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番外編 浄土真宗東本願寺派「牛久大仏」に行ってみた。

真の宗教的テーマパーク

 私はかつて「新興宗教施設は大人の無料テーマパーク」であるとnoteに綴った。しかし、当然のことながら新宗教の施設は信仰、礼拝のために建造されるものであり(さらなる布施のためという説も有力である…)娯楽やレジャーのためのものではない。一方で宗教施設の観光施設としての側面が宗教性を凌駕しているケースは枚挙にいとまがない。明治神宮や法隆寺、清水寺、斎場御嶽etc…これらについては、おそらく歴史的な価値を求めて観光客が訪れるのだろう。では牛久大仏はどうだろうか。牛久大仏の年間観光客数は2014年で48万人(https://www.tsukubair.co.jp/wp/wp-content/uppdf/mreport/2017/09/201709_09.pdf 古いデータで申し訳ない。おそらく併設された霊園の利用者も含まれていると筆者は考える。)を計上したという。単純計算で牛久市民の6倍である(筆者のリサーチ不足により年間50万人ほど来訪する有益な比較対象を見つけられませんでした)。ところが牛久大仏の完成は1993年である。歴史は浅い。なぜ牛久大仏にはそれほどの集客力があるのだろうか。私は「牛久大仏」のテーマパーク性に答えがあると考えている。テーマパーク性とは非日常性アトラクションである(筆者は観光論ド素人なので学術的な定義ではないのかもしれないが本稿ではこの2点を以てテーマパーク性とする。また念のため明記しておくが本稿の「テーマパーク」という言葉には宗教的価値を揶揄するような意味はない。)。牛久大仏はそれ自体が非日常性を含有しかつアトラクションとなっている。今回は真の宗教的テーマパークである「牛久大仏」についてまとめてみた。


そもそも牛久大仏って?

 読者の中には牛久大仏の名前を耳にしたことのない方もいらっしゃるだろう。牛久大仏とは青銅製で全高120メートルの大仏である。120mという高さは自由の女神の全高の3倍に相当し、青銅製の立像としては世界最大である。正式名用は「牛久阿弥陀大佛」である。名称からもわかる通り本尊は阿弥陀仏である。120mという高さは阿弥陀仏が放つ12の光にちなんで決定されたそうだ。宗派は浄土真宗東本願寺派。

大きさのわからない写真ですみません。

 「牛久浄苑」という公園型複合墓地に併設されている。浄苑の敷地は12万坪。牛久大仏の拝観料は大人1人800円(大仏胎内と庭園の拝観)である。年中無休。
 茨城県牛久市に所在しており、圏央道「阿見東I.C.」から車で3分ほど。付近には「あみプレミアムアウトレット」も所在。物心両面を豊かにしてくれる立地である。
 牛久大仏の着工は1983年。建立に10年を要した。総工費は出典不明のネット情報によれば約80億円である。施工は動く実物大18mのガンダムが立つ「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の建設にも参画した川田工業株式会社である。建築にあたっては着脱可能な外壁と自重、荷重をすべて柱と梁に負担させるカーテンウォール工法が採用された。建築の詳細については下記URLの川田技法vol13『東京本願寺「牛久浄苑」阿弥陀如来像建築工事』を参照されたい。

https://www.kawada.co.jp/technology/gihou/pdf/vol13/13_ronbun10-1.pdf


大仏の中に入ってみた

実物を見るとウルトラマンやエヴァンゲリオンなどのフィクションの存在を想像しやすくなる。

 牛久大仏を訪れると最初に迎えてくれるのが仲見世である。ここでは土産用の茨城銘菓や仏具、大判焼といった軽食を手に入れることができる。食事処も所在。仲見世の公式コピーは「楽しい。おいしい。土産街」である。梨ソフトクリームがおいしかった。
 仲見世通りを抜けると料金所がありその先が庭園となっている。そのまま進むと大仏の正面に發遣門という門がある。發遣門の上部には釈迦像が大仏と対面している。
 そのまま大仏に向かって進むと大香炉がある。これは日本一の大香炉で胴回りが2m50cmの青銅製である。大仏の巨大さに感覚がバグるため、香炉についてはさほど大きいとは感じない。
 大仏の足元には「本願荘厳の庭」と呼ばれる浄土式庭園がある。全景写真は撮り忘れた。浄土式庭園の代表格は平等院鳳凰堂である。東本願寺に古くから伝わる鎌倉時代の作庭文献「山水秘伝抄」に基づいて造られた伝統的な浄土式庭園とのこと。池の鯉に餌をやることもできる(100円)。

本願荘厳の庭の鯉。我先に餌を求める姿はむしろ地獄を想起させる。しかしこれは人間の生き方そのものであり阿弥陀仏の慈悲がなければここから出ることはできないのかもしれないとも感じた。

 また庭園内には「群生海」という大きな池がある。また庭園内では季節ごとに様々な花を楽しむことができるそうだ。個人的な感想にはなるが、庭園には特段の魅力を感じなかった。もちろん散歩を楽しむには十分である。酷暑でなければ…
 敷地内にはカフェや小動物園で構成される「ふれあいガーデンテラス」という施設がある。ウサギ、リス、モルモット、やぎ、羊などが放し飼いされており、餌やりも楽しめる(100円)。猿の曲芸も行っており、子供でも飽きることのない施設になっている。
 大仏胎内の入り口は大仏の背面にある。2023年8月現在では三密を回避するために入場制限が行われていた。脱靴して胎内に入ると真っ暗な部屋に通される。ここは煩悩の世界を表現しているとナレーションがあり、一分間ほど暗闇の中に滞在することになる。部屋の扉が開かれると光が差し込み12体の仏像が並ぶ「光の世界」に通される。さらに進むと極楽浄土をイメージした光のトンネル「観想の間」が続く。要するにTDLのアトラクションのような造りである。もちろん寺院には古くから清水寺の胎内巡りのような体験的な要素はあった。牛久大仏はそれをモダナイズした宗教施設であると言えるだろう。階段を上って2階に行くと大仏建立の工程が写真で紹介され、工法の紹介パネルや、大仏の親指の実物大模型などが展示されているスペースがある。また同階には法話等を聴講できる「念仏の間」や写経体験ができる「知恩報徳の間」が存在する。写経席は77席もある。2階からは台座部分テラスへの出入り口もあり台座から外側に出て大仏の外面に金箔を貼ることもできる(有料)。以上の説明で察しがついているとは思うが、大仏の内部には広いスペースがある。3階には「蓮華蔵世界」と呼ばれる空間がある。約3,400体の小型の胎内仏が安置されており、一面金色の豪華絢爛(成金趣味ともいう)な空間である。この空間は牛久大仏における本堂の機能を果たすとともに故人の永代供養の場となっている。毎日朝夕に読経をあげ、毎年6月には「永代経法要」を実施している。胎内収骨は10万円。分骨可能。4階と5階は「霊鷲山の間」と名付けられている。4階には土産コーナーとなっており、線香や数珠、アクセサリー、お守りなどが販売されていた。5階は大仏の胸部に位置し85ⅿの高さにある。小窓から四方を望むことができる。スカイツリーや富士山も見ることができるらしいが、夏であったためか視程が悪く見ることはできなかった。また明治時代にシャム王国から贈られた仏舎利が安置されており実際に遺骨らしきものを見ることができる。壁面にはガウタマシッダールタの生涯がパネルで展示されている。以上が大仏胎内の様子である。
 シーズンごとのイベントも充実している。盆に行われる「万燈会」では無数の灯籠を吊し、灯明をともす行事だ。大仏のライトアップや花火が執り行われる。大晦日から三が日にかけて行われる「修正会」では大晦日に花火が打ち上げられ、「ナ・ム・ア・ミ・ダ・ブ・ツ」のかけ声と共に新年を迎える行事だそうだ。

頭頂部には避雷針が見える。少なくとも雷からは衆生を救ってくださる。60m以上の建造物のため航空障害灯も装備されている。

 牛久大仏の外面は2023年現在、青みの帯びた灰色であるが数十年の月日とともに表面の青銅が徐々に酸化し青緑色に変化していくそうだ。また一つ老後の楽しみが増えたのは僥倖である。

親鸞聖人本廟

 牛久浄苑には親鸞聖人から歴代の宗主が奉安されている廟がある。私は真宗信徒ではないが私淑する親鸞聖人の墓前に参ることができたのは思ってもいない幸運だった。
 余談になるが親鸞聖人のご遺骨は分骨されており、聖人の墓所は複数存在する。西本願寺にある本願寺派の「大谷本廟」、東本願寺の飛地境内にある真宗大谷派の「大谷祖廟」が有名である。混乱を避けるため再度記述するが「牛久浄苑」は東本願寺派に属している。東本願寺派は1969年に真宗大谷派から分裂して成立した。これは「お東騒動」とも呼ばれ保守派と改革派の対立が原因である。

遠くから手を合わせることしかできなかった。


非日常性とアトラクション

 牛久大仏の非日常性は言うまでもなくその巨大さと浄土を模した施設の環境づくりであろう。実物を目にしたらそのスケールに感嘆するほかない。浄土を模した環境づくりは浄土式庭園や胎内の装飾に顕著である。胎内の展示に浄土真宗や親鸞の思想を詳細に説明するものはなかった。それでも多くの無宗教と言われる日本人にとって施設の持つ宗教性はそのまま非日常になりうるだろう。
 牛久大仏のアトラクションとは仏教世界の疑似体験を可能にするすべての施設である。参拝者は文字や言葉ではなく体験を通じて真宗の教義を知ることができるということだ。真宗の教義や親鸞聖人を全く知らない義務教育を修了していない子供でも仏教や真宗が何であるのかを知識の一歩手前の状態として認識できるのではないだろうか。
 改めて牛久大仏が宗教的テーマパークであると主張したい。だからこそ多くの観光客をアトラクトできるのだろう。
 ところで読者諸兄は茨城県と聞いてどんな観光地を思い浮かべるだろうか。水戸の偕楽園やクラウドファンディングで炎上した納豆定食屋、アニメ好きには大洗が関の山ではないだろうか。牛久大仏は単なる宗教的テーマパークではなく都道府県魅力度ランキングで低迷する茨城県を救う阿弥陀仏なのだ。ぜひ南東北を旅行する際には立ち寄っていただきたい。


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