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2017年『ブランケット・キャッツ』感想

2017年『ブランケット・キャッツ』(脚本/江頭美智留)鑑賞。

家具修繕店を営みつつ亡き妻が残した7匹の猫の新たな飼い主を探す椎名秀亮を主人公に、引き取り希望者のもとへ3日間の「トライアル」として貸し出される猫たちが、人々の心境に変化を及ぼし、猫との交流を通じて人々が自身を見詰め直し成長していく様子を描く「再生物語」。自身も愛猫家であり猫の生態に詳しい江頭美智留が脚本を担当、「再生」のテーマのもと主人公・椎名秀亮の職業を家具修理と設定し、「猫を通じて出会う人たちの再生」とともに妻を失った「主人公の再生」の物語として描いている。主演は西島秀俊で、『とんび』『流星ワゴン』などの重松清による原作であること、「単純に猫と一緒の仕事をしてみたかった」ことを理由に出演を即決したという。

Wikipedia『ブランケット・キャッツ』より引用

とても丁寧に作られた作品だと思いました。全7話。事故で亡くなった妻、陽子役に酒井美紀さん。最後まで回想シーンの登場ですが白いワンピース姿とにこやかな表情が印象的です。秀亮の幼馴染で動物病院の医師、美咲に吉瀬美智子さん。ハキハキと物怖じしない性格で秀亮とはケンカ友達のようだが、その一方で大切にも思っている。
一作ずつ、順を追って感想を書いていきます。

第1話「身代わりのブランケット・キャット」※うにちゃん(役名/ペコ)
認知症のおばあちゃんの家での最後の日、大好きだった猫と一緒にいさせてあげたい、と以前の飼い猫とそっくりの猫を秀亮の家具店に探しに来る依頼主。おばあちゃんが名前だけ憶えている依頼主の恋人役までさせられる秀亮。これは……鬼門でした。おばあちゃんが正常な状態から突然認知が入ってしまう部分など、判り過ぎた。現実では悲惨なことが起きるけれど、ドラマの中ではおばあちゃんの記憶と忘却のバランスが優しく、仲の良かった家族たちとの最後の実家での触れ合いが沁みた。怖いからって身代わりばかり選んで取り繕ってばかりいちゃだめだ。

第2話「我が家の夢のブランケット・キャット」※にぼしちゃん(役名/むぎ)
リストラされ、戸建ての家も売却しなければならないと言うのに仕事も決まらぬまま猫をレンタルして来た夫。思い出は忘れても忘れても写真を見れば思い出す、と日々カメラを向ける夫と、きれいごとだと受け止め反抗的な態度を取ってしまう長女。思い出になってしまう前に、話しておかないといけないことがある。きちんと向かい合って。猫のまっすぐな目のように。

第3話「二人ぽっちのブランケット・キャット」※焦げパンちゃん(役名/チャイ/杏樹)
子供のできない夫婦の物語。一番近い存在なのに遠慮ばかりして歯痒かった。けれど一度夫婦という形になったのなら十分に絆ができる。子供がいなくてもふたりにしかできないことはたくさんある。そんなふたりを結構な荒療治で教えてくれたのがチャイちゃんだった。美咲先生、迷いながらも秀亮を映画に誘えて良かったね。ホラー映画だったけど(笑)

第4話「尻尾の曲がったブランケット・キャット」※金時ちゃん(役名/キー)
秀亮の家具店に昼間から訪ねて来たのは中学生の少年。何やら友達との間に何か問題があるようで……。カギ尻尾のキーが気に入った少年だが学校に行っていないことが堅物で昔気質な父親(利重剛さん)にバレ、キーを不良品呼ばわりして秀亮の機嫌を損ねる。父親は息子の元気がない様子を見ていじめに遭っているのでは、と思い込み奮闘するけれど本当は……。今の時代と少し前の世代と言うだけでここまでこじれてしまう。息子は成長していく。それを止めてはいけない。そして息子と共に親も成長しなくてはいけない。カギ尻尾で不良品なんて言われたキーだけれど、そんな猫だから彼らを救えた。

第5話「嫌われ者のブランケット・キャット」※たまおちゃん(役名/たま)
気難しいマンションの大家の秘めた悲しい過去と、若いカップルの物語。バイト暮らしの彼と正社員の彼女は、拾った子猫と共に同棲したいが彼のマンションはペット禁止、一人暮らし厳守。しかし時折大家は猫を連れているため納得が行かない。大家が連れて来る猫は秀亮の家具店からレンタルして来ていた。それを嗅ぎつけたふたりは真っ白なその猫を大家から奪ってしまえば子猫のことも嗅ぎつけられることもない、と考える。大家にはその白い猫でなければいけない理由があった……。
どんな事情であっても生き物を担保のように利用してはいけない。罪悪感が増すだけだ。一瞬だけ「雑」なんて名前をつけられた真っ白ふわふわな猫、たまちゃんと仲良くなる子猫もとても可愛かった。

第6話「助手席のブランケット・キャット」※ジャックちゃん(役名/クロ)
最終回に向けて2週に渡り、前後編。
最後の主人公は、たえ子(富田靖子さん)。彼女は秀亮に来た見合い相手だったがその気はない。しかし秀亮の家具店に訪ねて来て猫を譲って欲しいと言う。話を聞くと「死ぬまでにしたい10のこと」のひとつに猫を飼いたいとのこと。見合い写真で見た時と違う雰囲気は、パーマをかけたから。それも10の内のひとつだった。たえ子は大人しそうなクロを選び、秀亮に任されるがその後「旅に出ます」とSNSに残し、連絡が取れなくなってしまう。たえ子は秀亮の電話にも気づかず車をレンタルし、高級旅館に向かっていた。しかし途中、母親に会いに家出をして来た見ず知らずの幼い兄妹と出会い、放っておけず旅館に一緒に連れて行く。
たえ子と連絡がつかず焦る秀亮。偶然、猫が家具の下に入り込んでいた物を引っかき出した。それはたえ子の持っていた巾着袋だと判る。

第7話「さよならのブランケット・キャット」※ジャックちゃん(役名/クロ)
やっと連絡のついたたえ子に秀亮は「クロは持病を持っている」と話す。その薬を届けるために場所を聞かれるたえ子。秘密を抱えるたえ子だがクロのために渋々受け入れる。しかし幼い兄妹の兄にも心に秘めたことがあり、不安から逃れるため、クロをどこかに置いて来てしまう。しかし駆けつけた秀亮や美咲たちとの必死の捜索でクロは見つかる。たえ子は秀亮たちに兄妹とクロを託し、理由も告げず車で逃げ去ってしまう。持病を持っていたのはクロではなく、たえ子だった。病を抱え、孤独感に苛まれた彼女は何もかもを捨て、死のうとしていた。

たえ子を演じる富田靖子さんの儚い眼差しと、同時に芯の強さを感じる独特な存在感は最後に相応しかった。彼女は回想シーンに登場する秀亮の妻、陽子と似た白い服が印象的で、そう言えばどこか陽子を思わせた。また、陽子の死の現場にいたのもクロだった。たえ子を止めるために秀亮はひたすら走り、たえ子に「逝っちゃだめだ!」と叫ぶ。
ラストは優しかった。クロはきっと秀亮にとって天使だ。ここに登場するクロちゃんは、くしゃっとしたお顔でまるくてとても可愛い。可愛くて、泣けてくる。人間は泣いたっていい。泣いた方がいい。けれど猫たちを悲しませたり淋しがらせてはいけないのだ。絶対に。


引き取られる役ではなかったけど、看板猫のように登場する可愛い猫はみーこちゃん(役名/みこ)でした。

重松清先生の作品はどれも例外なく、人間の重苦しい日常の引っかき傷を描き出し、解決するまで容赦しない。一見手荒いようで、それでも問題から逃げ出さない人間の強さを引き出す。この作品では登場人物が、一見可愛らしく自由気ままで繊細な猫たちによって大事なものは何かを教えられて行く。一番最後に心から理解し、前に進み出すのは主人公である秀亮だった。

激しい展開もあるけれど全体に静かなトーンで、テンポもゆったりとしている。何より台詞があまりない中での西島秀俊さんと猫との暮らしっぷりが描かれる毎週の冒頭は必見。
猫あるあるの迷惑は多いけれど、秀亮もため息をつきながら、猫たちを何より大切にしている。会えばケンカばかりする幼馴染の獣医師、美咲とのやりとりも、おそらく生涯を通して互いにブランケットのような、暖かな、安心する存在になることだろう。

とても素敵なポスターです。


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