『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』読了

先日のこの記事の続きのような、完全版のような何かを書きます。

高橋幸さんの『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』という本を読みました。ポストフェミニズムに関する本です。

第1部は「英米におけるポストフェミニズム」という題、第2部は「日本におけるポストフェミニズム」という題で2部構成になっています。どちらかといえば第1部の方が理論、第2部の方が実践のように感じたのは、日本の事象のほうが距離感が近いからでしょうか。

上の記事では第2部まで読み、その中に出てきた「ハイパーセクシャルカルチャー」なる単語が興味深いという話をしました。

第2部もまた面白かったです。第四章は個人的にはかなり重要。2000年代以降の若い人々に「保守化」とも思える傾向があるということを分析し、個人個人が現代の環境をうまく生き抜くために傾向を示しているという見解が示されています。やはりというべきか、個人の生得的傾向のみならず、社会に適応した結果の態度というのが十分にあるのだなと納得しました。

とはいえ「保守化」だとしても、全く元のように戻っているというわけではなく、新たに作り直されている部分もあるようです。「女らしさ」の積極的な学習というものが、2000年代の「めちゃ🖤モテ」ブームなどから見受けられる、というが第五章の内容です。

更に第六章では「性」の話も出てきています。恋愛と性と結婚の結び付きである「ロマンティックラブイデオロギー」が従来的かつ社会的な要請がなされてきたものであるとしたとき、現代は「コンフルエントラブ」、すなわち恋愛と性が一体化、緊密化して溶け合っている、という個人の感情に基づいた価値観が保持されているそうです。一時期より女性の性行動が消極的になった状況であっても、それは「性解放」以前への回帰ではない新たな価値観(コンフルエントラブ)の獲得であるのだとか。

第七章はインタビューを基にした「ソフレ」、すなわち添い寝をする異性の友達に関する部分で、これはかなり新奇な研究でした。ソフレはまさしくコンフルエントラブの産物で、「愛ではないから性ではない」という関係性から成り立っている関係であることを分析しています。

この第六章と第七章でポイントになるのが「草食(系)男子」という概念です。この本の中では「草食(系)男子」というのは、

従来の男性のイメージである「本能としての性欲」とそれを我慢できない存在

が反転し、

そもそも性欲が弱いがゆえに女性と対等に人間として友人として接することができる(男性)存在

として見なされていることを述べています。(性的な貪欲であれば女性との友人関係が築けないという論理があることも指摘)

一方で実際の「草食(系)男子」は必ずしも性欲が弱いだけとは限らず、性欲がありながらもコントロールすることができる場合もあることを指摘しています。


余談ですが、私にとっては「コンフルエントラブ」という語が本当にしっくり。これまでは自分は「ロマンティックラブイデオロギー」を根差していると自認していたのですが、かならずしもそれだけではなくて「コンフルエントラブ」の方も影響がありそうだなと思っていました。

また、性欲のコントロールを目指していたり、女性とのある程度親密な関係性を求めるような部分は「草食(系)男子」論との親和を感じました。まあどちらかといえば私は男性という属性に対する嫌悪感を持っていることにも影響はあるのですが。


さて、この本を概観すると、「ポストフェミニズム」の動きがどういった環境と動機の中で起こってきたのか、またそれは何をもたらしたかということがざっくりと分かりました。多分。

ポストフェミニズムはアンチフェミニズムではないのだけれど、フェミニズムが目指すところからも離れる部分があり、それは個人の生の中で必要な価値観かどうかという部分でフェミニズムから離れていました。その一つが恋愛の問題であって、「女らしさ」という曖昧な言葉への態度の問題でした。

私の理解ではポストフェミニズムというのはJカーブを描くようなもので、フェミニズムという時代から離れつつも完全に離散するわけではなく、しかし既存の価値観とも異なる新たな時代へと一部の(しかし少なくない)女性の歩みの結果なのではないでしょうか。

著者の高橋さんはこうしたポストフェミニズムの動きの源泉を、現代を生きる女性個人の根本にある「女性であることの不安」「現代を女性として生きることの生きづらさ」に求めています。この本はポストフェミニズムの批判にとどまることなく、なぜこうした潮流が生まれたのかという背景を探り、女性の経験を理解することを一つの目標としているそうです。

ポストフェミニズムを平面的に見るのではなく、その奥行きまで見ると分かるもの、気付くものこそがこの本のポイントなのではないでしょうか。

非常に読みやすい本でした。やっぱりこれもおすすめです!


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