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好きなことを仕事に「しない」選択。

わたしの履歴書の職歴欄は、もうずいぶん前から枠内に収まらない。

これだけ転職を重ねる人生を送ってきてしまったのには、いくつか理由がある。
一つは精神的な弱さ。ストレス耐性が低くて、ちょっとしたことでこの場から逃げ出したくなる。情けなくて自分なりに努力もしたけど、社会人になって25年、今も克服できていない。この先も劇的に変わることはないだろう。ただ最近、若い頃よりは多少鈍感になったせいか、ストレス回避の方法がなんとなくつかめてきた感は、あるけど。

もう一つは単純に飽き性だということ。仕事に飽きる、環境に飽きる、(職場の)人間関係に飽きる。どんなにいい職場でも、特段理由がなくても、ある程度の期間が経つと別のどこかへ行きたくなってしまう。傾向としてはだいたい1年半~3年。
わたしはこれまで一度も、3年以上同じ職場で働いたことがない。

自分の精神的な弱さを自覚しながら、行動力だけは人一倍あった。傷つく前にそこを離れるための労力は惜しまなかった。
職歴に空白はほとんどない。転職に苦労したことも一度もない。簡単に次が決まるから簡単に辞める。自分の逃げ癖や浅はかさを隠すストーリーをつくる能力には、少しだけ長けていたのかもしれない。

「好きなことを仕事にしたい」と思ったのは、医療機関の2か所目を退職しようと思っていたときだった。「好きなことなら頑張れるはず」そう思ったのが理由。
洋服が好きだったからアパレルの販売員になって、書くことが好きだったから出版業界にも足を踏み入れた。本が好きだから本屋のアルバイトもしたし、お洒落なお店に憧れてカフェ店員にもなった。写真を撮るのが好きで、写真スタジオでも働いてみた。猫と暮らすようになってから、動物病院で働いてみたいと思って職場体験もさせてもらった(結局働かなかったけど)。
……どれも2年以内に辞めている。

当たり前だけど、好きや憧れが、その場所に入って仕事になった途端、現実になる。「好きなことを仕事にする」というのは、それを乗り越えられる人、乗り越える想いがある人がたどり着ける境地なんだと思う。わたしのように精神的にも弱く、ストレス耐性の低いタイプには、単に好きだというだけでは、仕事にするには足枷かもしれないとさえ思った。


わたしはずっと、自分は特別な何者かになりたい、なれるはずだと思っていた。「特別な何者か」とはなんだったんだろう。たぶん、他人から「凄い」と言われたり、憧れの対象となるっていうことと同義だったんだと思う。普通の会社員じゃなく、人と違う何か。名刺を出して肩書を名乗ると人から「凄いね」って言われる何か。自分が本当にやりたい、できることを選ぶというより、誰かに認めてもらうために、仕事を選ぼうとしていたんだと思う。

友人がフリーランスでデザインの仕事をしていて、とても自由で格好よく見えた。彼女の影響は大きかった。でも「デザインなんて全然好きじゃない。会社勤めが出来ないから仕方なくやってるだけ」と彼女は言った。そう言われれば別に楽しそうでもなかったな。彼女はただ自分にできることを、自分に合う働き方を、選んでいただけなんだろう。わたしが外側の印象で勝手に憧れていただけで。

そうやって履歴書の職歴欄に収まらないほどの職場を渡り歩いてきてしまった今。

結局、新卒で就いた医療事務の仕事を生業としている。いろんな診療科のクリニックを転々として、健康保険組合でレセプト点検の仕事、そして病院の入院会計と、仕事内容、働き方を変えながらも同じ医療業界に身を置いている。この一般常識とかけはなれた独特な業界には失望しきっているし、決して好きだとも向いてるとも思えない仕事だけれど、俯瞰で眺めてみれば、これが唯一続けてこれた仕事だ。

そして7月から、今の仕事に関連する、とある資格を取得するために通信講座を受けることにした。仕事しながら、修了するまでに2年もかかる。しかも決して安くない金額なので、何年か前から悩んでいてなかなか決心がつかなかったもの。先日、なんとなく今ならやれそうだと、ふと思い立ってサイトを確認すると、その日が申し込み締切日だった。嘘みたいな本当の話。

講座に申し込んだことを母に報告したら、「今の仕事をやっていく覚悟がやっとできたってことだね」と言われた。いつまでもふわふわと夢をみてばかりの娘を、ずっと心配してくれていた。本当によく見てる。

「好きなことを仕事に」を体現している素敵な人を、何人も知っている。今は、かつて外側だけみて抱いていた憧れや羨ましさはなく、ただただ尊敬の気持ちしかない。

「仕事=人生、生き方」 だと、ずっと拘っていたけど、今やわたしにとって仕事は生きるためのただの手段なんだから、なんだっていいと思っている。自分のできる範囲で、できるだけストレスを抱えず、仕事以外に大事なものを持てる余裕と時間を確保できる環境であれば、なんだって。
他人からどう見えていようと結局、自分の正解は自分のなかにしかない。

わたしはたぶんこの先も、職場を変える。職歴が書ききれない場合の履歴書のまとめ方には自信があるので心配はいらない。正直に言うと資格を取るのもそのための準備の一つだし。
自分の残りの人生のために今できることをやる。たくさん経験してちゃんと諦められたから、これがわたしの選択だと自信もって言える。これでよかったんだと思う。


(noteはじめて、こうやって自分のことを書くたびに、不器用すぎるなと思う。考えるより先に動いちゃうから、こうなるんだろうな。。)


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