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脳が震える──『ASMR』を聴くことに何かメリットはあるのか? (ってか、メリットがないと聴いちゃいけないのかよ……)
── 脳は震えていますか?
ASMRは、一部の人だけが経験する複雑な感情の状態のことで「Autonomous Sensory Meridian Response」の略称です。
逆に言えば、どんだけ聴こうとも全く体験できない人もいるということなんですよね。
ちなみに私は、全くわからない鈍感者でございます。
わからない人のためにどんな現象かをザッと説明しておくと、
❶ ささやき声や軽いタッチ、咀嚼音(そしゃくおん)などのトリガーを聴く
❷ 一般的に頭のてっぺんあたり(頭頂部)からゾワゾワ感が始まる
❸ 首や手足にチクチクしたような感覚が広がる
❹ 人によって、多幸感やリラックス感、トランス感などを感じる
という流れになるそう。
(…… 要するに、ペテルギウス・ロマネコンティは常にASMRを福音書から聴いている説爆誕……)
なんですが、この分野の学術研究ってまだまだ少ないんですよね。
なので、現状でわかっていることをまとめておきたいと思います。
どんなモノでこの感覚を得られるの? -トリガー編-
冒頭でも少し触れましたが、この体験ができる人は “一部の人” だけなんですけど、発現パターンには大きく3つがあることが分かっているんですよ。
それは、
❶ ほとんどの人は幼少期からこの感覚を感じている
❷ 中には大人になってから感じ取れる人もいる
❸ リラックス感は何となくわかるが、ゾワッとした感じはわからない
というんですな[1]。
で、感じ方にも2つのタイプがあるそうで、
● タイプA:外部の影響ではなく、自分の思い出や経験からASMR体験を得る
● タイプB:音などの外部刺激によって、ASMR体験を得る
という感じ。
それから、トリガーについては一貫性があるようで、個々人で好みはあるものの、
● 「ソフトタッチ」「ささやき声」「ソフトな話し声」「超近距離コミュニケーション」「繊細な手の動き」「歯切れの良い音」
などが挙げられるそう[2]。
人気のASMRは、これらを組み合わせたものが多いそうなんですよ。
[1]Young, Julie, and Ilse Blansert. ASMR. Penguin, 2015. https://amzn.to/3pELvkX
[2]Barratt, Emma L., Charles Spence, and Nick J. Davis. "Sensory determinants of the autonomous sensory meridian response (ASMR): understanding the triggers." PeerJ 5 (2017): e3846. https://doi.org/10.7717/peerj.3846
脳のゾワゾワ感っていったい何? -脳のうずき編-
ASMR中の脳を調べた研究は3つあって、
★ 1件では、ASMRが起こっている間の脳では、感情・共感・親和行動に関わる脳領域が活性化していた
★ 2件をまとめると、ASMRを経験しやすい人は、より入り組んだ神経ネットワークを持っており、感覚によって引き起こされる感情的な反応を抑制する機能が低下している
ということが示唆されてまして、下記でゆっくり解説していきます[3, 4, 5]。
まあ、まだまだ発展途上なのでなんとも断定はできないんですけど、著者たちはASMRの感覚を『グルーミングのようなもの』と例えています[6]。
グルーミングってのは、動物同士で見られる行動で、ノミ取りやマッサージなどをし合うような親和行動のことでして、こんなの↓。
なんですが、ASMRはこれを『擬似的に再現している』ものと考えられるのだとか。
事実として、この体験によって【他の人とつながっている感覚が増加した】という研究があります[7]。
ここでの面白い発見は、ASMRの感覚は【性的な興奮と関係がない】ということで、性癖ではないというところ。
つまりは、
▶︎ ASMRというのは、親の愛情や人とのつながりに関係する現象であって、エロい体験や性的な欲求によるものではなさそう
ということが言えるわけですね。
それともうひとつのポイントとしては、「感情的な反応の抑制機能が低下」という点。
ここだけ注目しちゃうと悪いことっぽんですけど、逆にいえば『自分の内側と外側の世界のつながりを感知しやすい』ということで、
● 好きな音楽などを聴くと鳥肌が立ちやすい
● 芸術などに反応して、畏敬の念のような複雑な感情を抱きやすい
といえるわけですね[8, 9]。
この2つは特にポジティブな体験であるため、好ましい状態なんですよ。
実際の調査では、
● ASMRの経験者は、共感覚を持っているケースが多く、マインドフルネスレベルが高かった
● が、一方でミソフォニアのように音に対して不快感を覚える人も多い
と言うことがわかっています[10, 11]。
要するに、
▶︎ ASMRを体験できる人は、いろんなジャンルでポジティブな影響を受けやすいんだけど、感受性が高いあまりにネガティブな経験をする人もいる
ってのは押さえておくべきポイントですかね。
[3]Lochte, Bryson C., et al. "An fMRI investigation of the neural correlates underlying the autonomous sensory meridian response (ASMR)." BioImpacts: BI 8.4 (2018): 295. https://doi.org/10.15171/bi.2018.32
[4]Smith, Stephen D., Beverley Katherine Fredborg, and Jennifer Kornelsen. "An examination of the default mode network in individuals with autonomous sensory meridian response (ASMR)." Social neuroscience 12.4 (2017): 361-365. https://doi.org/10.1080/17470919.2016.1188851
[5]Smith, Stephen D., Beverley K. Fredborg, and Jennifer Kornelsen. "A functional magnetic resonance imaging investigation of the autonomous sensory meridian response." PeerJ 7 (2019): e7122. https://doi.org/10.7717/peerj.7122
[6]Dunbar, Robin IM. "The social role of touch in humans and primates: behavioural function and neurobiological mechanisms." Neuroscience & Biobehavioral Reviews 34.2 (2010): 260-268. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2008.07.001
[7]Poerio, Giulia Lara, et al. "More than a feeling: Autonomous sensory meridian response (ASMR) is characterized by reliable changes in affect and physiology." PloS one 13.6 (2018): e0196645. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0196645
[8]Grewe, Oliver, Reinhard Kopiez, and Eckart Altenmüüller. "The chill parameter: Goose bumps and shivers as promising measures in emotion research." Music Perception 27.1 (2009): 61-74. https://doi.org/10.1525/mp.2009.27.1.61
[9]van Elk, Michiel, et al. "The neural correlates of the awe experience: Reduced default mode network activity during feelings of awe." Human brain mapping 40.12 (2019): 3561-3574. https://doi.org/10.1002/hbm.24616
[10]Fredborg, Beverley K., James M. Clark, and Stephen D. Smith. "Mindfulness and autonomous sensory meridian response (ASMR)." PeerJ 6 (2018): e5414. https://doi.org/10.7717/peerj.5414
[11]Rouw, Romke, and Mercede Erfanian. "A large‐scale study of misophonia." Journal of clinical psychology 74.3 (2018): 453-479. https://doi.org/10.1002/jclp.22500
どんな人がなりやすいの? -性格編-
では結局のところ、どんな特徴を持っている人がASMRを体験しやすいんでしょうか。
149人を対象に感受性が強い人の特徴を調べると、
● 何かに集中すると、自分や周りの状況を忘れてしまうくらい没入する傾向があった
という感じでした[12]。
この研究では、マインドフルネスとの相関はみられなかったんですが、2018年の研究結果では相関に有意差がみられるので、この不一致はよくわかりません。
他の2つの研究では、
★ 284人に対してビッグファイブを計測すると(対照は279人)、ASMR体験者は『開放性』が高かった
★ 83人に対して行われた調査では(対照は85人)、『物語の登場人物に対する共感』と『苦しむ人に対する同情』が有意に高かった
という結果でした[13, 14]。
なのでここまでをまとめると、
▶︎ 想像力や知的好奇心が強く、芸術美に関心が強い
▶︎ 他者への思いやりや関心があり、共感力も鋭い
▶︎ 物事に入り込むタイプで、アーティストっぽい
という感じになりますかね。
[12]McErlean, Agnieszka B. Janik, and Eleanor J. Osborne-Ford. "Increased absorption in autonomous sensory meridian response." PeerJ 8 (2020): e8588. https://doi.org/10.7717/peerj.8588
[13]Fredborg, Beverley, Jim Clark, and Stephen D. Smith. "An examination of personality traits associated with autonomous sensory meridian response (ASMR)." Frontiers in psychology 8 (2017): 247. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2017.00247
[14]McErlean, Agnieszka B. Janik, and Michael J. Banissy. "Assessing individual variation in personality and empathy traits in self-reported autonomous sensory meridian response." Multisensory Research 30.6 (2017): 601-613. https://doi.org/10.1163/22134808-00002571
ASMRのメリットとは? -お役立ち編-
ここまでダラダラと見てきたんですけど、結論としては、
▶︎ まだまだ分からないことだらけで、一見すると良さそうだけど目立ってメリットもないのかなぁ……
という印象ですね。
「ここまで引っ張っといてそれかよ……」というのもごもっともなんですけど、『明確にコレがいい!』ってのがあるのはよっぽどのコンセンサスがあるか(科学者や専門家の皆んながプッシュする内容か)、詐欺かのどっちかですから。
それでも、2018年のシェフィールド大学の研究では、メリットも挙げられていて、
● ASMRを経験しやすい人は、ASMRで心拍数が低下、皮膚コンダクタンスレベルの上昇がみられた:生理的にリラックスと興奮のはざまのような反応
● 主観的にも、落ち着きと興奮が増加、ストレスと悲しみが減少した
という感じで、すごく複雑な状態であることは間違いないようですね。
で、これらのストレス軽減効果は、『マインドフルネス』と『音楽療法』の間くらいの効果と同等だったそうなんですよ。
というわけで、まだなんともではありますが、とりま現状をまとめておくと、
■ ASMRは、社会的つながりに関係する脳の領域を刺激しているため、孤独感の対策になるかも
■ 敏感な人は、なんとも言えない感情を経験できるので、共感やマインドフルの訓練になるのかも
■ もしかしたら、リラクゼーション反応でストレス対策になるかも
と、いったことが言えそうであります。
まあ、今のところは『エンタメの一種』という扱いになってしまいそうですが、ポテンシャルは秘めていそうなので、メンタル系のセラピーなどに領域展開してほしいものです。
(…… 大丈夫 僕 最強だから……)
── おま、やりやがったな!!!
以上。
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