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科研費指南本の「一行(+α)情報」

 来年度科研費を意識する季節になりました。準備は順調に進んでいますでしょうか。

 既にご存知の方も多いと思いますが、科研費獲得に照準を当てた指南本がいくつか出版されています。科研費申請において肝心なことは、ハウツーよりも研究の中身であることは論を俟たないのですが、申請書のエディットをしていると、申請者の方が依拠する情報に限りがあるのではと感じられることが、少なからずあります。所属研究機関のURAなどによる講習会が開催されている一方で、長年の慣習のままに何となく書いてしまっている、あるいは些細なことをほかの人に相談するのは気が引けると感じている方もいらっしゃるかもしれません。

 指南本は、「当たり前すぎて他人に聞けない」と皆様が感じていらっしゃるようなことも含めて丁寧にカバーしていますので、いくつか絞って紹介します。著者の利益を侵害しないため、「一行情報」的にごく簡単ではありますが、特色をまとめました。ご参考にしてください。

 また、これまで「伴走者」プロジェクトをご利用したことがなかった方向けには、当プロジェクトのfacebookページでFAQなどを順次更新していますので、併せてご覧ください。

 さて、現在入手できる本でかつ出版年がそれほど古くない本ですと、以下の4点(順不同)が挙げられます。

■ 科研費.com(2019)「できる研究者の科研費・学振申請書 採択される技術とコツ」講談社。

「書く前に」(=何を研究するか)から始まり、「何を書くのか」(=背景・なぜこの研究なのか)、「どう書くのか」(=読み手への伝わりやすさ)などのポイントに分けて解説。読み手への伝わりやすさに重点を置いているだけあって、本書全体にも読みやすさを感じた。文章を工夫することで、「何がどう変わるのか」を実例を挙げながらわかりやすく解説している。

経験が比較的浅い方から経験豊富な方まで。経験豊富な方にも気づきがありそう。

■ 塩満典子(2019)「研究資金獲得法の最前線:科研費採択とイノベーション資金活用のフロント」学文社。

著者は文科官僚。科研費ほかCRESTやさきがけなど国関連の競争資金についての記述が多く、本稿で示すほかの書籍に比べて指南そのものは限定的。ただし、著者の人脈を生かしているのか、過去の採択例(基盤B・C、新学術領域)の申請書を申請者の同意のもと提供を受け、タイトルから研究の予算まで端的な分析コメントをつけている。「科研費採択の重要ポイント」(p146)一覧表あり。

他人の申請書とその講評を見て参考にしたい方に(採択例は若干古め)。

■ 児島将康(2019)「科研費獲得の方法とコツ 改訂第6版-実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略」羊土社。

ここ数年は、毎年のように改訂版が出版されている。2019年に改訂第6版が出版された。出版社ウェブサイトによると、今年も改定第7版が今月20日に発売予定。科研費の概要から始まり応募戦略、申請書の書き方などオーソドックスな構成で、版を重ねているだけあって豊富な内容。ポイントを絞って読むと特に良い。とくに応募戦略は、科研費への挑戦経験が浅い人は参考になるはず。(裏返して言うと、若手の申請者の方に、科研費の性質やそれに合わせたストラテジーを持っていないのではと思われる申請書が散見される。)

「審査区分の選び方」や「異分野への応募」などについての記述もあり。著者(久留米大学分子生命科学研究所教授)が過去に申請して採択された申請書(基盤C、挑戦的研究/萌芽)も掲載されている。

じっくり読み込みたい方向け。余談だが本書はコラムの内容も豊富。当方はコラムのうち「初めての科研費」シリーズで、研究者の方々がおかれているさまざまな環境や心理を知ることができた。ほかに「審査委員がうんざりする申請書」なども。

■ 郡健二郎(2017)「科研費 採択される3要素 第2版: アイデア・業績・見栄え」医学書院。

著者は泌尿器科学を専門とする、現名古屋市立大学学長。本書によると、泌尿器科学分野において同大が申請した科研費の新規採択件数は2010〜2014年で首位だったという。「わが国の研究力を高めたい」「危ない科研費を守りたい」などの熱意につき動かされて執筆したとのことで、内容にも良い意味で厳しさが感じられる。研究者や指導者として必要な人間的資質などへの言及もある。著者が過去に応募し採択された申請書も掲載。

ただし、書き方として「起承転結」を勧めている点においては、私はちょっと同意できかねます(この点については、以前に書いたnote記事「英語流のアウトラインは、科研費申請書にも使える(3/3):この「型」にこだわる理由」をご参照のこと)。
医学系の方や、研究(あるいは研究室?)という厳しい世界に身をおき、さらに厳しさを求める方(ただし心が疲れ過ぎていない方)に。 

 なお、(研究者でない)私個人の感想としては、どの本も読み物としてたいへん興味深く読みました。それだけに、科研費の応募が近づいている皆様は、ハウツーに嵌りすぎないようにご注意いただきたいと思います。特に、人間はちょっと難しいタスクが先に控えていると、別のことに没頭する傾向があるため。これについては、当方の別記事「ぐずぐず主義克服シート」をご参照あれ。