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リトラクション(論文撤回)の扱いについて:当プロジェクトのポリシー

 理系研究者の方々とお仕事をさせていただく中で、特に大学教員の方は教務が増える一方で、研究と両立させるために大変な苦労をされていることを知りました。同時に、クライアントの先生方からよく聞くのは、研究不正についての懸念です。極めて多忙な中で、結果を出すことに対する強いプレッシャーがあるため、不正に走ってしまう誘惑を感じる人は結構いるのではないかという指摘を割とよく耳にします。

 研究領域に関わらず、こうした懸念は研究の世界では近年特に、広く共有されていることも知りました。弊社としても申請に関わっている以上、研究不正については無関心であってはならないと考え、さまざまな資料に当たりました(文末参照)。その結果、当プロジェクトのポリシーをまとめました。

 当プロジェクトは、参加を希望される方について公開情報(例・Retraction Watch)をもとに過去のリトラクションの有無を確認し、論文のリトラクションをしたことがある方(同一人物と確認できた場合に限る)に対しては、プロジェクトへのご参加をお断りさせて頂いております。

 リトラクションにつながる原因につきましては、①実験で得られたデータを故意に操作したケースと、②偶発的な何らかの誤りによるものの双方が存在し、②については悪意が無いとする見方もありますが、弊社としてはそのいずれかを判断する能力は持ち合わせておりません。また、リトラクションの対象となるのは論文=研究の結果であるのに対し、当プロジェクトで主に扱う競争資金の申請は未来の研究計画を示すものですので、両者の性質が異なることも理解しております。

 しかしながら弊社としては、当プロジェクトにご参加いただく方に対しては、全力でお手伝いさせていただいております。筆者ご本人が計画している研究内容を最大限、活字に引き出すために当方のスキルを惜しみなく提供しておりますため、疑義のない状態で伴走させていただくことが、双方にとってフェアであると考えている次第です。

 特に、研究不正(上記の説明で言えば①に当たります)に関するさまざまな文献やレポートに当たっていて大きな不安を感じたのは、不正に手を染める人たちの無邪気とも取れるような姿勢です。当事者の中には、世界が大騒ぎするまで、事の重大性に考えが至らなかったのではないかと感じられるケースもありました。

 研究とは仮説を立て、そこに至る道筋を研究によって探し出し、またエビデンスを積み重ねることによってその道筋をさらに構築していくものだと理解しておりますが、このような「無邪気」な方達は、エビデンスを積み重ねる過程における逸脱に対しても無頓着であるという印象を受けました。そうした「カルチャー」はごく一部の特殊な方たちのものであると思いたいですが、最終成果物の一部をなす文章に関わる者としては、当方で判断しきれないことについては一切の曇りがない状態で仕事に取り組みたいと考えております。

 なお、弊社のクライアント様で過去にリトラクションが確認されたケースは一切ございません。当プロジェクトのミッションは、文章で科学の発展に寄与することです。ここでお示ししたポリシーは、研究者の皆様と共に走り続けるための、弊社からの改めての「宣言」だとご理解いただきたいと思います。

 余談ですが、少し前の記事「史上空前の論文捏造事件のどんでん返し 捏造は許されないが、論文は物理学の発展を先取りしていた?」(論座2020年2月3日付、岩佐義宏・東京⼤学⼤学院教授)を見つけました。名門・米ベル研究所で研究不正を行ったとして解雇されたヤン・ヘンドリック・シェーン元研究員の「発見」について、最近になって確かめられるケースが相次いでいるという内容でした。だからといってシェーン元研究員の不正がなかったことの証左にはならないのですが、かように不思議(?)なことが起きるのも科学の奥深さなのかもしれないと感じた次第です。

【参考文献】
村松秀(2006)「論文捏造」中央公論新社。
毎日新聞「幻の科学技術立国」取材班 (2019)「誰が科学を殺すのか 科学技術立国『崩壊』の衝撃」毎日新聞出版。
榎木英介(2019)「研究不正と歪んだ科学-STAP細胞事件を超えて」日本評論社。
榎木英介(2019)「ネイチャー誌が糾弾~日本発最悪の研究不正が暴く日本の大学の『不備』」Available at: https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20190626-00131623/ (Accessed: 12 May 2020) 
岩佐義宏(2020)「史上空前の論文捏造事件のどんでん返し 捏造は許されないが、論文は物理学の発展を先取りしていた?」 Available at:  
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020012400007.html 
(Accessed: 12 May 2020)

Photo by Bruno Kelzer on Unsplash