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田中東子『メディア文化とジェンダーの政治学 第三波フェミニズムの視点から』紹介

「現代思想」2020年3月号に続き、第三波フェミニズムに関する本を読んでみました。

学問としてのフェミニズムを理解するには、様々な社会学の知識が必要になり、私の頭では知識的にも論理的にも厳しい。

それでも、「現代思想」の様々な記事や、この田中さんの本のおかげで、辛うじてその雰囲気だけは感じることができたと思う。

特に田中さんは上記の「現代思想」では一番最初の記事の討議のメンバーの一人であり(他には菊地夏野さんと河野真太郎さん)、更にそれに続く記事で第三波フェミニズム(90年代前後に出現したフェミニズムの一派)やポストフェミニズム(ジェンダー平等は達成されたとしてフェミニズムの必要性に疑問を持つ立場などを指す)に関して説明を入れつつ日本のフェミニズムの現状を分析している。

その記事でも今回読んだ本でも、田中さんは丁寧に丁寧に私たちをスタートラインまで連れていってくれた。

自分の言葉で説明しきれないという点でも、社会学の諸理論に関して無知であるという点でも、まだ理解できたとは言いがたいけど、それでもこの本は辛うじて読みきれた。

大変申し訳ないのだけれども、まだまだ学問としてのフェミニズムについては、学び始めたばかりで、書けることがほとんどないので、『メディア文化と~』のことをアレコレ論評することはできない。

ということで、この本を現代フェミニズム初学者が読んでみたところの、ごくごく簡単な紹介をします。


まず著者の田中東子さん。この本が書かれた2012年、および私が手にした第2版が出版された2014年には十文字学園女子大学人間生活学部メディアコミュニケーション学科の准教授をされていたが、現在は大妻女子大学文学部コミュニケーション文化学科の教授をされている。

専攻はメディア文化論、カルチュラルスタディーズ、ジェンダースタディーズ。「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」のメンバーでもあり、この会が昨年(2019年)出版した『足をどかしてくれませんか。』という本にも名を連ねている。ありがたく読ませていただきました。機会があればいつか感想など書きたいですね。

この本は、メディア文化、カルチュラルスタディーズの視点から様々な論文を書いてきた著者が、これらを加筆修正した上で、論文に共通するテーマを読者に分かりやすくするために書き足した部分が最初に加えられている。

具体的には、「はじめに」の部分で本全体を眺め、第1章で現代のフェミニズム、ジェンダーについて説明、第2章で研究のアプローチについて説明、第3章でメディア表象とジェンダーについて説明し、第4章以降の各研究に繋げている。

第4章は「主婦」向け情報番組についての2002年の論文、第5章はスポーツイベントとジェンダーについての2003年の論文、第6章はスポーツ観戦とジェンダーについての2005年の論文、第7章はコスプレ文化に関する2009年の論文が掲載されている。いずれもある程度の身近さを持った題材であり、特に第7章は著者自身がフィールドワークした様が一部書かれていたのは興味深かった。

この本の良いところは、何度も読者の方を振り返って、難しい部分を言い換えたり、今後どんな話をしていくのか指針を示してくれたりするので、読者も何とかついていくことができる。メディア論もそうだが、第三波フェミニズムなどの概念を理解するのにも、それなりの専門的な知識を要するため、これは本当にありがたい。

また、第3章までに示される理論は、第4章以降の各研究で何度もその考え方を利用していくことになるので、何度も確認することができる。これも定着に繋がりやすくありがたい。


この本で取り上げられている内容は、「メディア文化」、「ポピュラー文化」、「現代のジェンダー及び第三波フェミニズム」である。

日本に限らず世界的に「フェミニズム」がブーム的な現象として扱われている中で、フェミニズムも様々な課題を抱えてきた。そういった状況下で、「現代の女性について」、「第二波フェミニズムの評価と限界」、「現在の社会を生き延びるための知恵と工夫を女性たちの日常的な活動から抽出すること」などを考察することが、この本の目的である。

現代のフェミニズムやジェンダー学に何が起こっているのか、ということなどについて、初学者でも十分に学ぶことができるのが、この本であると思われる。簡単な本ではないが、もし手に取る機会があったら、是非読んでみてほしい。

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