【売れてる本を参考にするのは、もうやめた!】大人気児童書作家の新たな挑戦(前編)
昨年10月に公開され、大きな反響のあった【大賞は獲れなくても、デビューできる】大人気児童書作家が今だから明かす驚きの創作秘話の中で、進行中の2つの企画について話があったのを覚えているでしょうか。あのとき話題に上った2つの企画、『クリエイティ部! イケメンプロデュース大作戦!!』と『放課後オンライン なやみ相談したら、回答者になっちゃった!?』がついに発売になりました!
ということで、前回の鼎談から刊行に至るまでを、同じメンバーで振り返ります。前編は、4月刊の『クリエイティ部!』創作秘話を中心にお話を伺っていきます。
▲『クリエイティ部!』について語るみずのさん
▲『放課後オンライン』について語るみずのさん
みずのまい
神奈川県出身。初めて書いた小説『お願い!フェアリー♡ ダメ小学生、恋をする』で第2回ポプラズッコケ文学賞(※ポプラズッコケ文学新人賞の前身)に応募、最終選考まで残る。大賞は逃したものの、当時の編集者の目に留まりデビュー。同シリーズは「おねフェア」と呼ばれ、全23巻、累計58万部の人気シリーズに。著書に「たったひとつの君との約束」シリーズ(集英社みらい文庫)などがある。
ポプラ社 松田拓也
91年生まれ。奈良県出身。前職で約80冊の文芸作品を担当。2019年、ポプラ社に転職、児童書編集に携わる。『クリエイティ部! イケメンプロデュース大作戦!!』編集担当。
ポプラ社 小林夏子
87年生まれ。東京都出身。一般書営業、一般書編集を経て児童書編集者に。『放課後オンライン なやみ相談したら、回答者になっちゃった!?』編集担当。2021年4月からデジタルマーケティング&宣伝担当。
全員金メダルはとれない――「売れる本」への執着を手放した理由
小林 改めまして…『クリエイティ部!』と『放課後オンライン』の刊行、おめでとうございます!
みずの ありがとうございます!
👏パチパチパチ👏
小林 前回鼎談をしたとき(2020年9月)は、『放課後オンライン』の打ち合わせのあとだったんですよね。その打ち合わせでは、本のコンセプトや形式を固めている段階でした。子どものなやみに中学生が答えるところまでは決まっていたのですが、当時は会話部分だけで、ストーリーは存在していなかったんです。「なやみに答える中学生の日常生活も、物語として読みたいです」なんてお話をしていました。
みずの 子どもたちの発言の背景が見えないと共感しづらいというお話をいただいたんでしたね。だんだん思い出してきました。
松田 まだその段階だったんですね!
小林 『クリエイティ部!』はそのころ、もう1稿目ができていたんですか?
みずの 「まだ途中の段階です」といいながら、最初に原稿を送ったあとだったと思います。
松田 「おためし初稿」とおっしゃってましたね。
小林 あれから半年強の時が経ちましたが、『クリエイティ部!』が4月刊、『放課後オンライン』が5月刊ということで、スケジュールのやりくりや頭の切り替えが大変だったのではないかと思います。振り返ってみていかがですか?
みずの うーん、ぎゅうぎゅうなスケジュールってわけじゃなくって。大変だったというイメージが、あるようなないような……。でも、私の性格が変わったのかもしれないです。昔はもっとピリピリしていたから。
小林 そうなんですか!? その時代を知らない私たちからは想像ができないです!
みずの 『お願い!フェアリー』の完結が決まってからは、次の企画も考えないといけなかったので、どういう本が売れているのかを研究していた時期があったんです。
小林 売れる本の研究! ぜひお聞きしたいものですが……。
みずの でも、ある瞬間にばからしくなってやめてしまいました。そんなの研究したところで売れる本の正解なんてわからないし、「これが売れる」とわかったとしても、じゃあ私にそれが書けるのかというと、10年も自分流でやってきてしまうと「みずのまい節」ができちゃうんです。いただくお仕事も、みずのまい節じゃないものを書くと、「ちょっと待ってください」ってなるわけですよ。いきなりいつもとちがうことをしても混乱していくだけなので、研究をパッとやめました。その研究をやめて最初につくったのが、この2作なんです。
松田 本を作り始める前にうかがったトークショーで、売れている児童書についてお話しされていましたね。
みずの そうなんです。でも、大ヒットにはなっていない本でも、固定のファンはついているわけだし、スポーツといっしょで全員金メダルはとれないじゃないですか。それを思ったときに、今さら研究してもしょうがないな、と。それで、ぱっとそれを手放したときに始めたのがこの2作だったから、すごく気楽で、大変だった印象がないんです。
小林 私が最初にお会いしたのは、2020年1月ごろでしたね。「売れる本」への執着を手放して、気負いがなくなっていたタイミングだった。
みずの あと、小林さんと松田さんに出会う前に、頭の中で中途半端に作ったお話やアイデアがいくつかあって、それがうまくいかなかったんです。でも、松田さんが集団で何かを創作する(『クリエイティ部!』)、小林さんが2部構成でやっていく(『放課後オンライン』)、という「型」をくれたときに、今まで散らばっていたものが、全部2作の中に整理されていったんです。それまではひとりで勝手につかれていたのですが、このふたつが始まってからは楽しかったなって。
小林 そのお話を伺うと、いろいろな情報を集めたり、うまくいかないなりにお話の種を考えたりしていたしんどい期間も、それはそれでこの2作が形になるまでの準備期間だった、というように感じますね。
みずの 今考えるとそうですね。そのときは全然意識していなかったけど。思わぬ助っ人が突然目の前にポンポンと現れた感じでした。
みずの ポプラ社さんって、物語の「核」が決まるとあとは結構自由じゃないですか。代々そういう方針なんですか?
小林 えっ! いろいろなご提案をしたつもりでしたが、自由でしたか?
みずの キャラクターの人数や性格、大まかな構成が決まると、あとは作家にお任せというイメージがあります。
松田 他社さんはどんなやりかたなのですか?
みずの このタイミングでこの要素を入れてくれとか、こういうエピソードを盛り込んでほしいとか、そういうお話のつくりかたをしていくこともあります。
松田 ポプラ社の編集がみんなそうかはわかりませんが、ぼくはプロットより前に具体的なエピソードまで指定してお願いをすることはあまりないですね。そういえば、この2年ぐらい他社さんの児童文庫をたくさん読んでいたのですが、人気の作品を読んでいたらどれも「男の子の着替えシーンに遭遇する」という場面がありました。
みずの お決まりパターンのひとつとして作家が自然に書いた可能性もありますが、もしかすると編集からの提案だったかもしれないですね。
松田 みずのさんも提案されたことがありますか?
みずの 着替えシーンはないですが、ある編集さんが売れる作品を徹底研究していて、打ち合わせのときに、手元のノートに売れる要素がずらっと書き出されていたんです。たとえば、「花火」みたいに。その要素を盛り込んでほしいと言われて、ポプラ社さんとは全然ちがうやりかただけど、これはこれで試しにやってみようかなと思って書いたのが「たったひとつの君との約束」(集英社みらい文庫)シリーズだったんです。
小林 そんなふうに作られていたのですね。実際に読んでみて、印象的なシーンがたくさんありました。
みずの でも、その要素を全部入れた中で、主人公の女の子が病気でとげとげしいというのが「みずのまい節」だったみたいで、いろんな人から「新しい」と言ってもらったんですよね。その経験から思ったのは、いろいろな提案をされたときに、自分の作品世界に要素を引き込めるならやってみていいんじゃないかなと。引き込めない場合は「できません」と言えばいいですが、この萌え要素をいくつかぶち込む方法を覚えると、作家としての寿命はかなり伸びます(笑)。
みずのまい流・子どもの心のつかみかた
松田 『クリエイティ部!』をつくるにあたり最初にいただいた資料(プロット)を用意してきました。最初は女の子4人で男の子1人だったんですよね。で、男の子をもう1人増やしましょうとご提案したら、ゲバラが増えた。
小林 初めて『クリエイティ部!』を拝読したとき、まずはゲバラくんの名前に驚きました(笑)。みずのさんの作品に出てくるキャラクターは、ユニークな名前の子が多いですが、名前はどの段階でお考えになられるのですか?
みずの プロットのタイミングでキャラクターの名前が決まると、物語がすっと進むことが多いです。でも、最近自分の作品も、読んだり観たりした作品も、キャラクターの名前が覚えられなくなってきて。だから、わかりやすい名前にしようと思っています。絵が上手な伴駆使(ばん・くし。イギリスで活動する匿名アーティスト・バンクシーより)、石好きで石倉意志、みたいに、覚えやすいっていうだけでつけていて(笑)。
▲『クリエイティ部!』の登場人物
松田 石倉くんの名前の「意志」は、名前っぽくないから漢字を変えてもらおうかなと一瞬思ったんです。でも読みすすめたら「意志という名前だけど僕には意志がない」というセリフがあって、物語に活かしてくださったからこのままでいこうと思ったんです。
みずの そうだったんですね。『お願い!フェアリー』のいるかちゃんも、「泳げないのにいるか」「成績がよくないのにいるか」とからかわれるシーンがあるんです(※イルカは頭がいい動物として有名)。名前と自分の能力や性格がちがっていてつらい思いをしている知人が何人かいるのもあって、名前についてのエピソードを入れてしまうのかも。
小林 名前ってからかいの対象にもなりやすいし、自分のコンプレックスと結びつきやすいですよね。アイデンティティに深くかかわる名前だからこそ、そうなれない自分を余計に意識してしまったり。先日小学生のお子さんがいる方とお話していて、「子どもの気持ちが全然わからない!」とおっしゃっていましたが、みずのさんはどんなふうに子どもの気持ちをつかむんですか?
みずの よく行く銭湯に来ている子と話したり……あとはいただくお手紙で、「こういうことになやむんだ」と知ることも多いですね。それと、無意識に子どもっぽい大人を探しているかもしれないです。大人になっても好きなことを続けている人って、子どもの心を忘れていない人が多いじゃないですか。そういう人を見つけて、頭の中にメモしていますね。
松田 みずのさんご自身の心の中にも、子どもがいるような気がします!
みずの ええっ、そうですか? うふふ♡
キャッチコピーが決まると、物語の軸ができる
松田 『クリエイティ部!』は、ふつうの部活に入れない子たちが集まって、なやみを抱える子をプロデュースする部活をつくるお話なのですが、最初はマニアック部、裏方部、バラエティー部、ユーチュー部、などいろんなタイトル案があったんですよ。
▲『クリエイティ部!』のあらすじ
小林 そのタイトル案を聞いているだけで、お話の概要が見えてくるような気がします。
松田 いただいたタイトル案を見て、「絶対『クリエイティ部!』だな」と思いました。昨日、そのときに自分で書いたメモを発見したんです。
小林 かっこいいコピーが書いてある!
松田 僕が作品を作るときに重要だなと思っていることのひとつに、帯文が浮かぶかというのがあって。このメモには、「自分が好きなものも何かに役立つ」、「自分が変われば、世界は変わる」、「好きなことで、世界は変えられる!」とか書いていて、社内会議用に作った企画書にも、「私たちが輝く場所は私たちでつくる」と書いていました。プロットとタイトルを見たときに、この方向性が見えたんですよ。すぐにこのコピーをお伝えして、「この方向性で行きたい」とご連絡したのを覚えています。メモに「はみだし者たち/それぞれの能力を活かしてお悩み解決!」と書いたのですが、半年以上経って作った帯に、似たようなことが書いてあるんです(笑)。
みずの 執筆前にタイトルとコピーが決まると、試行錯誤しながら何度も原稿を修正してく中で迷うことやなやむことが出てきても、帰ってくる軸ができますよね。
松田 このお話はそこが最初に決まってよかったと思います。イラストレーターさんを考えるときも、迷わなかったというか。「元気でユーモアがあって、楽しい場面がバーンと伝わってくるような絵!」と思って探しました。卯花つかささんはまさにイメージ通りで、みずのさんにもすぐにお伝えしましたね。
みずの そうでした。拝見して、とってもいいと思って「ぜひ!」とお返事しました。
松田 卯花さんにご連絡するときは以前に出された漫画作品の編集部を通してご依頼したのですが、すぐにご本人から直接ご快諾のお返事をいただきました(笑)。このスピード感もよかったと思います。卯花さんから最初にいただいたキャラクターデザインも、プリントアウトしてきました。僕はずっと大人向けの小説を作っていて、キャラデザをいただく経験が今までなかったので、「こんなにいっぱい描いてくれるんだ!」というのがうれしくて(笑)。すごく熱が伝わってきました。
小林 クッシー、雰囲気ちがう!
松田 クッシーは結構変わりました。かわいい男の子の設定なのですが、あまりに女の子っぽいのもあざといかなとお話して、少し男の子っぽくしてもらいました。でも、かわいさは失われず……! 卯花さんもお気に入りのキャラだそうです。
▲初期のキャラクターデザイン案。
手前上が石倉くん、下から2番目がクッシー。
松田 あと、みずのさんに言われてハッとしたのが、物語の途中で主人公のヤンヤンたちにプロデュースされてかっこよくなっていくはずの石倉くんが、「髪を切る前からかっこよすぎる!」と言われて。
みずの 「もっともじゃもじゃで、目が見えないぐらいでもいい」と言ったんですよね。
松田 それで、最初のキャラデザが髪を切ったあとの石倉くんになり、切る前は本当にもじゃもじゃになりました(笑)。卯花さん、サブキャラのキャラデザまでつくりこんでくださったんですよ。翔先輩の取り巻きもこだわって描いてくださっていて。
みずの このふたり、こんな顔だったんだ! と衝撃でした(笑)。
▲ダークな翔先輩と取り巻きふたり。石倉くんはもじゃもじゃ頭。
松田 僕はイラストのご依頼をするとき、「翔先輩と石倉くん」とお願いしたんですけど、取り巻きまで描いてくださったお礼を伝えたら、「せっせと特徴を拾い上げて嫌な感じに描きました(笑)」とおっしゃっていました(笑)。
みずの そうだったんですね! 読み込んでくださってうれしい!
松田 ここしか出てこないですけどね……。
みずの いやいや、同じ学校だからこれからも出てくるかもしれません!
小林 次回は「仮装マラソン」をすると聞いていますが、この子たちがどんな服装になるのか、楽しみです! 仮装マラソンでも「プロデュース」がテーマなんですか?
みずの マラソンが苦手で、「もう走りたくない!」という子のために、楽しんで走れるようなマラソン大会をプロデュースするんです。でも、それをやめさせようとする大人が現れて……というお話です。場所探しからスタートするので、開催までが大変なんですよ。楽しみにしていてくださいね!
(前編おわり。後編は5月15日土曜日に公開予定です)