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2年前の " あの言葉 " の本質的な意味が気になって。" 神の目線 " が・・・ 彼女の心の機微を的確に表現する [第12週・1部]

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。

今回は第12週・「あなたのおかげで」の特集記事の1部ということになる。ちなみに、第11週・3部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。

それで今回の記事は、基本的には第12週の前半部となる、56~57話を集中的に取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成ともなっている。

この記事を執筆するのにあたっては、『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察していく。さらに筆者の感想を交えながら、この作品の深層に迫っていきたいと思う。

この第12週は、多くのさまざまなエピソードが目まぐるしく展開される週でもあり、特集記事としてまとめるには難儀すると思われるが・・・ 頑張ってまとめてみたいと思う。


○ " 命に係わる仕事 " だからこそ、冷静沈着、そして客観的に。時には " 残酷な事実 " も・・・ 逃げずに伝えなければならない覚悟を。


主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)は、仕事の気負いが空回りして、思考的にも、精神的にも行き詰ってしまっていた。しかし偶然にも青年医師である菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)と4ヶ月ぶりに再会し、サジェスチョンをもらうことで元の調子を取り戻していた。

それも束の間、彼女の故郷・宮城に、観測史上前例のない台風が直撃することに。再び家族や亀島への心配が募っていく百音。彼女は勤務中の合間に、母・亜哉子(演・鈴木京香氏)に電話をかけ、最も台風の影響を受けるであろう漁師の祖父・龍己(演・藤竜也氏)に取り次いでもらう。


『百音 : 来週、東北の太平洋側から、台風が上陸するかもしれないって予報見た? 』

『龍己 : ああ・・・ それ、今朝聞いたな。』

『百音 : 牡蠣小屋とか、シャッターを下ろしてても、持ってかれるかもしれない。簡単な作りの作業場は倒壊すると思う。』

『龍己 : ああ・・・ そんなにひどいのか 』

『百音 : 周りにも伝えてほしいの。牡蠣棚は、風の影響を受けにくいかもしれないけど、流されないように固定して。で、船は、島の西側の港に移動させといたほうがいい。東側から風は、かなり強烈だから。船は係留してても転覆する。』

第12週56話より


*百音は険しい表情ながらも、非常に詳細で具体的な情報と且つ的確な指示を、祖父・龍己に与えていることが象徴的だろう [第12週・56話より]


さてこのシーン、皆さんはどのようにお感じになりましたか? 筆者は百音の表情は険しいながらも、非常に詳細で具体的な情報と且つ的確な指示を、祖父・龍己に与えていることが象徴的に感じられたわけだ。

このようなことに遭遇した時、これまでの百音であれば、そこはかとない不安感で心が掻き乱されて暴走してしまったり、ネガティブな感情が沸き起こってしまっていた。しかしこのカットを観れば・・・ これまでの彼女とは違うメンタリティーであることが一目瞭然だろう。


*『牡蠣小屋とか、シャッターを下ろしてても、持ってかれるかもしれない』と百音が語るカット。その表情は険しいものの、下手側の方向を向いて語っているのが象徴的だ。登場人物が下手側の方向を向いている場合、そのメンタリティーは " ポジティブ思考 " を映像で表現していることになる。赤色の矢印は下手方向を指示している [第12週・56話より]


『映像力学』的には( 詳しい理論はこちら )故郷に思いを馳せるといったことを映像で表現するならば、本来であれば登場人物を上手方向に向かせたカットを入れることになる。しかしこのカットで百音は、下手側の方向を向いているわけだ。下手側の方向を向いている登場人物のメンタリティーは " ポジティブ思考 " であることを映像として表現しているため、百音の現在の心模様は決してネガティブなものではなく、むしろポジティブな思考となっている演出を採用したというところだろう。

要するに " 心配だ " と心中で案じていたり、「気をつけてね」と言葉をかけるだけでは何の役にも立たない。そして現在、百音は台風に関して専門的な知識と予報技術を有する " 気象予報士 " なのだ。

気象予報士は、人の財産や生命に直接かかわる仕事だ。そのことは " 医師 "と同等の意味合いを持っていると言っても過言ではないだろう。そのような職責を担った者こそ、極めて冷静沈着に、そして客観的に・・・ 時には " 残酷な事実 " も逃げずに伝えなければならない。そのことを『水の事故の注意喚起シリーズ』で・・・ 百音が改めて思い知らされたことだったのではなかろうか。

もしかすると・・・ 朝岡覚(演・西島秀俊氏)の " この言葉 " が百音の脳裏に蘇っていたのかもしれない。


『朝岡 : 人は " 分らないもの " を怖がります。でも逆に、よく知ってさえいれば、たとえ牙を向けられたとしても、傷つけられないように距離を保つことが出来る。相手をよく知るということは、" 恐怖と被害 " を遠ざけます。

第11週54話「相手を知れば怖くない」より


[ 今、何よりも大切なことは・・・ 家族や故郷の人たちに、最新の詳細でより具体的な情報と、且つ的確な指示を届けることだ ]


ということを改めて思い知ったということだろう。また、もしかすると " この言葉 " も百音の行動に影響を与えているのかもしれない。


『百音 : 仙台の強風ね。少し前に分ってたの。でもニュースじゃ、二人 ( 幼馴染の三生と悠人 ) に直接、伝えることは出来ないんだよね・・・ 』

『明日美 : 当たり前じゃん。テレビだもん。それにさ、ほんとうにヤバかったら電話するでしょ。

第11週・51話「相手を知れば怖くない」より


*明日美に『ほんとうにヤバかったら電話するでしょ』と言われて、冷静に言われればそうだったといった表情を見せる百音 [第11週・51話「相手を知れば怖くない」より]


全国放送の気象報道という中で、いくら腐心をしても・・・ 各地域の実情に根差した情報を、詳細に伝えるような時間的余裕はない。でも・・・ 家族と故郷の人々には伝えたい・・・


『百音 : 今は " 初めてのことだから、これまでとは違う " って、みんなに伝えてほしい。

第12週56話より


百音の " この思い " は、後日の彼女の " 人生の選択 " に、大きな影響を与える伏線ともなっていることが興味深い。

さてこの作品では " 百音の人間的成長 " が、菅波との関係性によってもたらされることばかりに、どうしても注目がいってしまうのだが・・・  実は関わった様々な人々から、彼女は多くの " 学び " を受け取っていることを、エピソードの数々から感じ取れるわけだ。そのことは、電話を終えた後の母・亜哉子のセリフにも反映されている。


『亜哉子 : なんか・・・ 急に頼もしくなっちゃって。

『未知 : お姉ちゃん?』

『亜哉子 : うん。』

第12週56話より


*『なんか・・・ 急に頼もしくなっちゃって』と語る母・亜哉子。娘の人間的な成長に、その感慨も一入であるといった表情だ [第12週・56話より]


このシーンでは " 娘の人間的な成長 " に、その感慨も一入であるといった、母・亜哉子の表情が非常に印象的だろう。



○姉の " 人間的成長 " と比例するように・・・ 妹の " 焦り " のような感情も膨らんでいく


百音の電話から、娘の頼もしい成長を感じ取った母・亜哉子。その感慨を受けて、父・耕治(演・内野聖陽氏)が、


『耕治 : よし! 俺たちも負けずに、気を引き締めていこう! なあ? 』

『未知 : うん。』

第12週56話より


と家族に向かって檄を飛ばすも・・・ 妹・未知 (みーちゃん 演・蒔田彩珠氏)の活力が、一気に失われたような様子になってしまう。


*父・耕治は『よし! 俺たちも負けずに、気を引き締めていこう! なあ? 』と家族に檄を飛ばすも・・・ 未知の活力が、一気に失われたような様子になってしまう [第12週・56話より]


一見豪快に見えて、実は非常に繊細なメンタリティーを持っている父・耕治は、未知の異変を敏感に感じ取る。


*未知の異変を敏感に感じ取り、" その後ろ姿 " を心配そうに見送る父・耕治 [第12週・56話より]


耕治は亜哉子に、このように語りかける。


『耕治 : 疲れてんのかな。 』

『亜哉子 : ん? 』

『耕治 : みーちゃん。勤め始めたばっかだしな。』

第12週56話より


しかし女親である亜哉子は、このように分析する。


『亜哉子 : うん、それもあると思うけど・・・ 』

『耕治 : ん? 』

『亜哉子 : " 姉と妹 " って、ああなのかもね。

『耕治 : " 姉と妹 " ? 』

『亜哉子 : モネが少し、立ち止まっちゃってた時があったでしょ? 』

『耕治 : ああ・・・ 』

『亜哉子 : あの時・・・ 未知、自分がしっかりしなきゃって思ったと思うのね。それで、すごく頑張ってくれてる。』

『耕治 : ああ。 』

『亜哉子 : でも・・・ モネが動き出して、未知も " 自分のこと " いろいろ考えるようになったんじゃないのかな。

『耕治 : 案外・・・ 影響、受けてんだな。お互いに。 』

『亜哉子 : うん。そうね。』

第12週56話より


百音と未知のような " 歳の近い二人姉妹 " は、非常に複雑で難しい人間関係だとも言われることも多い。時には親友のような関係性になったり、時にはライバルのような関係性になったりと、その状況によって目まぐるしく変化していくと言っても過言ではないだろう。

亜哉子が言うように、未知が " 永浦家を背負って立つ " と頑張ってきたのは、百音が " あの日 " から無気力状態となり、亀島から逃げるように出て行ってしまったということが大きい要素だと思う。しかし・・・ まだ明らかにはなっていない " 未知が背負っている十字架 " というものも、非常に大きな要素だ。

この東京編になると、未知が百音に辛く当たるシーンが増加していく。放送当時はこの未知の行動に、疑問と不快感を感じた視聴者も多かったらしいが・・・ 筆者は、そこはかとなく " 未知の心模様 " にシンパシーを感じざるを得ない。

そして、百音が無気力状態から回復して、人間的成長を果たしていくことと比例するように・・・ 未知の " 焦り " のような感情も膨らんでいき、ついには " 百音への嫉妬心 " にまで発展する。このような " 人間の感情の暗部 " にも逃げずに、真摯に描いていくところが、この作品に大いなる説得力とリアリティーを付与することへと繋がっていると思うのだ。



○二人の " その想い " は・・・ " 水 " を通してつながっていく


百音が仕事から帰ってくると、『汐見湯』では異変が起こっていた。オーナーである井上菜津(演・マイコ氏)の祖父・小倉肇(演・沼田爆)が倒れ、菜津と祖母・小倉光子(演・大西多摩恵)が心配そうに声をかけていた。肇はどうも意識が混濁しているようだった。


*百音が仕事から帰ってくると、菜津の祖父・肇が倒れていた。どうも意識が混濁している様子だ [第12週56話より]


百音は機転を利かせて、隣接しているコインランドリーに、青年医師である菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)が洗濯に来ていないかと探す。案の定、彼はコインランドリーにいた。


*コインランドリーに洗濯に来ていた菅波。待ち時間の間に眠っているところを百音に起こされる
[第12週56話より]


菅波の診断によると肇は熱中症のようで、応急処置を施していると、野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏)も起きてきて騒ぎに驚く。


*第12週56話より


光子も脱水が疑われたため、肇と一緒に救急搬送することに。彼の適切な処置と対応によって、滞りなく二人は救急搬送されていく。

ひと段落を終えて、百音は菅波にお茶を出しつつ、その経緯を菅波に語る。小倉夫妻は『リオデジャネイロ・オリンピック(2016年)』を早朝から観戦していたようで、その熱中のあまり水分補給を怠っていたらしい。

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