Blanchardの混乱
最近MMTに関心を示している大物経済学者のBlanchardだが、通貨システムについては理解が足りないようである。
(これ以降も続いている。)
政府が対民間に支出するマネーは税や国債発行などによって事前に調達済みであり、支出時点において"money creation"されていない。
かつての政府は通貨発行権を行使しており、ペーパーマネーの発明によってマネー不足になる心配はなくなったが、代わりに2000年代のジンバブエのような過剰発行→大インフレが民間経済に打撃を与える事態も度々起こった。そのため、政府と民間の妥協策として、政府は民間銀行が信用創造した預金を信用リスクゼロの金利で市場で調達して財源にするシステムが出来上がった。過剰発行→インフレのリスクが高まると国債金利が上昇して調達にブレーキが掛かり、逆に金利低下は市場が国債増発→財政支出を催促していることを意味する。国債の発行限度を政府ではなく市場がリアルタイムで判断する仕組みである。
中央銀行は銀行間決済専用のマネーの流動性の調節に徹して政府支出はファイナンスしない。ジンバブエがハイパーインフレになったのは、このmonetary financing (= financing government spending with central bank money)の禁止の原則を破ったためである。中央銀行が短期金融市場に供給するマネーの裏付け資産として国債を買うことはmonetary financingではないことに注意。
政府は民間と違って信用リスクはゼロだが、その他の点では民間と同じように資金調達して支出している。何も難しく考える必要はない。
主流派の誤り:徴税権と通貨発行権のある政府に信用リスクがあるとする。
MMTerの誤り:政府が中央銀行に通貨発行させているとする。あるいは、通貨発行権のある政府が通貨発行を民間銀行にアウトソースしていることの意味を無視する。
補足
改めて整理すると、
①政府には通貨発行権があるので、原理的には新規発行した通貨を財政支出の財源にできる。
②しかし、これでは際限ないバラマキになって悪性インフレを引き起こす危険性があるので、リミッターを制度化する。
③政府は通貨発行を民間銀行にアウトソースして、銀行預金を国債と引き換えに調達する。予想インフレ率を織り込んだ国債金利が許容範囲を超えて上昇するまでは調達可能(信用リスクは無視できる)。
④政府は放漫財政を防ぐために、支出の財源を税と国債発行に限る。日本の財務省も「財源として税金や国債等により民間部門から資金を調達して支出を行うといった財政活動を行っており」と説明している。
⑤中央銀行は民間銀行が通貨を過剰発行(信用創造)しないように政策金利(中銀マネーの調達コスト)によって制御する。
④の財政政策と⑤の金融政策によってマネーストックとインフレ率を管理する、というのが経験と理論に基づいて進化してきた現行のシステムである。
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