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「先生のことを、もっと深く知りたい」という彼女の一途な思いに・・・ ようやく彼は心を開く [第13週・4部]

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。

今回も第13週・「風を切って進め」の特集記事であり、今回はその4部の記事ということになる。ちなみに、第13週・3部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。

それで今回の記事は、第13週・65話を集中的に取り上げた記事となっている。この放送回では、全120話の中でも屈指の " あの名シーン " が入っているからだ。今回はそのシーンを、かなり丁寧に分析・考察していきたいと思う。したがって今回の記事は、過去最長の内容となってしまった(苦笑)。非常に長い内容がお付き合い頂ければ幸いだ。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成ともなっている。

この第13週はカット割りなどの演出面では、かなりシンプルでスタンタードなものを用いている。したがって『映像力学』的な視点からの分析や考察は少なく、演者の表情や所作、シーン設定に注目することでの解釈・考察を中心として展開する。また心理学的な知見や、筆者の競技スポーツ経験の視点から捉えた分析・考察を行っている。


また、この特集記事ではおなじみの『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら ) も用いて、そこから浮き彫りになった登場人物や俳優の心情などを探りつつ、この作品の世界観の深層に迫っていきたいと思う。


○仲間を信じて・・・ たとえ失敗して " 心中 " となっても本望だ


主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)がサポートしているパラ・アスリートの鮫島祐希(演・菅原小春)。彼女は、車いすマラソンの強化指定選手・選考会レースにおいて標準記録を突破し、見事に強化指定選手に選ばれた。


選考会レース終了後、百音と鮫島は『Weather Experts』社に立ち寄って、標準記録を突破と強化指定選手に選ばれたことを報告する。スタッフから祝福される鮫島。


*第13週・65話より


百音らが策定した " プランB " を採用するのかどうかは、当日まで鮫島に委ねられていた。したがって、百音の上長となる朝岡覚(演・西島秀俊氏)は、このように語る。


『朝岡 : いや・・・ 風が吹いて、鮫島さんが勝負に出てくれた時は、嬉しかったですよ。』

『鮫島 : 勝負に出るも何も・・・ 私は最初から " プランB " で行くって決めてたけどな。

『百音 : 最初から?

『鮫島 : うん。』

『鮫島 : レーサーの膝の高さを、3センチ傾けてスタートした。それが強風の中、勝ち抜く時のスタイルやねん。』

第13週・65話より


*選考会レースの前に " プランB " に備え、座面にパッドを入れてレーサーの膝の高さを3センチ傾ける鮫島。彼女曰く「強風の中で勝ち抜く時のスタイル」だそうだ [第13週・65話より}


ということは、やはり鮫島は、選考会レースのプランと戦略をチームスタッフにも説明しないまま、レースに臨んだということになる。

筆者は競技スポーツに取り組んだ経験があるため、その感覚から率直に言えば、アスリートが自身の選択するレースプランや戦略をチームスタッフに説明せずに、周知徹底しないなんて・・・ 勝敗と結果を大きく左右するため、絶対にありえない話だ(苦笑)。この辺は、レースシーンをドラマティックに描くためのフィクションだろう。

ただし、このシーンでポイントになってくるのは、


『私は最初から " プランB " で行くって決めてたけどな』


という鮫島の言葉だ。では彼女はどのタイミングで「 " プランB " でいく」という覚悟を決めたのか? やはりここだろう。


『百音 : 逆風を跳ね除けて・・・ 突き抜けていくのが鮫島さんです。』

『鮫島 : よう言うわ。

第13週・64話 より


*盟友の顔が夕映えに染まりながら、" お互いに目だけ " で語り合う。鮫島の目は、「この子となら・・・ たとえ失敗して " 心中 " となっても本望だ」という思いが雄弁に語られているようでもある。往年の " 青春ドラマのワンシーン " を髣髴させるような光景だ [第13週・64話 より]


百音の " この殺し文句 " に、鮫島は自身にもう一度問いかけてみたのだろう。


[ これまで拘ってきた自分のスタイルや哲学をかなぐり捨てて、たとえ目標が達成できたとても・・・ 私はそれで、本当に満足できるのだろうか? ]

[ これまで拘ってきた自分のスタイルや哲学をかなぐり捨てて、目標が達成できなかった場合に・・・ 私は " その選択 " を、本当に後悔しないのだろうか? ]


そして、それと同時に、


[ こんなに近くに・・・ 私の最大の理解者が寄り添ってくれていた。この子となら・・・ たとえ失敗して " 心中 " となっても本望だ ]


という思いが沸き起こり、その覚悟を決めたのだろう。その " 鮫島の覚悟 " が、このセリフに滲み出る。


『朝岡 : つまり・・・ 私たちの情報を全面的に信用したと。

『鮫島 : うん。アスリートはな、「ここまでやった」っていう自信が大事やねん。皆さん、私のためにとことんやってくれたやろ、それはもう、信じるしかないわ。

第13週・65話より


[ 仲間を信じて・・・ たとえ失敗して " 心中 " となっても本望だ ]


この第13週全体としては、「他者から " 全幅の信頼 " を寄せてもらうためには、何が必要なのか? 」ということが、非常に大きなテーマとして占めているのだろう。

そして、競技スポーツ経験のある筆者がひしひしと感じるのは、「最終的には、仲間に全幅の信頼を寄せる」といった覚悟がある者は肝が据わっており、イレギュラーな事象にも狼狽えずに的確な対応ができる " 本物の強さを持ったアスリート " だ。そしてそうした者が、確実に勝利を手に入れる。



○ " 全幅の信頼 " を築くためには・・・「あなたのことを、もっと深く知りたい」と思い続けることだ


その後に鮫島は、報告のために『汐見湯』にも立ち寄る。井上菜津(演・マイコ氏)から祝福を受けていると・・・ そこに青年医師・菅波光太朗(演・坂口健太郎氏)もやって来た。どうやら、登米から戻ってきたばかりのようだ。


*第13週・65話より


『鮫島 : 先生のおかげで無事、勝てました。

『菅波 : ああ、いや・・・ お手伝いできたのなら、良かったです。』

第13週・65話より


*鮫島から『先生のおかげで無事、勝てました』と感謝を告げられる菅波。彼は温和な笑顔を浮かべるものの、どことなく鮫島から視線を外しているような仕草が印象的だ [第13週・65話より]


さて、鮫島から『先生のおかげで無事、勝てました』と感謝を告げられた時の菅波のカットは、温和な笑顔を浮かべるものの、どことなく鮫島から視線を外しているようにも感じられる。やはりこの言葉が " 彼にとっての相当なトラウマ " であることを窺わせるキーワードになっているわけだ。それと同時に、百音の視線も非常に興味深い。


*鮫島から『先生のおかげで無事、勝てました』と感謝を告げられた時、思わず菅波の表情を窺う百音。「この瞬間に・・・ 先生は " どのような表情 " をしてるんだろう? 」という百音の思いが、透けて見えるようだ [第13週・65話より]


[ 『先生のおかげで無事、勝てました』と言われている、この瞬間に・・・ 先生は " どのような表情 " をしてるんだろう? ]


という菅波の表情から内心を窺おうとするような、百音の視線の移動になっている。そして、この言葉に対する菅波の " 微妙な反応 " を感じ取り、百音の脳裏に " 彼の過去の挫折を告白するシーン " が蘇っていたことをも感じさせる雰囲気になっているわけだ。この彼女の視線や表情が、その心情を雄弁に物語っているところが、これまた非常に興味深い。


*『先生のおかげで無事、勝てました』という言葉に対する、菅波の " 微妙な反応 " を感じ取っているような雰囲気の百音。この時、彼女の脳裏には " 彼の過去の挫折を告白するシーン " が蘇っていることも感じさせるような表情だ [第13週・65話より]


『菅波 : そうやって、僕は・・・ ある人の" 人生 " を奪いました。

第12週・60話「あなたのおかげで」より


*百音に『あなたのおかげで助かりましたっていう " あの言葉 " は麻薬です』という言葉の意味を問われる菅波。彼は『行き着く先は、全部 " 自分のため " だ。そうやって、僕は・・・ ある人の" 人生 " を奪いました』と語る [第12週・60話「あなたのおかげで」より]


そのようなことに思いを巡らせていると・・・ 百音に対しても鮫島から感謝の言葉が述べられる。


『鮫島 : あと永浦さんも、一緒にいてくれてほんとうにありがとう。』

第13週65話より


この鮫島から感謝の言葉が述べられた際の、百音が一瞬だけ見せる表情が、これまた非常に興味深い。これだ。


*鮫島から『あと永浦さんも、一緒にいてくれてほんとうにありがとう』と感謝の言葉を告げられる百音。一瞬、戸惑いの表情というか・・・ 驚きのような表情を浮かべ、その後に照れくさいような笑顔がこぼれてくる [第13週・65話より]


一瞬、戸惑いの表情というか・・・ 驚きのような表情を浮かべ、その後に照れくさいような笑顔がこぼれてくる。では、なぜ百音はこのような表情を浮かべたのだろうか。

菅波も含め、このプロジェクトに携わった人たちが、鮫島から告げられた感謝の言葉は「おかげで」という言葉が入っていたわけだ。したがって、百音も同様の言葉をかけられると思っていたのではなかろうか。しかし鮫島が、百音に告げた言葉は・・・ 一味違っていた。


『一緒にいてくれてほんとうにありがとう』


このプロジェクトに多かれ少なかれ携わった人たちも、各々の分野で最善を尽くしてくれたことは間違いない。しかし、 日々のトレーニングや生理・生化学的なプロファイルデータを取得、選考会レースを想定したトラック練習、そして選考会レースの本番当日も・・・ 鮫島のそばで寄り添っていたのは、いつも百音だった。したがって鮫島は、百音に対しては格別の思いがあるのは間違いないだろう。だからこそ、鮫島から告げられた " 感謝の言葉のニュアンス " には、他との差異がある訳だ。

そして鮫島は、さらに言葉を続ける。


『鮫島 : 永浦さんがな、「感覚」って言ってくれた時、ホンマは嬉しかってん。「数字やないとこも、見てくれてんのやな」って。そやから " プランB " に乗っかってん。』

第13週・65話より


アスリートは、なぜ競技というものに取り組むのか? なぜ競技会や試合に出場しようとするのか? そのモチベーションの源泉はやはり、


[ 自分自身の生き様や哲学を・・・ 競技というものを使って表現したい ]

[ 自分自身の生き様や哲学を・・・ 競技を通して多くの人々に見てもらいたい。知ってもらいたい ]


というものなのだ。" 勝てばなんでもいい " というわけではない。したがって、アスリートにとって最も大切にしていることは、実は勝利や結果を導くためのプロセスの方なのだ。しかし、このプロジェクトに携わった人々は、科学的根拠やデータというものに重点をおき、勝利や結果の方に完全に視点が向いてしまっていた・・・ 。

一方、アスリートとしてだけではなく " 人間・鮫島祐希 " にもフォーカスを当て、彼女の生き様や哲学、そしてその思いというものにも思いを巡らせ、感じ取ろうとしてきたのは・・・ 紛れもなく、いつも傍で寄り添っていた百音だったのだ。


[ 科学的、データ的にもどんなに妥当性があったとしても・・・ 人間的に寄り添って共感し、気持ちを汲み取ってくれなければ、最終的には " 全幅の信頼 " を置けない ]


鮫島の『一緒にいてくれてほんとうにありがとう』という言葉には、百音に対する " そのような思い " も込められていたように思えてならないのだ。そして、鮫島のその熱い想いに対して、百音はこのように反応する。


『百音 : はあ・・・ (字幕テロップ無し)』

『鮫島 : 私は、永浦さんを信じたんよ。フフフ・・・ 』

『百音 : ありがとうございます。

『鮫島 : ホンマにありがとう。』

『百音 : いえいえ。よかったです。』

第13週・65話より


この鮫島の思いに、百音が『はあ・・・』と応えるところでは、字幕テロップが無いところが印象的だ。おそらくこの部分は台本には書いてはなく、演じる清原氏のアドリブであることが考えられる。

また百音の『ありがとうございます』というセリフをヘッドフォンで聴くと、声が震えているのが分る。彼女の感情の高ぶりが最高潮にまで達し、油断をすると思わず涙がこぼれてしまうのを、必死で抑えているかのような雰囲気がひしひしと伝わってくる。演技というものを越えて・・・ 演じている清原氏自身も、" 鮫島の言葉 " に感動している瞬間ではなかろうか。


*鮫島の『私は、永浦さんを信じたんよ』という言葉に、『ありがとうございます』と応じる百音。この部分をヘッドフォンで聴くと、声が震えているのが分る。演技というものを越えて・・・ 演じている清原氏自身も、" 鮫島の言葉 " に感動している瞬間ではなかろうか [第13週・65話より]


そして鮫島の『私は、永浦さんを信じたんよ』という言葉で、


[ " 全幅の信頼 " を築くためには、相手に寄り添いつつ、「あなたのことを、もっと深く知りたい」と思い続けることだ ]


と百音は思い知る。それと同時に、


[ これまで先生が私に " その内心 " を話してくれなかったのは・・・ " 先生が私に対して、未だに信頼感を持てなかった " という理由からではないのだろうか? ]

[ 先生が私に対して、未だに信頼感を持てなかったという理由は・・・ 実は " 私の方が先生のことを、もっと深く知ろうとはしていなかった " ということの裏返しなのではないのだろうか? ]


といったことが、百音の心の中に沸き起こってきた瞬間でもあったように感じられるのだ。要するに、鮫島から " 全幅の信頼 " が寄せられていたこと実感したからこそ、「私は先生から、未だに信頼を勝ち取ってはいない」ということを同時に思い知ったわけだ。だからこそ、この後に・・・ 百音が菅波に問いかけるストーリー展開となっていくのだろうと、筆者は考えている。


そして喜びの絶頂にいる百音を、横目で見ている菅波が・・・ これまた印象的だ。


*鮫島から感謝の意を告げられ、『いえいえ。よかったです』と応じる百音。喜びの絶頂にいる彼女を、横目で見ている菅波が・・・ これまた印象的だ [第13週・65話より]


[ " 人と人との信頼関係 " が築き上げられる瞬間を・・・ 今、目の前で目撃した。このことは " 医師と患者との信頼関係の構築 " にも、共通するものがあるのかもしれない ]


といったことを、菅波が感じ取っているような表情にも感じられて仕方がないのだ。



○ " プラスの領域へと一歩踏み出した位置 " から、彼の姿を見つめると・・・ " 人間・菅波光太朗の弱さ " のようなものが浮き彫りになる


鮫島が帰り、『汐見湯』のコインランドリーで洗濯をしながら、アイスクリームを頬張る百音と菅波。相変わらず『アイスクリーム頭痛』に苛まれる菅波。


*『汐見湯』のコインランドリーで洗濯をしながら、アイスクリームを頬張る二人。菅波は、相変わらず『アイスクリーム頭痛』に苛まれているようだ [第13週・65話より]


" アイススラリー " をレース中に、事も無げに飲み干してしまう鮫島に驚きつつ、このように語る。


『菅波 : あ・・・ でも良かった。いい結果になって。』

第13週・65話より


さてこのセリフから、皆さんは菅波のどのような心模様を感じ取りましたか? 筆者には、


[ 恐れていた最悪の状況を・・・ なんとか免れることができた ]


といったような、非常にホッとした菅波の心境を表現してるようにも感じられる。

本来、鮫島の強化指定選手入りは、諸手を上げて喜ぶことが普通のようにも感じられるのだが・・・ 菅波のこの反応には、視聴者もかなりの違和感を感じるだろう。もっと言えば、 " 恐れていたことが向うの方から去って行ってくれた " といったような非常にネガティブなニュアンスさえ、彼の言葉から伝わってくるようでもある。

では、菅波が恐れているものとは一体何なのか? 過去の " この言葉 " が、それを表していると思う。


『菅波 : 助けられるならやってます!!! 今の知識や技術では田中さんを助けられない。絶対に助けられないと僕は分っているし、向こうも分ってる!! そういう相手の内面に、心情に・・・ 無理やり飛び込んでいくことが・・・ どういうことか、分りますか??

第6週・29話「大人たちの青春」より


*登米時代に、ステージ4の肺ガン患者・田中知久(トムさん)の訪問診療を巡って、言い争いになる二人。その際に、菅波が『そういう相手の内面に、心情に・・・ 無理やり飛び込んでいくことが・・・ どういうことか、分りますか?? 』と百音に吐露したことが、" 彼の哲学 " を言い表してもいる [第6週・29話「大人たちの青春」より]


[ 良かれと思って相手に感情移入し、成功すれば御の字だが・・・ 失敗した時ほど、" その感情移入に比例する " ように心理的ダメージも深くなっていく ]


おそらく菅波は、彼の人生の哲学として " 相手に人生に必要以上に踏み込まない・感情移入しない " ということが一見すると冷たいかもしれないが、結局のところは " お互いが傷つかずに済む " ということを、肝に銘じて生きてきた。

そのような視点から鑑みると、今回の鮫島に対する百音の " 感情移入と距離感 " は、菅波にとっては非常に危ういものに見えていたわけだ。


『菅波 : 流されやすい人だったら、永浦さんの熱意に応えなきゃって、闇雲に、あなたの意見に従ったかもしれない。』

『菅波 : あなたに愛着や恩義を感じて・・・ 。でもそれで " 最悪な結果 " になったら・・・ お互い耐えられないですよ。』

第13週・63話 より


過去の心の傷とトラウマが、完全に癒えたわけではないものの " 心のリハビリテーション期間 " を、百音がようやく終えようとしている時に・・・ 菅波の脳裏には、そのことがよぎったことだろう。そして今回の鮫島の件で、もし成功に至らない場合には・・・ 百音の心が再び傷つく可能性は非常に高かった。菅波はそのことを " 過剰なまでに恐れていた " ということが、" その違和感 " として発せられていたわけだ。

百音の方も、菅波から発せられる" その違和感 " を感じ取っていた。そしてそのことは、菅波の『あ・・・ でも良かった。いい結果になって』と語った直後に " 驚きの表情 " として垣間見ることができる。


*菅波の『あ・・・ でも良かった。いい結果になって』と語ると、百音は " 驚きの表情 " を垣間見せる [第13週・65話より]


その菅波から発せられる " そこはかとない違和感 " を感じつつも、


『百音 : はい。良かったです。いい結果になって。』

第13週・65話より


と笑顔を作りつつ、菅波の言葉を噛みしめるような百音。しかし彼女の脳裏には " この光景 " が蘇ってきた。


『菅波 : 鮫島さんが、ああいう " 譲らない方でよかった " と僕は思いますよ。』

『菅波 : でもそれで " 最悪な結果 " になったら・・・ お互い耐えられないですよ。』

第13週・63話 より


一瞬、考え込む百音。その様子に気づく菅波。


*百音は『はい。良かったです。いい結果になって』と噛みしめるように語りつつも、一瞬考え込む様子を見せる百音。菅波は、彼女の " その異変 " に敏感に気づく [第13週・65話より]


さて皆さんは、この時の百音は・・・ どのような感情が渦巻いていたと考えますか?

上京してからも、過去の心の傷とトラウマからの " 心のリハビリテーション " が続いていた百音。 東北地方への台風上陸の件で、家族や地元・亀島に貢献できたという手応えから、心がマイナスの領域からゼロに戻ってリセットすることができた。

そして今回の鮫島の「強化指定選手入りにも、自分が貢献できた」という手応えによって、百音はようやく " プラスの領域へと一歩踏み出せた " わけだ。

この " プラスの領域へと一歩踏み出した位置 " から、改めて " 現在の菅波の姿 " を見つめていると・・・ 百音の感覚にも変化が生じて、


[ 先生は・・・ 過去の挫折によって生まれた " 心の傷とトラウマ " から、実は全く回復していない。未だに心がマイナスの領域に留まり、" その場所 " から抜け出せずに、もがき苦しんでいる ]


と、これまで目にしてきた菅波とは " 一味違った姿 " に見えてきたのではなかろうか。もっと言えば、百音はこの瞬間に " 人間・菅波光太朗の弱さ " のようなものを、そこはかとなく感じ取っていたのかもしれない。

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