見出し画像

足かけ12年!絵本『かうかうからす』誕生秘話と出版までのなが~い道のり


大きなカラスのシルエットが印象的な絵本『かうかうからす』。実はこの絵本は刊行までに足掛け12年もかかった著者渾身の一冊なのです!
ポプラ社では初めての絵本刊行となる著者のほそいさつきさんに、絵本ができるまでのエピソードをじっくりお話いただきました。

【最終】かうかうからす帯付き書影

<あらすじ>
げんたは買い物に行くと、何でも「買う買う~!」としつこくおねだりをします。すると、突然あらわれた隣のおばちゃんが言いました。「買う買うばっかり言ってると、かうかうからすになっちゃうわよ」と。げんたがふと鏡を見ると、そこには「からす」の姿が……。「え、おれ、かうかうからすになっちゃったの!?」
“かうかうからすになっちゃうよ~♪”という怪しい歌にもドキドキ!近所のおばちゃんが怪しく? 優しく? げんたを見守る、お子さんの心にユーモラスに問いかける絵本です。

ほそいさつき(細井五月)
新潟生まれ。東京育ち。武蔵野美術短期大学、文化服装学院卒。子育て中に絵本と出会い、あとさき塾を経て絵本作家に。作品に『ゴマとキナコのおいもほり』PHP研究所、『レミとソラ』教育画劇、『ごっこやさん』くもん出版、『にだんベッドだいすき!』『ももとこもも』(宮崎祥子・作)岩崎書店など。絵本に関連したワークショップも行っている。
http://www.asim-hosoi.com
ポプラ社 杉本文香
絵本・よみもの・児童文庫の編集を担当。プライベートでは、3人のわんぱく男子ズを髪の毛振り乱し、白目むいて育ててます。『かうかうからす』をたくさんの親子に届けたいです!

はじめは他誌に掲載されていた!?
『かうかうからす』は最初、幼児雑誌<チャイルドブックジュニア12月号・2009/チャイルド本社>で、12ページの短いお話として世に出ました。

チャイルド1

お子さん、親御さんからの評判もまあまあ良く、他の出版社に参考資料として持って行っても面白いと言ってもらえました。そうして、いつしか単行本として出版したいという夢を持つようになったのです。

運命の編集者との出会い
そんな時、ポプラ社さんから出ている絵本『ゆびたこ』に偶然、出会いました。
「あ! この絵本の編集者さんなら、『かうかうからす』の面白さをわかってもらえるかも!」とビビッと第六感が働いて、担当編集者のMさんにどうにか連絡を取って、話を聞いていただくチャンスができました。それが2016年のことです。2009年に『かうかうからす』をチャイルドに掲載してから、既に7年も経っていました。

ショック!予想外の反応
しかし、私の期待はMさんに会うなり見事に打ち砕かれました。
他誌に掲載した際は好評だった『かうかうからす』の話の肝、げんたとおばちゃんのやりとりを強く拒絶されたのです。
「大人の意のままにされるげんたが可哀想」とMさんに言われました。私は、そんな風に捉える方もいるんだ……と、すごくショックを受けました。
けれども、何とか誤解を解こうと、『かうかうからす』を作ったきっかけを熱く(笑)語ったのです。

『かうかうからす』誕生秘話
このお話を思いついたのは自身の子育て経験からでした。少し昔の話にさかのぼりますが、息子が小さかったころ、まだまだ新米ママだった私は、きかんぼうの子育てにヘトヘトで、近所のおばさま達によくお世話になっていました。
というのも、息子は赤ちゃんの時、昼夜問わず寝る前と起きた後の大泣き・長泣きが凄まじく、キーキーと泣き叫ぶ声はガラスや電球も割れてしまうのではないかと思うほどの高音でした。

近所のおばさま達は、そんな息子を見て「眠い時に大泣きするのはね、財産が心配で眠れないよ〜って泣くの。将来きっとお金持ちになるよ」とか、ベビーカーに乗った状態で海老ぞってキーキー叫ぶ息子を覗きこみ、「あら、つむじが二つ。こりゃ、きかんぼうだ! でも賢くなるよ。今は大変だけど、大丈夫。」など、疲れきった私でも思わずくすっと笑ってしまうような温かい言葉で励ましてくれました。

さらに私にとってストレスになったのは3〜6歳くらいの時の息子の「かうかう」攻撃でした。買い物に行くと、息子がおもちゃやお菓子売り場で「かうかう」言い続けるのです。どう我慢させるかも大変でしたが、繋いでいた手を振りほどいて、あっという間におもちゃやお菓子売り場を目指して走って行ってしまうのには本当に困りました。目的の売り場に行けた時はいいのですが、迷子になってしまった時もしばしば。その都度、息子は親切な方々に保護され、私はその方々から「子供から目を離しちゃいけない!」ときつく叱られ落ち込んだものです。

けれども、息子は小学生になるにつれて、だんだんと「かうかう」言う回数が減りました。買うのではなく、自分で一から作る楽しさを覚えたのも大きかったように思います。ようやく、きかんぼうの子育てが終わりを告げ、あの頃が懐かしいな……と振り返る余裕ができた時に、『かうかうからす』の話を思いついたのです。主人公のげんたは息子がモデルです。

『かうかうからす』の進化!
Mさんは、「そうでしたか。子供を大人の思い通りに仕向けるお話じゃないのね。」とわかってくれました。それからは、「きかんぼうな男の子に悪戦苦闘しているお母さんと、それを知っていてお節介をやくおばちゃんのお話を、もっとコミカルでちょっぴりブラックな感じにしましょう。」と刊行に向けてMさんとの打ち合わせが続きました。何度も繰り返される”かうかうからす になっちゃうよ〜♪” もMさんとの打ち合わせで生まれたフレーズです。

そうこうして、さらに3年が経ちました。諸事情が重なって編集を担当して頂いていたMさんから、小さい3人の男の子のママである杉本さんにバトンが渡りました。12ページの短いお話だった『かうかうからす』のストーリーの骨格は変えず、より子どもたちに楽しんでもらえる要素を盛り込み絵本にしていきました。いまや、私にとっては遠い日になってしまった子育てですが、現在進行形で子育て中でもある杉本さんに編集を担当してもらったことで、“今”の子供達や親御さん達も共感してもらえる話にブラッシュアップできたのではと思います。

足かけ12年!ついに完成
こうして足かけ12年のなが〜い時を経て『かうかうからす』は生まれ変わりました。
特にチャイルドの時から大きく変わったのは、子どもが見ていてワクワクするような売り場の作りこみです。子どもたちが楽しんでくれる様子を思い浮かべて一生懸命描き込みました!

お菓子売り場見開き

表紙もたくさん悩みましたね。からすは正面がいいかとか、横向きがいいかとか、目があったほうがいいか、ないほうがいいかとか……。

表紙の変遷3

ラフも気づけばこんなにたくさん! 杉本さんと何度も改稿を重ねて、最終的に今の形に落ち着きました。

ラフ1

変わらない子どもを丸ごと受け止めて
読んでいただければわかるのですが、ラストシーンのげんたの影、カラスのまんまなんですよね(笑)最初、杉本さんにラフを見せたときも、「ラストシーンは、げんたの影を元に戻したほうがいいのでは?」とご指摘をいただいたのですが、単なるしつけに役立つ絵本には、したくなかったんです。子どもは思い通りにいかないけど、なかなか変わらない子どもも丸ごと受け止めてほしいというメッセージを込めたくて……。そんな想いを伝えると、やはり実際に子育てしている杉本さんも「たしかに、子どもはそんなにすぐ変わらないですよね(笑)」と、納得していただけました。

私が新米ママだった頃の世の中とは、本当にいろんな事が変わってしまったけれど、今でも買い物に行くと、「買って買って」と駄々をこねる子と困り顔の親御さんといった、昔から変わらない光景を見かけます。お子さんはもちろん、子育て中の親御さん、子育てを卒業した方、子どもの頃きかんぼうだった方、大勢の皆さまに読んで頂ければ嬉しいです。


あ、「かうかう」言ってた、きかんぼうの息子ですか? おかげさまで元気よく巣立っていきましたよ!!

息子さんと細井さん