設計職の話1



ものづくり、設計とは

ものづくりとは、人間の内在的な欲求やアイデアを、製品やサービスといった外在へ変換する行為です。

設計はその内在と外在を結び付ける工程で、人間の要求を実体へと見出す行為です。そのため設計とものづくりの関係性は次のように表すことができます。「ものづくりとは、設計情報を創造し、媒体に転写し、出来上がった製品を顧客に伝達する『設計情報の流れ』」




設計の手順

設計は次の5stepに分けることができます。
【Step1(問題提起段階)】
設計対象を観察して課題を発見する

【Step2(問題解決段階)】
その課題の解決策を探す(解決段階)

【Step3(展開段階)】
解決策を用いて設計対象を変化させる(展開段階)

【Step4(評価段階)】
変化した設計対象を再評価する

【Step5(決定段階)】
評価結果からその設計対象の採用可否を決める




設計に必要な知識・適性

設計には次の2種類の知識が必要です。
・設計対象についての知識(設計対象知識)
・設計の手順・方法に関する知識(設計過程知識)

また次の方に適性があります。
・ものを見たら現象がイメージできる人
・目的と手段を十分理解し目標を設定できる人
・実現可能な最大限の目標を設定できる人
・既存の知見も参考に新規なもの ・ことのデザインができる人



設計でつまづいたとき

設計に矛盾が生じた場合、2通りの解釈があります。

1つはそもそもその対象記述が存在し得ないものである場合です。この場合、別の解を探すことにより設計を継続させます。

もう1つは対象に関する知識の不十分性から見掛け上の矛盾になる場合です。この場合は知識自身の変更がなされます。設計の矛盾の多くは、この知識不完全性から生じています。

つまり「本来用いられるべき状況以外の場面で知識が用いられた」あるいは「本来あるべき条件が書かれていなかったことから見掛け上矛盾になる」ということです。



設計の特徴・ポイント

1.「設計では必ずしも仕様と知識が事前に完全に与えられているわけではない」
設計が進行するうちに仕様は詳細化されたり修正されます。また必要な知識も、設計過程において順次明確になってくることがあります。そのため既存の仕様書から演繹的に計算するだけでは不完全です。



2.「知識は矛盾することがある」
設計を進めていくと過去の設計と矛盾することがあります。その際は矛盾で停止してはいけません。矛盾が生じた場合、その矛盾を解決することで設計が進行します。


3.「設計の結論だけでなくその思考過程も記録して技術を正しく伝承する」
設計者が機械設計を行う際に辿る思考過程を、次の脈絡付けで思考展開図として表現していくと効果的です。
・「要求/機能」(何をすべきか何をしたいか)
・「機構」(要求/機能をどう実現するか)
・「構造」(具体的にどう実現するか)


4.「メカ、エレキ、ソフトといった分野を横断した設計仕様の策定が必要」
分野単独の部分最適だけでなく、分野横断の全体最適まで行わなければなりません。


5.「現場の優秀な技術者や技能者が設計思想を理解し、ものづくりの現場情報を設計にフィードバックすることで、高品質で高信頼性の製品ができる」
製品設計は設計者だけが扱うものではありません。開発・購買・生産・販売の現場が連携し、本社部門も経営トップも、 サプライヤーも販売店も顧客も巻き込む、一つの開かれたプロセスです。






設計の分類

設計は品質の種類に準じて3つに分類することができます。

【1.基本品質】
名称の通り、達成されていることが当然とされた品質です。達成されていても顧客満足度は向上しませんが、達成の場合は大きな不満足を発生させます。例えば車のドアが開いても誰も喜びませんが、もし開かないと大きな不満が募ります。

【2.一元的品質】
顧客要求の達成度と顧客満足度が比例する品質です。例えば、燃費のいい車ほど顧客は喜びますり

【3.魅力的品質】

顧客要求の達成度と余り関係なく顧客満足度が高い品質です。顧客が期待していなくても、提示されると満足する意外性のある品質です。


これらの品質に対応した3つの設計は次の通りです。

【1.Must設計】
基本品質に対応した達成が当然の設計です。多くのトラブルはこの設計をないがしろにすることで発生します。評価されにくい分野ですが設計の基本です。この設計の目的はリスクの最小化です。

【2.Better 設計】
一元的品質に対応した設計です。評価が明白なため取り組みやすい分野ですが、最終的にはコスト競争に陥ります。この設計では性能の最大化が目的です。

【3. Delight 設計】
魅力的品質に対応したデザインコンセプトが重要な設計です。ヒット商品はこの分野から誕生します。この設計の目的は、例えば心地よさの最大化です。



設計の専門用語

【歩留まり】
原料や素材の投入量に対し、実際に得られた生産数量の割合のことです。歩留まりが高いほど原料の質が高く、かつ製造ラインとしては優秀といえます。
 1 - (不良率) = 歩留まり率



【DFM】
Design For Manufactureの略で、設計段階から製造性を考慮することです。メリットとして製造工程の効率化(コスト・時間・工数の削減)と質の向上(歩留まりの向上)があります。反対にデメリットは、設計に時間・負担がかかること、チェック項目の個人差が大きくなることです。DFMの実現には設計者が製造工程における要件を把握する事が必要となります。



【FL】
フロントローディングの略で、前倒し可能な工程を初期段階で行うことです。例えば、設計段階から不具合対策などの品質の作り込みを行うと、製造途中の修正回数や試作後の手戻りを減らせ、コスト削減や生産効率向上につながります。



【DR】
Design Reviewの略で設計審査のことです。第三者(購買、生産管理、品質保証等)を交え複数人で設計内容を見直します。製品の品質やコストは設計で8割決まるといわれ、DRはこの段階で品質を確実につくり込み、後工程の活動をスムーズに実行できるようにするための仕組みです。



【CE】
コンカレントエンジニアリング(concurrent engineeringの略で、製品開発における複数のプロセスを同時並行で進め、開発期間の短縮やコストの削減を図る手法のことです。

各部門間での情報共有や共同作業を行い「前工程の完了を待たずに」並列に業務を進めたり、後工程の持つ知見を前工程にフィードバックします。例として、製造時の情報を設計にフィードバックし、量産しやすい構造を意識した設計があります。



【Fコスト】
Failure Cost(失敗コスト)の略で、不良品発生に対する費用のことです。製造時の不適合だけでなく市場クレームの是正費用も含まれます。




【コンフィギュレーター】
顧客の要求を入力するだけで、要求に合った製品や製品構成を自動で選択してくれるシステムです。例えば、カラオケの予約時に希望するオプションを選択していくと、最後にお勧めのプランや料金が表示されます。それがコンフィギュレータです。

見積りを素早く正確に立てることができますが、コンフィグレータの実現には、モジュラーデザインなどを採用し、要求仕様に応じたモジュールを設計しておくことが前提条件です。言い換えると設計のルール化が必要となります。




【BOM】
Bill of Materialsの略で部品表のことです。製品に必要な部品情報や、どのような構成で組み上がっているのかが記載されています。設計部門から購買部門、製造部門へと引き渡されていきます。




【BOP】
Bill of Processの略で工程表のことです。組立や部品加工のプロセスの流れが記載されています。BtoB製品の場合「何を作るか(仕様)」以上に「どう作るか(工程)」を効率化することが重要で、BOPの管理・活用が求められています。




【PLM】
Product Lifecycle Managementの略です。製品の企画、設計から生産、販売、廃棄に至るまでのライフサイクル全体における製品情報を一元管理することで、開発期間の短縮、生産の効率化、そして市場の求める製品を適切な時期に市場投入することを目指す経営コンセプトです。



【ブリコラージュ】
理論や設計図に基づいて物を作る「設計」とは対照的なもので、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ることです


参考文献


山崎美稀、材料構想がもたらすものづくりとひとづくりの革新~材料視点~ 、日本機械学会 2020 年度年次大会 講演論文集

小野里雅彦、ものづくり形態の変化とこれからの設計研究 (キーノートスピーチ) 多様化・流動化する人工物環境での設計とは、精密工学会学術講演会講演論文集 2017 年度精密工学会秋季大会、573-574、2017

大富浩一、設計工学の目指すところ: 設計からデザインへ、日本機械学会論文集 C 編 75 (751)、516-523、2009

吉川弘之、設計学研究、精密機械43号1巻

武田英明、冨山哲男、吉川弘之、設計過程の計算可能モデルと設計シミュレーション、人工知能 7 (5)、877-887、1992

吉岡真治、中村雅彦、冨山哲男、吉川弘之、複数の設計対象モデルを扱う設計過程モデル、日本機械学会論文集 C 編 61 (581)、330-337、1995

中島尚正、設計技術の継承について、計測と制御 29 (6)、557-560、1990

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