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大学入試にプログラミング含む「情報」が入る最初の高校1年生。「情報Ⅰ」を授業見学!

最初に


2022年4月より高等学校では「情報Ⅰ」が共通必履修科目となり、大学入学共通テストでは2025年1月よりプログラミングを含む「情報Ⅰ」が出題される予定となっています。

2003年度より情報授業はありましたが、以前はプログラミングを含まない情報の表現やコミュニケーションを主眼に置いた「社会と情報」、プログラミングを含むコンピュータの活用と情報の管理に主眼を置いた「情報の科学」のいずれか1科目(2単位)を選択必履修としていました。約8割の学校でプログラミングを含まない「社会と情報」を選択しており、プログラミングを含む「情報の科学」選択校は約2割にとどまっていたそうです。

令和4年度施行の学習指導要領で新設された「情報Ⅰ」は、「社会と情報」と「情報の科学」が組み合わさりかつ、情報デザインとデータの活用が追加されたような科目となり、プログラミングを全員が履修することとなりました。

「情報社会における問題の発見と解決」のためのスキルを身につけ、その「道具」として「情報デザイン」「プログラミング」「データ活用(統計的手法)」といった要素を活用できるようになることを求めています。

今回は、大学入学共通テストに「情報Ⅰ」が出題される最初の生徒である、高校1年生(※)の授業を見学させていただくために、Progateを導入している東京都立南多摩中等教育学校へ伺いました。

情報の授業を受け持つ御家雄一先生は長く情報教育に携わり、「情報のサイト」を運営し、全国高等学校情報教育研究会等で発表を行うなど、情報教育について多くの知見を発信されています。

御家先生が指導する東京都立南多摩中等教育学校では、どのように情報科目を学んでいるのでしょうか。

※都立南多摩中等教育学校では4年生と呼ぶ


授業の様子


情報の授業はコンピュータ室で行われていました。教室前方には大きなスクリーンがあり、プロジェクターで映像を投影しています。各机には作業用のPCが1台、その机と机の間にもう1台のPCが並んでいます。プロジェクタで写している内容が机と机の間の1台に映し出されており、生徒は顔を付き合わせて画面を見ています。授業用のウェブサイトを限定公開しており、授業の議題、授業のスライド資料リンク、次回の持ち物が記載されていました。このページにアクセスすることで、授業の情報をいつでも確認できるそうです。

「今回の持ち物は”ミラクル♡ライト”です!皆さん持ってきていますか?」

笑顔で話す御家先生の手にはハート型のペンライトが2本、握られていました。生徒が笑いながら持ってきていないことを口々に言うと、プロジェクタのスクリーンにサンリオピューロランドのパレードの映像が流れます。

軽快な音楽で踊るキャラクターを映すスクリーンに合わせて、御家先生が一緒にペンライトをふります。クスクス笑う生徒たちと音楽が盛り上がってきたところで、教壇で踊る御家先生がペンライトを高く上げました。

「これ見て!歌に合わせて光が変わるから!」

御家先生が言った通り、動画の歌に合わせて、ペンライトの光が変わります。青から黄色へ、黄色からピンクへ。動画のダンサーや観客が持つペンライトの色の変化とぴったり一致して変わっていきます。

「えっ、どうして?」
「ネットにつながってないよね?」
「サンリオピューロランドにいるわけじゃないのに、どうして動画と同じ光に変えられるの?」

生徒たちがざわつき、自発的に生徒同士で推察、議論を始めました。その間、御家先生は歌ったり踊ったりしています。ある程度議論が進んだところで、授業のスライド資料が映し出されました。

「今日は”データの圧縮”の授業です。今のライトの点灯や点滅も圧縮の技術が活用されていますが、あとで説明しますね」

生徒たちが興味をひかれた状態で授業がスタートしました。圧縮、可逆圧縮、不可逆圧縮について実例を踏まえながら説明を進めます。

一見すると同じに見える小さな画像を2枚並べたスライドを見せて、拡大すると片方は画質が荒いことを伝えたり、テレビの映像を再生、一時停止を繰り返しながら、動いていない部分は網目模様があること、ブロックノイズが発生している様を見せたりして、生徒たちは気づきを得ながら仮説を口々に話し合っていました。その後御家先生からの解説があり、納得しながら知識を身につけていっている様子でした。

音の圧縮を伝える際には、実験のようにプーという純音を低音から高音にフェードさせていき、どこかで聞こえなくなることを体験してもらい、生徒たちは人間には聞こえない音があるということを実感していました。

「途中で高音、聞こえなくなったよね?人間には絶対に聞こえない音があるんです。聞こえない音を保存せずに消してしまえばデータ量を節約できますね。それをやっているのが、MP3などのデータですね。データ量を減らすということは圧縮できているということです。でも、人間には聞こえない音をあえて使った技術もあります」

御家先生が”ミラクル♡ライト”を高く掲げて指差し、最初の疑問であった光の変化について解説を始めました。プロジェクターのスクリーンでは、パレードの音源に合わせて時間周波数分析をした図が映し出され、目で音を確認できます。

再度音声を聞きながら時間周波数分析した図を見ると、生徒の中には気づきがあり、それをまた口々に共有していきます。一通り流し終えると先生は仮説の共有を促し、生徒たちは中間モニタを指差しながら議論を活発化させました。

「”ミラクル♡ライト”にはマイクが埋め込まれており、人間には聞こえないレベルの高周波の音で光の変化を制御しているんです。周波数が信号の役目になっているんですね。このように圧縮すると消えてしまう、捨てられる部分を使った技術もあるわけです」

デジタル技術を考える際には、物理、生物、科学、美術など、すべての知識が役に立つと御家先生は言います。授業の終わりに生徒の皆さんに話を聞いてみました。

「体験しながら学べるから、御家先生の授業は楽しいです。情報化社会で、ITはライフラインの一つになっていますよね。生活に浸透している情報を学ぶことによって、どのように現代の世界が作られているのか、解像度が上がりました。日常の様々なことに技術が使われていることが理解できて、新しい視点を持つことができたし、視野が広がったと思います」

大学入学共通テストに情報科目が追加されることについてどう思うか聞いたところ、「賛成だ」という声が多くあがりました。

「共通テストに情報を追加することには賛成です。もちろん教科が増えて大変なんですが、情報はこれから絶対に必要になるスキル。学ばなくてはいけませんから」

今回の授業見学で、統計・データ分析、プログラミングといったスキルだけではなく、様々な角度からデジタルリテラシーを高め、情報技術について学んでいることを知ることができました。生徒たち自身もデジタル・ITに関する知識、プログラミングなどのスキルの重要性をよく理解しており、今後ますます情報教育が必要になってくることが予想できます。

御家先生に、授業の工夫や情報教育について伺いました。



御家先生へインタビュー


ー本日の授業について教えてください。

授業内容で意識していることは、教科情報の内容を身近に感じてもらうことです。ただ知識だけを教えて机上の空論で学んでしまうと、どこかの遠い世界の話のように感じてしまうんですよね。「へぇ、そうなんだ」で終わってしまう。そうではなく、自分の生活に紐づけてもらえるように教えています。

今日の授業では、サンリオピューロランドの話から入りました。楽しい動画を見ながらも、光の変化に疑問を持ってもらえるようにする。常に「どうして?」と仮説を考えてもらう癖をつけてほしいんです。その仮説は周囲の人と議論したり、アウトプットしてもらいます。授業中の生徒同士のおしゃべりは注意しません。会話から発見につながることも多いので。

教師は主役ではなくその場の空気を作り、生徒が主役の授業になるようにしています。教師が話題を提供し生徒の目の前で分解する。それが生徒にとって身の回りにあるものや目を引いて不思議に思うものを提供したら、あとは仮説を各々たてて共有することを大事にしています。

印刷物の色の分解(CMY)の授業では、こういったものを用意して活用しました。実際に目で見て実体験として知識を得て、後から教科書を読んで納得したり理解できるようにしています。

ー2022年4月から「情報Ⅰ」に変わりましたが、過去から現在の情報授業について教えてください。

かなり昔の話をすると、情報の授業ではワードやエクセル、パワーポイントの使い方を教えるのがメインでした。情報授業は教える先生によって内容が大きく違いました。大雑把に二分化すると、教科書をベースに授業する先生と、よろしくないですが、教科書を全くやらない先生。いまだ5つの道県が専門的な情報教員の採用をしていない現状もあります。数学の先生などが兼務しているケースですね。生徒の知識やスキルのギャップも生まれてしまうので、情報教育の課題になると思います。

このままの流れで「情報Ⅰ」がスタートしてしまったので、焦りのある先生もいるのではないでしょうか。「情報Ⅰ」の学習指導要領では、体験と試行錯誤する授業となるように書かれています。学習内容という観点から言うと、大学以降で学習する際に分割して学ぶ内容が複合的に入ってしまっています。

学習内容をうまく砕けず、教科書の内容を一冊通したストーリーをバラバラに扱ってしまうと非常に難しい科目になると思います。すると情報科目は2単位しかありませんが、2単位では足りないんですよね。授業では「情報Ⅰ」で関わる内容の興味付けと、初見で仮説を立てられるような訓練をし、時間的に確保しきれない典型問題を解くような練習は授業外で見られる解説動画などを作って提示しています。

「情報Ⅰ」は全体を通して問題解決を扱っています。従来のコンピュータサイエンスの典型問題を解くことを出来るように訓練する科目ではないんです。しかし典型的な問題もある程度触れられるように発展動画を用意しておき、選択的に学習できるようにしています。

授業では細かな情報技術の知識に加えて、デバッグやプログラミング、アルゴリズム、データ分析といったスキルを磨く必要もあります。本校ではマイクロビットやピクトグラミングも使って、生徒たち自身が試行錯誤を繰り返して、理論を後付けで確認する程度にしています。実は今までやっていたことがプログラミングだった、となるような、アイディアを形にする体験が先に来ることを意識しています。

言語や順序などの教科書に載っている知識だけを学ぶのではなく、何がしたいか、何を作りたいか、どんな問題解決をしたいのかが大事だということを覚えてもらいたいですね。

ー情報科目に対する生徒たちの興味関心はいかがでしょうか?

年々、興味や関心は高まっていますね。情報系の大学に進学を希望する生徒も非常に増えています。
昔に比べて、IT・デジタルに触れられる環境がいまはとても多いですし、社会に欠かせない存在になっており、興味を持ちやすいのだと思います。

ありがたいことに、本校で情報を学び終えた生徒から、「一週間のうちで情報の授業が最も楽しみな時間であった」という意見をたくさんいただいています。ワクワクできることを提供するように努めているので、本校の生徒の場合はそういった授業展開も要因となっているかもしれません。

各予備校等のレポートを見ると、情報系学部を目指す生徒が多いことが伺えます。本校の生徒を見ても世間的に見ても、情報関係科目への関心は非常に高まっているように思えます。

ーProgateを活用いただいている理由を教えてください。

私が元々、Progateユーザーなんです。実は私自身、一度プログラミングに挫折しています。大学時代にC言語、Java、JavaScriptとやりましたが、当時は全て出来ませんでした。とにかく手を動かせばいいのに、疑問を持つとそこで立ち止まってしまって考え込んでしまっていたんですよね。大学院生時代にどんな言語でもいいからこの課題作れと言われて、Scratchで作成して提出しました。先生は困惑していましたが(笑)。

それでなんとなく理解できて克服してからProgateに挑戦したんですけど、教材がわかりやすかったんですよね。当時のボトルネックは、言語仕様やアルゴリズムなど様々なことをまとめて理解しようとして自分の中で整理しきれなかったことです。Progateはスライド資料が整っており、理論を理解するフェーズと手を動かして習得するフェーズが分かれており、当時は大変お世話になりました。生徒にも勧めやすいですし、スライドもわかりやすくて助かっています。

ー子供たちがプログラミングや情報を学ぶことによって、社会はどう変わっていくと思いますか?

全員が適切に「情報Ⅰ」を学べたとしたら、機械的な作業を指示する際は人間に対して指示せずにコンピュータで実装する機会が増えるのではないでしょうか。また、単純な指示が飛び交うことはなく、一つひとつの行動に対して根拠を持って行動するようになると思います。一方的な単なる指示を黙って聞く人は少なくなるかもしれませんね。

情報授業は疑問と問題解決を重要視する科目です。全ての人が情報授業の思考力を習得したならば、ソースはなんなのか?なぜこの決定がされたのか?なぜこの統計で提示されているのか?など、日常的に疑問と仮説を考える人が増えると思います。

情報を学んでいる生徒は論理的思考力を持っていて、自分の意見をはっきり表明することができます。「情報Ⅰ」が全国的に適切に学ばれたら、問題解決が得意な人が増えると思います。情報科目を学んでいない人との差もそういったところに生まれるかもしれません。

生徒からは「別の科目○○で学んだところだ!」「情報で学んだことや考えたことが○○で出たー」とたくさんの報告を受けます。既習事項なら活用方法や既存の活用事例を分解して考え、未習事項ならばその原理から分解して学んでいます。

なぜどうしてを考え、考えたらそれがどのように活かせるかを考えたり、どこで活かされているかを分解して考えます。それは商業的に言えば、新しい商品開発にも活かせるかもしれませんし、新しい発想につながるその一部になるでしょう。0から1を生み出す一助にもなると思います。

しかし、効率のよい行動をすることだけが全てとは思いません。効率の悪い無駄となるような時間は、気付きや学びや発想につながるはず。効率を求める世の中でも、”無駄”を扱えるようになって、情報技術を楽しめるようになって欲しいですね。

都立南多摩中等教育学校の皆さん、御家先生、ありがとうございました!

Progateは、「Progate」という教材を通して、生徒の皆さんの可能性が広がり、社会が発展していくことを願っています。今後も多くの人へ、人生の可能性を広げるプログラミング学習を提供するために邁進してまいります。


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