見出し画像

コロナ禍の課題に対するREBTコーチング(逐語)

日本人生哲学感情心理学会の2022年年次大会シンポジウム用に、コロナ禍のコーチング心理学(REBTコーチング)でよく出会う事例について、創造で再現してみました。参考にしてください。

事例1 働き方の変化に悩む40代営業職、絶望感

Co1 今日は何について話し合いましょうか?
Cl1 コロナ禍での働き方の変化に戸惑っています。
Co2 色々と制約を受けることがありますよね。営業というとひときわ大変だと思います。
Cl2 そうなんです。今までは、取引先に足を運んで、顔を合わせて、気にってもらってもらうまでが勝負と思ってやってきましたが、それが真逆になってしまって。足を運ぶどころか、電話してもつながらないし、メールは見てもらっているのかどうかわからないし、本当にもうどうしていいかわからなくなっています。
Co3 状況が変化する中で、色々と工夫して対処しようとしているけれど、なかなか成果が見えないというところですね。
Cl3 そうですね。もちろん、相手企業の状況もあって、コロナで先行きがわからないところがあるので、追加で新しいサービスを購入するという決断がしづらい状況ではあると思うんですが、それにしても、うまく仕事がさせてもらえていないなという思いがあります。
Co4 そうですか。なんとか、このコロナ禍でも、営業としての仕事をさせてもらいたいなというお気持ちなんですね。
Cl4 そうですね。なんとか働き方を変えてやっていく方法を見つけないといけないなと思います。
Co5 働き方を変えるというのは、今の時代、とても重要なことですよね。今日この時間を有意義に使えたとしたら、Clさん自身や状況が変化しそうですか?
Cl5 そうですね。もう少し、前向きに仕事に取り組んでいますかね。毎日憂うつなんですよね。またとりとめもなくメールを送るのかとか、電話しても担当者がいないといわれるのかとか、暗中模索といった状態です。
Co6 その闇が晴れて、進むべき方向が見えてくるということですね。
Cl6 はい。
Co7 それが実現すると、今とどんな風な変化が起こりますか?気持ちの面とか、働き方とか、周りとの関係とか…
Cl7 前向きになって、進むべき方向が見えてくると…悩む時間が少なくなると思います。このままでいいのかなとか、全部AI化されて、もう営業はいらないのかなとか、考えるんですよね。そういったことがなくなって。自分も新しい時代の中で、ちゃんと生きてるんだっていう自信というか、喜びのようなものを感じるかもしれません。お酒も減るかな…最近は飲み会もないし、家で一人で飲むことが多くて。まずい酒というか。やけ酒というか。憂さ晴らしのためにグダグダ飲んでることが多いんですよね。ちょっと前のように、一仕事終えた流れで職場の仲間と飲みに行くとか、話すために飲むみたいな、飲むことが目的じゃない飲酒が増えるかもしれないですね。
Co8 いいですね。今の時代を生きている感じがして、やけ酒が減る。それが、ご家族や周りの方に与える変化も何かありますか?
Cl8 それは、飲みに行けるようになったら、こういう愚痴というか、困り感や今後に向けた働き方についても、社長や同僚に相談できると思いますね。一応話はしてるんですけど、もっとざっくばらんにというか、肩ひじ張らずに言いたいことが言える機会が増えるといいなとは思いますね。あとは、妻も安心するでしょうね。私がぶつくさ言いながら飲んでるのを気にはしてくれているみたいなんで。
Co9 そうすると、休みの日の過ごし方も変わってくるかもしれませんね。
Cl9 そうですね。特に何をしてるってわけでもないですが、ずっと家にいるんでね。ちょっとは散歩しようかっていう気にもなるかもしれないですね。在宅の日もそうですね。今は、今日も在宅かと朝から不満を言っていますが、本当は通勤がなくなった分、運動でもして気分転換するのがいいんですよね。
Co10 営業としての働き方について前向きに考えられるようになると、仕事の部分だけでなく、家での過ごし方や、奥さんとの関りもよくなりそうだということですね。
Cl10 そうなるといいですね。ただ、今のところはあまり現実的な感じはしないですね。
Co11 働き方の変化を前向きに考えられるようになるために、妨げになっているのは、どんなことですか?
Cl11 自分の中でどうしていいかわかっていないというのが大きいと思います。電話で電話のアポを取って、メールを送って…こんなんでいいのかと感じていますね。
Co12 1つは、どうしていいかわからないということですね。他にはどうですか?
Cl12 あとは、コロナに対する不満もあるでしょうね。何だこの世の中はとか、いつになったら収まるんだとか。そういった思いが整理できると、もう少しやるべきことに集中できるかもしれません。
Co13 コロナに対する行き場のない不満があって、なかなかやるべきことに集中できないわけですね。
Cl13 そうですね。
Co14 他にも何か思いつく、取り組むべき課題はありそうですか?
Cl14 あとは、先ほど少し話したコミュニケーションですかね。話していて思ったのは、一人で抱えているところがあったなと思って、もう少しフランクに、社長や同僚に今の胸の内を話して、助言を求めてもよかったなと思います。
Co15 それもいいですね。なかなか助言を求められずにいたなと。今3つほど挙げていただきましたが、1回のセッションで扱う内容は1つがいいと言われているのですが、今日は何について扱うのが良さそうですか?
Cl15 そうですね…助言もいいとは思いますが、これは、機会を見つけて話せばいいと思うので、行き場のない不満ですかね。なんだかこの不満のせいで、主体的になれずにいるような気がします。
Co16 いいですね。それでは、その不満について扱っていきたいと思います。それが一番大きくなるのは、どんな時ですか?
Cl16 コロナのせいでうまくいかないと感じるときですかね。訪問を断られるとか、なかなか担当者に電話がつながらないとか。
Co17 そんな時に、またコロナのせいでとか、コロナさえなければと思うわけですね。
Cl17 はい。
Co18 その時の気持ちは、どんな気持ちですか?
Cl18 イライラしますかね。焦りもありますね。いつまで続くんだろうって。
Co19 イライラ、焦り…他にはどうですか?
Cl19 絶望ですかね。またダメかって…
Co20 いいですね。イライラ、焦り、絶望…この中で、コロナ禍の営業の仕事に前向きになれないことと最も関連していそうなのはどれですか?
Cl20 どれですかね。絶望かな。またダメか…って、結構ダメージが大きいんですよね。それでだいぶ引きずっているような気がします。
Co21 そうなんですね。これまでのやり方がうまくいかなくて、またコロナのせいかと思って、絶望して、やる気を失っていくというような…
Cl21 そんな感じになってますね。
Co22 ありがとうございます。それでは、今日は、この絶望感を扱っていくことにしましょう。なんとか絶望感を変えられれば、より前向きに考えて、行動できるようになるのではないかということです。
Cl22 そうですね。そう思います。
Co23 今現在は、絶望感の結果、やる気の低下や、コロナ禍の営業の仕事についてネガティブに考えてしまうようになっているわけですね。
Cl23 はい。
Co24 他に、絶望感によって生じている問題はありますか?
Cl24 大体そんなところですかね。
Co25 問題行動というとどうでしょう?よくないお酒の飲み方が増えているとかありましたね。
Cl25 行動でいうと、ひきこもりがちというのが当てはまるかもしれません。コロナとはいえ、散歩などは推奨されていますが、ほとんどやってないですね。あとは、リモートワークもできるだけ断っています。
Co26 そういった行動面での問題もあるということですね。絶望感によって引き起こされる体の部分の問題はありますか?
Cl26 直接的ではないですが、肩こりはずっと続いていますね。あと、頭痛もたまにあります。すっきり絶好調という感じではないですね。
Co27 そうなんですね。そういったことも、何かしら絶望感と関連しているかもしれませんね。一般には、絶望感のようなネガティブな感情は出来事によって引き起こされていると考えると思います。今回の件でいえば、きっかけになったのは、コロナでこれまでの営業のやり方がうまくいかない。電話も通じないし、訪問もできない。ということでしたね。この出来事がきっかけであることに変わりはないのですが、私が提供している認知行動療法では、それによって、何かしらの価値観が触発されることで、絶望感を感じると考えています。
Cl27 はい。
Co28 例えば、これまでのやり方がうまくいかなくても、全然平気、営業なんてうまくいかなくてもいいやと思っていたら、絶望感は感じないですよね。
Cl28 そうですね。
Co29 そのように考えましょうということではないですが、このように、何かしらの考えや価値観が、絶望感の直接的な原因になっているということを理解してもらえればと思います。
Cl29 はい。
Co30 それでは、Clさんの絶望感がどのような価値観によって引き起こされているのか、検討してきましょう。まずは、絶望感がもっとも強くなる場面を思い浮かべてください。訪問を断られるとか、担当者が在宅でいないとかいう場面かもしれませんし、他の場面かもしれません。
Cl30 一番強いのは、メールを送っているときですかね。訪問を断られたり、何度か電話がつながらなかったりすると、メールでまたお願いしますなんて送ったりするんですが、こんなことしていて意味あるのかなと思えてきます。
Co31 いいですね。その時に、絶望感を強く感じる。
Cl31 はい。
Co32 そのメールが意味がないというのは、もう少し説明すると、どういうことになりますか?
Cl32 どうせ見てないんだろうなとか、営業フォルダに自動でフィルタリングされてるんじゃないかなとか思うんですよね。今はビデオ会議とかありますけど、ビデオ会議でもどうですかとお伝えすることもあるし、実際にビデオ会議で商談したこともありますが、なんか違うんですよね。こちらのフィールドに持ち込めないというか、うまく話を引き出せないというか。そもそも先方も、うちで扱っているような印刷媒体、紙のパンフレットとかも、使わないのかもしれないですよね。そうなると本当に、こんな仕事続けてて将来性あるのかとか、かといって、何か別のことができるとも思わないですし、転職しようにも、私みたいな古い営業はなかなか難しいですよね。だから、もう、どうしようもないなって感じがしちゃうんですよね。
Co33 メールもどうせ見ていない。こんな仕事無駄だというのが一つ。また、ビデオ会議だってできないし、相手も必要としていないようだし、うちの商品は売れないし、将来性もないと感じるんですかね。あとは、かといって転職もできないし、どうしようもないと。
Cl33 そうですね…イベント自体はやっているところもあるはずだし、例えば社員向けの配布資料であれば、IT化が進んだとしてもそうそうなくならないし、ウェブページ用の画像の制作もしているので、将来性は全くないわけではないと思うんですけど、営業のやりづらさとあいまって、そういうネガティブな側面をすごく感じてしまいますね。
Co34 もう一度絶望感に意識を戻してほしいんですが、訪問断られる、メールがつながらない、ビデオ会議での商談がうまくいかない、コロナ禍で売れるわけないとか、かといって転職も難しいとか、意識の展開があると思いますが、最も絶望感が強まる瞬間は、この全体の中の、どの瞬間ですか?
Cl34 一番最後ですかね。もう転職もできないし、お先真っ暗という感じです。
Co35 転職できず、お先真っ暗で、どうなってしまう気がしますか?
Cl35 何ですかね…
Co36 会社に捨てられるとか、自分の仕事がなくなるとか、自分の存在価値がなくなるという感じですかね…
Cl36 そうですね。存在価値というと大げさかもしれないですが、どうしていいかわからないというのが、一番大きなところですかね。
Co37 どうしていいかわからない。どうしようもない…
Cl37 はい。
Co38 打開策が見えないという感じですかね。
Cl38 そうですね…
Co39 打開策が見えないと、何が起こってしまうんですか?もしくは、そのことはClさんにとって、どんなことを意味していますか?
Cl39 もう絶望ですね。
Co40 絶望。それは、耐えられない、最悪、私はダメだの中でいうと、どれが一番しっくりきますか?
Cl40 最悪ですかね。もう終わったという感じ。終わりだというか…
Co41 もう終わりだ、打開策が見えない、最悪だ…
Cl41 はい。
Co42 そう考えると、絶望感が強まる感じがしますか?
Cl42 はい。
Co43 この状況で、どうしたいのですかね。どうなって欲しいと思いますか?打開するというのは、どういうことでしょうか?
Cl43 営業として、こういうピンチの時こそ、どんどんお客さんと関係を持って、売り込んで、仕事を取ってきたいと思いますね。
Co44 こういう時こそ活躍したいというか、成果を上げたいというか…
Cl44 そうですね。
Co45 往々にして、絶望感のような問題を引き起こすネガティブな感情は、こうしたいという強い思いと表裏一体です。
Cl45 はい。
Co46 この場面で、私は~でなければならないという思いが、何かありますか?
Cl46 ピンチを乗り越えなければならない。ピンチを打破しなければならないという感じですかね。
Co47 ありがとうございます。例えば、営業がうまくいかないときに。私はどんなピンチも乗り越えなければならない。打破しなければならない。それができないのなんて最悪だ。人生の終わりだと考えると、絶望感が強まるのを感じますか?
Cl47 そうですね。
Co48 この価値観が、絶望感を引き起こしているのかもしれないですね。
Cl48 うん。そう思います。
Co49 この価値観をもう少し柔軟にすることができると、絶望感が和らぐと思うのですが、どうでしょう。
Cl49 そうですね。
Co50 何か思いつくことはありますか。どのように変えられるといいかとか。
Cl50 そうですね…ピンチは乗り越えなきゃいけないし、打破しないといけないと思いますが、すぐに乗り越えられるとは限らないですね。ピンチイコール最悪、人生の終わりということではないなと思います。
Co51 いいですね。ピンチを一度経験したからと言って、人生の終わりとは言えないと。
Cl51 はい。
Co52 ピンチを乗り越えたり、打破したりするためには、時間がかかることもある。ピンチに直面したからと言って、即最悪、人生の終わりということではない。
Cl52 はい。
Co53 ちなみにこの状況でいう、ピンチを乗り越えられないとは、どういうことですかね。
Cl53 何ですかね。諦めるということですかね。
Co54 でも、初めから諦めようとはしていないですよね。
Cl54 そうですね…
Co55 もしかすると、私はコロナ禍の営業でもすぐに成果を挙げなければならないとか、成果をコンスタントに挙げ続けなければならないというのがあったのかもしれませんね。
Cl55 そうですね。
Co56 「私はコロナ禍でも成果を挙げ続けなければならない」と「私はピンチはすぐに乗り越えなければならない」だとすると、どちらが営業がうまくいかない時の絶望感と関連していそうですか?
Cl56 前者ですかね。
Co57 絶望感を引き起こすのは、「私はコロナ禍でも成果を挙げ続けなければならない。ピンチをすぐに打破することができず、成果が挙げられなくなるのは最悪だ。人生の終わりだ」という価値観ですかね。
Cl57 はい。
Co58 それに対して、「コロナ禍でも成果が挙げ続けられればいいが、難しいこともある。ピンチをすぐに打破することができなくても、最悪、人生の終わりということではない」と思えたら、絶望感を感じずに済みそうですか?
Cl58 そう思います。
Co59 いいですね。当然ながら、今のところは古い価値観の方がしっくり来ていると思います。それは当然のことです。なぜなら、この古い価値観は、いうなれば、あなたがこれまで人生をかけて育ててきたものだからです。これから、新しい価値観を育てていくことで、今日相談に来た問題が解決の方向に向かうだろうと思います。
Cl59 わかりました。
Co60 この新しい価値観を育てるために、古い価値観についてディスカッションをしたいのですが、いいですか?
Cl60 わかりました。
Co61 そうしたら、古い価値観と新しい価値観を比べて、古い価値観の方が正しいと思う部分は、どこかありますか?
Cl61 古い方ですか?そうですね…やっぱり、「成果を挙げ続けなければならない」とか「ピンチは打破しなければならない」とかですね。
Co62 ありがとうございます。その部分について、話し合っていきましょう。まず、「成果を挙げ続けなければならない」についてですが、当然コンスタントに成果を挙げ続けられれば、それに越したことはないのですが、そう考えることは、現実的だと思いますか?
Cl62 現実的ではないと思います。
Co63 どうしてですか?
Cl63 コロナ禍では、どうしても、業績が落ちる業種があると思います。企業も先行きが不透明なので、投資を渋ります。成果は落ちるものと考えた方が現実的です。
Co64 そうですね。ありがとうございます。では、成果を挙げ続けなければならないということですが、それは、そういう決まりがどこかにありますか?
Cl64 決まりはないですね。私がそう思っているというか、それを望んでいるだけです。
Co65 そして、望んでいることがいつも叶うかというと、それは…叶う時もあれば、叶わない時もありますよね。
Cl65 その通りだと思います。
Co66 最後に、「成果を挙げ続けなければならない」と考えることは、Clさんにとって何か役に立ちますか?
Cl66 それでうまくいっているときは良いですが、少なくとも現在は、役になっていないですね。むしろその考えのせいで、絶望感を感じやすくなっていると思います。
Co67 そうですね。ありがとうございます。では次に、「ピンチは打破しなければならない」についてです。これはどうでしょうか。現実的ですか?「打破できない」というのが、何を意味しているかにもよりますけどね。
Cl67 そうですね…ピンチは諦めなければ打破できると思います。ただ、諦めるというのが、前進を諦めるということであって、なんでも希望通りになるかというと、そうではないです。例えば、コロナ禍で、顧客先に訪問できるのは仕方ないです。これが訪問できるようになるかというと、ならないと思います。やはり、ピンチはすぐに打破できなければならないかというとそうではなくて、時間をかけて乗り越えていけばいいと思います。それは現実的です。
Co68 「ピンチはすぐに打破できなければならない」は現実的ではなく、「ピンチはすぐには打破できないかもしれないけれど、対処に向けて努力しよう」という感じが妥当だというところですかね。
Cl68 そう思います。
Co69 そうしたら、「対処に向けて地道な努力を続けよう」というのも、新しい価値観に加えるといいですね。
Cl69 はい。
Co70 さて、最悪の方についても少し検討してみましょうか。
Cl70 はい。
Co71 人生で起こりうる最も悪いことは何ですか?
Cl71 家族の死とかですかね。
Co72 それを100とすると、コロナ禍で営業の成績が維持できないことの最悪度はどの程度ですか?
Cl72 それは…1とかですかね。
Co73 そうですね。では、「ピンチをすぐに打破することができず、成果が挙げられなくなるのは最悪だ。人生の終わりだ」と言えそうですか?
Cl73 言えないですね。
Co74 いいですね。ありがとうございます。それでは、今日のセッション自体はこれで終わりにして、あとは、自宅で新しい価値観の練習をしてきてもらいたいと思います。
Cl74 はい。
Co75 「コロナ禍でも成果が挙げ続けられればいいが、難しいこともある。ピンチをすぐに打破することができなくても、最悪、人生の終わりということではない。ピンチの打破に向けて地道な努力を続けよう」という新しい価値観を毎日音読して欲しいんですが、何か、いいタイミングはありますか?
Cl75 朝ですかね。仕事を始める前に、自分の朝礼のようなつもりで、音読するといいと思います。
Co76 いいですね!でも、職場だとあまり唱えられる場所がないかもしれませんが、大丈夫ですか?
Cl76 駅から職場まで歩く時間があるので、そこで、一人小声で唱えながら歩こうと思います。
Co77 いいですね!あとは、この新しい価値観に沿って行動することが大事です。それによって、価値観がどんどん自分に馴染んできます。新しい価値観に沿った新しい行動というと、何かありますか?営業がうまくいかず絶望したときに行う行動がいいかもしれませんね。
Cl77 うまくいかないとふてくされてやる気をなくしていたんですが、今度からは、新しい価値観を思い出して、これからの営業の仕方について前向きに考えようと思います。
Co78 いいですね!一人作戦会議みたいな。
Cl78 はい。そこでアイディアが出てくれば、社長や他の人と話すきっかけにもなるかもしれないですし、そんな感じでやっていける気がします。
Co79 そうですね。他の方と気楽に話すというのは今日取り上げられませんでしたが、そういう部分にも生きてきそうで、とてもいいと思います。それでは、この2点、唱えるというのと、うまくいかなかったときに、思い返して、前向きに行動するというの、試してみてください。
Cl79 わかりました。
Co80 それでは、今日のコーチングは以上にしたいと思いますが、よろしかったですか?
Cl80 はい。ありがとうございました。
Co81 ありがとうございました。


事例2 リモートでの新人教育に悩む30代教育担当、不安や焦り

Co1 今日は何について取り組みますか?
Cl1 新人の教育に悩んでいます。コロナでほとんどリモートワークになっていて、その中でどのように教育していくかということですね。
Co2 実際、どうされているんですか?
Cl2 実際は、リモートなので、ビデオ会議で、資料を共有して説明してという感じです。
Co3 それだと、なかなかコロナ前のような感じにはできないということなんですね。
Cl3 そうですね。打ち解けられないというか、どうしても距離を感じますね。
Co4 内容は伝えられるけれど、気持ちの部分でうまく伝えられないところがあるということですね。
Cl4 本人に聞いたことはないんですが、そんな風に感じますね。
Co5 それがどんなふうになると、今日ここに相談に来たかいがあったと言えそうですか?
Cl5 そうですね…結局、コロナ前は十分伝えられない部分があっても、職場で一緒に仕事をしているうちに教えることができたんですが、今はそういうわけにもいかないんですよね。また、こちらからだけでなく、相手からも、あまり質問が来ないというか、指示したことはちゃんとやってくれてるんですが、職場のことをあまり積極的に知ろうとはしてくれていないようにも思います。今のところほとんどリモートなので、向こうとしてもどのように関わっていいかわからないところもあると思うんですけど、その部分が、もっと、一体感を持って、一緒に仕事をしているような感じが出せるといいと思うんですけどね…
Co6 今のところはあまり一緒に仕事をしている感じがしないので、もっと協力して、一緒に仕事を回しているような感じが持てるといいなということですかね。
Cl6 そうですね。
Co7 そうなってくると、今とどんな変化がありますか?
Cl7 今とですか。私の悩みも少なくなると思いますし、もう少し新人のことが知れると思いますね。もっとフランクに話してもらえるとか、仕事の進め方とか、将来に向けた働き方とか、この会社でどんなことをしていきたいとか、聞くことはできるんですけど、そうではなくて、自然な会話の中でそういう話がしたいなと思っています。
Co8 いいですね。そんな話ができるようになると、Clさんと新人さんの関係だけでなくて、職場の他のメンバーとの関係も何か変わってきそうですか?
Cl8 そうですね。私と上司の関係が良くなりますかね。今のところ、もめているわけではないですけど、上司にはリモートでは限界があるという話をしているんですが、取り合ってもらえないというか、あちらはあちらで色々と全社的な対応で忙しいようで、部署内のことはお任せという感じであまりいい感じではないので、そこのわだかまりが解けるかもしれないですね。
Co9 それは、Clさんにとってもいいことですよね。もちろん、上司の方にとっても。
Cl9 そうですね。私も働きやすくなると思います。
Co10 いいですね。そんな感じの変化が起こると、私生活の方も、いい変化がありそうですか?
Cl10 何かありますかね。機嫌は良くなるかもしれないですね。家で愚痴を言ったりすることは減るでしょうし、もう少し子供にやさしくしてあげられるかもしれません。勉強を見るときとか。
Co11 お子さんは小学生ですね。そんな風にご家庭にも、良い変化の風が吹いてくるかもしれないというところですね。
Cl11 はい。
Co12 そんな方向に向けて、今日具体的に取り組むべき場面というか、問題は何になるでしょうか。
Cl12 結局、リモートの中で、新人をどう教育していくか、新人とどう関係性を作っていくかということなんですよね。
Co13 いいですね。これまではどんなことをされてきたんですか?
Cl13 一応、社内でteamsを使っているので、そこでグループを作って、教育のための資料を共有したり、困ったことがあればなんでも聞いてということは伝えてあります。基本的にはOJTというか、今のところは私が彼の仕事を管理していて、直接指示を出してやってもらったりしているんですが、あの仕事どう?と聞くと、できてますって言って送ってくるとか、できたらすぐ送ってきたらいいんじゃないかなと思うこともありますね。リモートで何をしているかわからないというか、仕事の進捗が共有しにくいのもうまくいっていない感じがしている原因かもしれないですね。一応、出社のタイミングが合えば声をかけたりはするんですけどね。
Co14 社内のポータルサイトというかコミュニケーションツールを使ってグループを作ったり、出社時に声を変えたり、色々と気を使って関わってはくださっているということですね。
Cl14 そうですね…
Co15 ここが何とかできればというような、具体的な問題というか、ポイントになりそうななにかはあったりしますか?
Cl15 そうですね…もっと話しかけてほしいですかね。話がしたいというか。うちの部署に所属して今どんな感じかとか、困ったことはないかとか。聞いても、大丈夫ですとしか言わないので、よくわからないんですよね。人となりというか、今の状態というか。そうなってくると、なかなかどんな仕事を任していいかとか、どれだけ任していいかとかもわからないので、とてもやりづらく感じているのだと思います。
Co16 結構寡黙というか、なかなか自分を出さない方なんですね。その新人さんは。
Cl16 そうなんですよね。プライベートではなんでもいいんですが、仕事上のことでは、もう少し密にコミュニケーションを取りたいなと思いますよね。
Co17 Clさんとしては、もっと密にコミュニケーションを取りたいけど、新人さんとしては、何を考えているかわからないということなんですね。
Cl17 そうなんですよね。
Co18 それでいて、上司は、任せたという感じだし。
Cl18 はい。それで困っているんですよね。
Co19 今のままだと、何が困りますか?このことがすごく気になるし、それで家で愚痴を言ったり、子供に優しくできなかったりというのはあると思うんですが、仕事上で、どんな問題が起こっているのかというと、何になりますか?
Cl19 私が彼に、どんな仕事をどの程度任せていいかわからないということですね。
Co20 今はどんなふうにそれを決めているんですか?
Cl20 簡単な書類の準備や直し、プレゼン資料の作成、マニュアルの作成なんかをお願いしていますね。比較的指示がしやすいものをお願いしていて、完了したら次のを渡すという感じです。
Co21 コロナになる前はどんな風にされていたんですか?
Cl21 そうですね…慣れてきたら、その場の流れで、会議に一緒に来てもらって、業務が分担されたりしていましたね。自然と私から直接ではなくて、部署内の仕事が割り振られるような流れになっていたんですよね。今はオンライン会議が中心なんで、そういう自然な流れができにくくて、どうしても、私との1対1の関係だけになってしまってるのかもしれないですね。
Co22 そういう状態に対して、他の方はどんな認識なんですかね?
Cl22 他の人も、あまり関わる機会がないんですよね。今年の新人さんはどんな感じ?とか聞かれたりはするんですけど、直接関わる機会はないし、仕事を振る機会もないし、部署内のチームワークがうまく回っていない感じがしますね。
Co23 ここまでの話を要約すると、新人の教育に困っていて、1つは、リモートが多いということもあり、新人の方と関係が深まらず、何をどの程度任せていいかがわからない。仕事の進捗もわからない。普段なら自然と部署内の仕事が新人の方にも回るような形があったが、今は、それこそ関係が築きにくいし、自然に割り振られる流れにはなっていない。それに対して、上司の方は、任せたよという感じ。
Cl23 そうですね…
Co24 この状況をどのように打破していきますかね?
Cl24 私がもっと他の仕事との橋渡しをすべきなのかもなと思いました。コロナの影響で職場の働き方も変わって、新人と教育担当の私との関係が孤立しやすい状態だったんだなと気づきました。そこで、なんとか関係を作らないとと思っていたんですが、私だけではなくて、部署内で彼の役割をちゃんと作っていかないといけないなと思います。
Co25 いいですね。なんか、展開していきそうな感じがしますね。
Cl25 その為にもちゃんと新人さんと話さないといけないなと思いました。結局、何をどのくらいやりたいのか、少なくとも何をやりたいのかがわからないと、橋渡しもできないんですよね。ただ、話を聞こうとすると、大丈夫ですとか、私にできることが何でもとか、主体性がないんですよね。
Co26 主体性がないなと感じた時の気持ちはどんな気持ちですか?
Cl26 悲しいですかね。なんでもっと積極的にやってくれないのかなというような。
Co27 ちょっとイライラもしていますか?
Cl27 そういうところもありますね。
Co28 そうすると、この部分は、こちらで提供している認知行動コーチングの感情を扱う手法を使っていくことができるように感じますが、その方向で、感情を和らげて、その結果、新人の方への対応がよりスムーズにいくように支援していくという方向性で進めてもよさそうですか?
Cl28 はい。それがいいと思います。
Co29 わかりました。それでは、悲しみとイライラという感情を挙げていただきましたが、これ以外で、新人の方との関係を深めるための妨げになっているかもしれない感情は、何かありますか?
Cl29 妨げかどうかはわからないのですが、イライラと似た感じで、いぃ~!となるというか、フラストレーションがたまりますね。めんどくさいというか…
Co30 もっと相手から積極的に発話してほしいわけですね。
Cl30 そうです。それが無くて、耐えがたいというか。
Co31 一応、苦痛、思い通りにならないことに対する苦痛というようにしておきましょうか。
Cl31 はい。ぴったりです。
Co32 新人の方と話していて、関係が深まらずに、悲しみ、イライラ、苦痛を感じることがあるということですね。
Cl32 はい。
Co33 物事がうまくいかないときに、このようなネガティブな感情を経験するのは、自然なことです。このような通常生じるであろうネガティブな感情を健康でネガティブな感情と呼んでいます。
Cl33 はい。
Co34 ただ、ネガティブな感情の中には、何かしらの問題を引き起こすネガティブな感情もあります。それらは不健康なネガティブな感情と呼んでいます。Clさんの悲しみ、イライラ、苦痛で、不健康なネガティブな感情はありますか?つまり、これらが何らかの問題、今回の件でいうと、新人の方との関係を深めるうえで妨げになっていそうですか?
Cl34 そうですね。だいぶイライラするというか、苦痛というか。それがストレスになっていたり、そのせいで難しい仕事も丸投げしてしまうみたいな感じはありますね。
Co35 そうするとそのイライラや苦痛は、不健康なネガティブな感情と言えそうですね。それによって引き起こされている問題が難しい仕事を丸投げしてしまうとか、ストレスに感じるとかですね。ちなみに、体の症状は何かありますか?
Cl35 身体でいうと、胃が痛いとか、考えていると頭が痛くなってくるというのはあるかもしれません。
Co36 いいですね。ありがとうございます。つまり、やはりこの感情は不健康なネガティブな感情である可能性が高そうだと思います。そして、この感情を健康でネガティブなものに変えられると、今回ご相談いただいた、新人の教育についても役に立つのではないかと思います。
Cl36 はい。
Co37 それでは、イライラや苦痛が最も強まるのは、どんな瞬間ですか?
Cl37 やっぱり、依頼していた仕事について、確認したらできてますと返ってきたときですかね。
Co38 それは、できているならすぐに出せよということですか?
Cl38 そうですね。確認するまで何してたんだっていう。
Co39 いいですね。頼んでいた仕事が、こちらがいって初めて出てきて、確認するまで何していたんだと。そこで、イライラや苦痛を感じた。この感情が、新人の方と関係を深め、部署内の他の仕事につなぐことの妨げになっているということですね。
Cl39 はい。
Co40 認知行動アプローチでは、感情というのは、個人の価値観によって引き起こされると考えます。もちろん、頼んでいた仕事がなかなか挙がってこず、確認したら出てきたというのは、きっかけにはなっていますが、直接感情を引き起こしているのは、Clさん自身の価値観だということです。
Cl40 はい。
Co41 例えば、同じような状況で、そこまでイライラや苦痛を感じない人は、想像できますか?
Cl41 いるとは思います。
Co42 その人は、どんな感情を持っているでしょう?
Cl42 どうですかね。あまり気にしないというか、流すというか、しょうがないなって感じですかね。
Co43 そこまで強くない、中立的な感情を持っているということですね。
Cl43 はい。
Co44 そういう時は、どんなことを考えていると思いますか?
Cl44 しょうがないなとかですかね。
Co45 そうそう。方や、同じ状況で、何なんだ!何をやっていたんだ!と思えば、イライラしてくるし、一方で、しょうがないなと思えれば、そこまで強い感情を感じない。このように、人間の感情は、場面が直接引き起こしているのではなくて、考えや価値観を通して、引き起こされているんですね。そこで、Clさんの価値観について、もう少し確認していきたいのですが、いいですか?
Cl45 はい。
Co46 仕事について確認したら、できてますよと返ってきた。先に言えよと思った。確認するまで進捗を報告しないことは、Clさんにとって、どんなことですか、どんな意味があるかというか、どんなことを表していますか?
Cl46 そうですね。主体性がないというか、ある種さぼっているというか、まじめに仕事をしていないように思います。
Co47 もしさぼっていたり、まじめに仕事をしていなかったとしたら、それはどんなことですか。
Cl47 それはひどいですね。なんとかしないといけないと思います。
Co48 なんとかしないといけない。
Cl48 はい。教育担当として、きちんと仕事をさせないといけないと思っています。
Co49 そうなんですね。Clさんのイメージするきちんとというのは、どんな感じですか?
Cl49 自分から工夫して仕事ができるということですかね。ただ任されたことをやるのではなくて、その仕事の目的を考えて、より良いものにできるというか。
Co50 いいですね。それが主体性であったり、積極性という言葉に現れているわけですね。
Cl50 そうですね。
Co51 教育担当としてという話もありましたね。教育担当として、自分から考えて仕事ができる人を育てるのが役割だと考えているということですね。
Cl51 そう思います。
Co52 それができないと、それは、Clさんにとって、どんなことになりますか?
Cl52 困りますね。対応を考えます。
Co53 対応できないとなると?
Cl53 それは問題ですね。役割を全うできないというか、仕事をきちんとこなせていないことになると思います。
Co54 そうですね。仕事がきちんとこなせないとなると、自分はダメだなと思うとか、仕事が面白くないとか、場合によっては、評価が下がるということもあるかもしれませんね。
Cl54 そうですね。教育ついては、任せたということなので、評価もそうだし、何よりも新人さん自身が困るだろうなと思います。
Co55 新人さんが将来困ることは何とか避けたいということなんですね。
Cl55 そうですね。教育担当としては、そうならないことを目指したいと思います。
Co56 今いくつか挙げていただきましたが、過度な感情は、往々にして、こうしたいという強い思いと表裏一体です。新人の方が、自分から仕事の完了を報告せずに、確認するまで待っていたことについて、あるいは、さぼっていたとすると、触発される、こうしたいというClの思いは何ですか?
Cl56 話していて一番大きいと思ったのは、教育係としての仕事がきちんとできていないとか、新人さんが将来困るかもしれないということですね。
Co57 そうなんですね。私は教育係として、新人さんをきちんと、主体的に働けるように教育しなければならない。そうしないと新人さんが将来困ってしまうという感じですかね。
Cl57 そうですね。今のフレーズを聞いていて、胸が締め付けられるよう案感じがありました。
Co58 もし自分がきちんと教育できずに、新人さんが将来困ってしまったら、それは、どういうことですか?
Cl58 それは嫌ですね。できれば避けたいと思います。
Co59 最悪だ、耐えられない、それは私がダメなやつということだの3つでいうと、どれが一番近いですか?
Cl59 ダメなやつってのですかね。教育係としてダメだという。
Co60 教育係としてダメだというのは、Clさんが人間としての価値とも関わっていますか?
Cl60 どうですかね。そこまで考えてはいないですけど。
Co61 わかりました。ただ、新人の方が自ら報告してこなかったときに、「私は教育係として、新人さんをきちんと、主体的に働けるように教育しなければならない。そうしないと新人さんが将来困ってしまう。そんなことがあったら私は教育係としてダメだ」と考えると、イライラや苦痛が強くなりそうですか?
Cl61 イライラや苦痛もそうですが、焦りというか、なんとかしないといけないという思いが強くなりますね。
Co62 不安ともいえそうですか?
Cl62 はい。
Co63 その不安を感じているときに、どんな場面がイメージできますか?
Cl63 部署内の他のメンバーと新人さんが仕事をしていて、同じような場面で、「できたらすぐ報告しろよ」と非難されているような場面ですね。
Co64 その場面をイメージして、「私は教育係として、新人さんをきちんと、主体的に働けるように教育しなければならない。そうしないと新人さんが将来困ってしまう。そんなことがあったら私は教育係としてダメだ」と考えると、不安になって、焦ってくる。
Cl64 そうですね。
Co65 いいですね。新人さんが自分から報告してこなかったときのイライラや苦痛と、今の不安や焦りでは、どちらを扱うのがよさそうですか?どちらが強く感じられますか?
Cl65 不安や焦りですね。
Co66 それでは、こちらの方を扱うようにしましょうか。
Cl66 はい。
Co67 将来新人の方が困っている場面を想像して、私は教育係として新人さんを主体的にさせなければならない。それができなければ、ダメなやつだと思えば、当然不安は感じると思います。この考え、価値観を変えることで、感情を変化させることができるだろうと思いますが、どうですか?
Cl67 そう思います。
Co68 どんな風に変えると良さそうかというアイディアは何かありますか?
Cl68 新人さんが将来困ることがあっても、教育係としてダメではない?
Co69 そうですね。そういった方向性だと思います。例えば、「新人さんが主体的に仕事ができるようにならないで、将来困っても、すべてが教育係の責任で、教育係としてダメということではない」とか。
Cl69 確かに、教育係の役割や影響はあるにしても、すべてが教育係の責任というわけではないですね。
Co70 そう思います。丸投げしている上司もいますしね。
Cl70 はい。
Co71 「私は教育係として、新人さんをきちんと主体的に働けるようにしなくてはならない」についてはどうですか?
Cl71 これは、主体的に働けるようにしなくてもいいですかね?
Co72 そうですね…しなくてもいいわけではないですよね。したいけど、できないこともあるという感じですかね。
Cl72 その方が正しいと思います。
Co73 新人の方が思うように働いてくれない時、「私は教育係として、新人さんをきちんと主体的に働けるようにしたい。しかし、100%完璧にできるとは限らない。新人さんが主体的に仕事ができるようにならないで、将来困っても、すべてが教育係の責任ではないし、教育係としてダメということではない」と思えたら、どんな気持ちになりそうですか?
Cl73 気が楽になりますね。不安や焦りはなく、しょうがないかなと思えるようになります。新人さんには新人さんのやり方があるし、本人の責任の部分もあるので。
Co74 そうですね。ちょっと気になるけど、不安なほどではないという感じですかね。健康でネガティブな感情と言えそうですね。
Cl74 そうですね。わかってきました。
Co75 さて、これで、健康でネガティブな感情を伴うより良い考え、価値観が明らかになりましたが、これがはっきりしたからと言って、すぐに新しい価値観が身につくわけではありません。いわば、古い価値観は、生涯をかけて育ててきたので、そう簡単に手放せないわけです。今後、新しい価値観への確信を強めていく必要があります。
Cl75 はい。
Co76 まずは古い価値観について、いくつかディスカッションしてみたいと思いますが、いかがですか?
Cl76 わかりました。
Co77 「私は教育係として、新人さんをきちんと、主体的に働けるように教育しなければならない。そうしないと新人さんが将来困ってしまう。そんなことがあったら私は教育係としてダメだ」に対して、何か反論するとしたら、どんなことが浮かびますか?
Cl77 やはり、将来新人さんが困ることと、私が教育係としてダメなことは、イコールではないという点でしょうか。教育係としての仕事は、私が必要だということを教えることだと思いますが、新人さんにも希望の働き方はあるので、私の指導にすべて従わないといけないというわけではないと思います。そうなると、私も新人さんをすべてコントロールする責任はなく、将来困っても、ある程度の責任はあっても、基本的には本人の判断だと思います。
Co78 そうですね!教育係として責任を負う部分はあるけれど、新人の方の今後の働き方をすべて管理することはできないですよね。つまり、本人にも責任はあるということです。また、Clさんが教育しているのは、今年の新人さんだけではないですよね。これまでも、今後も、何名かの方を教育するだろうと思います。今年の新人さんが困ったからと言って、Clさんが教育係としてダメということにはならない。たまたま、相性が悪かったとか、今年の新人さんがうまくいかなかったということもありますよね。
Cl78 そうなんですけどね…とはいえ、教育担当としては、いろんなタイプの新人に合わせてきちんと教育できないといけないなとは思いますね。
Co79 はい。それは、前半部の、「私は教育係として、新人さんをきちんと、主体的に働けるように教育しなければならない」に関連してきそうですね。
Cl79 そうですね。この部分は、その通りだと思ってしまいますね。
Co80 確かに、すべての新人さんを、主体的な従業員にできたら、それは素晴らしいことですよね。
Cl80 はい。できないこともあると諦めていいのか、気が引けます。
Co81 できないこともあると認めることは、諦めることだと感じるわけですね。
Cl81 そうですね…
Co82 逆にいうと、諦めなければ、どんな新人さんでも、Clさんの思い描く主体的で完璧な従業員にできるということですかね。
Cl82 そうですね。それは難しいですよね。
Co83 やってみなければわからないこともありますが、一般的には、思い通りに行くこともあれば、いかないこともあるかなと思います。
Cl83 そうですね…
Co84 また、新人さんをきちんと、主体的に働けるようにしなくてはならないというのは、誰が決めたことなのかというのも、気になるところですね。
Cl84 はい…
Co85 何か、そういう決まりやルール、マニュアルはあるのかとか…
Cl85 ないですね。私が自分の指導の方針にしているということですね。
Co86 自分で決めた方針ということですね。であれば、その方針によって、不安になったり焦ったりして教育がうまくいかなそうなのであれば、その方針を見直すというのもありかもしれませんね。
Cl86 そうですね。
Co87 「私は教育係として、新人さんをきちんと主体的に働けるようにしたい。しかし、100%完璧にできるとは限らない」こう考えることに、他にどんな抵抗感がありますか?
Cl87 いいえ。その通りだと思います。諦めてしまっていいのかなというところは引っかかりますが。
Co88 すべての新人さんが私の思い通りに主体的に働かせられるわけではないということを、受け入れてしまっていいのかということですね。
Cl88 はい。
Co89 諦めるというのは、Clさんにとっては、何か良くないことのようですね。
Cl89 そうですね。教育担当にやりがいを持っていたので、その目標を失ってしまったような感じがしなくもないです。
Co90 思い通りにできない人もいると認めてしまうと、何を目指して教育をしたらいいのかわからなくなってしまうという感じですかね。
Cl90 そうですね。
Co91 何か、新しい指針になりそうなことはありませんか?
Cl91 それを探さないといけないですね。
Co92 Clさんの思い描く完璧に主体的な従業員にならないと、教育は失敗ということになりますかね。
Cl92 うぅ~ん…そこが引っかかっているところですね。私なりにそれがいいと思ってやってきたし、実際、私自身それで助けられているところがあると思います。ただ、色んな人がいるし、だんだんと色んな働き方を尊重しなくてはいけない時代になってきているのも事実ですね。
Co93 Clさんが思い描く主体的で完璧な従業員の姿が必ずしも教育の唯一の成功の姿ではないといえますかね。
Cl93 そうですね。
Co94 まずは、これまで思い描いてたことが唯一の正解ではないことに気づいた。今後、新しい価値観に従って教育をしながら、新しい指針を見つけていくというのは、現実的な方向性としてありだと思いますが、どうですか?
Cl94 そうですね。それがいいだろうなと思います。
Co95 はい。ありがとうございます。それでは今日は、新人の方がClさんの思うような働き方をしてくれない時に、「私は教育係として、新人さんをきちんと、主体的に働けるように教育しなければならない。そうしないと新人さんが将来困ってしまう。そんなことがあったら私は教育係としてダメだ」と考えると、不安や焦りが強まり、良い教育的なかかわりができない。関係性を深めて、部内の他の仕事につなぐことができないという話をしてきました。それに対して、「私は教育係として、新人さんをきちんと主体的に働けるようにしたい。しかし、100%完璧にできるとは限らない。新人さんが主体的に仕事ができるようにならないで、将来困っても、すべてが教育係の責任ではないし、教育係としてダメということではない」という新しい価値観を持つことで、新人さんの態度に動揺することもなく、中立的な気持ち、健康的なネガティブな感情で受け止めることができ、新人さんとの関係も深めていけるだろうということでしたね。
Cl95 はい。
Co96 今後、この新しい価値観への確信を強めるために、引き続きご自身でも練習してもらいたいと思います。
Cl96 はい。
Co97 1つは、毎日音読をすることです。言葉に出して唱えることで、体になじんできます。1日のうちでいつが練習に良さそうですか?
Cl97 出社時ですかね。家にいるときは家で、出社するときは、駅から職場に歩くときにでも、唱えて練習したいと思います。
Co98 わかりました。毎朝3回ぐらい声に出して読んでみてください。
Cl98 はい。
Co99 もう1つ重要なのは、新しい価値観に沿って行動することです。何か、新しい価値観を持つことでできるような新しい行動はありますか?
Cl99 そうですね。新人さんと話すときに気を使っていたというか、遠慮していたところがあります。また、今後の仕事の振り方について相談する必要があるだろうと思ったので、新しい価値観をもって話し合うことで、話し合いがスムーズにいきそうな気がします。
Co100 いいですね!ぜひその話し合いの前に新しい価値観を思い出して、また、話し合いの最中に、イライラしたり、こんなんで良いのかなと思うことがあったら、いったん中断して、新しい価値観を読み返して、気持ちを整えてみてください。
Cl100 わかりました。
Co101 それでは今日のセッションはこれで終えようと思いますが、どうですか?
Cl101 ハイ大丈夫です。
Co102 ありがとうございました。
Cl102 ありがとうございました。


事例3 先の見えない苦しさに耐える50代士業、抑うつ、やる気の低下

Co1 今日はどんな話をしましょうか?
Cl1 士業で働いていますが、今後どのように仕事を続けていけばいいのか、自信が持てません。しばらく事務所で働いていて、独立して、仕事も軌道に乗り始めた矢先のコロナで、私はネット関係もダメなので、オンライン会議と言われても、参加するのも一苦労で、自分で仕事で使える気はあまりしません。
Co2 コロナでリモート中心の働き方になって、ご自身の事業の運営でだいぶ困っていらっしゃるようですね。
Cl2 本当にいつまで続くんだと思いますね。今はまだ持続化助成金もありますが、それもオンラインでの受付を始めたぐらいで、これから先どうしていいか。
Co3 持続化助成金でオンライン対応は始めていらっしゃるんですね。他に何をすべきかが現在検討中と。
Cl3 そうですね。商工会議所に来る人も減っていて、このまま人との交流がなければ、そのうち仕事も無くなってしまうだろうと思います。
Co4 これまでは、商工会議所で、中小企業の経営者の方と関係を作って、仕事を受けていたんですね。そういう集まりが減って、どうやって仕事を得ればいいかということになっている。
Cl4 そうですね。結局、オンライン対応はしましたが、基本的には、口コミや電話で仕事をもらうことがほとんどなので、直接でなくても、人とのつながりが本当に大事なんですよね。それがこんな風になってしまって、まいりますよ。本当に。
Co5 そんな中、今日こちらに相談にいらしてくださって、どうなると、来たかいがあったと言えそうですか?
Cl5 来たかいがあったと…どうですかね。少しでも前向きな見通しが持てるといいですよね。こうすれば大丈夫だろうと。
Co6 前向きな見通しが少しでも持てれば、安心して仕事が続けられる。
Cl6 はい。
Co7 そうすると今とどんなふうに仕事の時の様子が変わってきますか?
Cl7 そうですね…不満を言っている時間が減りますかね。あとは、お酒も減るかもしれませんね。今は、だいたい早めに仕事を終わらせて夕方から飲んでますからね。
Co8 不満を言っている時間も減って、お酒も減って、その分、どんな風に時間を使っていそうですか?
Cl8 その分ですか?なんですかね…何か、前向きなことに時間を使っていますかね…何かかはわかりませんが。ビデオ会議とかは、ちょっとよくわからないんで…
Co9 少なくとも、不満を言っていたり、お酒を飲んでいたりという時間が減って、前向きなことに時間が使えているだろうと。ただ、それがなんだかは、今のところはよくわからないということですね。
Cl9 そうですね。
Co10 そんな風に、時間の使い方が変化すると、他にどんな変化がありそうですか?仕事面でも、私生活の部分でも。
Cl10 他に…もしね、私にもウィズコロナってやつで、こう働けばいいんだってのが見えてくれば、こんなにふてくされてはいないと思うんですよね。独立して、やっと自分の好きな仕事だけできると思ってやっていたんで。仕事自体には満足していたんですよね。それが、コロナになって、経営者の方々と顔を合わせる機会が減って、新規の仕事をもらう機会もだんだん少なくなってきて、勘弁してくれっていう感じなんですよね。だから、見通しが持てたら、コロナ前のように、楽しく、やりがいを持って、仕事ができるかなと思います。生活にメリハリが持てて、休日は読書をしたり、コーヒーを飲んだり、その辺りは今でもそんなに変わらないけど、テレビを見れば、コロナの話で、気分が滅入るので、そういうのがない分、気持ちよく過ごせるかなと思います。
Co11 いいですね。コロナが相当、私生活もお仕事も変えてしまったところがあるようですね。ただ、それまでは充実した事業者としての生活を送っていたようで、その頃の気分に戻れるようになると、色々といいのになというところですね。
Cl11 そうですね。そうそう戻れるものではないでしょうけど、気持ち的にはそうですね。
Co12 さて、そんな中、具体的には、どんなテーマを取り上げるといいですか?
Cl12 何ですかね。どうしたら気分が晴れるかということですかね。色々とまいっていて、もしかしたら、やらなきゃいけないのかなという思いもあるけど、取り組んでいく気もしないんですよね。
Co13 気分が晴れないということですね。その結果、ウィズコロナの中でやるべきことに取り組めないでいる。
Cl13 そうですね。
Co14 気分が晴れないということについて、もう少しいうと、どんな気持ちですか?憂うつという感じでしょうか?
Cl14 そうですね。憂うつなのかな。どうしていいかわからないというか、やる気が出ないというか…
Co15 そのような気持ちが最も強まるのは、どんな時ですか?
Cl15 コロナのニュースを見てるときかな。緊急事態宣言の延長とか、まだ続くのかって思いますね。
Co16 緊急事態宣言延長のニュースを見ていて、まだ続くのかよと、憂うつになる。
Cl16 そうですね。
Co17 憂うつ以外の感情はありませんか?不安とか、怒りとか…
Cl17 不安はないわけではないですけどね…あんまり考えないようにしてますかね。怒りはあると言えばありますね。どうなってんだよというか、もっと政府がちゃんと対応しろよとか。
Co18 考えないようにしているということですが、不安というのは、どんな感じですか?
Cl18 例えば、このままずっとコロナが続いて、時代に取り残されて、年取って、貧しい年金暮らしになるのかなとか。あんまり人と協力してってのも得意じゃないので、本当は、ネットとか得意な若い人と一緒にやるのがいいんでしょうけど、そういうのもできないと思うんですよね。みんなどうしてるのかなと思いますね。私たちの世代でそんなに得意な人ばかりではないと思うんですけどね。
Co19 緊急事態宣言が延長されるニュースを見て、まだ続くのかよとか、いつまで続くんだろうと思って、憂うつになったり、やる気がなくなったりする。また、いつまで続くんだよとか、政府は何をやってるんだという怒りもある。そして、このまま取り残されていってしまうのではないかという不安もある。
Cl19 そうですね。
Co20 この中でいうと、どの感情に対処できると、1番お役に立てそうですか?
Cl20 どうなんですかね。やっぱり、憂うつとかやる気のなさですかね。
Co21 この憂うつややる気のなさによって引き起こされる問題というと、愚痴が多くなったりとか、お酒が増えたり、ニュースを見るたびに落ち込んだりという感じですかね。
Cl21 そうですね。
Co22 他に何かありますか?
Cl22 他には、さっきの話にあった、前向きに動けないというのもありますかね。
Co23 そうでしたね。ありがとうございます。体の部分では何か不調が出てきたりしますか?
Cl23 体ですか?体は特にないですかね。全体的にだるいというのは、あるかもしれませんね。運動不足なだけかもしれませんが。
Co24 体のだるさがあるかもしれないと。
Cl24 はい。
Co25 わかりました。それでは、憂うつ感が一番高まるのは、どんな場面ですか?緊急事態宣言延長のニュースを見て、まだ続くのかと思ったときですかね。
Cl25 そうですね。
Co26 まだ続くとなると、それは、Clさんにとって、どんな意味を持っているんですか?
Cl26 それはもう終わりですね。勘弁してくれという感じです。
Co27 終わるというと、何が終わりそうですか?もう仕事ができなくなってしまいますか?
Cl27 物理的にはそういうことではないですが、気持ちとして終わってしまうという感じですかね。
Co28 コロナは今すぐ収束すべきだという考えがありそうですかね。
Cl28 それはありますね。
Co29 それで、もしすぐに収束しないとなると、それは、最悪だ、耐えられない、どちらが近いですか?
Cl29 耐えられないですかね。
Co30 「コロナは今すぐに収束すべきだ。すぐに収束しないのには耐えられない」こう思うと、憂うつややる気のなさはどうですか?強く感じますか?
Cl30 感じますね。
Co31 こちらで提供している認知行動コーチングでは、出来事そのものが問題となる感情を引き起こしているのではなく、その場面で喚起される考え方や価値観が、感情を引き起こすと考えます。Clさんの例でいうと、確かに、コロナ禍で、いつ収束するかもわからないという出来事は、感情のきっかけにはなっていますが、同じ場面で、すべての人が、憂うつややる気のなさを感じるかというと、必ずしもそうではないですね。
Cl31 はい。
Co32 その違いはどうして生まれるかというと、先ほど挙げていただいたような「コロナは今すぐに収束すべきだ。すぐに収束しないのには耐えられない」といった価値観が直接の原因になっていると考えます。仮に、コロナなんていつまでも収束しなくていいし、収束しなくてもへっちゃらだと思っている人がいたとしたら、その人は、おそらく、落ち込んだりやる気を無くしたりはしないですよね。
Cl32 はい。
Co33 へっちゃらだと思いましょうと言っているわけではないですからね。しかし、このように、考え方や価値観によって、感情は変化するということです。そして、価値観を意識的に変化させることで、より健康的な感情を経験できるようにしようとするのが、認知行動コーチングです。ここまでのところは、よろしかったですか?
Cl33 はい。
Co34 それでは、この考えをどんな風に変えていったらいいかということを、次に話し合っていきたいと思います。
Cl34 はい。
Co35 何か、良いアイディア、現実的で、かつ、憂うつとは別の気持ちにつながるような考えは、思い浮かびますか?
Cl35 ちょっと、よくわからないですね。
Co36 後半からいきますかね。基本的には、シンプルに、問題を引き起こす価値観の反対を考えます。コロナがすぐに収束しないのには耐えられないの反対は…
Cl36 耐えられる
Co37 そうです。コロナがすぐに収束しなかったとしても、耐えることはできる。死ぬわけではないということです。
Cl37 はい。
Co38 それでは、前半部分、コロナは今すぐ収束すべきだについてはどうですか?
Cl38 今すぐ収束しなくてもいい
Co39 その通りです。もちろん、できれば早く収束して欲しいけれども、実際は、数年単位で収束しない可能性もある。という感じですかね。
Cl39 はい。
Co40 さて、緊急事態宣言は延長になりますと発表されたときに、「コロナはできれば早く収束して欲しいけれども、実際は、数年単位で収束しない可能性もある。もしすぐに収束しなかったとしても、なんとか耐えられる。死ぬわけではない」と考えられたとしたら、どんな気分になりそうですか?抑うつややる気のなさはどうでしょう?
Cl40 抑うつややる気のなさは、多少はましになりますかね…
Co41 無くなりはしないけど、ましになるという感じですね。代わりに、どんな感情になりそうですか?
Cl41 どんな感情ですかね。諦めというか、無というか…
Co42 それは、憂うつややる気のなさと比べて、悪い感情ですか?
Cl42 どうですかね…悪くはないのだと思います。事実を受け止めて、無だに抗わないという感じですね。
Co43 そうなんですね。緊急事態宣言のニュースを見たときに、落ち込んだりやる気を無くしたりして、ふてくされて、お酒を飲んでということと比べると、諦めや無の感情になると、どんなことが起こりそうですか?
Cl43 緊急事態宣言のニュースを見ても、過度に反応しないですね。まぁそうだよなと。ふてくされてという感じではなく、お酒が増えたりもしないし、うれしいわけではないけど、コロナに関しては、やるべきことを淡々とこなしていくだけだと思えますかね。
Co44 それは、面接の初めに思い描いたいい方向の変化と言えそうですかね?
Cl44 そう思います。
Co45 いいですね。私たちは、健康でネガティブな感情と不健康でネガティブな感情を区別しています。憂うつややる気の低下というのは、問題を引き起こす不健康でネガティブな感情と言えるのに対して、諦めや無というのは、健康でネガティブな感情と言えそうですね。健康でネガティブな感情は、気持ちの言葉で表すのが難しいのですが、無と言われたように、中立的な感情であったり、嫌だけど仕方ないというような、弱いネガティブな感情だったりします。
Cl45 はい。
Co46 そうすると、緊急事態宣言の延長のニュースを見たときに、「コロナは今すぐに収束すべきだ。すぐに収束しないのには耐えられない」と考えて、落ち込んでやる気をなくすよりも、「コロナはできれば早く収束して欲しいけれども、実際は、数年単位で収束しない可能性もある。もしすぐに収束しなかったとしても、なんとか耐えられる。死ぬわけではない」と考えて、諦めや無の感情になって、淡々とやるべきことをこなすようになるのでは、後者の方が、Clさんの目指す方向だということですね?
Cl46 そう思います。
Co47 それでは、この方向にもう少し後押しするために話を続けていきたいと思います。
Cl47 はい。
Co48 今どんな風に価値観を変えたらいいかという話をしてきましたが、おそらくこんな風に変えたらいいだろうというのはわかっていただけたかと思うのですが、それがわかったからと言って、すぐに価値観が変えられるわけではないですよね。
Cl48 はい。
Co49 それは、自然なことです。なぜなら、古い価値観は、いわば、Clさんが生涯を通して養ってきた価値観と言えるからです。
Cl49 はい。
Co50 そこで、古い価値観を手放すために、少しディスカッションをしていきたいと思うのですが、どうですか?
Cl50 はい。わかりました。
Co51 では、「コロナは今すぐに収束すべきだ。すぐに収束しないのには耐えられない」という考えについて、何か反論するというか、否定するとすると、どんなことが言えそうですか?
Cl51 そうですね…何ですかね…反論は思い浮かばないですね…
Co52 そうなんですね。そうしたら、1つずつ確認していきたいと思います。「コロナは今すぐ収束すべきだ」ということですが、私たちは、願望と絶対的な要求を区別しています。願望というのは、こうであって欲しいけれども、現実的にはそうでないこともあるということで、絶対的要求は、絶対にこうでなければならないということです。それでいうと、この、「コロナは今すぐ収束すべきだ」というのはどちらだと思いますか?
Cl52 絶対にの方に近いですかね。
Co53 そうですね。絶対的な要求と言えると思います。絶対的な要求は、不健康なネガティブな感情を生じさせてしまうので、現実的な願望に変化させましょうと言っています。例えば、「コロナは今すぐ収束してくれたらうれしいけれど、実際は収束まで時間がかかりそうだ」という感じです。
Cl53 はい。
Co54 「コロナは今すぐ収束すべきだ」と「コロナは今すぐ収束してくれたらうれしいけれど、実際は収束まで時間がかかりそうだ」では、どちらがより現実的ですか?
Cl54 後者ですね。
Co55 そうですね。では、次の質問です。「コロナは今すぐ収束すべきだ」「絶対に今収束しなければならない」と思っていたということですが、これは、どこかにそう決められていますか?誰が決めたのでしょうか?
Cl55 決まっているというか、自分で思っていたことです。
Co56 決められているのではなくて、自分がそう信じていたということですね。
Cl56 はい。
Co57 そう信じることは、何か、役に立ったりしていましたか?
Cl57 役には立っていないと思いますね。
Co58 役に立たないことを、これまでは信じてしまっていたと。
Cl58 そうなりますね。
Co59 このことからどんなことが言えそうですか?
Cl59 …当たり前だと思っていたことは、自分がそう信じているだけのことだった。そして、そう信じることに、特にメリットはなく、むしろそう信じることで、コロナに対して過剰反応し、やる気をなくしていた。
Co60 そうなりますね。
Cl60 はい。
Co61 今後どうしていくのがよさそうですか?現実的願望とともに生きていき、過剰反応せずに、淡々とやるべきことをこなし、コロナ禍を耐え忍ぶという感じですかね。
Cl61 いいと思います。認知行動療法でも、生き抜くことというのは、重要な目標の一つとされています。
Co62 はい。
Cl62 もう1つ重要な目標として、楽しむことということがありますが、これについてはどうですか?耐え忍ぶことが、人生を楽しむことにつながりそうですか?
Co63 そうですね…何か楽しい見通しがあるわけではないですが、過剰反応せずに、淡々とやるべきことを続けていけば、そのうち、コロナが収まるかどうかはわかりませんが、コロナ前のように、また、仕事を楽しんでやりがいを感じられるようになるかもしれないなとは思います。
Cl63 いいですね。単に我慢をするというだけではなくて、そんな風に積極的に、守るというか、前向きな見通しを持ちつつ耐え忍ぶというのは、とても重要なことと思います。
Co64 はい。
Cl64 さて、古い価値観にはもう1要素ありましたね。「コロナがすぐに収束しないのには耐えられない」。この部分についてはどうですか?何か反論は思い浮かびますか?
Co65 耐えられないと思うよりも、耐え忍んでいこうと思った方が良いですかね。
Cl65 そうですね。ちょうど今話していたように、耐えられない!と思って、過剰反応して落ち込むよりも、耐えられると思って、将来の明るい兆しを期待しつつ、やるべきことを淡々と行っていった方が良いですよね。
Co66 はい。
Cl66 もう1点、「耐えられない!」って、一般によく言ってしまうと思いますけど、「コロナがすぐに収束しないのには耐えられない」というのは、具体的には、どうなってしまうことを意味していますか?
Co67 ただ単に「耐えられない!」と不満を言っていただけですね。つまり、めんどくさい、わずらわしい、嫌だなということを言っているだけだと思います。
Cl67 実際にコロナ禍で、人と会えないし、仕事をうまく進めていけないし、先の見通しも持てないし、めんどくさいとか、わずらわしいとか、嫌だなと思うのはその通りですよね。
Co68 はい。
Cl68 ただ、それ以上ではない。
Co69 はい。
Cl69 つまり、本当にめんどくさいし、本当にわずらわしいし、本当に嫌だけど、それに耐えられなくて、命が途絶えてしまうということではないですよね。
Co70 そうですね。少なくとも自分で命を絶つということをしなければ。
Cl70 そうですね。今のところは、そういう自分で命を絶とうと思ったことは…
Co71 ないですね。
Cl71 もちろん、死んでしまおうかと思うことがあったら、それはそれで、別に相談にいらしてほしいと思いますが、今のところはそういう思いもなく、「耐えられない!」というのは、いうなれば、単に、すごくすごく、めんどうで、わずらわしくて、嫌だということであるということですね。
Co72 その通りです。
Cl72 そこで、Clさんの大切な誰かが誘拐されたとします。どんな方が思い浮かびますか?
Co73 親ですかね。母親です。
Cl73 そうですか。今おいくつなんですか?
Co74 今71ですかね。
Cl74 そうですか。その大事なお母さまが、例えですからね、誘拐されたとします。
Co75 はい。
Cl75 通常は身代金を要求してくると思いますが、犯人はこんな要求をしています。Clさんがあと1年間、コロナに文句を言わず、耐えて、仕事を続けたら、お母さんを開放します。その間の生活は保障します。そう要求されたら、どうですか?
Co76 それは、要求に応じます。
Cl76 いいですね。ちなみに、文句を言わずに仕事を続けている証拠を示せと言われたらどうします?
Co77 そうですね…これだけ新規で契約を取ったというのを、示すますかね。
Cl77 いいですね。文句を言っているだけだと、新規の契約はあまり増えないでしょうからね。
Co78 はい。
Cl78 最後に、「コロナはできれば早く収束して欲しいけれども、実際は、数年単位で収束しない可能性もある。もしすぐに収束しなかったとしても、なんとか耐えられる。死ぬわけではない」という新しい価値観についてはどう思いますか?どこか引っかかるところはありますか?
Co79 数年かというのは、気が重くなりますね。
Cl79 そうですね。耐えられなそうですか?
Co80 ははっ。いいえ。すごく辛いし、嫌ですが、死ぬわけではないと思います。
Cl80 気が重いというのは、必ずしも悪いことではないと思います。こんな未憎悪の災害を経験したら、誰でも気が重いですよね。それ自体は、健康でネガティブな反応です。ただ、耐えられないというわけではない。その部分が重要だと思います。
Co81 そうですね。
Cl81 それでは、今日の話自体は以上ですが、何か、言い残したことや、話したりないことはありますか?
Co82 いいえ。大丈夫です。気は重いですが、そんなもんなのかなとやっていける気がします。
Cl82 それは良かったです。ただ、新しい価値観を身になじませるには、日常生活での練習が必要になります。
Co83 はい。
Cl83 1つは、毎日声に出して唱えてほしいと思います。いつが都合がいいですか?
Co84 朝、昼、晩という感じですかね。始業前、昼休み、始業後の3回。
Cl84 いいですね!それでは、その3回、新しい価値観を声に出して読み上げてください。
Co85 はい。
Cl85 もう1つ重要なこととして、新しい価値観に沿った行動をするということがあります。何か思いつくことはありますか?
Co86 愚痴らず仕事をするということですかね。
Cl86 そうですよね…そしたら、せっかくですから、先ほどの誘拐犯への知らせのように、1週間とか1か月単位で、新規の契約が取れたら、記録用紙のようなものを用意してもらって、「犯人様」といって、これだけしっかり仕事をしていますと、犯人に送るつもりで、記録を取ってみるのはどうですか?1年とは言わないまでも、数か月やってみてもらうといいかなと思います。
Co87 わかりました。
Cl87 それでは、今日のセッションは以上にしようと思いますが、いかがですか?
Co88 はい。大丈夫です。
Cl88 はい。ありがとうございました。
Co89 ありがとうございました。


ご案内

心理学に関心のあるキャリコン、コーチングや関心のある公認心理師向けのオンラインコミュニティ。Slack

Gルート公認心理師のための何でも質問窓口。自己研鑽の進め方等について質問にお答えします。LINEオープンチャット


(同)実践サイコロジー研究所は、心理学サービスの国内での普及を目指しています! 『適切な支援をそれを求めるすべての人へ』