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【心霊体験】泥を這いずる者

私が宮城県に転居したのは小学校四年生の時だ。
住んでいた町営住宅の前は一面の田んぼ。
初めこそあまりの田舎ぶりに抵抗があり家に引き篭もっていたのだが、友人が出来始めると外で走り回って遊んでいた。
だが、雨の日は眠れぬ夜に苦しむことになる。

少々時間を遡り、宮城に転居する半年程前。
雨が降った後の下校時、道に土を固めた人型をした何かが落ちていた。
その人型のものはとても良く出来ており、今考えると明らかにおかしいのだが、その時の私は妙に心が惹きつけられ拾い上げ家に持ち帰ってしまう。

玄関を開け家に入ろうとした時。
祖母が大声を張り上げる。

「それを今すぐ放しなさい!!」

驚いて持っていたものを地面に捨てた。

走ってきた祖母が人形を踏みつけ真言を唱える。
すると、祖母の足の下から煙のようなものが漂い風に溶けた。
その時はただの土煙かとも思ったのだが、思い返すと明らかにそれとは異なる、意志のあるような動き方をする「煙のようなもの」としか形容出来ないものだった。

祖母が言うにそれは「泥人形」というようで、何かの身代わりの形代《かたしろ》として作られるとのこと。
藁人形と似たようなものだが、より危険なものだそうだ。
そして、私が持ち帰ったものほど精巧に作られた泥人形を作れる人間はそういないらしい。

そんなこともありながら、宮城への転居が決まる。
宮城での生活も慣れてきた頃、大粒の雨が降り続ける夜。
寝ている部屋の外から音が聞こえてきた。

ビチャ・・・ビチャ・・・ビチャ・・・

誰かが外を歩いているのかと思ったが、アスファルトの上を歩いている音ではない。
昔から気になったものは確かめねば気が済まない性格の私。
カーテンを少しだけ開け、その外にいるであろう存在を確認する。
薄明るい街灯が家の前の道路までかすかに光を届かせている。

人・・・?

いや、違う。
道路を歩いている奴以外にも、田んぼの中を這いずり回っている奴もいる。

こんな夜中に?

1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・

どんどん田んぼから起き上がってくる。
人じゃない。
そう認識し道路を歩いていた奴に目をやるとそれは歩くのをやめ、いつの間にかこちらを見上げていた。

その姿は、そう。

あの土人形の形。

すぐに祖母に連絡をすると、見つからなければ大丈夫とのことだが時間の問題だろうということで対応策を考えてくれることに。

その後も雨のたびに外を歩く音。
そして田んぼの中を這いずる音。

ビチャ・・・ビチャ・・・ビチャ・・・

布団に包まり、震えながら夜が明けるのを待った。

何度目かの雨の夜、その日も音が響いていた。
不思議なことにその音は私にしか聞こえておらず、私にしか土人形は見えてないようだった。
その頃には私も慣れてきており、気が緩んでいたのだろう。
部屋で普通に過ごすようになっていた。

「どうせ見つからない」

そんな風に考えていたその時。
暗い部屋の窓の外。
カーテン越しに写る人型。
地の底から響くような、野太く、くぐもった声。

見つけた・・・・・

足の指先から震えが湧き上がってくるような恐怖感。
見つかった時の事は祖母と話し合っていた。
そして対策の品も既に届いている。
祖母が作ってくれた泥人形。

祖母に電話し、これから使用する事を伝える。
祖母は電話口で真言を唱え始めた。
私は祖母に言われた通り、土人形に深々と包丁を突き立てる。
乾いた土で出来た人形が崩れた。

翌朝、昨晩の雨が嘘のように晴天となった。
二階の自室の窓を開け外を確認する。

窓の下には玄関の屋根があるのだが、その屋根の上。
そして屋根に続く柱。
玄関までの敷地。
田んぼから自宅に沿って、大量の泥の塊が柱に纏わり付き、地面に散らばっていた。

あの土人形はなんだったのか。
呪いの一種だと言われたが、私が呪われる謂れも無く偶然に拾っただけのこと。

皆さんも妙に心が惹きつけられる何かには御用心を。

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