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備忘録 どん

結婚生活は大変だ。

二人とも同じだけ仕事をしているから家事は分担、
できる人がやろうの方針に落ち着いた。

さて、実家でぬくぬく生きてきたわたしは、いきなり嫁として生きることになった。
今まで料理の習慣なんてなかったのに、会社帰りにスーパーに寄って
二人分のご飯を作って、余ったおかずでお弁当を作った。
そりゃあ疲れていたけど旦那のためなら頑張れた。
おそらく、”嫁してるわたし”に酔いながら。

その証拠に半年くらい経ったころにはぐったりだった。
先に帰って料理するのが嫌だから、わざと残業してない?なんて
理不尽すぎる被害妄想をしてしまうこともあった。
休みの日は力なくとぼとぼ歩いて買い物に行き、
自分のことすらコントロールできないなんて、
こんなんじゃ子供は当分無理かもな、と
不甲斐なさに涙したこともあった。

どうやら、わたしは完璧主義のようだと気づいたのはそのころだ。
そこら中に仕事の資料を放置したままの旦那にイラつき
中途半端にトイレットペーパーを残しておく旦那にイラついてしまった。

「これいつ片付けるの?」

「ごめん、あとでやろうと思ってた。」

それ、もう何回も聞いてるよ。謝るなら改善していこうよ。
完璧主義のわたしに対し、旦那は片付けや段取りが苦手のようだった。
重要なプリントは提出を欠かさないタイプと、ランドセルの奥底からくしゃくしゃになったプリントを見つけて苦笑いするタイプの夫婦。

いえいえ、もちろんいいこともあった。
着てほしいからという理由で洋服を買ってきてくれたり
いつもありがとうのお花を買ってきてくれたりした。
ずっとおしゃれセンスが抜群の旦那とのデートは、いつもとても楽しかった。
そのうちカメラを買った旦那は、かわいいかわいいと言いながらわたしの写真をたくさん撮ってくれた。

勝手に結婚生活にプレッシャーを感じていたわたしに
彼は変わらず、癒しと安心とぬくもりをくれた。


結婚生活なんて、納得いかないことをどれだけ受け容れられるかなのかもしれないと思い始めていた。
が、しかし、どうしても受け流せないことがあった。

旦那は月に一度「男の子の日」(わたしが勝手にそう呼んでいた)があるタイプの人らしい。
男の子の日の旦那はとにかく機嫌が悪い。しゃべらない。ご飯を食べずにふて寝する。決まって家の中が泥のように重たい空気に包まれる。

そのたびにわたしは苦しくなって涙した。
旦那には男の子の日があるのかと、理解できるようになってからもなお。
実家に帰りたい。こんな思いをするために結婚したわけじゃない。
何か嫌なことがあったなら、そう言ってくれればわたしはいくらでも癒す努力をするのに。

そして次の日、旦那はいつも以上に優しくなる。
「ごめんね。君を泣かせるなんて、僕は最低な人間だ。もう君を泣かせるようなことはしない。」

何度、同じことを聞いただろう。
あと何回で私は慣れることができるだろう。
ごめんと言われるたびに、裏切られた気持ちになった。
一度、旦那を許したわたしの気持ちは0になる。
許す努力をして、バロメーターを再び100まで上げる。
そしてまた「ごめん」と言われて0になった。


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