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説明力の話5(交渉・議論)


はじめに

「できる人」は説明する相手や目的、シチュエーションによって話の組み立て方を使い分けています。 

説明する相手はいつも同じではありません。また説明の目的も常に同じとは限りません。時間的な制約、相手の人数など様々です。

本記事では目的やシチュエーションに合わせた最適な説明方法を型としてまとめました。





「利害」 の型

「その状況、すごくよくわかります!」

利害が対立する相手との交渉でも、互いにWin-Win となる結果を得たいときに有効です。

交渉で最も重要なことは、 相手を打ち負かすことではなく、互いの共通の利益を見出すことです。


【説明の流れ】
まず相手の利害を認識し理解していることを示します。 「その大変な状況 すごくよくわかります」

次に、自分の要求や提案の根拠となる事実を示します。できるだけ悲惨なデータや生々しいエピソードを伝えることで、自分の利害を相手に強く印象づけ、自分の利害の正当性をアピールします。「●●といったデータを見つけました」

そして自分の要求や提案を受け入れたときの共通の利益を先に伝えます。「この状況は非常に危険だと感じています」

最後に自分の要求や提案を最後に提示します。「こういった理由から、 私の結論は、・・・・・・」


【ポイント】
ポイントは結論ファーストにしないことです。 結論ファースト文化である米国でも「結論を先に示すと反発が待っている」と教えているようです。

交渉は論理性よりも、感情面から説明を組み立てるほうがうまくいくようです。 交渉というと、すごく論理的な対話のように思うかもしれませんが、交渉ほど人間らしさを重視した説明はありません。



【具体例】
確かに、ご担当者様の立場からすると、 弊社のこれまでの請求額や条件では、上司の方の決済を通しにくいというのは非常によくわかります。
その上でですが、御社では今、新商品開発のための外注の納期をとても急いでいるというお話を耳にしました。弊社は新しいシステムを導入しており、納期はより迅速に対応できます。

請求額や条件を変更することは難しいものの、 納期までの時間をこれまでの半分にする条件で、上司の方の決済の判断を仰いでいただくというのはいかがでしょうか?






「バトナ (BATNA)」 の型

「念のため断っておきますが、他の方法をと
ることも視野に入れています」


商談などの交渉で、不利な条件を防ぐときに必須です。

バトナ (BATNA)とは、「Best Alternative To a Negotiated Agreement」の略で、目の前の相手との交渉が決裂したときの最良の代替案のことです。バトナの存在を相手にチラつかせることで、自分の交渉を有利に進めることができます。


【説明の流れ】
まずは自分にバトナが存在することを伝えます。 「この交渉がうまくいかなかった場合は、残念ですが他の方法をとることも視野に入れています」

続けてバトナの情報を出します。「近いうちに別の業者さんに、 これまでより安価な値段で対応してもらうことも検討しています」

ただしぼかして伝えます。「近いうち」と明確な日取りは伝えず、また「別の業者」と具体的な名前も出さず、さらに「これまでの価格よりは安価な値段」と値段も曖昧にします。これにより、この後自分が提示する要求や条件に対して、相手がふっかけてきにくい状況を生むことができます。

最後にそのバトナを選びたくない、つまり目の前の相手との交渉を成功させたいという想いをしっかり伝えます。他の選択肢があることを伝えて終わると、相手に与える印象は決してよくはありません。「ただ、私としては、今日のお話し合いをどうにかうまくまとめていきたいと思っています」


【ポイント1】
バトナの存在をほのめかす際に角が立ちそうだと感じる場合は、自分ではなく上司のような「他の意思決定者」 が代替案を持っているといったニュアンスを伝えます。


【ポイント2】
交渉前に自分の中でバトナを明確にしておくことが鍵となります。金額交渉であれば、その商品サービスの相場のような情報をできるだけかき集めてバトナを設定します。 具体的かつ精度の高いバトナを暫定的に設定しておくことで、 交渉を有利に進めることができます。


【具体例】
今回、お互いの条件が噛み合わなかった場合、 弊社の上の人間は「他の選択肢を検討しろ」と言っています。というのも最近、ありがたいことにいろいろな業者の方から好条件のオファーをいただいており、それも視野に入れて本日の商談をしてくるようにと言われております。

ただ私としては、御社と取引を続けていきたいと思っておりますので、どうにかうまく互いの条件をすり合わせていくことができたらと考えています。






「アンカリング」の型

「まずは、この●●の相場をお伝えします」

交渉の際、互いの知識量や専門性が異なるときでもスムーズに合意に至りたいときに効果的です。業種や立場が違うと、ベースとなる考えや知識が異なり交渉がまとまらないことがあります。 この型は認知バイアスの一種である「アンカリング効果」を利用しています。

アンカリング効果とは、最初に与えられた数字(アンカー)を基準に考えることで、その後に提示された別の数字への認識が異なるという現象です。特に、金額など数量に関する交渉では効果的です。



【説明の流れ】
まずは基準値が存在することを伝えます。「この業界の相場からお話します。業界平均は、通常●●円ほどとなっています」

ここで提示する数値は正確でなくてかまわないので、具体的に提示することが重要です。曖昧な表現をすらと、相手と自分の中で「高い」という感覚に食い違いが生じます。

次に、提示した基準値をもとに交渉を進めることを提案します。念押しです。「この金額をもとに、今回のお話を進めていけたらと思います」



【ポイント】
ポイントは客観性の高いアンカーとなる「基準値」を事前に用意しておくことです。 以下の項目をもとに交渉の基準値を用意しておけばスムーズに進めることができます。

①市場価格 : その市場での相場。平均価格
② 先例: すでにあった似たような前例。
③ 科学的判断: 科学的な知見に基づいた判断
⑨ 専門的基準: その分野の専門家が作った基準
⑤ 効率性: お金や時間等の資源に無駄がないか
⑥ 費用: 金額や納期などの実際にかかるコスト
⑦ 裁判所の決定: 法律に従って行った決定事項
⑧ 倫理的基準:社会生活で必要な決まりごと
⑨ 公平性: どちらも損をしない数値や指標
⑩慣習:これまで使われ続けている数値や指標
① 相互主義: 結果的に均衡がとれる数値や指標



【具体例】
配管工事の期間は、道路の距離と配管の直径でおおよそ決まります。一般道路で直径100mm 以下の配水管の取り替えを行う場合は約20mで1日ほどかかります。これを基準に、今回は80mの配水管の取替工事となるので、他の条件も含めて期間の検討を行っていけたらと考えています。






「ブラフ」の型

「ざっと、条件は●●になります」

交渉で自分の要求や条件を提示する際に、冒頭のファースト・オファーとして用いると効果的です。

具体的には自分の理想的な条件のさらに上の条件をブラフとして提示します。 言い値など、 基準値がなかったり、あるいは基準値があまり知れわたっていないときに、このブラフで提示した条件が相手の基準となります。


【説明の流れ】
注意点としてプラフはふっかけ過ぎないようにすることです。 適度なふっかけは必要ですが、外部環境(景気や業界ルール)、相手の置かれている状況を加味して、明らかに交渉が成立しない条件は用いないことが賢明です。

ブラフを伝えた後は相手に共感するアピールをします。「確かに業界の基準からしたら、 少し割高に感じる価格かもしれません」

その後プラフの条件の理由を、相手のメリットとセットで伝えます。条件が釣り上がってしまっている理由と同時に、それが相手へのメリットにつながっていることをアピールします。
「ただ、業界初の■■を導入しておりまして、それによって御社のコストを年間▲▲%削減できる見込みです」


【ポイント】
ポイントは、ブラフの条件と理想的な条件の他に、今回の交渉での最低ラインを設定しておくことです。説明をし始める前にまずこの3つの条件をしっかりと決めておくことが重要です。


【具体例】
弊社のシステムを導入していただく場合、御社の社員数から計算しますと、ざっと年間3000万円ほどになります。確かに業界の基準からしたら、少し割高に感じる価格かもしれません。
ただ実はこのシステムには業界初の人事管理ソフトを組み込んでおり、そのプログラムを用いることで御社の場合、 人件費を年間でおよそ10%削減できる見込みとなっています。


参考文献

・犬塚壮志、説明組み立て図鑑、SBクリエイティブ(2021)
・藤沢晃治、分かりやすい説明の技術-最強のプレゼンテーション15のルール、講談社(2002)

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