見出し画像

#高安動脈炎闘病記 10

10.Never Give Up!!

4月10日。
主治医より手術についての説明があった。
両親も病院に揃い、話を聞いた。

まず、どのような手術になるのか。
一つは、当初の通り大動脈基部置換術。大動脈の弁置換を行い、逆流を無くし心臓を正常に駆動させる。
イメージで言われるのが、心臓の弁はベンツのマークのような形をしていて、全身に血液を送った後しっかり閉じることで正常に循環を行う。
しかし、自分の弁は隙間があり、全身に行き渡る血液が心臓に逆流を起こし、大きな負荷が掛かっている状態だ。
これを、正しく機能するチタンで出来た機械弁に替えるのだ。

「下町ロケットで読んだやつだ!」
ドラマ化もされた池井戸潤先生の小説、下町ロケットで登場した機械弁を、ああまさか自分が、そしてこんな早く使うことになるなんて。
普通はあらためてショックを受けるのか、それとも手術を受けられることに喜ぶのか。
ドラマと現実が絡み合ったような、よくわからない感情だった。
むしろ、物語ならばはっきりとした感情を表すのかもしれない。ただ、リアルな感情は本当にわからなかった。
一番近いのは、自分にもわからない「何か」を失い、そして諦めたような感情だったように思い出す。

加えて、冠動脈形成術という手術も加わる。狭窄した大動脈が循環を妨げるため、バルーンと呼ばれるカテーテルを使って、狭窄を改善するという手術だ。

正直にいうと、自分でも何を言ってるかはよく理解していない。
自分が受けた(受ける)手術なんだから、きちんと理解しておくべきだ!とも思わないこともないが、わからないものはわからないのだ。
なんなら、上に綴った手術の説明も診断書をみながら書き出している。
ちゃんと読み取れているかも怪しい。
だから、こういうのは餅は餅屋で任せておけば良い。
だからお医者さんは凄いんだ。それでよし。


開き直ったところで、ひとつだけしっかり理解できたことがある。
それは、一生納豆が食べれなくなることだ。

これはちゃんとショックを受けた。

機械弁を正常に作動させるために、血液がサラサラになる薬「ワーファリン」を飲む必要がある。一生。
この薬はビタミンKと相性が悪いので、ビタミンKの多いものは採ってはいけません、ということだ。
そして、このビタミンKをとてつもなく多く含む食品というのが納豆だった。

うわーまじか。

実は、納豆が大好きだ。家でご飯を食べるときはほぼ毎食食べる。冷蔵庫には必ずストックがあり、近所のスーパーで一番安い場所も知っている。特にひき割りが好きだが、粒のものも大好きだ。
納豆を使ったパスタを作ったこともあるし、堂々と回転寿司で納豆巻きを頼む。
セブンイレブンの納豆巻きは特に好きだ。

大人しく説明を聞いていた僕だが、この時だけは先生に、
「納豆!?ダメなんですか!?」
と、声を荒げて言ってしまった。

そこかよ!という表情の後気の毒そうにダメの念を押されたのは言うまでもない。

しばし考えた後、先生に

「先生!僕は言うことを守ってつまみ食いもしてませんし無糖の飲み物以外は口にしていません。ただどうか、手術までの間、食事に加えて納豆を食べても良いでしょうか!?」(早口で)

多分、この病院に来て初めて
自分の意思を表明した。

こうして僕は、手術日まで納豆を食べて良いとお医者様からの勅語を賜った。


手術日は、4月19日だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?