「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」と同じ理論で不安を相殺してるという話。
Amazonプライム・ビデオで久しぶりに『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』を観た。久しぶりだが大変面白い。いや、面白いとは違うか。なんだろう、聴き心地がよいとでも言うのかな。妙な心地よさがある。
以来、僕のなかで何年かに一度訪れる百物語や体験談系ホラー作品ブームが到来している。家でひとりで居るのにずっとそんな映画とか動画を流している。正直、ひとりで居る状態で観るのは怖いのだが、止められない。百個の動画を観たら何か起きるんじゃないかと変な不安すらある。
だが、止められない。
「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」とは『貞子vs伽椰子』で超絶クールな霊媒師・常盤経蔵がクライマックスに向けて叫ぶセリフだ。『リング』の貞子を止める為に『呪怨』の伽椰子を使って相殺させようというトンデモ作戦、最高だと思うのだ。
たぶん、『残穢』を観たことで今のコロナ禍における「不安」を別の「不安」で相殺しようと深層心理下で自己防衛本能が働いているんだろう。「バケモンにはバケモン」と同じ理論である。
なんて不健康なんだろうとは思うが、まあ今はそういう気持ちなんだから仕方ない。バランス取るためにオードリーのオールナイトニッポンとかも聴きまくっている。バランスもだいじ。
そうだ、ついでにオススメな百物語系の作品。
『残穢』は『鬼談百景』で語られた百物語の最後の話という設定。『残穢』の主人公である小説家(竹内結子)のナレーションで紡がれる10本の短編から構成されている。
『残穢』は淡々とした怪異の検証と取材をしているだけの話なので、いわゆるビックリ箱的な突然ドーンと化け物が出てくることもない。そこが退屈だという評価もある。そこが良いんだけどね。竹内結子の淡々とした演技がすごく心地いいんだけどね。
そこで『鬼談百景』はオムニバスで色んな監督が撮っているものなので個性が出ている。ドーンと突然化け物が現れる話があったりもする。“いわゆる”なホラーが好きな人は『残穢』よりこっちのが好きかもしれない。
個人的には『一緒に見ていた』と『赤い女』が好きかな。特に『赤い女』のアグレッシブな化け物が、2004年の『ドーン・オブ・ザ・デッド』みたいで良い。「飛んだ!走った!転がった!」みたいな。
逆に『一緒に見ていた』とか『尾けてくる』は、ただただ霊にジッと見られているだけの話。黒沢清監督作品のようなジットリと汗ばむ怖さが最高。
小説でオススメを2冊。三津田信三による【作家三部作】と呼ばれる作品の3作目にあたるのがこの『蛇棺葬』と『白蛇堂』だ。『忌館 ホラー作家の棲む家』と『作者不詳 ミステリ作家の読む本』を読んでからだと尚いいのだが、この2冊だけでも十分面白い。
【作家三部作】は作者の三津田信三さんと同姓同名の作家が主人公というメタ的な世界観で、『蛇棺葬』は白蛇堂というお堂に纏わる不思議な体験談を怪談作家・三津田信三が聞くだけの話。それだけなのにとんでもなく怖い。
延々とジメついた因習に溢れる村の話を聞き、時折チラリと姿を現す【マーモウドン】という得体のしれない化け物の気配に引きずり込まれていく。
そしてそのまま『白蛇堂』を読むと、『蛇棺葬』で語られた(広められた)ことによって【マーモウドン】の怪異が怪談作家の身の回りにヒタヒタと押し寄せてくる恐怖に繋がっていく。
トイレに行けなくなるのは勿論、廊下の先の暗闇とか街灯の当たっていない路地の闇、ドアを開けることすらも怖くなってくる小説。
外出自粛で引きこもっているのに、更に陰に籠るようなものを何故に薦めているのか自分でもよく分からないのだが、怪談って良いですよね。
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