プランクトン系男子へ贈る、卒業のことば


俺はプランクトン系だから。


、、、へ? プランクトン?

うん。最近、草食系男子とかよく聞くでしょ?で、俺はプランクトン系。

シマウマじゃなくて、アメーバってこと?

アメーバ以外知らないんでしょ?とにかく、俺は草食系ですらないんだよ。感情がさ。

、、ふーん。分かんないけど分かった。


生まれて初めて、プランクトン系男子の友達ができた。

*ーーーーー*


ねー、ゾウリムシ君?

せめてアメーバ君にしてくれない?

君にアメーバは可愛すぎるよ。ゾウリムシが丁度いい。

まだ俺の可愛さが分からないんだね、可哀想。ていうか、アメーバ以外にも知ってたんだ。

馬鹿にしないでくださーい。でね、ゾウリムシ君はプランクトン系だから、熱い友情は気持ち悪いって思うの?前さ、そう言ってたよね?

あー。どうかなぁ。


彼は、友達は別に居ても居なくてもいい。ひとりで楽しいし。友情語るとかちょっと気持ち悪い。と、最初のサークル飲み会でそう話していた。

そんなこと言っちゃうんだ!と驚いたけれど、そんなこと言っちゃう彼を誰も嫌わなかったし、寧ろ輪の中心的存在だった。中心にいつもピトッとくっ付いている感じ。彼が居ない場所でも彼の名前が話題に上がるような。そういう存在だった。

私は、寂しいこと言う人だなー。しかもそれみんなに言っちゃうんだー。と最初は思っていたけれど、みんなと同じく彼を嫌いだとは思わなかった。寧ろ面白いと思っていた。ちょっと捻くれているけれど。いや、かなり。時々心底面倒くさかった。


私たちサークルメンバーは、本当に沢山の時間を一緒に過ごした。バンド関連の時も、そうでない時も。学校の日も、休日も。

タコパしたり、カラオケに行ったり、日帰り旅行に出掛けたり。春はお花見BBQ、夏は海で水鉄砲大会と花火、秋は忘れちゃったけど、冬はクリスマスパーティーでプレゼント交換大会。そしてお互いの誕生日パーティー。あ、バンド練習も。

どんな会話をしていたかなんてちっとも覚えていない。それくらい、みんなといる時は、その時のことしか考えていなかったんだと思う。でも、お腹が痛くて呼吸が苦しいくらいに、笑ってばかりだった記憶はある。


次の日が休みの日は大抵、一人暮らしの自称プランクトン系男子の部屋で、みんなで朝まで過ごす。みんなで雑魚寝。いかにも、学生っぽい。

もちろん女の子と並んで眠ることが多かったけど、私はときどき自称プランクトン系男子の隣で眠りについた。彼の隣で眠ることには一切抵抗がなかった。彼が自称プランクトンだから、かな。


その日も、みんなでひとしきり楽しんで、そろそろ寝ようかーと、私は彼と女の子の友達に挟まれて眠りについた。

そして明け方、パッと目が覚めた。時々起こるあの現象が、どうしてあのタイミングで起きてしまったのか。今でも思う。

私がパッと目を開けると、彼と目が合った。そして、彼の右手が私の頭を撫でていた。私はわずか一瞬で、見てはいけないものを見た!と判断し、寝ぼけたフリをして目を閉じた。そのまま、朝まで。

自称プランクトン系男子のゾウリムシ君は、どんな感情であんな行動をしたのだろう。それは今も、分からないまま。

このことは、誰にも言わなかった。私も彼に何も聞かなかったし、彼も私に何も言わなかった。そのまま、私たちはみんなで、卒業までの時間を共にした。相変わらず中身のない会話で、お腹を抱えて笑い転げて。


卒業式前に、卒業ライブがあった。最後のサークル活動。ライブにはもちろん打ち上げが付きものだったけれど、私は打ち上げの途中、日付が変わる前にみんなにバイバイをして会場を後にした。

”最後”を明日の朝まで引っ張りたくなかった。何となく、ちゃんとその日のうちに終わらせたかった。卒業式は来週だから、結局みんなにはまた会えちゃうけれど。

「俺も帰る。」と、自称プランクトン系男子のゾウリムシ君もお店を出てきた。
雨が降っていた。それぞれ傘をさして、ふたりで駅へ向かう。


あー。ライブも終わっちゃったね。
もう卒業かぁ、、寂しいな。

うん。寂しいね。

え?寂しいの?ゾウリムシ君も?

うん。寂しい。楽しかったし。

、、そっかぁ。


その言葉は、捻くれている彼の素直な気持ちだと分かったから、プランクトンも寂しいって思うのか〜とイジるのは違う気がした。

ちょっと感動すらしていた。君がそんな風に思うなんて。ひとりでいいと言っていた、熱い友情が気持ち悪いと言っていた、君が。

君が「寂しい」と思うことが、嬉しかった。
なんて、ちょっと変かな。


そっかぁ。の後に言葉が続かなくて、私たちは音だけに包まれた。雨の音と、私たちの足音。雨の日特有の少し水が跳ね返る足音。水溜まりを避けながらゆっくりと歩く。そして、やっと君から言葉が降ってきた。


卒業しても、会いたいね。

、、え?

あ!みんなで!卒業しても、会うかな?

あ、うん。会えるよ!また会おう、みんなで!


私たちには、これくらいが丁度いい。このまま、今のままで。傘をさしていて良かった。距離が保たれて、良かった。


ひとりになった帰り道、電車の中で、君の言った「寂しい」を噛み締めていた。君から私に贈られた、卒業のことば。そのひと言で、十分だった。


「卒業を寂しいと思うのは、共に過ごした時間が、愛しいからだよ。」


ひとりで平気と言っていた癖に、今になって寂しいと言う君に、そんな卒業のことばを贈り返してやりたかった。
プランクトン系卒業だね!おめでとう!と、皮肉を添えて。結局、贈らなかったけれど。



でもね、君の、私の、「寂しい」は、”卒業”に対してだけの、寂しいだったのかな。

卒業が、最後が、雨の夜が、そんな気持ちにさせただけかな。

結局、何も分からないまま。そのまま、知ろうともしないまま。私たちは、卒業した。


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