バベル(2006)
21世紀になってなお、バベルの塔を建て続ける人たちへ
メキシコの俊英イニャリトゥ監督が見せる世界の現実
はるか昔、言葉は一つだった。しかし、人間が神に近づくために天にまで届く高い塔を建てようとしたとき、神は人間の驕りに怒り、言葉を乱し、世界をバラバラにした――。
これは旧約聖書の創世記に記されたバベルの街の伝説です。世界がバラバラになったのは、驕りたかぶった人間への天罰だといいます。
それならば、21世紀になってもなお、世界に争いが絶えず、人々が協調できないでいるのも天罰なのでしょうか? 伝説では未完に終わったバベルの塔。しかし、現実の人間たちは、性懲りもなくバベルの塔を建て続け、驕りを増長させているのではないのでしょうか?
傲慢さや利己主義により、周囲が見えなくなっている人の実に多いこと。他者を理解しようとしない人々の作る世界が、どんな悲劇を呼ぶのか。メキシコの俊英アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がモロッコ、アメリカ、メキシコ、日本の家族をとおして、鮮やかに描き出しました。
これら銃撃事件がもたらした4つの物語が並行して描かれるのですが、ここに登場する人々の行動に多くのことを考えさせられます。
モロッコの少年とその家族の物語からは、過酷な山間の村に生きる人々の貧困と無知。モロッコの砂漠の村で応急措置しかできず、苛立つ夫リチャード(ブラッド・ピット)の姿を描いたアメリカ人夫婦の物語では、言葉の通じない現地人と、言葉の通じるバスの観光客やアメリカ政府の対照的な対応が興味深いです。人間を隔てる壁は、言葉ではなく心の問題なのだと気づかされます。
アメリアの物語はアメリカとメキシコが抱える問題を浮き彫りにします。アメリアが責任感から子供たちを連れ出したことをアメリカ人は信じようとしないのです。
そして、日本。チエコが象徴するのは、深い孤独に苦しむ人間の姿。母の自殺や父との溝、健常者のみならず、同じ障害を持つ友達からも疎外感を感じたチエコが、最後にすがったのが若い刑事。彼に好意を伝えるために体を差し出そうとするチエコの姿は本当に切ない……。
自分の身に置き換えて考えられることもあれば、厳しい世界の現実に驚くしかないこともあります。悲劇的な世界を回避するために、人とつながる方法を探し求めたイニャリトゥ監督は〈まずは家族の絆から〉という結論を出します。
でも、それだけではないはずです。世界の現状と、人々の反応をじっくりと自分の目で確かめ、自分なりの結論を出してほしいです。
公開時、日本では日本が舞台に選ばれたことや日本人俳優が出演していることで、本作は好意的に受け止められていましたが、そんな日本人はラストシーンで激しいショックを受けるでしょう。
イニャリトゥ監督の目は厳しいです。
本作でイニャリトゥ監督はカンヌ国際映画祭監督賞を受賞しました。***************************************************************************
【祝! 役所広司がカンヌ国際映画祭優賞を受賞】
ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS(原題)』に主演した役所広司さんが、第75回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞しました。
役所さんが外国の監督作に出演したのは、『バベル』('06年)、フランソワール・ジラール監督作『シルク』(’08年)に次いで3本目。外国人監督の映画では、初めての主演作です。
今回の受賞を受け、海外進出への期待が高まりますが、当人は「日本人の役を演じられるなら、どんな国の作品でも」と海外作品への意欲を見せる一方で、「まずは自分の国の映画で世界の人に楽しんでほしい」と答えたようです。日本映画を大切に思う気持ちを聞いて、うれしくなりました。
また、今回のカンヌでは、同映画祭の常連でもある、是枝裕和監督作『怪物』('23年)が脚本賞を受賞。
近年、日本では映画やテレビドラマ離れの声が聞かれて久しいですが、優れた俳優や製作者たちが素晴らしい作品を作ろうと頑張っています。もっと日本の作品を応援したい、と改めて思いました。
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【役所広司の主演映画なら、こちら👇もどうぞ】
役所広司の名演にラストは涙が止まらなくなりました
是枝裕和監督の作品にも出演しています
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【アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作なら、こちら👇もどうぞ】
命を巡る過酷な物語に言葉を失う
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