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【創作怪談】ゆっくりと
全面ガラス張り、いけ好かない高層ビルの9階で働いている。外から見たらお洒落なのかもしれないが、結局いろいろな(日当たりや守秘義務的な)問題があって基本的にブラインドを閉めているので、仕事中の絶景などとも無縁で味気ない職場だ。
しかし、このご時世になって換気のことを会社が気にして、定期的に一部のブラインドと窓を開放して空気の入れ替えをするようになった。それがなんとも新鮮で心地よく、鬱屈した気持ちを癒す時間になった。
いい天気だなぁ
なんて、ぼんやり眺めているとフワッと目線の上のほうから何かが降ってきた。
あ……
時が止まったように感じることって本当にあるんだなぁ、などと悠長なことを考えてしまうくらいゆっくり、スローモーションでそれは降ってきた。
黒いストッキング
綺麗な脚だなぁ
タイトスカートだ
ああ、両手がぶらんと浮いてる
女の人だ
顔
顔は見ちゃ、ダメだ
しかしそんな余裕があるわけがない。僕はその顔を見てしまった。
彼女は笑っていた。
瞬間、ドスンともグチャとも違う歪な音がした。遅れて悲鳴があがる。フロアの人間たちも「なんだ、なんだ」と窓際に集まりだした。
僕は動けなかった。
彼女は笑っていた。
高層からの飛び降りは途中で意識を失うことがあると聞いた。あの時、彼女は全てから解放されていたのだろうか。
あんな幸せそうな顔を僕は見たことがない。
僕も、あんな。あんな笑顔ができるのだろうか。
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