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見えているのは、ほんの一部。|生きる行脚#7@福島

 僕は大学で学んでいることや「大学」という環境、自分の将来のことなど、いろんなことについてとにかくもやもやを感じていた。
 そんな中REIWA47キャラバンでの株式会社ポケットマルシェ(現:株式会社雨風太陽)のCEO、高橋博之さんとの出会いをきっかけに、大学3年生(2021年度)の1年間を休学し、日本各地で一次産業を生業とされている方の隣で一緒に作業をさせてもらう旅、「生きる行脚」をすることを決めた。
 生きる行脚とは、一次産業を生業とされている日本各地の漁師さん・農家さんのところに住み込みで1週間~1か月ほど滞在し、漁師さん・農家さんが普段やっているようなことを隣で一緒にやらせてもらう修行の旅である。
一次産業という産業のなかで物理的に命を扱ったり命と向き合ったり、一次産業を生業とされている方の生き様などを通して「生きる」とはどういうことなのかを感じたり、考えるため、2021年の3月8日(火)から2022年の3月28日(月)までのおよそ1年間、この「生きる行脚」を実施した。
 このnoteでは、この1年間で日本各地の漁師さん・農家さんのところへ行かせていただいたときに僕が見てきた景色や、僕が感じたことや思ったこと、考えたことを綴っている。


 ここまで福島以外の東北5県に行っていたから、福島の農家さんのところにも行ってみたいな、なんて思いつつポケットマルシェのアプリを開き検索機能でカテゴリーを「米・穀類」、地域を「東北」に設定して検索してみる。
 場所を見ながら画面をスクロールしていくと、地元「福島県福島市」の文字。株式会社カトウファームの加藤 絵美さん、という農家さんだった。商品ページを見てみるとお米の他にクラフトビールを作っているらしい、ということが分かり「福島市にお米とビールを作ってる農家さんなんているんだ!お米とビールって不思議な組み合わせだな、気になる!」と思い、早速「商品について生産者に質問する」機能を使って研修のお願いをしてみた。

 しかし、2、3日が過ぎてもポケマルでも他のSNSでも音沙汰がなかった。

 でも、簡単に諦めたくはなかった。結果的にダメだったとしても、何かできることがあるなら最後までやりきってから区切りをつけたいと思った。
そして、どこかで見たか、誰かから聞いたかで実家からそう遠くないところにカトウファームさんがあることは何となく知っていた。また、ある日散歩していたところ、偶然Yellow Beer Works(カトウファームさんの醸造所の名前)の看板を見つけた。

 というわけで最終手段。歩いてカトウファームさんの醸造所へと出向き、その場で直接社長の晃司さんに「研修させてください。」とお願いした。すると快く受け入れてくださり、その数日後から研修させていただけることになった。

プレーヤーの立場に身を置いて


 「お米がどうやって作られるのか知りたい」という思いもあって研修に行かせていただいたものの、時期としては7月末から8月中旬の稲の成長真っ盛りのタイミングで、お米に関しては特にこれといった作業がなく、できることと言えば水の管理と草刈りくらいだった。そのため、お米をメインに作られているカトウファームさんに行かせていただいたとは言え、外での作業の多くは、夏の主力商品であるトウモロコシに関することがほとんどだった。

 朝6時からトウモロコシの収穫が始まる。そして収穫が終わると、袋詰めと値段や商品名の書かれたシールのラベリングをして直売所へ出荷しに行く、という流れだった。
 トウモロコシの先っぽの部分の実がほんの数粒欠けているだけでも少し価格を落として販売する。買い手としてスーパーで商品を選ぶ立場のときは「あー、ちょっと実が詰まってないなぁ。だからこれは少し安いんだろうなぁ。」とか思うけど、作り手として選別や袋詰めの作業をしてみると「これは虫食いもないし先っちょの数粒がないだけだから、A(品)でいっか。」と思って一度Aの方に入れてしまい、「あ、違うわ。数粒欠けてるだけでもB(品)にしなくちゃいけないのか。」と思い出して慌てて取り出し、選別し直した場面が結構あった。作り手の立場に立って作業しているときと、買い手としてスーパーで商品を手にしているときとでは感じ方が全く違うのだということを感じた。

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トウモロコシの選別と袋詰め、ラベリングの様子。
晃司さんの母、とし子さんの独り言と晃司さんのツッコミが相性抜群でツボに入ってしまった。カトウファームのポリシーである「農作業は明るく、楽しく」とはまさしくこのことだった(笑)。


 トウモロコシの作業が終わると、田んぼの畔の草刈りやネギの肥料を撒いたりする。日中の気温が36~37℃まで昇る福島盆地の蒸されるような暑さの中での作業で、汗でビダビダになった作業着やパンツは、乾燥すると汗の塩分が浮かび上がって白く塩を吹いた。
 まだ草を刈っていないところは雑草が結構な背丈まで伸びていて、「田んぼの周りがきれいにされているのって当たり前のことじゃないんだな。農家さんがこまめに草刈りをしたり除草剤を撒いたりして管理してるから、田んぼの周りはきれいに保たれているんだな。誰かが草刈りをしなければ、田んぼの周りは雑草だらけになってしまうんだろうな。」と思った。

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田んぼの畔の草刈りをするときに使わせてもらった「スパイダー」という草刈り機。
最初は操作が難しかったけど、最後の方になって慣れてくると「結構いい感じじゃない?」と思えるくらい刈れるようになってやりがいがあって楽しかった。


 帰宅後は、お風呂に入ってご飯を食べてから夜9時には眠りについて翌朝まで死んだように眠る、というのがここでの3週間のルーティンだった。
 正直、僕は農業をなめていた。週末に農家さんのところへ行ってちょこっと作業をしたことがあるからって。ここに来るまで漁師さんの船に乗せてもらって夜遅くに作業して体力的に大変なことも経験してきたからって。3Kの「キツい」なんて若い自分には関係ないと思っていた。
だから単純に、「農家さんってすげぇな。」と思った。晃司さんには「やっぱ漁業は大変だったでしょ?」と言われたけど、内心「普通に農業も大変っす!農業と漁業、どっちが大変とか比べるもんじゃないっす!」と思った。そして、「でも働くってこういうことなんだな、楽して生きていこうなんて考えるもんじゃないな」と肝に銘じた。


正直で、まっすぐで、度胸があって。


 カトウファームは、社長の晃司さんと専務の絵美さんご夫婦で経営されている。晃司さんは大学卒業後、様々な職業を経験した後に行き着いた建設業の会社の環境に嫌気がさし、脱サラ。絵美さんも営業のお仕事をしていたものの、人間関係に疲れて仕事を離れた。このタイミングを機に無理せず、明るく楽しくできそうな農業に魅力を感じ、晃司さんの祖父の後を引き継いで夫婦で農業を始めた。農業についての知識も経験も乏しかった就農して間もない頃は、雨が降りしきる中、お昼ご飯のビショビショに濡れた食パンをかじりながらがむしゃらになって田植えをした年もあったそうだ。

 2011年3月、東日本大震災が発生し、原発事故に見舞われた。本格的に農業をするようになってからまだ2年ほどの、駆け出し始めたタイミングでの出来事だった。
 福島県では、2011年の9月に県知事が安全宣言を発出した後に、基準値を上回る放射線量の米が検出された。そのような背景もあり、翌年2012年には放射線を吸着させるための塩化カリウムやゼオライト、ケイ酸カリウムを1反歩あたり1トン、それを25ha分(約250トン)撒いた。
 また原発事故後、個人的な取引は一切なくなって卸での取引だけになり、個人的な取引の話があったとしても、福島県産のお米だからといって法外な価格で買い叩かれそうになったことも多々あったという。

 そんな状況でも、周りが米を作らなくても、福島を離れることは考えなかった。

「ここでやんなければ、土地はどんどん荒れていってしまう。自分たちがやんなかったら、他に誰がやんの?」

 次の世代に土地をつなぐ、農業をつなぐ、というこの土地、地区でやる責任感とか使命感があった。
そこで、家族の同意も得てこの地に残ると腹を括り、自分の土地に留まらず、作らない人の分まで土地を借りて米を作った。

 そして2015年に、カトウファームは法人化した。祖父の後を継いでから3日後に500万円、半年後にさらに500万円の農業機械を購入するための借金を背負うこととなり、「こんなのおかしい。」と違和感を抱いたことが背景にあった。
法人化をする際、周りの人やコンサルの人には「やめた方がいい。」と言われた。それでも法人化に踏み切ったのは、

「『やめた方がいい』と言う人こそ、やったことがない。やったことがない人が何で分かるの?」

と思ったからだという。そして、「失敗したとしても、それも経験した方がいい。」と思ったのが1番の理由だったという。

 晃司さんは、「やらない方がいい。」と言われていること、分かっていることをあえてやる。法人化の話は然り、肥料や除草剤の撒き方や撒く量、農作物の管理など身近な場面においても。それは、自分の経験になるからだと晃司さんは言う。「成功しても失敗しても自分で実際にやってみた経験があれば、次どうすればいいか分かるから。」と常に前を向こうとする姿勢が印象的だった。

 晃司さん・絵美さんご夫婦のライフストーリーや考え方を伺う中で、「お二人とも気持ちいいくらい正直で、突き抜けるようなまっすぐさがある人たちだな。」と思った。
 社会に身を置いて生きることに違和感を感じて農業という道を選んだのは、二人ともどうしても自分に嘘がつけなかったからなんじゃないかな、と思う。「この土地を守らないといけない」「次の世代に農業をつなぐ」という責任感や使命感みたいな“想い”を実際の行動に移してしまう熱量と、「やってみないとわからない」を文字通り体現しようとするかのような純粋さからは、やっぱり「まっすぐ」って言葉が一番似合っているんじゃないかと思った。また、「やる!」と決めたことを、責任を背負い込んでやり切ろうとする姿は、すごく肝っ玉が据わっているというか、漢気が溢れている感じがした。


見た目は華やか、中身はしたたか。


 若いご夫婦が農業をしながらビールも作るなんて、とてもキャッチーだ。それだけを聞けば華やかさを感じる。そんな華やかさに惹かれて研修をお願いしたのも一つの事実だった。
 だけど研修をさせていただく中で、そんな華やかさはカトウファームの、晃司さん・絵美さんご夫婦の、ほんの一部というか、“外見”に過ぎなかったのだということに気づかされた。
農業やビール造りの作業の1つ1つは地道で、骨が折れる作業が多い。でも、そんな作業の「地道にコツコツと」の何年もの積み重ねがあったからこそ、カトウファームの今の華やかさがある。うまく説明できないけれど、実際に一緒に作業をさせていただいたり話を聞く中で、数多くの難局や地道な作業、失敗と二人三脚で正面から向き合い続けてきた夫婦の辛抱強さというか、ちょっとやそっとのことでは倒れない打たれ強さを感じ、「華やかに見えるけど、ほんとはめちゃめちゃ泥臭いな。」と思った。

見えてる部分がその人のすべてではなくて、それはほんの一部に過ぎないのだということを強く感じた3週間だった。

 突然突撃したにも関わらず、時間を割いて作業を一から手取り足取り教えてくださったり、立ち入ったお話を聞かせていただいたり、トウモロコシやトマト、たくさんのお店のグッズをいただいたり、BBQをしていただいたりと本当にお世話になりました。ありがとうございました。

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これがよく耳にする、ビールを作る際に使われる「ホップ」。
ほとんど写真を撮っていなかったので、ビールの話はしてないけど載せちゃう。
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醸造中のビール。Yellow Beer Works(カトウファームの醸造所名)のビールはアメリカンスタイルといって、ホップの香りが強いのが特徴。



加藤絵美さん・晃司さんの商品はこちらから!


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