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さぁ、みんなで家に帰ろう。

夕食の片づけを終え、逃げ回る次女をなんとかつかまえて歯磨きをしている頃、スマホがメールの受信を知らせる。


早稲田アカデミーからのお知らせです。〇〇校より、2020/02/25 19:55:16 に下校しました。


長女の塾の授業が終わったのだ。

そのメールからほどなくして、再び私のiPhoneが短く震える。

東急セキュリティのサービス「エキッズ」から届く、バスの乗車を知らせるメールだ。


さて、出かけるか。

スマホと家のカギをポケットに入れて、下の娘にコートを着せる。

このタイミングで「トイレに行きたい」と言われると、バスの時間には間に合わない。

今日はトイレはスルーだったけれど、玄関前で「ミニーちゃんの長靴を履いて行きたい」とぐずられた。

今晩は東京でも星がよく見えるほど、雲ひとつない夜空なんだけど。

オーケー、長靴で行こうか。


家を出てしばらく歩くと、突如、道端に立ち止まり、上目遣いで私の目をとらえ、無言で両腕を伸ばす次女。

なだめすかしながら歩かせるのと、抱っこしてバス停へ向かうのと、どちらが早いかを頭の中で瞬時に計算する。

よし、抱っこだ。

すっかり重くなった4歳児を抱え、バス停へと急ぐ。


ところが、数十メートル進んだところで、急に手足をバタバタさせ、腕から抜け出そうとする次女。

「おかあさん! ミニーちゃんの長靴が脱げちゃったよ!」

泣きそうな顔で訴えられ、慌てて来た道を戻る。

暗い道路の真ん中に、ぽつんと倒れた赤いリボンが目に入る。

あった!

あんなところに落としちゃったのね、ごめんね、おかあさん、気づかなかったわ。


次女に長靴を履かせて、再びバス停へと小走りで向かう。

もうすぐ、バスが到着してしまう。

降りたときに、バス停に私がいなかったら、長女は不安に思うだろう。

早く行ってあげないと。


「おかあさん、がんばれ!」

にこにこしながら、次女が歌うように声援を送ってくれる。


この角を曲がったらバス停はすぐそこ、というところで、バスが目の前を通り過ぎる。

そのバスの中に、一瞬、長女の姿が見えた。


停車したバスのドアから、白いコートを着た小さな女の子が降りてきた。

重そうな、大きなリュックを背負っている。

キョロキョロと周囲を見回し、まだ少し離れた場所にいた私を見つけて、パッと花を咲かせたような笑顔になった。手を振りながら駆け寄ってくる。


「おかあさん、ただいま!」


おかえりなさい! 今日も一日、よくがんばったね。

無事に帰ってきてくれて、ありがとう。






姉妹の子育て、特に長女の中学受験の伴走記録です。 いただいたサポートは、勉強をがんばる娘へのご褒美に使わせていただきます!