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説明力の話3(依頼・説得)



はじめに

「できる人」は説明する相手や目的、シチュエーションによって話の組み立て方を使い分けています。

説明する相手はいつも同じではありません。また説明の目的そのものが常に同じであることもありません。 時間的な制約、相手の人数など様々です。

本記事では目的やシチュエーションに合わせた最適な説明方法を型としてまとめました。





「TAPS」の型 (To be、As is、Problem Solution)

「このギャップを埋めるためには●●する必要があると考えています」

この型は相手の理想と現実のギャップを指摘し、その解決策を提案する形で自分の意見を通します。


【説明の流れ】
まずは相手の理想の姿 (To be) の確認をとります。「御社が本来目指すべき理想の姿は、●●だと考えています」

次に現状 (As is)と問題点 (Problem) を指摘します。「ただ現在は■■といった状況になっています。この問題点として●●が挙げられます」

最後に解決策 (Solution) を提示します。「このギャップを解消するために、××をすべきだと考えています」


【ポイント1】
理想の姿 (To be)を述べる際は押しつけがましくならないよう、あくまで相手に馴染みある表現を使うのがポイントです。 例えばホームページ等で事前に調べます。


【ポイント2】
現状 (As is)と問題点 (Problem) の指摘はセンシティブです。相手にとって耳の痛い情報となるためです。そのため客観性の高い事実ベースの情報のみ用い、できるだけコンパクトに指摘することがポイントです。 可能であればフォローも入れます。

便利な言葉として「もったいない」というフレーズがあります。「御社が▲▲となってしまっているのは、 非常にもったいないと考えています」などです。


【具体例】
御社は家族のような組織を目指されていたかと思います。御社の離職率が20%を超えるのは非常にもったいないです。。これは、社員の皆様の満足度の低下が問題だと考えられます。この問題を解決するために入社2~10年目の社員の皆様を対象に、 成長実感を高められる 「特別プログラム」の実施を考えています。






「問題意識炙り立て」の型

「実はこの根本原因は●●です」

新しい提案を通す際に効果的です。相手が認識できていない潜在的問題を指摘し、原因を炙り出すことで相手の問題解決したい欲求を刺激します。

この型で提案する解決策は、表面的な対症療法ではなく本質的な原因療法です。そのため相手の納得度が一気に高まります。


【説明の流れ】
まずは起きている現象を指摘します。「今●●が問題となっていますよね」

次にその原因と根本原因を明かします。「この問題は▲▲ によって引き起こされています。実はこの▲▲の根本原因は●●です。」

最後に解決策とそれによって変わる未来を示し、 理想のイメージを描かせます。「私たちはこの■■を解消する方法を考えました。この方法を用いると××に生まれ変わります」


【ポイント1】
根本的な原因を見つけるためには、現時点で顕在化している問題から「なぜ?」を最低3回使って深掘りします 。


【ポイント2】
根本原因は「相手がなんとなく自覚しているものの言語化できていない」レベルのものであることが重要です。 相手が既に言語化できていている原因は「そんなことわかってる」 と思われ聞く耳を持ってもらえません。


【具体例】
不在配達が生じて慢性的な長時間労働が起こっています。この原因は、大手物流会社が配送の効率化に投資を行っていないことにあります。これは現在の宅配を支える配送員の約7割が個人事業主であり、報酬は配送完了数で決まるためです。

弊社はそんな配送員のために「配達効率化アプリ」を開発しました。これにより、理想的な配送ルートが自動で生成され、 配送効率がおよそ90%アップします。





「メリット・ファースト」の型

「これから話す内容は今のあなたにとって非常に重要なことです」

この型は相手のメリットを最優先にアピールし、興味関心を持ってもらい相手に行動を促します。

【説明の流れ】
まずは自分の説明が相手に利益となることを伝えます。変に遠回しで伝えるよりも直接的に伝える方が望ましいです。「この内容は、実はあなたにメリットがあります」

次に具体的なメリットと実際の成功事例を紹介して、相手の頭に理想のイメージを湧かせます。
「具体的には●●ができるようになります。今からお話しすることを実践した方々は、実際に●●な成功をおさめました」


最後に行動してほしい具体的な内容を伝えます。「この●●や■■ができるようになるためには、具体的には〜します」このような細かい内容は冒頭で伝えても、相手がメリットを感じていなければ受け流されてしまいます。冒頭で焦って盛り込みすぎないよう気をつけます。



【ポイント1】
実際の成功事例を伝える際は、できるだけ相手と似たステータス (属性や価値観など) の人物の事例にします。自身とあまりにもかけ離れていると他人事のように感じるためです。


【ポイント2】
この型のコツは「人を動かすには、ロジックよりも感情が重要」ということを理解しておくことです。 いくら筋道が通った説明でも人はなかなか動いてくれません。 相手の頭の中では「得られるメリット」と「行動することの面倒くささ」が天秤にかけられています。 いわゆる 「損得勘定」の思考です。



【具体例】
今回のお話は今のあなたに最も必要な話です。具体的には、独立しても仕事のオファーが続くようになります。これを実践した●氏は半年間で5件の顧客を新規獲得しました。すべきことは事業説明をこのフォーマットに落とし込むだけです。







「意思決定プロモート」型

「選ぶ判断基準は●●を軸にするのがよいかと思います」

自分の提案を、相手がスムーズに意思決定したり判断できるようにしたいときに有効です。相手の意思決定プロセスに沿って説明を展開していくことで、思考に滞りをなくし最短で意思決定まで進むことができます。


【説明の流れ】
まずは相手の目的をリマインドします。 何のために意思決定するのか、まずはそれを思い出してもらいます。「今回の目的は、●●をされたいということと伺っています」

次に自分が集めた情報から選択肢を提示します。 「選択肢は2つあり、1つ目●●2つ目は▲▲です」

続いて、提示した各選択肢を吟味しやすくするために、その選択肢を相手が選んで実行した際に高確率で起こることをシミュレーションします。これにより、相手は自身が置かれる状況をイメージしやすくなります。 「1つ目の■を選んだ場合は、 2つ目の▲▲を選んだ場合には・・・・・・ となる可能性があります」

最後に、選択肢を1つに絞り込むための判断基準を提示します。 基準は、冒頭で確認した相手の目的が達成できるかどうかで考えます。「選ぶ判断基準としては●●を軸に考えるとよいと思います」


【ポイント】
相手に納得感を与えるためには相手に決めさせることです。人は自分が選んだり決めたりしたことを遂行しなければならないという心理作用が働きます。 いわゆる「一貫性の法則」です。


【ポイント2】
選択肢を提示する際は多くても3つまでにします。認知心理学によると短期的に覚えられる容量は5~9 (7±2) 個ですが、「口頭説明」というワーキングメモリを圧迫しやすい情報伝達では、相手の負担を減らすためにも選択肢は2~3個に留めたほうが良いようです。


【具体例】
会食のご要望として、 ご高齢のご両親に負担がないようにしたいとうかがっています。以下に私どものプランとメリットをお送りします。ご両親にとって最適なプランをお選びいただくとよいと思います。




「決裁者サポート」 の型

「●●さんには〜とお伝えいただければと思います」

提案を通したいときに目の前の相手が決裁者ではなく、その先に決裁者がいる場合に使います。目の前の相手が自分の提案した内容をその先の決裁者に報告・相談することをサポートします。


【説明の流れ】
まずは、自分の提案を目の前の相手が決裁者に伝える際のポイントを伝えます。「今回の提案で最もお伝えしたいことは●●です」

次に目の前の相手が、決裁者へ報告・相談する際の説明内容のサポートをします。 決裁者に報告する状況をイメージさせることが重要です。直接話法を使うと効果的です。 直接話法とはカッコ「」を使ってそのまま伝える方法です。 「▲▲部長には、「コストの10%以上削減が可能です』とお伝えください」


【ポイント1】
決裁者の情報収集が重要です。その人の評価基準、判断基準、さらには目の前の相手と決裁者の関係性などの情報を事前に把握する必要があります。 その情報を使って説明を組み立てます。


【ポイント2】
多くの決裁者はメリット以上にリスクを気にします。 自分の目と耳で直接見聞きしていない他社からの提案やセールスに対しては、メリット以上にリスクについて厳し目で捉える習慣がついています。

だからこそ提案する段階から決裁者が突いてくるであろうリスクを先回りし、解決策とセットにして説明内容に織り込んでおきます。


【具体例】
今回、提案する弊社の新システムの最大の売りは、 お客さまの情報をすべて1つに自動で集約し、人件費がおよそ10%カットできるところです。なお、 部長はセキュリティ面を気にされるかもしれませんが、その点につきましては、東京大学の研究チームと共同開発した最新のクラウドシステムを使っているため、ウィルスなどによる個人情報の漏洩等は一切心配ないとお伝えいただければと思います。






「破壊」の型

「その常識、 実は間違っています」

自分の主張や考えを相手の中に残したいときに有効です。相手の常識や先入観を再認識させ、そこに真っ向から否定するような根拠をぶつけ、自分の主張をかぶせていきます。



【説明の流れ】
まずは常識や通説を相手に想起させます。一旦
相手に心の中で 「Yes」と思わせます。このステップが入ることで、それ以降の説明や自分の主張が相手に残りやすくなります。「世間一般では●●だと考えられていますよね」

次に相手のその認識を否定し破壊します。意図的に相手にショックを与えるのです。「ただその●●が間違っていることが、最近判明しました」

最後に自分の主張や考えを打ち出します。「この事実から●●は誤った考えで、その真逆のことが重要だと考えています」



【ポイント】
相手の思い込みにアプローチする際、相手が持っていると思っていた認識を実際には持っていなかった場合、この型は効力を失ってしまいます。 もし自分の主張と置き換わる先入観や思い込みを相手が持っていなそうであれば、この型は使わないほうが無難です。


【具体例】
ダイエットには糖質制限が効果的だといわれています。ここには大きな落とし穴があったのです。糖質制限で死亡リスクが高まるという研究結果があります。つまりダイエットで 「糖質制限をする=健康になる」とは必ずしもいえないのです。



参考文献

・犬塚壮志、説明組み立て図鑑、SBクリエイティブ(2021)
・藤沢晃治、分かりやすい説明の技術-最強のプレゼンテーション15のルール、講談社(2002)

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