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古さは皆無!最高のエンタメ映画『太陽を盗んだ男』

とてつもなく面白い映画に出会った。
2017年発売の「映画秘宝EX 究極決定版 映画秘宝オールタイム・ベスト10」の第6位に選ばれた時から観よう観ようと思っていた『太陽を盗んだ男』(1979年公開)である。
昨年からNETFLIXで配信が開始されたこともあり、ようやく観るに至った。
ツッコミどころはありつつも、それらを意に介さない出来栄えに度肝を抜かれた。

https://www.netflix.com/title/81318400?s=a&trkid=13747225&t=cp

映画の見どころ
① 沢田研二(以下、ジュリー)の魅力全開
② ぶっ飛んだアクションそしてジュリーと菅原文太のブロマンス
③ 時代の普遍性

「誰でも原爆を作ることができる」
中学校の理科教師である沢田研二(以下、ジュリー)演じる主人公、城戸誠は授業で生徒にそう語り、自身の手で実際に原爆を作り上げてしまう。
原爆があれば自分の欲望を何だって実現できる。
歯向かう者はいない。
城戸は手始めに「ナイター中継を試合終了まで放送すること」を警察に求める。
菅原文太演じる警部、山下らの働きによって要求は実現され、城戸はナイター中継を最後まで観ることができる。
原爆を完成させた時、ナイター中継が継続された時、ジュリーの喜び方の何と可愛いこと。
城戸は純粋なのである

その後、何でも要求できるにも関わらず、城戸は自分自身が何をしたいのかが分からない。
原爆に向かって「お前は何がしたいんだ」と話しかけるシーンは、彼の主体性の無さを浮き彫りにする。
結局城戸は、ラジオ番組のパーソナリティである零子に何でもできるとしたら何がしたいかという質問を投げかけ、返ってきた答えを第二の要求とする。

原爆を盾に様々な要求をするからと言って、城戸には思想がある訳ではない
それどころか何かしたいことすらもない。
何だってできるというのに。
とてつもない閉塞感を感じさせる。

その後映画の展開は、城戸、山下、零子を中心に一気に加速する。
城戸と零子と警察それぞれの化かし合い、ド派手なカーチェイス、爆破、銃撃戦……。
この辺りはアクション映画としての楽しさ満載であり、テンション爆上がりである。

特にラストの城戸と山下のタイマンは見逃せない。
理解を求める男と許すことのできない男、相容れない二人の正に決闘。
菅原文太の演技がとんでもなく素晴らしい。
全然くたばらねーのな!
映画史に残る対決なので是非ともご自分の目でご確認いただきたい。

ちなみにNETFLIXのあらすじには、「教職への情熱を失い、無気力な日々を送る」と城戸について書かれている。
しかし、むしろそういった背景および日常を意図的に排除している映画であり、その点が非常に効果的である。
原爆を作ろうと思うまでに城戸に何があったのか、仕事における悩みや家族・生徒との関係はほぼ描かれない(生徒からは頼りない、信頼されていないという多少の描写はあるものの)。
映画公開当時は、しらけ世代(1960年代に活性化した日本の学生運動が鎮火したのちの、政治的に無関心な世代 -wikipediaより引用)という冷めた若者の時代であった。
それらを直接描くことを手放し、人物にあえて何も背負わせないことで、城戸を時代の象徴として際立たせることに成功している。

更には、何がしたいかが分からず要求さえも人に委ねてしまう姿やそれでも突っ走っていかなければいけない状況は、現代にも通じるところがあり、古さを感じさせない普遍性さえも獲得していると言える。
時限爆弾の針はいまだに進み続け、あの音を響かせているのだ。

アクション映画として面白く、時代を問わず息づくことができる映画という意味で、最高のエンタメ作品である(当時の新宿ピカデリーが見られるのも映画好きとしては嬉しい要素の一つだった)。

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