見出し画像

詩『摂理』

《生まれて死んで》は横に寝そべり、私を見つめている。

私は、死にたい、と言う。

《生まれて死んで》は額を合わせるぐらいの距離までにじり寄り、黒く冷たい腕を私の身体に巻き付け、抱きしめてくれる。

そのまま、私は目覚めないことを祈りながら眠りに付く。

翌朝目覚めた時、《生まれて死んで》は私の頭を優しく撫でる。

私は、生きたい、と言う。

《生まれて死んで》は身をよじって悶える。

生きたい、生きたい、と重ねる。

《生まれて死んで》は塩をかけられたナメクジのように縮んでゆく。

生きたい、と嗚咽で喉を潰しながら訴える。

《生まれて死んで》はとろとろと溶けて痕跡無く消えてなくなる。

間も無く、私の中から、生きたい、もまた痕跡無く消えてなくなったことを知る。

ある日、振り返るとそこに、《生まれて死んで》が立っている。

《生まれて死んで》は暗い表情でこちらに向かって手を振っている。

私も手を振り返す。

私は《生まれて死んで》にそばにいて欲しい、と思う。

《生まれて死んで》との距離は埋まらず、むしろ離れていく。

私はようやく世界の摂理を理解する。

全てが手遅れだった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?