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未知への免疫【知らず嫌いを克服せよ】

久しぶりのSF

お盆休みに久しぶりにSF小説を読んだ。

SFというと小学生の頃に星新一のショートショート(非常に短い小説)にはまったのが最初である気がする。

「きまぐれロボット」は何周読んだかわからない。

ショートショートは暇なときにふらっと読むのにちょうど良いのだ(ちなみに世界一短い小説はヘミングウェイの「For sale: baby shoes, never worn.(売ります。赤ん坊の靴。未使用)」だ。生徒の皆さんは蘊蓄クリシェとして覚えておこう)。

また、高校生の頃には伊藤計劃にもハマった。

潜入アクションゲーム「METAL GEAR SOLID」のノベライズ作品である「METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS」を読んだのをきっかけに「虐殺器官」「ハーモニー」を読んだ。

そして「パプリカ」「時をかける少女」などの映画から筒井康隆「残像に口紅を」などにも手を出した。

何というか、いかにもミーハーで俗っぽい読書遍歴であるところが私らしい。


難解な専門用語、耳なじみのない固有名詞

とまあこんな具合にSF作品は大好きなのだが、かといってそんなに熱心に読んできたわけでもなかった(小説よりも教養書・専門書などを読むほうが好きなので)。

そんな私がまた流行りに乗っかって今回読んだのがアンディ・ウィアーの「プロジェクト・へイル・メアリー」だ。

ハードカバーの上下巻で約640ページあるのだが、上巻は2日に分けて、下巻は半日で読み切ってしまった。

これから読む人がいると思うのでネタバレを避けて言うが、抜群に面白い。

塾においておくので、塾生はぜひ手に取ってみてほしい(というか買って読んでほしい)。


ネタバレはできないので、読書体験を内容には踏み込まずに書こうと思う。

SF作品には難解な専門用語や、横文字で耳なじみのない固有名詞が頻繁に登場する。

「プロジェクト・へイル・メアリー」でいうと、AU(天文単位:astronomical unit)や、EVA(船外活動:Extravehicular Activity)、NBL(無重力環境訓練施設:Neutral Buoyancy Laboratory)などの天文・宇宙に関する専門用語が多数登場する。

前述したメタルギアシリーズを手掛けた小島秀夫監督の「DEATH STRANDING」なんかも「対消滅(ヴォイドアウト)」や「カイラル通信」などの造語のオンパレードだ。

生徒に勧めておきながら言うのもなんだが、こういった用語が並ぶのを見ると、私は一抹の不安を覚える。

「難しい言葉ばっかりでよくわかんない!!」となるのではないかと。

そして、この問題はSFに限らず、テクストの読解全般に起こりうるものだ。


勉強は至って科学的な営みである

この問題は、私が思うに以下の2つが原因しているように思う。

  1. 単語の意味を知らないと文章を理解できないと勘違いしているということ。

  2. わからないことの多い状況に耐えきれないということ。

まず、1についてだが、文章の専門性が高くなればなるほど知らない語彙が出てくる可能性は当然あがる。

それは大人とて同様だ。

本当に全く分からなくて、かつその意味が文章を理解するのに不可欠だと思われる場合には調べるが、基本的には意味のあたりをつけて読む。

「知らん言葉出てきたなあ。まあでも前後の文脈からしてこんな意味でしょ」という具合に。

子どもたちの勉強を見ていると、この「一度仮説を立ててみる」「類推をする」ということをせずに勉強している者が多いように思う。

これがよくない。

こういう者が得てして「暗記は苦手で……」などと異口同音に言う。

暗記が苦手なのは、暗記する能力がないのではなく暗記しなければならないことを自分で増やしているからだ。

まず仮説を立て、それを検証する。

そして仮説が正しかったことが立証されれば、自力での再現性があるのだから覚える必要などないのだ。

暗記とは考えることを放棄したものに与えられた罰なのかもしれない。

「プロジェクト・へイル・メアリー」でも主人公は全編を通して不可思議な現象に立ち向かい続ける。

仮説を立て、検証し、ダメなら新たな仮説を立てる。

科学というものはそういった営みのサイクルなのである。


読書における最大の効果は免疫の獲得

次に2の「わからないことの多い状況に耐えきれないということ」について。

どうも少しでもわからない言葉が連続すると、それをもってして文章全体を難解なものとして忌避する者がいるように思う。

木を見て森を見ずといった感じだ。

いや、「木も見ず、森も見ず」なのかもしれない。

語彙や教養を磨く方法はたくさんあり、とりわけ読書はその効果を謳われることが多い。

私が思うに、読書の最も偉大な効果は、語彙を増やすことではなく、未知の語彙への免疫をつけることにある。

読書をよくする子は、分からない言葉や知らない知識への耐性が強い気がする。

これは勉強という未知の大海の冒険をするうえで、最も重要な能力であり、航海士を味方にするようなものだ。

航海士なくして大海原の航海はできない。

尾田栄一郎「ONE PIECE」25巻236話,集英社

子どもたちには、たくさんの本を読んで未知免疫を獲得するべく知の大海原へと飛び込んでほしい。

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