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一本、芯を通す(致知2023年4月号より)

対談『一道に生き、我が情熱は衰えず』

「炎のマエストロ」と呼ばれ、間もなく83歳になるいまもタクトを振り続ける世界的指揮者の小林研一郎氏。将棋界において前人未到の7冠や通算1500勝を達成し、目下、通算タイトル百期をかけて藤井聡太王将との第72期王将戦に挑む羽生善治氏。30年来の知己であるお二人は一つの道を貫く中でどのような人生の四季を味わい、どのような心境に至ったのだろうか。プロとして歩み続けるお二人の仕事観、人生観に学ぶ。

https://www.chichi.co.jp/info/chichi/pickup_article/2023/202304_kobayashi_habu/

一見畑違いとも思える指揮者・小林研一郎氏と棋士・羽生善治氏の対談には、以外にも確かな共通点があることが窺い知れた。
そう思えたのは対談中に出てきた次の言葉からだ。

「指揮者になれる人はすべての組織のリーダーになれる」
「一言いえば全てが伝わるし、その瞬間、全員が指揮者の考えに同調する」


演劇にて

これは学生時代、演劇の演出を任されていた私の体験談だ。

その劇のストーリーをかいつまんで言うと、『死んだ男が幽霊となって蘇り、それを知った恋人がその姿を探し求めるも、結局会うことは叶わなかった』というものだった。

よくある純愛ものではあるが、一つ問題があった。

「会いたい、会いたい」と駆けずり回るヒロインだったが、会えずじまいで終わるため、台本には会いたいと思う理由が書かれていなかったのだ。

それが役者を苦しめた。

「会いたいと思う感情に理由はない」
「台本通りに演じれば良いだけだ」

というほど簡単なものではない。

何事にも理由があるし、それが定まらないと演技の方向が発散してしまう。

事実、ヒロインの演技はブレブレだった。

会って何がしたいのか。
会えた時に何を言いたいのか。

このままでは役者だけでなく、観客さえももやもやしたものを抱えて終わりを迎えてしまうだろう。

私は演出をひとつ付け加えた。

「君のお腹の中には、子どもがいる」

もちろん、台本には一切そのようなことは書かれていない。
その演出によってセリフを変えたり、付け加えたりもしない。
それでもその一言で得心が行ったのか、ヒロインの演技が一気に安定し、劇自体も大成功を収めたのだ。

たった一言。

それが成したのは『一本、芯を通す』ということだった。

多くの言葉は必要ない。
一言でも、それが最初から最後までを真直ぐに通すものであれば、全体はそれに倣うのである。


リーダーに必要なもの

社会の組織であってもそれは同様で、リーダーに求められる仕事とは、その芯を部下に示すこと、具体的な完成形のビジョンを共有することではないだろうか。

どんなに困難なものであろうと、それが成された時点で、そのプロジェクトはすでに成功していると言っても過言ではないだろう。


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