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マネー・MMT

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MMTのルーツは新左翼思想
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2019年11月の記事一覧

MMTの「スペンディング・ファースト」が正しくないことの説明

Modern Monetary Theoryの根本的な誤りは、現代の通貨システムが、国家が通貨発行権を独占していたシステムをベースにしたものだとしていることにある。 200年前なら、国庫が通貨を発行するという形で支出し、支払手段としてその通貨を受け取るという形で徴税しているのは明白だったが、今や中央銀行が国庫に代わって通貨の支払と受取りを行っているので、分かりにくくなってしまった。 しかし、非常に複雑にはなったものの、MMTが示してきたように本質は何も変わっていない。政府が

ビル・ミッチェルの朝日新聞インタビューとMMTの弱点

これまでの記事と重なる内容になるが、ビル・ミッチェルの朝日新聞のインタビューについて検証する。 ミッチェルに限らず、このような認識(⇩)をしている人は少なくないが、これは事実に反する。 Unfortunately, the government has succumbed to this fear mongering and, at various times, imposed austerity measures, which have halted the growt

MMTの教祖ビル・ミッチェルの世界革命論

MMTの教祖ビル・ミッチェルが来日した際の講演がYouTubeに公開されたが、日本経済に関する事実認識が誤っており、ありがたく聞くような内容ではないことが改めて確認できた。 9:25~では実質GDPの対前年同期比のグラフから、1997年と2014年のマイナス成長をSales Tax Hike(消費税率引き上げ)によるものと説明しているが、1997年はQ2とQ3はプラス成長で、Q4から7四半期連続でマイナスに転じている。この原因は11月の三洋証券のデフォルト→北海道拓殖銀行→

マルクス・ケインズ・MMT

この佐藤健志の指摘はMMTの本質に迫っている。 佐藤:『MMT現代貨幣理論入門』は全10章ですが、7章と8章の間に大きな溝があります。7章までは一般的な貨幣理論の話で、非常に面白い。ところが8章以後はもっぱら「完全雇用と物価安定のためにJGPをすべきだ」という話になる。JGPはMMTから導き出しうる政策の1つにすぎません。その結果、議論が普遍性を失い、スケールダウンしてしまっている。 MMTの提唱者たちの問題意識は、失業やインフレ、恐慌、boom and bustなど現代

MMTに騙されるポイント

来日していたMMTの教祖ビル・ミッチェルのブログ記事に、MMTの前提と現実との違いが示されている。 MMTの宣教師たちは、国家(政府)が独占的な通貨発行者であり、民間部門が納税や経済活動に通貨を用いる前に政府の通貨発行・民間への供給が必要だと主張する。 So MMT educators start with the proposition that a sovereign government is never revenue constrained because it

ビル・ミッチェルもZSS(全部消費税のせいだ)

来日したMMTの教祖ビル・ミッチェルが日本経済についていい加減な分析を披露していたようである。 48分48秒~で質問に回答しているが、ブログ記事と同じく、消費税率引き上げが景気後退の原因だとしている。 これも同類。 「デフレ圧力は今後さらに強まる可能性が高い。日本の長期デフレは、1997年の消費増税と、その後の政府支出の抑制が主たる原因。このままでは“失われた20年”が“失われた30年”になるのは確実でしょう」 藤井聡の講演資料にも1997年4月の消費税5%、2008

Blanchardの混乱

最近MMTに関心を示している大物経済学者のBlanchardだが、通貨システムについては理解が足りないようである。 (これ以降も続いている。) 政府が対民間に支出するマネーは税や国債発行などによって事前に調達済みであり、支出時点において"money creation"されていない。 かつての政府は通貨発行権を行使しており、ペーパーマネーの発明によってマネー不足になる心配はなくなったが、代わりに2000年代のジンバブエのような過剰発行→大インフレが民間経済に打撃を与える事

ジンバブエの隠れ財政赤字とハイパーインフレーション

中央銀行が文字通り「お札を刷って」市中に大量に供給した結果、ハイパーインフレーションを招いて自国通貨ジンバブエドルの紙屑化→廃止に至ったのが2000年代のジンバブエである(現在は復活中)。 日本人にはなじみがないが重要なのが、中央銀行のRBZが信用創造したマネーで補助金等を政府に代わってファイナンスする準財政活動 (quasi-fiscal activity)で、IMF Country Report (2005)や The high rates of money grow

通貨システムの現実と虚構

現実の通貨システムとMMTが描く虚構の通貨システムの違いについて整理する。 二種類のマネー"Money: The Unauthorised Biography"の著者Felix Martinの表現を用いると、マネーの起源には国家(政府)が発行する商品貨幣(実物貨幣)のsovereign moneyと、民間銀行が発行する信用貨幣のprivate moneyの二系統があり、現代の通貨システムはprivate moneyの銀行預金をベースにしている。 The truth is

MMTのバイブルを読む

MMTが空想上の通貨システムに関する理論体系であることは、Randall Wray著『MMT現代貨幣理論入門』第2版序文の 政府は通貨の発行者であり、通貨の利用者ではない。 からも明らかである。詳しくは別記事に回すが、ここでは序論「現代貨幣理論の基礎」のこの部分について検証する。 政府が支出や貸出を行うことで通貨を創造するのであれば、政府が支出するために租税収入を必要としないのは明らかである。さらに言えば、納税者が通貨を使って租税を支払うのであれば、彼らが租税を支払える