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盟友の顔が夕映えに染まりながら・・・" お互いに目だけ " で語り合う。その熱く恍惚な光景を。[第13週・3部]
若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その筆者の感想と新しい視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨の " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事。
今回も第13週・「風を切って進め」の特集記事であり、今回はその3部の記事ということになる。ちなみに、第13週・2部の記事をお読みになりたい方は、このリンクからどうぞ。
それで今回の記事は、第13週63話の後半部から65話のアバンタイトル部までを集中的に取り上げた記事となっている。また今回は分りやすい記事にするために、実際のストーリー展開とは違って " 順番を入れ替えた状態 " で構成されている。この辺はご容赦頂きたい。さらにこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成ともなっている。
この第13週はカット割りなどの演出面では、かなりシンプルでスタンタードなものを用いている。したがって『映像力学』的な視点からの分析や考察は少なく、演者の表情や所作、シーン設定に注目することでの解釈・考察を中心として展開する。またスポーツ心理学的な知見や、筆者の競技スポーツ経験の視点から捉えた分析・考察を行っている。
また、この特集記事ではおなじみの『DTDA』という手法 ( 詳しくはこちら ) も用いて、そこから浮き彫りになった登場人物や俳優の心情などを探りつつ、この作品の世界観の深層に迫っていきたいと思う。
○データや科学的な根拠への依存度と反比例するように・・・ " アスリートの感情 " が蔑ろにされていく
サポートしているパラ・アスリートの鮫島祐希(演・菅原小春)に、現在提供しているプランとは方向性が違う " 新たなプラン " を提案した、主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)。
上長となる朝岡覚(演・西島秀俊氏)にも相談もせずに、独断専行で新たなプランを提案し、鮫島も混乱させる結果となって詫びを入れる百音。
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朝岡は百音を咎めつつも、間髪入れずにこのように語る。
『朝岡 : ところが・・・ 「今は、こうだ」と提示してからが、" 私たちの勝負 " だったりもするんだよな。』
『朝岡 : 地球が動いている限り、気象は変化します。もしも状況が変化したのなら、私たちは即座に今、最適な " プランB " に移行する必要がある。』
思ってもみなかった話の展開に、あっけにとられる百音。
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さらに朝岡はこのように続けた。
『朝岡 : 永浦さんは " 何か変化 " を感じ取ったんでしょ? 』
鮫島に寄り添って1ヶ月弱・・・ その中で感じ取ったことと " 鮫島の思い " を代弁するが如く、堰を切ったように語り出す百音。
『百音 : 「面白くない」って言ったんです・・・ 鮫島さん。鮫島さんはレースを楽しむタイプなんだと思います。駆け引きとか、勝負とか、そういうのが好きで・・・ 「負けるもんか」って、土壇場で力を発揮する。』
『鮫島さんはレースを楽しむタイプなんだと思います』
百音は心理学的な知見を持っていなくても、その " 肌感覚 " で、鮫島が有している「自我志向性」という気質を完全に見抜いていた。また " 逆境の連続の人生 " というものを、これまで鮫島は歩んできたわけだ。
鮫島の快活でバイタリティーあふれる雰囲気もあって、つい忘れてしまうのだが、彼女は健常者ではない。彼女は競技のクラス分けで " T54 " に属しているため、脊髄損傷で下肢麻痺となったことが分ると思う。
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鮫島の下肢麻痺は先天的なものではなく、後天的なもの・・・ ということは、それまでは健常者としての人生もあったわけだ。しかしある日、突然に障害を負ってしまった。その絶望感は筆舌しがたい。それでも・・・
『「負けるもんか」って、土壇場で力を発揮する』
鮫島は負ってしまった障害をものともせず、前向きに、積極的に生きることを決意し、今では日本の車いすマラソン界の第一人者にまでになった。要するに彼女は、逆境になればなるほど武者震いを覚え、むしろそれさえも楽しめてしまう・・・ そのようなメンタリティーを持った人物像なのだろうと思う。
百音はさらに、このように続ける。
『百音 : 過去のデータや未来の予測は大事です。科学的根拠も・・・ でも準備万端、整えたら、その先は何か・・・ こう、本人の爆発力とか、楽しいって思う気持ちとか。そういうものが、勝負を分けるんじゃないかなって・・・ 感じました。』
ひと昔前の競技スポーツにおける各種プランニングは、データや科学的な根拠よりも、気合いや根性といった精神性を重要視していたことは否めない。しかし現在はそれが逆に振れてしまい、むしろデータや科学的な根拠に過度に依存しすぎているようにも、筆者には感じられる瞬間が多くなってきた。
そして、データや科学的な根拠に過度に依存するあまり、選手個々の心理学的特性や精神的特性、そして " 気持ちの部分 " を軽視し、目標の志向性に目を向けないことで、そのモチベーションを奪っている事例も少なくない。百音は、実は " その本質 " にも迫っていたのだ。そして朝岡も、彼女の言葉にしっかりと耳を傾けようとする。
『朝岡 : うん。で、最新の情報では、風の予報も変わってきていると。』
『百音 : 鮫島さんは " 強い風が吹く " と強いんです。』
『朝岡 : 「面白くない」か。フッ・・・ 彼女も勝負師だな。" プランB "
立ててみますか。』
『一同 : はい。』
朝岡も " 勝負の世界 " で生きた元アスリートだ。鮫島の思いが分らないわけがない。こうして「チーム・サメジマ」は、スタッフ一同で " プランB " を策定することになる。
○盟友の顔が夕映えに染まりながら・・・ " お互いに目だけ " で語り合う。その熱く恍惚な光景を。
選考会レースの3日前となった9月22日(木)、策定した " プランB " を提案するにあたり、鮫島に『Weather Experts』社に出向いてもらう。
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" プランB " のプレゼンテーションは、発案者であり、これまで最も鮫島に寄り添ってきた百音が担当することになった。
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最新の気象情報から判断すると、選考会レースの序盤は競技場は無風状態となるが、後半に強い風が吹くことが予想されるらしい。百音曰く、バックストレートでは追い風、ホームストレートでは向かい風となると語る。そしてこのように付け加えた。
『百音 : 向かい風を切り裂いて、全員ぶっちぎっていくのが鮫島さんのスタイルですよね? 』
『鮫島 : うん・・・ それやったら、どうするん? 』
そこで朝岡が策定した " プランB " の詳細について説明する。朝岡は、選考会レース当日にトラック内で強風が吹き始めると同時に、バックストレートの追い風で身体を休ませて、ホームストレートの向かい風で勝負をかけるという、鮫島が最も得意とする戦術に切り替えることを提案する。
一方、予報とは違って強風が吹かない場合には、これまで通りのコンスタントにラップタイムを刻んで、地道に標準記録を突破するこれまでのプランニングを適用するという。
ただし、やはり選考会レース当日には強風が吹く可能性が非常に高く、 " プランB " の方が標準記録を突破する可能性も高いと、「チーム・サメジマ」・スタッフ一同の結論が一致したと朝岡は語った。
しかしここで、神野マリアンナ莉子(演・今田美桜氏)が『でも・・・ 普通に考えて向かい風って " 逆風 " ですよね。キツイですよね・・・ 』を口を挟んだ。間髪入れずに百音がこのように語る。
『百音 : 鮫島さんは、逆風に向かっている時のほうが強いんです。』
『鮫島 : なんも知らんくせに。』
さて、これは神野の " プランB " に対するネガティブな意見に対して、百音がそれを打ち消す説明をするシーンだ。当然、最初は神野に視線を送りつつ話をする百音。しかし、
『鮫島さんは、逆風に向かっている時のほうが強いんです』
と語る瞬間に、百音は鮫島に熱い視線を送るのだ。
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この瞬間に鮫島の表情を捉えるカットに切り替わるのだが、最初の一瞬は憮然とした表情のようにも見える。そして百音から目線を外す所作をするところが非常に印象的だ。
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さて、この瞬間の鮫島の心模様を皆さんはどのように想像しますか?
筆者はこの瞬間、先日に鮫島自身が百音にぶつけた " この言葉 " が脳裏をよぎったのではないかと考えている。
『鮫島 : いや、あんた今更、何言うてんの? 感覚だけを頼りにやってきたから、勝てなくなったんやん。そやから数字で、データで、科学的な根拠を武器に勝とうと思ったんや。そやから私は、今ここにいるんとちゃうん!? 』
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そして鮫島は、自分自身にこのように問いかけてみた。
[ これまで拘ってきた自分のスタイルや哲学をかなぐり捨てて、たとえ目標が達成できたとても・・・ 私はそれで本当に満足できるのだろうか? ]
[ これまで拘ってきた自分のスタイルや哲学をかなぐり捨てて、目標が達成できなかった場合に・・・ 私は " その選択 " を本当に後悔しないのだろうか? ]
筆者は競技スポーツに取り組んだ経験があるのだが、鮫島の " 自分に対する問いかけ " は痛いほど理解できる。確かに競技スポーツに取り組んでいる以上、勝利を手にする、あるいは目標を達成することが、アスリートにとっての最大の使命であることは間違いない。
しかしその一方で・・・ " 勝てばなんでもいい " というわけではない。なぜ、アスリートが競技会や試合に出場しようとするのか? その動機が、
[ 自分自身の生き様や哲学を・・・ 競技というものを使って表現したい ]
[ 自分自身の生き様や哲学を・・・ 競技を通して多くの人々に見てもらいたい。知ってもらいたい ]
という感情が多くの部分を占めているアスリートは、決して少なくない。特に鮫島の場合には、自分自身の生き様や哲学の " 自己表現の場 " として、車いすマラソンという競技に取り組んでいたことは想像に難くない。その彼女が自身のスタイルを変えてまで、競技に取り組む意味と意義が本当にあるのだろうか?
そして鮫島は、このような一言を発して・・・ 百音にこのような表情を向けるのだ。
『なんも知らんくせに』
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苦労を共にしてきた盟友が " 夕映えに満面の笑み " を見せる。これまで " 女性同士の友情 " を描いた映画やドラマは数あれど・・・ ここまで爽やかで " 男同士のような友情 " を髣髴させるような光景を描いた作品が、過去にあっただろうか? 筆者には全く思いつかない 。『おかえりモネ』ファンで、このシーンを名シーンに挙げる方は少なすかもしれないが・・・ 様々な映画やドラマを含めても、筆者にとってはこのシーンが " 屈指の名シーン " に挙げられるのだ。
そして鮫島に『なんも知らんくせに』と言われ、ある意味ムキになって、このように語り続ける百音が微笑ましい。
『百音 : だって、そうです。自分でスポンサー見つけてプロになったり、朝岡さんの講演、聞きに行って「これだ ! 」ってサポートを頼んだり・・・ 』
『朝岡 : そうでした。』
『百音 : 「絶対、負けへん」って、" なにくそ精神 " が強いんです。』
この力説する百音を見つめる鮫島の表情が・・・ これまたグッとくる。
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力説する百音を見つめる鮫島は、まるで " 恍惚として聴き入っている "というようにも感じられて・・・ 彼女の " この表情 " には毎回、涙なしではいられない。
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