ビル・ミッチェルもZSS(全部消費税のせいだ)
来日したMMTの教祖ビル・ミッチェルが日本経済についていい加減な分析を披露していたようである。
48分48秒~で質問に回答しているが、ブログ記事と同じく、消費税率引き上げが景気後退の原因だとしている。
これも同類。
「デフレ圧力は今後さらに強まる可能性が高い。日本の長期デフレは、1997年の消費増税と、その後の政府支出の抑制が主たる原因。このままでは“失われた20年”が“失われた30年”になるのは確実でしょう」
藤井聡の講演資料にも1997年4月の消費税5%、2008年9月のリーマンショック、2011年3月の東日本大震災、2014年4月の消費税8%について
過去4回のリーマンショック級の内、2回が消費増税。
かつ、そのショックは、リーマンショックより格段に大きい
とあるが、嘘八百であることは下のグラフからも明らかである。日本経済の問題はZSS(全部消費税のせいだ)ではない。
実質民間需要の推移は1997年と2014年では大きく異なっている。1997年はQ4から9四半期連続で前年同期比マイナスだが、2014年は翌年のQ2にはプラスに転じている。
2016年の落ち込みは主に海外要因によるもので、2014年の消費税率引き上げとは関係ない。
1997年は消費税率引き上げに加えて、所得税の特別減税廃止、社会保険料負担増、医療の自己負担増を合わせて9兆円の負担増であり、2014年よりも財政の逆噴射は強力だった。しかし、大不況の原因は財政引き締めではなく、11月に発生した金融危機が信用収縮→企業がデレバレッジとリストラを本格化→バランスシート不況(→デフレ)へと進展したためである。
一方、2014年は財政の逆噴射は弱く、不良債権問題も解決していたので、駆け込み需要の反動減はあったものの、景気拡大のトレンドは持続した。
完全失業率と就業者数の推移からも、1997年の大不況の原因が11月からの金融危機であったことと、2014年は景気拡大のトレンドが止まらなかったことが見て入れる(赤マーカーは1997年4月と2014年4月)。
MMTでは失業率ゼロ・完全雇用が政策目標だが、その評価基準では2014年4月の消費税率引き上げは無問題ということになる。ショックが「リーマンショックより格段に大きい」という藤井説が嘘八百であることも一目瞭然である(赤マーカーは2008年9月)。
1997-98年の韓国経済の分析において通貨危機を無視することがあり得ないように、日本の金融危機を無視することもあり得ない。それに加えて、ジンバブエのハイパーインフレについてもいい加減な分析をしていた人物の言うことをありがたく聞く意味はないだろう。
リフレ派も反緊縮派もMMTerも、白人崇拝・白人コンプレックスは共通するようである。
付録
全部日銀のせいだ(←リフレ派)
全部財務省のせいだ
全部消費税のせいだ
全部民主党のせいだ
それよりも「全部構造改革のせいだ」「全部株主のせいだ」の方がまだ実態に近い。ZSSはZKSをカモフラージュするためのプロパガンダになっている。
アベノミクスに当初から批判的な伊東光晴も『世界』2019年5月号に書いているように、景気は決して悪くなかった。悪く感じるとすれば、その主因は消費税ではなく株主利益を増やすために賃金が抑制されたためであり、それこそが国民が支持し続ける構造改革が成功した証でもある。
成長政策は成功しそうもない。しかし、景気が悪いわけではない。その中で注意すべきは、生み出された付加価値のうち、労働者に向かう分配率が、低下傾向にあることである。2016年度67.5%、17年度66.2%である。これに、1990年代の法人税の引き下げが加わり、企業の内部留保は年々増加を続けている。
財政赤字が過小なのではなく、企業利益が過大ということ。
構造改革と緊縮財政の背後にいるのはリベラル(ネオリベラルを含む)→全部リベラルのせいだ(ZLS)
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