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別冊・謎のコトバ解読ノート・その1


【概要】

  約6,600万年前にユカタン半島沖で生じたと言われる小天体の衝突が恐竜の大絶滅を引き起こしたという話は有名ですし、最近では、最終氷期の最終盤、温暖化の過程で約1万2800年前に起きた急激な寒冷化ヤンガードリアス期も地球への天体衝突が原因ではないかと言われ始めています。教条主義派の考古学者にとっては、"最古の文明が起きた契機"と考えることになる発見かもしれませんし、アグレッシブな研究者にとっては"文明がリセットされた契機"と考えるかもしれません。
  天体衝突の痕跡に拘ることで、生物の大絶滅ほどの衝突イベントではない小規模な天体落下でも、人類史にもたらされた大きな変化を再発見することができるかもしれないのです。例えば、ヤマト勢力の自伝である古事記の奇怪な記述にも、日本祖語のレキシコンを用いて読み解くと、透けて見えてくる史実がありそうなのです。現代に至るまで天皇の権威付けに用いられている三種の神器の一つクサナギノツルギは、実は、ツタンカーメンの鉄剣と同様の鉄隕石製なのかもしれません。製鉄技術を持たなかった古代日本で、鉄を手にしたことは大変な威光をヤマト一族にもたらした可能性があるのです。

【はじめに】

  小林哲・著「日本語の起源 Japanese Language Decoded」の本編では、
・日本祖語は、五十音の各々が単語としての固有の意味を持ち成り立っていた。
・ヤマトコトバは、複数の祖語の単語が連なってできている複合語だった。
・他言語との比較系統分類学的手法では日本語の起源に到達できる訳がなかった。
と述べました。

  自然言語処理技術的な小難しい術語を使った表現をすると、”日本先住民族語(いわゆるヤマトコトバ)の言語アノテーション(annotation)として、民俗学的・考古学的・人類学的のみならず科学的なコンセプトやイメージにまで拡張した単語のメタデータ(metadata)を用いることで、同一の音節を有するヤマトコトバ単語群に対して抽出されるコンシステント・アーギュメント(consistent argument)を当該音節のセマンティック(semantic)と考えることに矛盾が無いことを見出した”となるのでしょうが、平たく言えば、”膨大な雑学的な知識や情報を駆使して、同じ音節を持つ単語のもつ概念の内で共通のものを探ることで「あいうえお…」各々が持つ言語的な意味を見出した”ということなのです。

  幸い、同定できた五十音各々の言語的な意味内容を使えば、実に多くのヤマトコトバの語源を解読できることがわかりました。
  その過程で、古事記・日本書紀(記紀)や伝承、地名に特異的に現れる馴染みのない語、いわゆる単語親密度(word familiarity)の極端に低い語が幾つもあることにも注目してみました。

【レアな名称はストーリーの一環】

  例えば、古事記に記されたヤマタ(ノ)オロチの話は有名ですが、”大きな蛇”の意味だと言われているわりには「オロチ」はヤマタ(ノ)オロチの話にしか登場しません。他にあったとしても、歴史的に本家の話にインスパイアされて派生した物語にすぎないでしょう。オロチだけでなく”八つ又”を意味するといわれている「ヤマタ」も、古事記には”八つに別れている”という記述はありません(頭と尾が八つという記述はある)し、他のストーリーに登場することのないコトバです。
  さらに、このヤマタ(ノ)オロチからは三種の神器の一つ「クサナギノツルギ」が取り出されたということになっているのですから、たいへんです。しかも、この剣は「ツムガリノタチ」と表記されていたり、「アマノムラクモノツルギ」と記されたりするだけでも混乱するうえに、「ツムガリ」や「ムラクモ」という語の単語親密度は限りなく低いと言ってよい程に、他ではお目にかかることのないコトバです。
  「〜の〜」と従属関係を用いて表現しているので、汎用的な修飾関係があることはわかりますが、使用頻度が極端に少ないということからは、特異な事象やモノを通して表現している可能性が高いと言えます。特に、記紀はヤマト権力の自叙伝的神話ですから、記述されている出来事が特異な事象であることは蓋然性が高いと言えます。そうした観点で古事記を読んでみると、他の名称のレア度や難解度に比べて八岐大蛇の解釈が「八つ又に別れた大ヘビ」だという安直さは、むしろ奇異に映ります。
  この種の違和感は”神話”の中で度々感じることができます。「ヤマタ」の場合は、音韻に充てた万葉仮名「八岐」が発端になった誤謬の可能性が高いと言えます。現代語に類似した表現のない「ツムガリ」や「ムラクモ」に至っては、残念ながら明らかにいわゆる”民間語源”的な解釈がまかり通っています。「boy」と「坊や」、「name」と「名前」 etc.の音韻の近似性を論拠に英語と日本語が同源だというようなトンデモ理論と同レベルの話です。実は、「知らない」「分からない」とは意地でも言えない物知りと評判の長屋のご隠居さんから発せられる頓智話と同様の虚言は、現代に至るまで延々と学者先生達に大量に生産され、上書きされ、補強されてきました。他の記事でも述べた様に、最も権威あるとされる科学ジャーナルに近年掲載されたProto-Japonicも含む「Transeurasian languages」に関する論文であってさえも"物知りのご隠居さんの与太話"と大差ありません。
  しかし私達は、日本祖語のレキシコンを手にすることができました。この強い味方を手に、怪しいコトバ達の真の意味を解き明かしていきたいと思います。まずは、ヤマタ(ノ)オロチのセマンティックから考察してみたいと思います。

【八岐大蛇】

  古事記/日本書紀に登場する八俣遠呂智/八岐大蛇/ヤマタ(ノ)オロチは八つの首と八つの尾を持つ大蛇だと信じられてきました。世界各地に残る創世神話に登場する大蛇/サーペントと同様に、日本の創世神話にも大蛇が登場する事実は興味深いです。須佐之男(スサノオ)がヤマタオロチを切り刻んだ時、肥河(ヒノカワ)は血の流れに変わり、刺し割ると都牟刈(ツムガリ)之大刀があった、ということになっています。これが「天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)」すなわち三種の神器の一つ「草薙剣(クサナギノツルギ)/草那藝之大刀(クサナギノタチ)」ということになっています。
  このストーリーは、決して、”スーパーヒーローが切れ味鋭い秘密道具の剣で怪物を退治したので、その剣が神器として祀られることになった”というものではなく、”刃こぼれしてしまった剣で刺すと、体内にツムガリノタチがあった”という話です。突然、聞いたこともない「ツムガリ」が出てくるので読み手は面喰らってしまうのは当然です。どうやら、「ツムガリ」は単に太刀の呼称として記されているのではなく、物語のストーリーに対して説明的な機能を持っていることが強く示唆されます。古事記に現れる他のレアな語群も同様に、単にそれぞれの名称としてのみ物語を読み流すと、各々の呼び名があまりにも唐突に登場しているので、強い違和感を感じずにはいられません。それぞれの語には物語の筋に関わる固有の意味があるのではないかと考えて、解読を試みてみることにします。
  では、ヤマタオロチの語源から解き明かしてみます。この語は、[ya-ma-ta]=「錐形+地+掲げ」=「山+掲げ」と、[o-lo-chi]=「大きい+岩塊+経路」から構成されますので、これらをつなげると「山を形成した大きな岩塊の経路」の意味と解せます。

【都牟刈之大刀/天叢雲剣】

  さらに、ツムガリとムラクモの語源も解き明かしてみます。すると、[tsu-mu-ga-li]=「突く+脈動+前屈+重ね」と[mu-la-ku-mo]=「脈動+空間+食べる+地中」=「脈動+空間+侵食+地中」あるいは「脈動+空間+雲/蜘蛛」となりますので、現代語に意訳するなら、それぞれ「衝突で生じた振動に繰り返し突っ伏(つっぷ)した」と「大気を揺るがし地中に貫入した」あるいは「大気を揺るがし空に雲を生成した」とでもするのがいいでしょう。非常に大きなエネルギーの放出を伴う出来事が関係していたことが容易に推察されます。
  ここで、[ya-ma-ta-o-lo-chi]が表現する「山を形成する大きな岩塊」を地球に落下してきた”小天体”であったと仮定してみると、その「経路」というのは空に描かれた”落下軌道”のことでよいでしょう。そして、形成された「山」は”天体の衝突クレーターの外輪山あるいは中央丘”を指すと考えて良いでしょうから、包含する概念として高い一貫性があり、ストーリー全体で辻褄が合いそうです。加えて、[mu-la-ku-mo]が表現する「大気を揺るがし地中に貫入した」は、大気中に突入した小天体が大気に衝撃波を生じ地上に衝突し地中にまで至ったことを表現した、あるいは、小天体の落下軌道上の”流星塵”や低高度まで落ちてきた時に形成された”飛行雲”を表現したと考えることができますので、かなり合理的な解釈になりそうです。[mu]という周期性の概念に関連した音節が用いられているので、落下した小天体/隕石は複数あって(あるいは空中で分解して複数になって)、間隔をおいて広い地理的範囲に次々に衝突イベントを生じたと考えることができます(日本書紀の記述とも整合します)。
  これらを総合すると、ヤマタオロチのストーリーは次のように再構成できそうです。『遥か昔、比較的大きな鉄隕石が地球に落下してきた。その際の複数の落下軌道は人々に目撃されるほど明確で、かつ広範囲に広がり、低高度に達した時には次々に発生した大気を揺るがすような衝撃波とともに雲を生じたことも記憶された。衝突クレーターが形成された落下地点からは鉄隕石が採取され、それを材料にして刀剣が製造された。鉄材を中国からの輸入に依存するのみだった日本で、自前の鉄を手に入れた集団は殺傷力の強い武器によって勢力を得た。明らかな軌道を描く岩塊が山を作ったことから、この隕石の衝突イベントは当時の言葉で”ヤマタオロチ”と発声され、回収された隕鉄から作られた剣は、「繰り返し生じた隕石落下時の衝撃に人々は驚き地に伏せた」ことに因み”ツムガリ”と呼ばれ、また、象徴的な「衝撃波とクレーターの形成あるいは雲の形成」に因んだ呼称”ムラクモ”と呼ばれることになった。』ということです。八つに分かれたとされるのは、後世に隕石が複数の軌道を描いて落下した実話の伝承過程で、「ヤマタ」の発声を”八岐”つまり”八つの分岐”と誤解された結果、具体的な軌跡の本数と取り違えられたのではないでしょうか。

【草薙剣】

  「草薙(くさなぎ)」を構成する音節は[ku-sa-na-gi]です。前半の[ku-sa]は「食物/食べる」を意味する[ku]と「飛ぶ/放物/上る/差し渡す」等の重力に抗する運動を意味する[sa]を組み合わせて構成されていますので、「食物を放り投げる」つまり「腐(くさ)り/臭(くさ)い」が適当な解釈と言っていいでしょう。「草(くさ)」の語源も同様に、その発する「臭気」の概念に結びついていると考えられます。さて、後半の[na-gi]は著書でも記した様に、「芒が音を発する」を語源とした「凪」や「薙ぎ倒し」に通じていると考えていいでしょう。「クサナギ」の名は「臭気を発散させ地上のものを薙ぎ倒した」小天体の衝突イベントに因むと考えることができます。
  ところで「草」を纏った有名な地名が東京にありますが、何故「草」なのか語源に関わる明確な説が提示されたことはありませんでした。

【浅草】

  浅草寺(せんそうじ)で有名な「浅草(あさくさ)」ですが、この街の道路の配置を見ると隅田川で半分に断ち切られたような楕円形をしていることがわかります。妙なことは、楕円の中心に位置するのは浅草寺ではなく、長径約800m×短径約200mの窪地だということです。この窪地の形状は立体地形図ではっきり見て取れるにとどまらず、実地の道路の勾配からも視認できるほどです。浅草寺は、この窪地の西側外縁を超えたところに位置します。実は、窪地の東側外縁部を超えた場所、ちょうど浅草寺の対角に位置する場所には、待乳(まつち)山・本龍院と今戸(いまど)神社があります。
  この地域の道路は、窪地を同心円状に取り囲むものと放射状に伸びる直線状のものからなるので、真四角の旧吉原の街が北西-南東方向に傾き、山谷地区が扇状に歪んでいることがわかります。

浅草周辺の陰影起伏図(出典: 国土地理院)

  一方、地名からみてみると音韻「アサ」[a-sa]の持つ原始日本語としての意味は、「朝(あさ)」や「浅間(あさま)」に現れる[a-sa]と同様に「熱+放物」と考えていいでしょう。「クサ」[ku-sa]は、当然「食物+投棄」つまり「腐敗/臭気」と解して間違いはないでしょう。「マツチ」[ma-tsu-chi]は「大地+突く+経路」の意味であると考えてよいでしょうし、社殿は奇妙なことに10m程の高さの丘の上に建てられています。「イマド」[i-ma-do]の意味は「出現+大地+穴」と考えて間違いなさそうです。建造物の「窓(まど)」[ma-do]の語源が、古代の洞穴住居や竪穴建物の”明かり取り”や”煙突”の機能を持たせた「地面に開いた穴」であることと同様に、地名の「イマド」が「大地に穴が出現」を意味することは明らかです。
  これらの状況証拠を積み上げてみると、浅草の中心地に有るこの窪地は小天体の衝突によって形成されたクレーターだと考えて良さそうです。浅草地区の神社仏閣群の起源は、衝突クレーターの外縁部に建立されたモニュメントだった可能性が示唆されます。「熱+上昇+臭気」と表現される低湿地への小天体の衝突イベントが「浅草」、「待乳」、「今戸」の語源である、と考えることには相当な合理性がありそうです。

【小天体の衝突が変えてきた人類史】

  …については、別の記事で触れていきたいと思います。
乞うご期待

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