140(4) [2011.7]

8.しびれの臨床(No.2)しびれの診察と検査 / 楠 進 ; 三井 良之 ; 高田 和男
日本医師会雑誌. 140(3) [2011.6]

9.しびれの臨床(1)しびれとは / 小池 春樹 ; 祖父江 元  日本医師会雑誌. 140(2) [2011.5]

10.しびれ (日常診療でよくみる症状・病態--診断の指針・治療の指針) -- (全身の症候) / 大生 定義  綜合臨床. 60(-) (増刊) [2011.5]

11.感覚障害,しびれ (初診外来における初期診療) / 木村 透
診断と治療. 98(-) (通号 1155) (増刊) [2010.3]

12.上田英雄・武内重五郎・豊倉康夫編:「しびれ」南江堂 1981

13.よくわかる頭痛・めまい・しびれのすべて / 東儀英夫. -- 永井書店, 2003.10

14.Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual

15.橋本修治:感覚障害としびれの病態生理 JIM4 1994

16.南山堂医学大辞典 第16版: 東京, 南山堂, 1987

17.看護学大辞典 第3版: 東京, メヂカルフレンド社, 1988

18.渡辺良孝 編: ポケット医学英和辞典 第1版, 東京, 医学書院, 1995

19.日本整形外科学会 学術用語委員会: 整形外科用語集 第3版, 東京, 南江堂, 1990

20.薬学大辞典 広辞苑 オックスフォード英和辞典、英英辞典

21.ルービン病理学

22.寺本 純 著:「しびれ」がスッキリわかる本 保健同人社 2007

23.福武 敏夫ら 編:「標準的神経治療 しびれ感」 医学書院 2018

24.鈴木 則宏 編:「しびれが診えるエキスパートのアプローチ」 
          中外医学社 2020

25.塩尻 俊明 著:「非専門医が診るしびれ」 羊土社 2018

26.宇都宮 初夫 編:「SJF関節ファシリテーション 第2版」 
          丸善出版株式会社 2014

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