スクエア・エニックスの損失から見るゲームビジネスの課題!!!
こんにちは。
今、コンサルタントTは、先日、スクエア・エニックスから発売された「FINAL FANTASY Ⅶ REBIRTH」を100時間近くプレイして、楽しんでいます。
そんなスクエア・エニックスの昨年度の決算が発表されて、ゲーム界に激震が走っています。例えば、このようなタイトルです。
「スクエニHDの純利益7割減 24年3月期、開発中止で減損」(日本経済新聞 5/13日付)
「開発見直しで220億円特損、スクエニが抱える苦悩」(東洋経済オンライン 5/24)
スクエニに、一体、何が起きたのでしょうか。
以前、私の記事では、スクエニについて好意的な予測をしていました。
今年2月29日に発売された「FINAL FANTASY Ⅶ REBIRTH」は順調に売上を上げていたのですが、実は現段階での販売実績が期待を下回ったようなのです。この辺りもこの決算結果の要因になっているはずです。後ほど説明します。
まずは決算結果から見ていきます。
2024年3月期
売上高 3,563億円 3.8%増
営業利益 325億円 26.6%減
営業利益率 9.1% -3.8point
経常利益 415億円 24.1%減
経常利益率 11.7% -4.2point
当期純利益 149億円 69.7%減
売上高こそ微増のものの、営業利益は26.6%減益、経常利益も24.1%減益という決算となりました。連結貸借対照表を見てみると、大きなマイナスとして、「コンテンツ制作勘定」を本決算で387億円減損で計上していることがわかります。
これは同社が4月30日に発表した「221億円の特別損失の計上」が含まれていると思われます。
つまり、今回の赤字決算は、開発中の大型タイトルも含めたプロジェクトをいくつか中止した結果、今まで、それに費やされた開発費を特損で落としたということなのです。
まず、ここで注目すべきは、スクエニは2023年6月に、当時47歳の桐生新社長に交代しています。今回の決算は桐生社長にとって初めての決算報告となるわけです。従って、桐生社長としては、社長に就任されてから、以下のようなゲームビジネスの課題を踏まえ、今後、スクエニの将来のために、この段階で「悪いうみ」を出しておく必要があったということです。
それでは、スクエニが直面した、考えなければいけないゲームビジネスの課題とはどのようなものなのでしょうか。順番に説明します。
1. マルチプラットフォーム
今までゲームプラットフォーム市場は、任天堂、ソニーのゲーム機が牽引してきました。それは現在でも続いています。任天堂は2017年に発売した「Nintendo Switch」が大成功して、2024年3月現在、世界で1億4000万台を売上げています。
ソニーも負けじと、2020年に「Play Station 5」を発売しましたが、コロナ禍もあり、こちらは販売が伸び悩み、2023年12月時点では、世界で5000万台程度にとどまっています。
こうした専用プラットフォームゲーム機の動向とは別に、現在、急速に伸びているのがPCゲームです。このPC上で動くプラットフォームは米Valve Corporationが運営する「Steam」です。こちらは今年3月に同時接続ユーザー数が3500万人を突破したようです。「Play Station 5」の5000万台に追い越しそうな勢いですね。
このように、現在、スマホゲーム以外のプラットフォームゲームは
Nintendo Switch
Play Station 5
Steam
Xbox
と、マルチプラットフォームであることがわかります。
さて、スクエニの話に戻りましょう。スクエニが2023年、2024年に発売した大型タイトルである「FINAL FANTASY XⅥ」、「FINAL FANTASY Ⅶ REBIRTH」は、その映像クオリティを最大限に高めるためにPS5専用として販売しています。
このように、今までのスクエニの失策は、ソニー、すなわちPSプラットフォームに特化しすぎたために、せっかくのユーザーを増やしきれなかったためと言えます。
ちなみに、スクエニの新中期経営計画の中では、以下の様な方針変更がしっかり記載されていました。
「マルチプラットフォーム戦略への転換」
すなわち、スクエニが今後手掛けるゲームタイトルは、基本的に先ほどの全てのプラットフォームでプレイできるように開発する、という宣言かと思います。
具体的には、全てのゲームにおいて、PCゲームのSteamでもプレイできるようにするということでしょう。また、現在、世界で一番普及しているゲーム機「Nintendo Switch」ユーザー向けに、いくつかの大衆向けタイトルを出していくことも考えていると思います。
2. ゲーム開発の効率化、集約化
スクエニは、今回338億円の評価損、特損を計上することで、大型タイトルを含むいくつかの開発プロジェクトを中止させたようです。要は中止プロジェクトの現在までに累積されたコストを損失として計上したわけです。
現在、大型タイトルのゲームの開発費は100億円から200億円近くかかると言われています。今までスクエニは、その企業規模から、非常に多くのゲーム開発プロジェクトを並行して動かしてきたようです。
そのスクエニの新中期経営計画では、以下のように方針変更を謳っています。
「デジタルエンタテインメント(DE)事業の開発体制最適化による生産性向上」
この新たな戦略方針は、別の言葉で「量から質への転換」とも記載されています。今後は開発プロジェクトを絞り込んで、そこに人材と開発投資を重点的に配分する方針にします。これはゲームビジネスにしっかりとROIの考え方を入れて、投資対効果を最大限にするようにするということです。
さきほどのマルチプラットフォームも、その意味では車の両輪になりますよね。
実はスクエニの場合、AAAレベルの大型タイトルは「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」の2つが代表的なものとなります。これは任天堂の「マリオ」「ポケモン」などに匹敵するIPとなります。
ただ、任天堂が最近「スプラトゥーン」という新しいIPをヒットさせたように、スクエニは「ファイナルファンタジー」と「ドラクエ」につぐ、第3の新しいタイトルがなかなか出てきません。「ファイナルファンタジー」、「ドラクエ」に集中投資することと併せて、第3の新タイトルを集中的に新規開発するということも求められますね。
(ちなみに私個人の意見としては皆に人気のある「ニーアオートマタ」をもっと大型IPとして育てていったらと思いますが..)
この「1. マルチプラットフォーム」と「2. ゲーム開発の効率化、集約化」という方針転換を生み出す原因になったのは、今までのスクエニのゲームビジネスの姿勢にあるような気がします。
特に「FINAL FANTASY XⅥ」、「FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE, REBIRTH」といった最新スペックと映像美の大型タイトルをソニーの最新ハードのPS5のみで出せば、昔からのファンも絶対プレイするはず、そして、それはPS5の販売促進にもつながる、と軽く見ていたのかもしれません。
実際は、まず、コロナ禍やサプライチェーンの影響もあり、PS5自体が生産を増やせず、しばらく店頭にもない状況でした。そのため、実態はPS5の台数がまったく普及しないせいで、スクエニの大型タイトルの「FINAL FANTASY XⅥ」、「FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE, REBIRTH」は期待したような売上が上がらなかったわけです。
今回、FFビジネスに関して言えば、ソニーと心中したようなものです。
ですから、「1. マルチプラットフォーム」なんです。3000万人を超えたSteamでもFFがプレイできるようにすることが最優先です。さらにはSwitch向けにもドラクエ新作を開発してみるとか、また、パッケージタイトルで遊んでもらった後にはスマホゲームにつなげて、長くファンを作っていく戦略も重要です。
このスクエニのゲームビジネスの戦略転換は他の会社にもあてはまります。ゲームビジネスは新たな転換点に来たのかもしれませんね。
それでは。
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