概算力の話
はじめに
仕事では、常に正確な計算結果が求められるわけではありません。ある程度信頼できる回答であれば事足りる場面がよくあります。
理想は、その場で重要な数値だけ拾いダイナミックに意思決定まで行ってしまうことです。一々持ち帰って検討し直していると判断が遅くなります。
そのためには数字が様々ある中で、何が重要かを見抜き、それがどのくらい影響するのかその場で見抜く、そのような概算力が重要になります。
概算とは
概算とは、厳密ではない大まかな数字を使った計算のことです。正確な数値を予測するというよりはむしろ、本格的な数値の算出に先立っておおよその桁数を算出することに重きが置かれています。
ビジネスではそれがさらに発展し、正解が無く掴み所のない数量・形を短時間で推定することが求められます。そしてその概算結果が次のステップに進むべき羅針盤的となります。
例題1
【値100のものが25個と、値200のものが75個あるときの加重平均はいくらか】
ポイントは「重量比1:3のおもりを釣り合わせる際、手の長さは逆に3:1となること」です。
今回の場合、個数の比率は1対3のため、解は値100〜200の間でその逆の比率(3対1)となるあたりに存在すると推測します。つまり値100と200を1:3に分けた点、175が加重平均です。
例題2
【12/47は何%か】
最初のポイントは「47」を「48」に変えてみることです。48はちょうど12の4倍のため12/48=1/4、つまり12/47は「おおよそ25%であり、25%より少し大きな値」と見つ積もることができます。
このように約分しやすいキリのいい数字に変換することでスムーズに概算できます。
概算のポイント
【数字をただの羅列ではなく量・イメージとして捉えること】
デジタル時計よりもアナログ時計の方が瞬間的に時間を把握できます。同じように数も単なる羅列ではなく「量」として捉えることで、直感的かつ瞬間的に判断可能となります。
【概算力がないと異常値に気が付かない】
裏を返せば、概算力があると異常値に気がつきやすく計算ミスが減ります。概算力は同時に検算力にもなります。熟練者であれば、計算結果が一桁ズレていたらすぐに気がつきます。
【概数で事象を把握しようとする態度を養う】
概算能力を高めていくことで様々な情報を瞬時に見極め、判断することができます。情報が溢れる現代社会で、は物事を大局的とらえ瞬時に取捨選択する判断力は必ず武器となります。
フェルミ推定
フェルミ推定とは「世界中にサッカーボールはいくつあるか」のように把握することが難しい数量について何らかの推定ロジックによって短時間で概数を求める方法のことです。
正解の無い問いだからこそ「正解を知っていた」のではなく純粋に「考えた」プロセスが問われます。つまりそこには問題解決の縮図が隠れています。
フェルミ推定はコンサルティング会社や外資系企業などの面接試験で用いられることがあるほか、欧米では学校教育で科学的な思考力を養成するために用いられることもあります。
フェルミ推定の流れ
「日本全国に電柱は何本あるか?」という例題をもとにフェルミ推定のプロセスを説明していきます。
【1.アプローチ設定】
推定に必要な仮定を大胆に設定することが重要です。例えば「単位面積当たりの本数を市街地と郊外に分けて総本数を算出する」という切り口です。
【2.モデル分解】
対象をモデル化して単純な要素に分解します。
考慮すべきポイントは市街地と郊外では電柱の密度が大きく違うことです。 市街地と郊外それぞれの「単位面積当たりの本数」と各々の「総面積」が分かると、積により総本数が算出できます。
【3.計算実行】
2で誰でもある程度、推測可能なところまで分解しておきます。 「単位面積当たりの本数」から考えてみます。市街地の代表的な電柱配置を 「50㎡に1本」郊外を「200㎡に1本」と仮定すると1㎢当たりの本数は400 本 (市街地)、25本(郊外)です。
次に必要なのは各々の総面積です。 (日本の総積)×(各々の占有率)とします。 また日本の総面積は約38万kmとします。
以上から電柱の総本数は次のようになります。
(市街地の総本数)
= 38万㎡×市街地率0.2×400本
≒3,000万本
(郊外の総本数)
= 38 万km²×郊外率0.8×25本
≒760万本
よって電柱の総本数は3760万本
【4.現実性検証】
3.で求めた概算結果と、実際のデータを比較し検証します。 実際に電力会社と NTT が公表している電柱の本数は約3300万本であることから、推定結果はかなり正確だったと言えます。
数値を扱う5つの力
【把握力】
物事の状況や特徴を掴む力です。表やグラフから得られるデータから必要な情報を見抜き、把握できれば、状況分析や戦略の見直しを高い精度で行うことができます。
【分析力】
規則性や変化、相関性などを見抜く力です。データは加工しなければただの数字の羅列です。様々な手法を駆使してデータに的確な加工を施すことで、初めて有益な情報を得ることができます。
【選択力】
いくつかの事象から最適なものを選ぶ力です。選択する上での基準を的確に設定し、複数の選択肢を根拠に基づいて比較することで、最適な選択肢を選び取ることができるのです。
【予測力】
様々なデータをもとに未来を予測する力です。予測どおりに行えなかった場合のことも想定できていれば、損害を最小限に抑えることもできます。
【表現力】
情報をわかりやすく正確に伝える力です。いかに優れたデータを得ても、それを他人に伝えることができなければ意味はありません。
参考文献
菊野慎太郎、元新一郎、フェルミ推定を取り入れた 「標本調査」 単元の開発と実践、静岡大学教育実践総合センター紀要、147-158、2021
池田敏和、数学的モデリングを促進する考え方に関する研究、日本数学教育学会誌 81 (R7172)、3-18、1999
田岡敬、スピーディな意志決定を可能にする「概算力」、https://www.su-gaku.biz/about/interview/no21.php
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