【レモン、ありますねの話について】
2017年放送のドラマ「カルテット」を、なんと今更アマゾンプライムで全話見たのは今年の2月。
自分が吸収するものは自腹を切るべきというモットーを持ちながら、主人が加入するアマプラの恩恵を受けて生きて来た。しかし、「自分のパソコン画面を消して、ファイヤースティックでログインし直さないと見られないってどうなの」という手間が「まあいいか」を増産していたのは事実。
そして、ついに自腹加入。
加入後すぐ「カルテット」を検索したところ、長らく見られなくなっていたものが再び、全話(アマプラ会員なら無料で)見られるようになっていた。
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ストーリーについてはウィキペディアその他に詳しいけれど、ドラマ冒頭あたりにこんなシーンがある。
「レモン、ありますね」
唐揚げにレモンの話。
縁もゆかりもない大人4人が軽井沢の別荘で同居しながら、カルテットを組んで演奏をするドラマなのだ。文字にすると状況がわからないが、見ればわかる。
そして、同居するからには食卓を囲む。
価値観の違う人同士が揚げたての唐揚げをいただく。
有無を言わさずレモンを絞った満島ひかりに対して、高橋一生が言うのだ。「今きみたち、何で唐揚げにレモンしたの?」「人それぞれ」。
しかもここから超面倒くさい展開で、「じゃあレモンかけますかって聞けば良かったんですか」と満島ひかりが言うと、それもダメ。
「かけてもいいですか、って聞き方はかけるのが当たり前な空気が生まれて、大丈夫って言うしかなくなるからだめ」
じゃあ、どう言えばいい?
「レモン、ありますね」→松たか子
「レモン、ありますよ」→高橋一生
こんなシーン。
「意味がわからない」→満島ひかり
「東北では、トマトに砂糖かけるって知ってます?」→松田龍平
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こんなようなことが延々と続くドラマなのだった。
登場人物のそれぞれの過去、現在のトラブルも話に加わるけれど、大体のことが「グレーな感じ」で集結する。この世には白黒つかないことはいっぱいある。勧善懲悪など知る由もない。
他人同士は分かり合えないし、夢は叶わないし、片想いは永遠の夢のようなもの。※両思いは現実。
だけど一緒に暮らしている4人は、だんだん家族っぽくなっていく。
夢見るキリギリスでい続けよう僕たちは、と言い続ける。
…というようなことをコメディタッチで描き続けるドラマ。
あまりに良かったので、当時、逃げ恥を全話リアルタイムで見たのに、次クールの「カルテット」を第一話だけ録画して見ずにスルーした自分を責めた。プロデューサー佐野亜裕美さんのドラマを今になってちゃんと見るようにしている。
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実は、車を運転しながら平野紗季子さんのポッドキャストを聞いていたら、3/20配信の放送中に彼女が「レモン、ありますね」について言及したのを聞いたのだった。
デートごはんがテーマで、食の価値観が合わない異性とはお別れした視聴者のエピソードを読んだ平野さんが、
「レモン、ありますねってわかります?」と。
わかります。
価値観が違う人同士が食卓を囲み、違和感だけが育成されて不協和音を生むときと。「レモン、ありますね」のような会話の終結を迎えながらも、なぜか向き合い続けることを選んだ人たちの話と。
正解などはなく。
自分が何を選ぶかの話。
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そんな先日、午前中は事務所で打合せをして、昼食のために浜松市中区の老舗ロシア料理店「サモワァール」へ。
ベタにボルシチとピロシキが食べたくて、両方を上手に食べ、さらにデザートもセットする方法を試行錯誤し、シェフのおすすめランチにピロシキを単品で追加する手段を選んだ。
ボルシチにセットされたレタスのサラダがやけに美味しく、「下処理が丁寧なんだな」と感じる。シャキシャキ。パリパリ。レタスがおいしいのは特別。
ピロシキはパン屋でよくある「カレーパンの中身をピロシキっぽくしたもの」とは訳が違い、ツルッと丸くて可愛いサイズ。
ロシア風水餃子とロシア風チャーハンもいただいた。
「レーズン、ありますね」
チャーハンにレーズンが入っていた。うまくいえないけど、水餃子もチャーハンも油分と酸味がコラボレートしたお洒落な味。
一緒に食事をしたクライアントの女性が「レーズン、食べられなくはないけど、チャーハンにレーズン」そう呟く。
営業マンの女性が「私、むしろレーズンがいいアクセントになってるって思ってました」。
私は心の中で「私もおいしいなって思ってた」的なことをボソッ。
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一緒に食卓を囲むのは、それだけで大きな物語の始まりだと思う。
いちごジャムが入ったロシア紅茶をスプーンでぐるぐるかき混ぜながら、最近の仕事の話とか、今後の人生の展望とか、フリーランスの働き方についてとか、あれこれ喋る。
でも別に答えなんて出ないし、ここで話したこと以外の展開が始まるかもしれない。
それでいいような気がする、ここ最近。
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