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新興宗教「立正佼成会」大聖堂に行ってみた。

1 創価学会と並ぶ新興宗教

 我が国において新興宗教と言われて何が思い浮かぶだろうか。827万世帯を擁する「創価学会」、ニュースでおなじみの「統一教会」、教祖実子が反旗を翻している「幸福の科学」など無数に思い浮かぶであろう。今回はかつて「創価学会」と信者獲得競争および熾烈な批判合戦を行っていた「立正佼成会」の本部施設に行ってきた。
 現在「立正佼成会」はかつてほどの認知度はないと思う。しかしながら吹奏楽の甲子園と呼ばれる「全日本吹奏楽コンクール」は「立正佼成会」の本部施設にあった「普門館」で行われていた。このように「立正佼成会」は意外と身近な新興宗教の一つである。 

2 立正佼成会とは? 

概 要

 「立正佼成会」は1938年に庭野日敬(庭野鹿蔵)、長沼妙佼、村山日襄らにより立教された日蓮系、法華経系の仏教系新宗教である。設立当時の名称は「大日本立正交成会」。庭野はもともとは同じく法華経系の新宗教「霊友会」の会員であったため「立正佼成会」もその流れを汲んでいる。庭野の霊友会脱退の理由として当時の「霊友会」会長、小谷喜美が法華経を軽視し弥勒菩薩信仰を取り入るなどしたためとされている(法華経系の新宗教で法華経を軽視することがあるとは、にわかに信じがたいが…)。なお村山日襄は右派日蓮宗系の国柱会の出身であったが1943年に脱退。以降は庭野と長沼の体制となる。当初は姓名判断・霊能指導により「貧病争」の苦しみから救い、仏道精進に導くというスタンスであった。なおこのスタンスは長沼の死後に転換され、霊能指導を払拭、原始仏教や法華経の研鑽への回帰を強く打ち出し、活動の中心も法華経を背景とする先祖供養・教学研修・人間修養へと変化する。
 霊友会と同様に在家の仏教教団であり、在家が法華経により先祖供養を行う。特徴としては法華経と原始仏教の思想が融合している。
 庭野日敬の死後は実子である庭野日鑛が第2代会長となり現在に至る。これは個人的な感想過ぎないのだが…立正佼成会に限らず新興宗教団体の後継者は大概、実子が指名されることが多い。しかしながら教義に血縁者を指名する根拠がないものが、浅学な私の知る限りではすべてである。後継者の正統性をどのように説明できるのか甚だ疑問である。
 宗教年鑑(令和4年度)によれば信者数は約208万人。

庭野日敬 

 次に教祖、庭野日敬について解説する。おそらく「立正佼成会」の歴史も同時に説明できると思う。
 庭野は1906年に農家の次男として新潟県で生まれる。貧しくも大家族で幸せな家庭であったとのこと。16歳で上京し米穀店や薪炭店に勤め、漬物店や牛乳店を営む。恩師である霊友会新井助信や長沼政(のちの長沼妙佼)と出会い、自分の子供の病気をきっかけに信仰に目覚めた。易学や修験道など様々な信仰遍歴を重ねた末、法華経信仰の道に入る。
 徴兵時代は非常に優秀な水兵であったようで戦艦長門および戦艦比叡の砲手を歴任。なお長門時代の上司である砲術長は草鹿任一少佐(当時)であった。戦艦比叡には御召艦(天皇が座上する軍艦)となる際に抜擢されたとのこと。上官からの信頼の厚い人であったのだろう。戦艦長門といった旧日本海軍を代表する軍艦に乗艦するには相応の海兵団での成績も必要であったはず…。なお阿川弘之が著書「軍艦長門の生涯」で言及しているので参照されたい。戦中にも海軍からの招集があったが海兵団での身体検査で不合格とされた。
 1950年代後半には、会の教勢が急速に伸びていく中で霊視・霊感による半ば強引な布教活動がマスコミから格好の批判の的となった。文部省は「人権蹂躙の疑い」を警告。また日弁連からの人権侵害事件に関して「圧迫的暗示や脅迫的なものがあった」と指摘する調査報告書が提出され、衆院法務委員会から参考人召喚を受ける。また読売新聞は本部用地取得における不正疑惑を報道。庭野はこの批判、報道に対し反発せず、信者や外部有識者を交えた諮問委員会を設けて教団の在り方を見直した。読売新聞を批判により教団を正しい方向へ導いてくれる存在であるという意味で「読売菩薩」と呼称していた。
 また同時期には長沼のカリスマ性ゆえに、一部教団幹部より副会長の長沼を会長に擁して新教団独立を模索する動きが起こったもの、持病の悪化により長沼が死去した事で自然消滅し事態は収束した。その後、長沼を推した教団幹部について特に処分等は行わなかった。
 庭野は他宗派との宗教協力に力を入れていた。日本宗教連盟理事長などを歴任。1965年には異教宗教者として初めて第二バチカン公会議に招聘された。その際、当時のローマ教皇から諸宗教の宥和を説かれたことをきっかけに、国際的な諸宗教の対話による平和の実現を決意。世界宗教者平和会議、アジア宗教者平和会議を創立。また1980年、前年9月にテヘランで発生したアメリカ大使館人質事件の早期解決と人質の解放を求め、宗教指導者のホメイニ師と会談を行った。国内では新日本宗教団体連合会を創立。1979年には宗教協力による平和活動の功績で「宗教界のノーベル賞」といわれるテンプルトン賞(有名受賞者はマザーテレサ、ダライ・ラマ14世)を日本人で初めて受賞し、ウィンザー城にて基調講演を行った。日蓮宗系の諸派は排他的な教団が多いが「立正佼成会」は融和的であることがわかる。
 1999年、老衰のため92歳で死去した。

年会費と布施

 年会費はなんと1200円である。正確にいえばは月に100円の会費のみである。入会金さえない。コストコとは比較にならないほど安い。
 とはいえ他宗教同様、修行の一環として布施は推奨されているようである。ネットの情報ではあるが、法座等の集まりの際は毎回1000円程度を包んで持参すのが通例である。布施を加味すると年間の費用は一世帯で10~20万くらいである。習い事の月謝を考えれば(ゴールドジムを例とすると月会費が14300円)、それでも安いのかもしれない…。
 また「立正佼成会」は葬儀等を執り行っていないが、戒名は授けているようである。こちらの費用については明確な定めがなく、非会員の方が3000円で戒名を授かったこともあるようだ。
 他の新興宗教と比べ信者の経済的負担は少ないものの、金銭トラブル等が全くないわけではないようではある。

関連団体 

 「立正佼成会」はいくつかの関連団体を擁している。ここでは有名な団体のみ紹介する。
 「立正佼成会附属佼成病院」は「立正佼成会」が運営する病院である。会員でなくとも受診が可能となっている。1999年には小児科医の過労死事件が起こった。
 「東京佼成ウインドオーケストラ」は1960年に発足した「立正佼成会」を母体とするプロ吹奏楽団である。楽団創設理念は吹奏楽を通しての青少年教育事業。2022年からは社団法人化し立正佼成会から独立している。
 「佼成学園」という学校法人も有している。運営している学校は「佼成学園中学校・高等学校」(男子校)、「佼成学園女子中学校・高等学校」および佼成学園幼稚園。。宗教法人が設立した学校であるが、宗教に関した教育・授業はほとんど無く、あるとしても一年に一度だけの創立記念式典のみである。また、立正佼成会とは無関係な生徒、教師が大半を占める。なお立正大学は同じく日蓮宗系の仏教系大学であるが関連はない。

大聖堂から望む佼成病院

諸宗教との関係性

 「立正佼成会」が基本的には諸宗教と良好な関係を保っていると思われる。ここでは創価学会と統一教会についてのみピックアップする。
 創価学会との熾烈な信者獲得競争をしていたのは先述した通りである。信者獲得活動に対して、様々な行過ぎや人権侵害等、公共の福祉に反するという訴えが各方面より度々なされた。これらの不当な宗教活動に対して警告を発する「不正なる宗教活動に対する決議」が衆議院法務委員会において満場一致でなされた。なお現在ではこのような布教活動はしていないようである。
 統一教会の日本初代会長の久保木修己は立正佼成会出身である。久保木が立正佼成会を去った際には、庭野の指示で統一教会の教えを学んでいた青年部の約50名も統一教会に転じた。

3 立正佼成会の教義

 とりあえず「法華経」を参照していただきたい…の一言で終わらせるわけにはいかないので解説していく。

本 尊

 本尊は「久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊」である。これは「この世に実在し、仏説を説いたガウタマシッダールタの姿と、法華経に説かれている久遠の本仏を一体化し、目に見える形であらわしたもの」で、本尊に帰依することで、一切衆生の成仏(ブッダに至ること)というブッダの願いを自分自身の願いとするとのこと。

経 典

 法華三部経つまり無量義経、妙法蓮華経(法華経)、仏説観普賢菩薩行法経(観普賢経)を所依の経典としている。
 無量義経は法華経の序論に当たる経典。実相の法(無量義)について説いたもので、とくに今まで説かれてきた教えはいまだ真実を顕わしていないが、これから真実の法が説かれるとして法華経の説かれる伏線が示されたものである。
 対して観普賢教は普賢菩薩を観ずる方法と六根の罪を懺悔する法、およびその功徳が中心内容となる。

法華経

 法華経については一般的な内容、解釈を説明する。そもそも法華経はサンスクリット語で「サッダルマ・プンダリーカ・スートラ」といい、これは「白蓮華のように最も勝れた正しい教え」を意味する。成立については原本が紀元 1 世紀以降 (入滅 500 年後)にインドで編纂されたという説が有力である。したがって非仏説の教典である。成立の歴史的背景としては教団の権威主義化及びそれに反発する大乗仏教の興隆があげられる。28章節の釈迦とその弟子たちの会話が主な内容となる仏典であり、その主張を最大限に乱暴かつ簡潔にまとめると、「全ての人間が平等に救済される」、「原始仏教、原点に還れ」でる。
 キーワードとなる「一仏乗」という言葉のみ説明する。乗は乗り物の意で人々を乗せて仏教の悟りに赴かせる教えをたとえたもの。仏の教えは人々の資質や能力に応じて声聞乗(仏弟子)、独覚乗(独りで覚った者)、菩薩乗(覚りが約束されている者)の三乗に分けられるが、この三乗は唯一かつ真実の教え(一仏乗)に導くための方便にすぎず、一仏乗により全ての人間を救済するとする思想である。

基本信行

 次に「立正佼成会」の会員となるとどのような宗教的実践が必要になるのか解説する。
 第一に「ご供養」である。これは朝夕に家庭で読経することである。これには先祖供養の意義もある。なお朝のご供養では、精進を誓い、夕べには感謝を示す。
 第二が「導き・手どり・法座」である。「導き」は他の人への布教活動を、「手どり」はサンガ(信仰の仲間)の信仰をサポートすることを意味する。「法座」信者同士の座談会である。具体的には、法座主と呼ばれるリーダーと、悩みを抱える人との対話がなされ、また他の人が自身の受けとめ方を話すという会話が展開される。テーマは行事をする前の心構えの法座、行事の後の振り返りの法座、功徳の確認をする法座、講演会のときの感想発表の法座、かみしめ法座、研修会・学習会での思惟の分かち合いの法座等、様々である。「法座」のようなコミュニケーションを伴う宗教的実践に魅力を感じている信者が多いものと推察する。
 第三が「ご法の習学」である。これは教えを正しく会得し、それを自分の日常生活と照らし合わせて考え、このことを絶えず繰り返すことである。

総戒名

 総戒名とは霊友会系(日蓮系新興宗教)の多くで用いられている、その家の本尊で先祖を祀るものである。立正佼成会では「諦生院法道慈善施先祖 ○○○○ 家徳起菩提心」となる。詳細については以下の『中央学術研究所紀要47(2018)「総戒名」と「大悲生所善義起菩提心」戒名について(小畑貴志)』を参照されたい。なお中央学術研究所は立正佼成会の研究機関である。

http://echo-lab.ddo.jp/Libraries/%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E5%AD%A6%E8%A1%93%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80/%E7%B4%80%E8%A6%8147(2018)/%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E5%AD%A6%E8%A1%93%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%E7%B4%80%E8%A6%81%E3%80%80%E7%AC%AC47%E5%8F%B7%20003%E5%B0%8F%E7%95%91%E3%80%80%E8%B2%B4%E5%BF%97%E3%80%8C%E3%80%8C%E7%B7%8F%E6%88%92%E5%90%8D%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E5%A4%A7%E6%82%B2%E7%94%9F%E6%89%80%E5%96%84%E7%BE%A9%E8%B5%B7%E8%8F%A9%E6%8F%90%E5%BF%83%E3%80%8D%E6%88%92%E5%90%8D%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%8D.pdf


会員綱領

 最後に会員綱領を紹介する。

『会員綱領』
立正佼成会会員は
本仏釈尊に帰依し
開祖さまのみ教えに基づき
仏教の本質的な救われ方を認識し
在家仏教の精神に立脚して
人格完成の目的を達成するため
信仰を基盤とした行学二道の研修に励み
多くの人々を導きつつ自己の練成に努め
家庭・社会・国家・世界の
平和境(常寂光土)建設のため
菩薩行に挺身することを期す

立正佼成会公式HP
https://www.kosei-kai.or.jp/official/faith/platform/

4 大聖堂に行ってみた

 所在地は東京都杉並区。東京メトロ方南町駅から徒歩5分。都心に広大な敷地を所有している。羨ましい。付近には佼成病院や佼成学園中学校・高等学校など関連する施設が多数所在している。
 大聖堂の開館時間は8:45~12:15。会員でなくとも見学が可能である。私たちは念のため見学前に警備受付に赴き見学の許可をいただいた。
 なお大聖堂内の(許可を得ないでの)撮影は禁止であった。見学される方は注意されたい。

大聖堂

大聖堂玄関

 大聖堂は1964年に落成。建設には八年を費やしたという。法華経が円経と言われることから円形とされるなど「立正佼成会」の教えを表した建物となっている。また柱の本数も「十二因縁」「四諦」「六波羅蜜」などの仏教教義にちなんだ数となっている。入り口には文殊菩薩、弥勒菩薩、普賢菩薩の三菩薩の漆画が掲揚されている。
 聖堂内部中央には本尊である5メートルほどの「久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊」像が安置されている。その内部には庭野が写経した法華三部経が収められているらしい。またパイプオルガンも備えられており、毎日行われる宗教儀式の際には必ず仏賛歌などが演奏されるようだ。仏像とパイプオルガンという独特の組み合わせを味わうことができる。内部については落ち着いた印象で個人的には東南アジアのモスクを思い出させるような雰囲気であった。内部一階には売店があり儀式用の衣服を購入できる。二階にはフードコートのような食堂があった。

売店で売っていたお土産メダル(300円)

 大聖堂の屋上にも行くことが可能である。屋上には尖塔と宝塔がある。屋上からは都庁をはじめ新宿のビル群を眺められる。

法輪閣

法輪閣

 法輪閣は1978年に完成した巨大な会議場(のような施設)である。宗教者等を招くような行事をする際に使用しているようだ。日本庭園を備えている。なお内部を見学することはできなかった。

付属の日本庭園

一乗宝塔

 一乗宝塔は、庭野の顕彰事業として建設された。本体は直径2メートル70センチ。屋根と相輪部分はブロンズ製。一乗宝塔全体の高さは約10メートル、幅約5メートル。内部に庭野の遺骨が安置されている。

開祖記念館

 立正佼成会のいわば博物館である。展示内容としては庭野の生涯および遺品がメインである。じっくり見ると一時間程度かかる。個人的な感想になるが、諸新興宗教同様、遺骨が安置されている一乗宝塔しかり教祖への個人崇拝の色が強いと感じた。なお撮影禁止。

普門館(跡地)

跡地に安置されている観世音菩薩像

 全日本吹奏楽コンクールなどでも活用され、「吹奏楽の甲子園」と呼ばれていた「普門館」は耐震強度が理由で2018年に解体された。現在では芝生の広場となっており、隅に観世音菩薩像が安置されているのみとなっている。私が所有者なら売るか商業施設を建てていると思う。

5 おわりに

 今回は「立正佼成会」を見学した。基本的には敷地内を自由に見学が可能であり、オープンな印象を受けた。また大聖堂も非常に目立ってはいるものの、奢侈な印象を受けるものではなく非常に落ち着いた雰囲気であった。教団職員や信者の方とお話しする機会がなかったのは残念である。
 他の新興宗教同様、勧誘活動等はなかった。ぜひ皆様にも足を運んでもらいたい施設の一つである。
 

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