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【心霊体験】踊る火

幼い頃。
私は怖い物知らずというか、物を知らなすぎるが故の行動が多かった。
危ないとわかっていても、その危険さに魅了され判断を誤る場面も多々。
今回はその中でも、今現在の私でも不思議に思っている話を書いて行く。

幼稚園の頃だったか。
祖母、両親、兄弟三人の六人で暮らしていた。
両親は商店をやっていた為、二人とも店に出ていた。
祖母は店に訪ねてくる祖母のお付き合いのある方々が毎日多数訪れる為、店内に設置された応接コーナーでお茶を汲んで対応に追われている。
その日は弟と妹は昼寝をしていたと記憶している。

私は一人で暇を持て余していた。
祖母の部屋には絶対に一人で入ってはいけないと言われていた。
ダメだと言われるとやりたくなる。
これが当時から現在に至るまで直らない私の性格だ。

祖母の部屋の前に立つ。
普段は恐ろしくて開けたいとも思わない襖。
その日は異常に興味をそそられていた。
引き手に手を掛け、ゆっくりと襖を開く。

祖母の部屋は日当たりの良い部屋ではない為、昼間でも障子張りの窓からの光は届きにくい。
薄暗い部屋に足を踏み入れる。
罪悪感からくるものだろうか、身体が重くなったような気がする。
この部屋だけ重力が何倍にもなっているような感覚。

季節は初夏。
祖母の部屋は張り詰めるような肌寒さを感じた。

一通り祖母の部屋を見て回り、いつも祖母が座っている仏壇の前に立った。
私達家族は起床すると仏壇の前へ家族揃って祖母の後ろに座り、先祖への感謝を述べるのが家族の決まりであった。
祖母は二本の大きな蝋燭に火を灯し何かを唱えていた。

それを私も真似をしてみようと引き出しからマッチを取り出し、大きな蝋燭に火を灯す。
そして線香に火をつけ灰に立てる。
手を合わせ、祖母の真似をしてゴニョゴニョと唱えたフリをする。
その後祖母は何処からか紙を出して何かを筆で書き、蝋燭の火で紙に火をつけ燃えきる寸前まで放さず、ようやく灰の上にそっと置く。

子供心にそれがかっこよく、それも真似してみようと思い立った。
しかし、何処を探しても紙が見つからない為、ティッシュで代用することにした。

ティッシュを一枚取り、蝋燭に近付ける。
すると一気に大きな火が上がり、私は驚いて手を放してしまう。
そのまま床に落ちて行く。

(ヤバイ・・・火事になる・・・!!)

火を掴もうとしたその時。
ティッシュが私の顔の前まで浮き上がってくる。
そのまま上下左右に揺れながら私の前に浮き続けている。
何が起きているのかわからずに立ち尽くしていた時。

玄関がダンッ!!と開き、襖が勢い良く開く。

「大丈夫がい!?」

福島弁で叫びながら、祖母が入ってきた。
その瞬間今まで飛び回っていた火が、フッと床に落ちて行く。
祖母は燃えているティッシュを手で掴み握り潰す。

私は安堵から号泣しながら祖母に謝った。

「ご先祖様が叱ってくれだがら、婆ちゃんはなんも言うごど無いよぉ」そうしてニコリと笑い、私を抱きしめてくれた。

現在でもハッキリと記憶に残る出来事。
自分の悪い癖を戒める為に、ご先祖様が叱ってくださったのだろうと私も思う。
その後も安全な所でティッシュに火をつけてみたが、あのような動きをしたことは無かったし、一枚のティッシュがあんなに長い時間燃え続けることは無かった。

冒頭にも述べたが、現在でも悪い癖は直っていないが。

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